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宇宙開発「ispace」や「楽天銀行」などが上場の可能性! 2022年IPOの振り返りと23年の展望

未上場企業が新規に株式を証券取引所に上場する「IPO(新規株式公開)」。こうした銘柄を対象にする「IPO株投資」は、特に個人投資家から人気を集める投資手法です。その理由は、過去3年(2020年〜2022年)に上場されたIPO株の数字を見るかぎり、7〜8割前後の銘柄が上場した日に初めて付く株価(初値)が、上場前に購入した時の「公開価格」を上回り(後述します)、初値で売れば利益が期待できるからです(逆に、公開価格を下回る初値で売却すると損失が発生)。

2022年の株式市場は、ロシアによるウクライナ侵攻や、世界的なインフレなどの影響を大きく受けましたが、IPOも同様です。そこで、IPO関連の情報サイト「IPOジャパン」編集長を務め、これをテーマにした著書もある西堀敬さんに2022年のIPOを振り返ってもらいました。そして、今後本格化する2023年のIPOを展望してもらうとともに、西堀さんが注目する上場が取りざたされる企業も紹介してもらいました。

〈西堀 敬さん〉「IPOジャパン」編集長、日本テクニカルアナリスト協会検定会員。1960年、滋賀県生まれ。大阪市立大学商学部卒。証券会社の海外現地法人に10年勤務後、気象情報会社ウェザーニューズの財務部長などを歴任。2015年12月からIPO関連情報を発信する「IPOジャパン」編集長。著書に「改訂版 IPO投資の基本と儲け方ズバリ!」など

〈西堀 敬さん〉「IPOジャパン」編集長、日本テクニカルアナリスト協会検定会員。1960年、滋賀県生まれ。大阪市立大学商学部卒。証券会社の海外現地法人に10年勤務後、気象情報会社ウェザーニューズの財務部長などを歴任。2015年12月からIPO関連情報を発信する「IPOジャパン」編集長。著書に「改訂版 IPO投資の基本と儲け方ズバリ!」など

〈1〉2022年のIPO件数は91件で、前年比で34件の減少

――2022年のIPOをどう振り返りますか?(編集部、以下同)

(西堀敬さん、以下同)2022年のIPOの件数(社数)は91件と、2021年と比べると34件減りました。IPOの件数は景気の影響を大きく受けます。アベノミクスが始まった2013年以降は基本的に右肩上がりで推移してきており、2021年は国内株式指標が堅調に推移したこともあって、2007年(121件)以来の100件超えを記録しました。

しかし、2022年は2月にロシアによるウクライナ侵攻が発生し、株式市場が下落。新規上場への逆風も強まり、直後の3月には、大型案件かつ、初めてのネット銀行の上場として注目を集めていた「住信SBI銀行」が「ウクライナ情勢の影響や最近の市場動向などの環境変化を勘案した」などの理由で上場を延期しました(その後、2022年10月に再度上場を申請)。上場承認を受けていたにもかかわらず、申請を取り下げた企業は2022年上半期で8社にのぼりました(2021年は通年で5社)。

IPOジャパンの資料を基に編集部作成

IPOジャパンの資料を基に編集部作成

東証再編で、最上位のプライムへのくら替えのハードルが高くなったことも影響か

このように、「ウクライナショック」に起因する新興市場の低迷がIPOへの大きな逆風となりましたが、もうひとつ日本固有の事情もあると考えています。それが、2022年4月に行われた東証再編です。この再編では、従来の「東証1部」「東証2部」「ジャスダック」「マザーズ」の4市場が、「プライム(海外投資家との対話を中心に据えた企業向け)」「スタンダード(一定の流動性とガバナンス水準が備わった企業向け)」「グロース(高い成長可能性を持った企業向け)」の3市場に再編されました。

従来、マザーズ銘柄は
「2年間で5億円以上の経常利益」
「時価総額40億円以上」
などの条件をクリアすることで、東証1部にくら替えすることができました。

ところが市場再編にともない、グロース銘柄がプライム市場にくら替えするためには
「2年間で25億円以上の経常利益」
「(流通株式の)時価総額100億円以上」
などの条件をクリアすることが必要になりました。最上位市場へのくら替えのハードルがかなり高くなり、これまで東証1部へのくら替えを期待して買っていた機関投資家がグロース銘柄から手を引いたことで、新興市場の低迷につながり、結果としてIPOの低迷にもつながった可能性があると見ています。

〈2〉初値が公開価格を上回る割合、2022年の「勝率」は79%

――「IPO投資」では、公開価格で購入して、上場日の初値で売却するやり方がよく知られていますが、この方法を採った時の勝敗について、2022年はいかがでしたか?

