厚めのミッドソールにカーボンプレートを内蔵した、俗に「厚底レーシング」と呼ばれるタイプのランニングシューズは、トップアスリートはもちろんのこと、現在では市民ランナーの間でもポピュラーだ。
そんななか、アシックスはフルマラソンで4時間切り、すなわちサブ4を目指すランナーのために開発したニューモデル「S4(エスフォー)」を2023年2月16日よりオンラインで先行発売し、2月23日からは一般販売もスタートさせた。今回はそんなサブ4を目指すランナーから注目を集めること間違いなしの「S4」の走行性能を検証する。
アシックス「S4」。公式サイト価格は22,000円(税込)
市民ランナーにとって、フルマラソンでサブ4を達成することは、完走に続くセカンドステップと言ってよいだろう。ちなみに大会では、男女合わせて約2割のランナーが4時間を切ってゴールするという。制限時間6〜7時間の大会なら、後半失速しても何とか完走できるが、4時間を切るためには5分41秒/kmのペースで42.195kmを走り続けなければならない。筆者はサブ4を3度達成しているが、サブ4達成には十分な量の正しいトレーニングや、レース中の水分および栄養補給、そしてそれぞれにマッチしたギア選びが不可欠だと感じている。
現在では、サブ4レベルのランナーが各社の最上級厚底レーシングシューズを履くことも珍しくないが、今回紹介するアシックス「S4」は上級モデルの走行性能の高さを継承しつつ、安定性や衝撃吸収性能といった、サブ4を目指すレベルのランナーに最適なスペックを搭載しているのが大きな特徴だ。
ミッドソール上層には、アシックスの軽量ミッドソールフォーム材において最も反発性にすぐれた「FF BLAST TURBO」を、下層には「FLYTEFOAM」を採用。2種の素材を組み合わせることで、すぐれた安定性と反発性を両立させている。
かかと部から前足部に向かって搭載したカーボンプレートは、前方へ推進させる効果を発揮し、サブ4を目指すランナーに適したライド感を実現。また、アウトソールには、すぐれたグリップ性能を持つ「ASICSGRIP」を全面に採用しているほか、かかと部のラバーの厚みを前足部よりも厚くし、かかと接地時のソール摩耗にも対応している。さらに、ソールの接地面を、アシックス最速の「METASPEED(メタスピード)」シリーズよりも大きくすることで、安定した足運びをサポートしているという。
通気性とフィット性にすぐれたアッパーは、スタートからゴールまで足にピッタリとフィット。サブ4達成に大きく貢献する
ミッドソール上層には、アシックスの軽量ミッドソールフォーム材において最も反発性にすぐれた「FF BLAST TURBO」を、下層には「FLYTEFOAM」を採用。2種の素材を組み合わせることで、高い安定性と反発性を実現している
一般的にかかと部分から着地するサブ4レベルのランナーに対応すべく、ヒール周りの安定性にも留意
高いグリップ性能を誇る「ASICSGRIP」をアウトソール全面に採用。アスファルトやコンクリートといった舗装路で最高のグリップ性を発揮する
「S4」を履いて実際に走ってみた!
まず「S4」を手に取ってみると、その外観は2022年7月に本連載で紹介した、世界レベルのランナーにも対応する「METASPEED SKY +(メタスピード スカイ プラス)」に、かなり似ていることがわかる。
しかしながら、実際に触りながら目視で細部をチェックしてみると、素材やセッティングはフルマラソンで4時間切りを目指すランナーのために適正化されていることが見て取れる。
足を入れてみた。上級モデルゆずりのアッパー素材は、フィット感が高レベル。「メタスピード スカイ プラス」と同様のギザギザ形状のシューレースは、1度結べばほどけにくく、ランナーは走りに集中できると思った。
立っている状態では、重心が「メタスピード スカイ プラス」よりもかかと寄りにあることがわかり、カーボンプレートによるガイド効果もあって、走り始めると着地から蹴り出しまで高い推進力を感じられた。かかと、中足部、前足部と着地位置を変えて走ってみたが、どこで足を着いても走りにくいことはないが、かかと部分からの着地が、このシューズに最もマッチしているように思えた。
安定性も重視している関係で、ミッドソールの反発力は「メタスピード スカイ プラス」に劣るが、業界トップクラスの反発性を確保しており、着地時の足のグラつきに心配のあるランナーにとっては、この反発性と安定感のハーモニーはうれしいはず。サブ4ペースである1km当たり5分41秒を意識して走るが、確かにペースをキープしやすいことに加え、着地安定性を起因とする足の保護性も「メタスピード スカイ プラス」などの上級モデルよりも考慮されていることがわかった。
メディア向け発表会における3.65kmランを除くと、6kmを3度走ってみたが、その高い走行性能を実際に体感できたし、ラン翌日の脚部の疲労感のなさは、最近履いたランニングシューズでは屈指のレベルにあった。
以上のように、アシックスの「S4」はフルマラソンで4時間切りを目指したいランナーに最適なスペックを結集することで、あらゆるタイプのランナーが5分41秒/kmというサブ4達成ペースをキープしやすい1足に仕上がっている。
筆者はすでにサブ4を3度達成しており、次は3時間45分切りにチャレンジしようと思っているので、「メタスピード スカイ プラス」のようなより高い推進力のシューズをセレクトするかもしれないが、「今まで何度もサブ4にトライして失敗してきた」「出走するレースでは確実にサブ4は達成したい」といったランナーには、この「S4」はピッタリだと思う。「S4」より推進力の高いシューズよりも確実かつ安全に5分41秒/kmというペースをサポートしてくれるので、サブ4達成に大いに貢献してくれるだろう。22,000円という、上級機種と比較すると買いやすい価格設定もうれしい。
ランニングギアの雑誌・ウェブメディア「Runners Pulse」の編集長。「Running Style」などの他媒体にも寄稿する。「楽しく走る!」をモットーにほぼ毎日走るファンランナー。フルマラソンのベストタイムは3時間50分50秒。