モバイルバッテリーの安全性に改めて注目が集まっています。そんななか、より安全な製品として登場したのが、ナトリウムイオン電池を採用したエレコムの「DE-C55L-9000」です。どのような特徴を持っているのかを探るべく、高温・低温環境での性能などを検証しました。
2025年3月中旬に発売されたエレコム「DE-C55L-9000」。実売価格は8000円前後です
モバイルバッテリーはスマホやアクションカメラをひんぱんに使う人にとって不可欠なアイテムです。現在はリチウムイオン電池が主流ですが、衝撃や高温で発火するリスクが以前より指摘されていました。先ごろ電車内で発生した発火事故で、安全性に改めて注目されたことは記憶に新しいところです。
そこで新たに登場したのが、発火の可能性が低く、環境負荷も少ない「ナトリウムイオン電池」。高温・低温に強く、長寿命というメリットもあります。ただ、まだ採用製品が少なく、その性能には未知数な部分が多いのも事実です。
エレコムによれば、ナトリウムイオン電池は、携帯性ではリチウムイオン電池に及ばないものの、発火リスクの低さ、環境負荷の低さ、高温・低温への強さ、そして長寿命という点で優位に立っているとのこと
そこで今回は、ナトリウムイオン電池を採用した世界初(※2024年11月27日時点のニュースリリースによる)のモバイルバッテリーである、エレコム「DE-C55L-9000」を実際に用意し、その実力を検証しました。購入を検討する際の参考にしてください。
「DE-C55L-9000」は、バッテリー容量9000mAhのナトリウムイオン電池を搭載するモバイルバッテリー。1800mAhのスマホを約2.9回、3000mAhのスマホを約1.7回充電できます。モバイルバッテリー本体の充電時間は約2時間です。
パッケージにはバッテリー本体、USB Type-Cケーブル、説明書が同梱
「ELECOM」のロゴが入っているほうが表面です
搭載する端子はUSB Type-C×1とUSB Type-A×1。USB Type-Cは最大45W、USB Type-Aは最大18Wの出力が可能で、合計出力は最大20Wです。45Wの最大出力なら、モバイルノートや大型タブレットの電源にもなるでしょう。また、USB Type-Aポートはイヤホンやヘッドセットなどの容量の少ないバッテリーで安定した充電を行える低電流モードにも対応しています。このように、モバイルバッテリーとしての性能は懐が深く、本製品ひとつでさまざまな機器の電源として利用できます。
なお、残量の表示は4個のLEDで行います。高性能なモバイルバッテリーでは、残量をパーセントで表示するディスプレイを備えるものが増えていますが、本製品は大まかな残量しか把握できず、昨今の高性能モバイルバッテリーと比較すると少しもの足りなさを感じます。
前面には4段階の青色LEDインジケーター、USB Type-C×1、USB Type-A×1を用意
左側面には電源ボタンを配置
本製品最大の特徴は、耐久性と耐環境性能。放電時の使用温度範囲は-35度〜50度と幅広く、充電時も0度〜40度で利用できます。繰り返し使用回数は5000回で、約13年間使用可能とうたわれています(製品本体ではなく、電池の性能として)。加えて、一般的なリチウムイオンバッテリーの使用温度範囲である0度〜40度と比べると、低温の耐性が飛び抜けて高く、スキー場や高山など氷点下における電源としても有望です。
いっぽう、サイズ・重量に注目すると、本製品のサイズは約87(幅)×106(高さ)×31(奥行)mmで、重量は約350g。同容量のリチウムイオン電池モバイルバッテリーと比べるとひとまわり大きく重くなっています。
たとえば、容量10000mAhのリチウムイオン電池を搭載するエレコム「DE-SP01-10000」と比べると、本製品は約152%相当の重量となり、重量エネルギー密度、体積エネルギー密度ともに劣ります(※「DE-SP01-10000」のサイズは約幅69×高さ140×奥行15.5mmで、重量は約230g)。エネルギー密度の向上はナトリウムイオン電池の課題でしょう。
実測重量は約347g。リチウムイオンモバイルバッテリーなら20000mAhクラスの重量になります
ナトリウムイオン電池は義務化の対象外のため製品仕様に「電気用品安全法(PSE)」のロゴはありませんが、経済産業省の確認のもとに製造・販売されているとのこと
続いて、「DE-C55L-9000」の充電能力をチェックしましょう。スマホをどの程度まで充電できるかを試したところ、4700mAhのスマホは97%まで、5060mAhのスマホは95%までチャージできました。