下記の図表に「勝敗」をまとめました。「勝」とは初値が公開価格を上回り売却時に利益が出たことを表し、「負」はその逆、「分」は初値と公開価格が同じ価格だったことを示しています。先ほど申し上げたとおり、2022年前半は厳しい状況でした。37社が上場した上期(1月〜6月)は26勝11敗で「勝率」は70%でした。

しかし、夏以降は世界景気の影響を受けにくい中小内需株を選好する動きもあり、2022年7月下旬から11月中旬まで「24連勝(連続して24銘柄の初値が公開価格を上回る)」を記録。下期(7月〜12月)の「勝率」は85%となり、2022年通算では勝率79%と、前年と大きく変わらない水準まで戻してきました。

平均初値騰落率は、アベノミクス開始以降で最も低い52%

ただ、仮にその年のすべてのIPO銘柄を公開価格で購入し、初値で売却した時に平均でどの程度上昇(下降)したかを示す「平均初値騰落率」は、アベノミクス開始以降で最も低い「+52%」となっていることから、全体を通して見れば、IPOにとって厳しい年だったと言えるでしょう。

資料はIPOジャパン提供

資料はIPOジャパン提供

〈3〉2022年に注目されたIPO株は?

――2022年のIPO株で初値が高騰したり、注目されたりしたのはどんな銘柄でしたか?

2022年の初値騰落率のトップ10は以下のとおりで、情報・通信企業が顔をそろえています。1位の「ウェルプレイド・ライゼスト(証券コード:9565)」の初値騰落率は「+429%(初値が公開価格の5.29倍)」となりました。eスポーツ事業を専業として展開している企業では初の上場だったこともあり、成長を見込まれての結果となったようです。2位の「サークレイス(5029)」はクラウドの導入運用支援を行っており、公開価格に割安感があったこともあり、初値騰落率は「+222%(初値が公開価格の3.22倍)」となりました。

IPOジャパンのデータを基に編集部作成

IPOジャパンのデータを基に編集部作成

IPO株の小粒化が鮮明になる中、「VTuber」グループを運営するANYCOLORが目立った

ただ、このトップ10の銘柄を見ても調達額が10億円未満のものがほとんど。相場が軟調だったため、2022年のIPO株は「小粒化」の傾向が顕著に見られましたが、そんな中、私が注目したのは3位の「ANYCOLOR(5032)」です。

同社は初値が高騰したうえ、調達額も27億円に達しました。3Dキャラクターなどの姿を使って動画配信を行う「VTuber(バーチャルユーチューバー)」グループを運営しており、ビジネスの新規性に加え、41億円(2022年4月期)の経常利益を出すなど、高い収益性が評価されたのだと思います。2022年では数が少なかった大型のIPO株として、航空業界3位の「スカイマーク(9204)」と、半導体設計の「ソシオネクスト(6526)」にも注目していました。公募・売出規模が大きいと需給面で不利(公募割れのリスクが高くなる)になりますが、いずれも初値が公開価格を上回り、無難なスタートを切りました(「スカイマーク」は初値騰落率が+8.72%、「ソシオネクスト」は+5.07%)。

「初値天井」のIPO株が多い中、高い収益性が見込める銘柄はさらに株価を伸ばしたケースも

2022年のIPO株は初値が付いた後に、すぐに下落した銘柄も少なくない中、「ANYCOLOR」の足元の株価(2023年2月1日の終値)は初値と比べても7%増、「スカイマーク」は同12%増、「ソシオネクスト」は同123%増となっています。IPO投資というと上場前に公開価格で購入し、初値で売ることをイメージしがちですが、このようなしっかりと利益に裏打ちされた株価形成ができる銘柄を見定めることができれば、IPO銘柄を初値で買い、株価が上昇したタイミングで売る「IPOセカンダリー投資」も有効な方法だと感じました。

〈4〉2023年のIPOはどうなる?

――2023年のIPO件数をどう予想していますか?

