大手キャリアと比べてスマートフォン(スマホ)の通信料が半分〜1/3になるとして、最近大きな注目を集めている「格安SIM」。なぜ格安SIMは大手キャリアのサービスよりも安いのか、そして利用する際にどのような点に注意する必要があるだろうか、格安SIMを利用する際のメリットとデメリットについて解説する。
大手キャリアの半額以下の通信量でスマホが利用できるとして、ここ最近注目されるようになったのが「格安SIM」などと呼ばれる安価な通信サービスを提供する事業者の数々だ。「ワイモバイル」「UQモバイル」「楽天モバイル」といった、これまであまり耳にしたことのないサービスがここ1、2年のうちに急速に台頭し、人気になっている。
楽天の「楽天モバイル」など、従来の大手キャリアとは異なる、格安なモバイル通信サービスが増え、人気になっている
人気の理由でもある最大のメリットは、なんといっても通信料金の安さだ。下の表をみてほしい。たとえば、楽天モバイルの音声通話が可能な「通話SIM」を挙げると、標準的とされる通信容量の「5GBプラン」(2,150円)と、5分間の通話し放題になる「楽天でんわ5分かけ放題 by 楽天モバイル」(月額850円)の組み合わせで、月額3,000円となる。
一方で、NTTドコモなど大手キャリアの場合は似たプランで7,000円必要だ。格安SIMの安さが理解できるだろう。
格安SIMは大手キャリアと比べて非常に安く利用できる
しかも格安SIMは、安いからといって利用できるエリアが大手キャリアより狭いわけではない。格安SIMも大手キャリアのネットワークを使っており、利用できるエリアにそん色ない。日本全国あらゆる場所でLTEによる高速通信ができる。
ではなぜ、格安SIMはそんなに安い料金を実現できるのだろうか。実は格安SIMには大きく分けて2つの業態が存在する。「MVNO」と呼ばれる仮想移動体通信事業者と、大手キャリアの低価格専用サブブランドだ。大半の事業者はMVNOだ。
MVNOは大手キャリアからネットワークを借りてモバイル通信サービスを提供している。莫大なインフラ投資が必要ないため、安価にサービスを提供しやすい。一方で、大手キャリアと比べて通信可能なネットワークの容量が小さく、ユーザーの利用が集中する時間帯は通信速度が落ちやすい。特に昼休みや通勤・通学の時間帯は通信速度が大きく落ちる傾向にあるようだ。
楽天モバイルや関西電力系のケイ・オプティコムが運営する「mineo」など、格安SIMを提供する事業者の大半は、キャリアから回線を借りるMVNOの形態だ
そしてもう1つの業態である大手キャリアのサブブランド。代表例がソフトバンクの「ワイモバイル」ブランドで、ソフトバンクのネットワークをそのまま活用している。MVNOと比べれば価格は高めだが、混雑時でも通信速度が落ちにくいメリットがある。
格安SIMで最も人気の「ワイモバイル」は、実は大手キャリアの一角であるソフトバンクが運営。その分価格はやや高いがサービスは充実している
だが、MVNO、サブブランドともに、格安SIMが安価なサービスを提供できるのにはもう1つ大きな理由がある。それは、サービスやサポートなどにかけるコストを徹底的に削っていることだ。格安SIMは大手キャリアと同じサービスを受けられるわけでなく、利用する上で“割り切り”が必要なポイントが多く存在することに、注意が必要だ。
大手キャリアと格安SIMの違いや大手キャリアと比べた格安SIMのデメリットをまとめると、以下のようになる。
格安SIMは安いかわりに、デメリットも多く存在する。割り切って付き合えるかどうかがポイントになる
まずは購入方法。格安SIM事業者はコストを抑えるため、インターネット販売が中心だ。最近では家電量販店のいくつかに格安SIMを即日契約できるカウンターが設けられ、環境も改善しつつあるが、大手キャリアのように実店舗を構えるところはまだ少ない。
最近では家電量販店などに、格安SIM用のカウンターが設けられるケースも増えている
2つ目はサポート体制。大手キャリアは全国のショップで端末の修理や料金プランの変更など、さまざまなサポートをユーザーに提供している。一方で格安SIMはコストを抑えるため、ネットと電話でのサポートに絞っているところがほとんどだ。MVNOの場合、実店舗でのサポートは期待できないと考えたほうがよい。
また格安SIM事業者がサポートするのは、あくまでネットワークに関する部分のみ。端末が故障した場合は端末メーカーに、サービスに関する問題は各サービス事業者にと、別々に問い合わせる必要があることも覚えておくべきだ。
3つ目はサービス面での違いだ。特に注意が必要なのはEメールで、「@docomo.co.jp」「@ezweb.ne.jp」など、大手キャリアのメールアドレスは使えなくなる。このことが問題になるのは、大手キャリアの携帯電話(ガラケー、フィーチャーフォン)を使っている人とやり取りするときだ。
というのも、大手キャリアのEメールを使っている人は、迷惑メール対策のために主要キャリアのメールアドレス以外から届いたメールを受信しないよう設定していることが多い。そうした人たちにGmailなどのアドレスからメールを送っても連絡はつかないので、お金はかかるがSMSでメールを代用するか、Eメールでやり取りしている人全員に迷惑メールフィルターの設定変更をしてもらうという、骨の折れる作業が必要になる。
国際ローミングも、サービス面で注意すべきポイントの1つだ。格安SIMの多くが対応しているのは音声通話のローミングだけで、データ通信の国際ローミングは用意していない場合が多い。海外でもSNSを使いたいなら、別途通信手段を用意する必要がある。
5つ目は、決済にクレジットカードしか使えない格安SIMがほとんどだということ。これは契約者の与信にかけるコストを省く狙いが大きいとみられ、銀行の口座振替で決済できる事業者はごく一部に限られている。
最後は端末の値引きがないことだ。大手キャリアでは長期契約が必要な“しばり”がある代わりに、高額なスマートフォンを安価に買える仕組みが用意されている。だが格安SIMにはそうした仕組みが存在せず、iPhoneなどの高額端末も定価で買う必要がある。その分、毎月の通信料金がシンプルでわかりやすい上、契約のしばり期間が大手キャリアと比べ短いというのは、メリットととらえることもできるかもしれない。
格安SIMのメリット、デメリットをまとめると以下のようになる。
○大手キャリアと比べて通信料金が圧倒的に安い
○サブブランドなら大手キャリアに近い通信速度が見込める
✕ネット販売が中心
✕実店舗でのサポートは期待できない
✕大手キャリアのメールアドレスは使えない
✕「海外は通話のみ可」が多い
✕料金の支払いはクレジットカードが中心
✕携帯端末の値引きがない
格安SIMは料金が安い分、多くのデメリットを抱えていることを覚えておくべきだ。単に安いからといって格安SIMに飛びつくのではなく、メリットとデメリットを理解し、自分の使い方に合っているかどうか考えた上で、利用を判断するのがいいだろう。
【関連情報】
・価格.comで格安SIMカードを比較する
※本記事は、執筆者個人または執筆者が所属する団体等の見解です。