「DE-C55L-9000」のスペックでは1800mAhのスマホを約2.9回、3000mAhのスマホを約1.7回充電可能とされており、充電回数を電力量に換算すると5100mAh〜5220mAhとなります。今回のテスト結果はこの数値には届きませんでしたが、これは端末の充電効率の違いが影響した可能性も考えられます。
左の画面は4700mAhのスマホを充電したときのものでバッテリー量は97%。右画面は5060mAhのスマホを充電したときでバッテリー量は95%
次に「DE-C55L-9000」の充電にかかる時間を計測したところ、25%までは約16分、50%までは約33分、75%までは約52分、100%までは約68分となりました(最大出力120W対応の充電器を使用)。カタログスペックでは充電に約2時間かかるとされているので、約57%の時間でフル充電できたことになります。
なお、グラフをよく見ると、0〜25%、75〜100%は16分で充電されていますが、25〜50%は17分、50〜75%は19分かかっており、徐々に充電時間が延びてゆきます。これは、充電時のバッテリーへの負担を減らすための、制御が入っているわけですね。
25%までは約16分、50%までは約33分、75%までは約52分、100%までは約68分で充電できました
0〜25%、75〜100%は16分で充電されていますが、25〜50%は17分、50〜75%は19分かかっています
モバイルバッテリーは利用時に発熱しますが、ナトリウムイオン電池を採用している「DE-C55L-9000」は充電時/給電時にどのぐらい熱くなるのでしょうか?
「DE-C55L-9000」への充電時、スマホへの給電時の表面温度をサーモグラフィーカメラで計測したところ、30分経過した際に充電時は34.4度、給電時は34.7度という結果になりました(室温26.1度の環境で測定)。
表面温度にほとんど違いはないですが、下の写真のとおり最も発熱している箇所が充電と給電で異なっていました。写真上側がバッテリーセル、写真下側がコントロール基板と思われます。いずれにしても、どちらも体温よりは低いので、低温やけどなどを過度に心配する必要はないと言えるでしょう。
「DE-C55L-9000」への充電時、スマホへの給電時の表面温度を計測(室温26.1度の環境で測定)
30分経過した際に充電時は34.4度、給電時は34.7度に達しました
最後に高温時/低温時に問題なく充電できるか検証してみました。高温時については庫内を45〜46度前後に保った食器乾燥機のなかで30分間充電しました。低温時については冷凍庫を「強」に設定してフル充電しています。
結果は、高温時は2分後に18.737W、7分後に14.078W、12分後に10.739W、21分後に8.706W、26分後に4.764W、32分後に6.162Wと充電時電力が低下していきました。
いっぽう、低温時については、室温(27.3度)で充電した際、冷凍庫で充電した際を比較してみましたが、低温時のほうが平均速度は約83%相当、合計(充電量)は約80%相当に低下しました。
つまり高温時/低温時のどちらも充電速度は低下するわけです。ただし、これは正常な挙動。本製品には「Thermal Protection」という機構が組み込まれており、温度の上昇を24時間監視し、自動で出力をコントロールするように設計されているからです。いずれにしても、放電時の使用温度範囲である-35度〜50度においては、充電時の電力が一定程度低下しますが、正常に充電が継続することを確認できました。
高温時は2分後に18.737W、7分後に14.078W、12分後に10.739W、21分後に8.706W、26分後に4.764W、32分後に6.162Wと充電時電力が推移
低温時テストは冷凍庫で充電。充電終了後、「DE-C55L-9000」の表面温度は-25.8度に低下していました
左が室温(27.3度)、右が冷凍庫で充電した際の電力の推移。両方を比較してみると、低温時のほうが平均速度は約83%相当、合計(充電量)は約80%相当に低下しています
「DE-C55L-9000」は、従来の充電式電池と異なる特性を備えたナトリウムイオン電池を採用したモバイルバッテリーです。最大の売りは発火リスクが低いこと。エレコムが実施した釘刺しテストでも発火しなかったという安全性は、リチウムイオン電池に対する大きなアドバンテージです。
サイズや重量についてはリチウムイオン電池に譲るものの、-35度から50度という幅広い温度下でも性能を維持し、5000回の繰り返し使用に耐える長寿命も魅力です。45Wの最大出力があるため、モバイルノートやタブレット、携帯ゲーム機でも使えます。「DE-C55L-9000」は安全性や耐久性を重視するユーザーにとって、有力な選択肢と言えるでしょう。