IPOは市場全体の動きに流されやすいので、米国発の株価下落が続いた場合、日本の大型株も値を崩し、投資家の買い余力が低下して、IPOにとって逆風となる可能性はあります。そのため、2023年のIPO件数は2022年から比べると若干減って、「80件プラスマイナス10件」程度の範囲にとどまると見ています。資金調達額が10億円未満にとどまる、IPO株の「超小粒化」や、初値が付いた後に株価を大きく下げる銘柄と、高い利益が見込め、初値からさらに株価を伸ばす銘柄との「二極化」も継続していくと考えています。

月面着陸船を打ち上げたスタートアップ「ispace」に注目

――2023年に上場が期待される企業のうち、注目している企業を教えてください。

すでに上場申請を済ませている「楽天銀行」や、一度延期し再度申請した「住信SBIネット銀行」などの大型案件も気になるところですが、新規性やトレンドという意味で言うと、「宇宙開発関連」「NISA関連」「(価格高騰が続く)エネルギー関連」の企業に注目しています。

宇宙開発関連で上場が観測されているのが「ispace」。同社は将来的に月面への輸送サービスの展開などを目指しており、2022年12月にはアメリカで月面着陸船を打ち上げました(打ち上げは成功)。早ければ2022年度内(2023年3月まで)に上場するとの報道もあり、今年4月末を予定している民間初の月面着陸が成功するかどうかもあわせて、注目しています。宇宙開発が脚光を浴びるとともに、問題となってきているのが、故障した人工衛星やミッション遂行中に放出した部品などの「宇宙ごみ」と呼ばれるもの。宇宙関連のスタートアップ「アストロスケール」はこの宇宙ごみ除去の技術の高さで知られており、同社のIPOにも注目しています。

2024年にNISAが大幅拡充される中、「ひふみ投信」などを運用するレオスも

2024年にNISA(少額投資非課税制度)が恒久化され、大幅に拡充されることが決まりましたが、この関連で注目しているのが、投資信託の「ひふみ投信」などを運用する「レオス・キャピタルワークス」です。同社は2018年11月に上場承認を受けていましたが、その後「内部管理体制の有効性について深掘りする事項が発生した」などとして、取りやめた経緯があります。2022年9月に上場申請を出しており、今回再挑戦する格好となりますが、NISA拡充のタイミングでのIPOとなるだけに、注目を集めそうです。

太陽光発電向けの大型なものから、家庭向けの小型の蓄電池開発を行っている「エリーパワー」も、ここ数年、上場観測がされている企業です。同社の蓄電池は、世界トップレベルの安全性と高性能とされていますが、電気やガスなどのエネルギー価格が上昇する中、IPOへの期待が高まる企業と言えそうです。

2023年の株式市場のボラティリティは大きくなる可能性がありますが、IPO銘柄の中には、この環境においても成長している企業も少なくありませんので、そんな銘柄を探していきたいと考えています。

まとめ:IPO株を購入するには?

以上、2022年のIPO振り返りと23年の展望について、西堀さんに解説してもらいました。最後にIPO株の購入方法について触れておきます。

多くのネット証券では抽選。倍率は100倍を超えることも

会社が上場を目指す場合、まずは証券取引所(主に東京証券取引所=東証=)に上場を申請します。東証は経営の健全性などを審査し、クリアすれば「上場承認」となり、取引所の公式サイトで公表されます。その後、IPO株を引き受けて投資家に販売する証券会社が購入希望者を募ります。ネット証券では多くの場合、この時点で購入希望者を対象にした抽選を行い、人気のある銘柄は100倍を超える倍率になることもあります。

IPO株を販売する証券会社には「主幹事証券会社」と「幹事証券会社」があり、このうち中心的な役割を果たす前者の主幹事証券会社が株の大部分を引き受けて投資家に販売することになります(引き受ける株数は少ないですが、「幹事証券会社」からもIPO株の購入は可能)。なお、主幹事証券会社は、対面販売が中心の大手証券が務めることが多いのが実情。配分される株数が多いのは有利といえますが、これらの会社では「裁量配分」という形で営業マンが、豊富な資金を持ち、ひんぱんに売買する「得意先」などに優先的に配分し、インターネットでの抽選に申し込んだ投資家に割り当てる株数が少なくなるというケースも多いようです。

当選の可能性を高めるには、複数のネット証券で口座を持っておくのもひとつの方法

そうした事情を考えると、一般的な個人投資家であれば、複数のネット証券を利用して数多く申し込むのが、当選の確率を上げるひとつの方法と言えそうです。参考までに過去3年間の主幹事証券会社別のIPO件数の表を記載しておきます。価格.comの下記ページからも、IPO株購入の第1歩となる証券口座の開設ができますので、検討してみてください。

IPOジャパンのデータを基に編集部作成

IPOジャパンのデータを基に編集部作成

価格.comマネー編集部

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