オグさんです。今回はピンのアイアン「ブループリント(BLUEPRINT)S」および「ブループリントT」の試打レビューをお届けします。
左が「ブループリントS」、右が「ブループリントT」
「ブループリント アイアン」は、ピンが主にツアープロや上級者に向けて作ったモデルで、同社のほかのアイアンと一線を画します。ヘッドが非常に小ぶりで操作性を重視しており、「難しいクラブは作らない」というポリシーを持つピンのクラブとしては、異色のモデルです。
しかし、ピンのポリシーに偽りはなく、この小ぶりで操作性を重視したモデルこそ扱いやすい! やさしい! と感じるゴルファーが一定数おり、「ブループリント アイアン」はそういうゴルファーにとって“やさしい”アイアンなのです。ここでのやさしさは、ミスヒットに対する寛容性やボールの直進性とはまた別のものだということをご理解ください。
「ブループリント」とは、和訳すると「青写真」で、設計図や計画という意味があります。打つ前に弾道をイメージし、そのとおりにコントロールして打っていく。操作性にすぐれたアイアンにぴったりのネーミングです。
前作「ブループリント アイアン」は2021年に登場。つまり、今作は3年ぶりのモデルチェンジで、前作は1モデル展開だったのに対し、「ブループリント S」と「ブループリント T」の2モデル展開になりました。
クラブの特徴としては、ピンにとっては珍しい軟鉄フォージド(鍛造)製法を採用していることがあげられます。同社は、製品精度の揺らぎが小さく大量生産しやすいキャスト(鋳造)製法を好みます。それでもあえてフォージド製法を選択している理由は、操作性だけでなくフィーリング面も重視したかったからでしょう。
「S」は「スコア」のSで、操作性を重視しながらも安定感を持たせたモデル。キャビティ構造を採用することで、ある程度の打点ミスへの寛容性を持たせた実戦的な設計で、海外の契約プロがこぞって使用する人気モデルです。
シンプルなデザインと艶消しサテン仕上げで、落ち着いた仕上がり。長く使えそうな、飽きのこない佇まいですね
ブループリントS・#5
ブループリントS・#7
ブループリントS・#9
ヘッドサイズは非常に小ぶりで、いかにも操作性が高そう。どの番手も、ブレードが直線的かつ薄めに仕上げられていて、カチッとしたシャープさが特徴です。ネック周りもスマートに仕上げられていて、スリムで美しい。
ロフトは7番で33度。いわゆるフォージドキャビティモデルの中では、やや寝ている設定です。飛距離よりもコントロール性やスピン量を追求したうえでの数値なのでしょう。
バックフェース下部には、エラストマーインサートを内蔵。余計な振動を軽減し、フィーリングの向上を図っています。※写真はピンゴルフジャパンHPより
独自の溝「マイクロマックス・グルーヴ」を搭載。あらゆる環境で安定したスピン量を確保してくれます
ソール幅は極端に狭いわけではなく、適度な幅を持っています。トゥ側についているビスは、メーカーが出荷時にヘッド重量を調整するためのもので、ユーザーによる調整などはできません
この「ブループリントS」ですが、価格.comに登録されている製品では、選べるシャフトが全部で5モデル。90g台のスチール「N.S. PRO 950GH neo」。100g台のスチール「N.S. PROモーダス3 TOUR 105」。110g台のスチール「N.S. PROモーダス3 TOUR 120」。同じく110g台のスチール「N.S. PROモーダス3 TOUR 115」。そして130g台のスチール「DG EX TOUR ISSUE」です。
最も軽量の「N.S. PRO 950GH neo」は扱いやすく、楽に振りたいならおすすめ。「N.S. PROモーダス3 TOUR 120」は、適度な重量を持つスチールシャフトの中では、ある程度つかまってタイミングの取りやすいシャフトです。パワーがそこそこあるゴルファーが安定性を求めるならコレですね。
そのほか、「N.S. PROモーダス3 TOUR 105」は、軽めながら強靭なシャフト。パワーがあって、さらにヘッドスピードを稼ぎたいゴルファーと好相性です。「N.S. PROモーダス3 TOUR 115」は、ゆったりとした粘りのあるしなりで、ダウンブローに打ちたいゴルファーに。そして「DG EX TOUR ISSUE」は、ドライバーでヘッドスピードが45m/s以上あるパワーヒッターにおすすめです。
100g台と軽量ながら強靭なしなりで、強振にも負けない「N.S. PROモーダス3 TOUR 105」。インパクトが強めのゴルファーにもおすすめです
構えた印象は、シャープでいかにも操作できそう! といった感じ。小ぶりで鈍い光を放つサテン仕上げが非常にカッコイイ! しかし、小ぶりなヘッドにプレッシャーを感じるゴルファーにとっては、構えただけで力んでしまいそうな鋭さもあります。
お借りしたスペックは、「モーダス3 TOUR 105」のSフレックスが装着された7番。打ってみると、ロフトなりの高さで、スピンをしっかりともなった球が飛んでいきます。操作性は必要十分。インテンショナルに上下左右に曲げようとすると、ボールは適度に曲がってくれます。ギュンギュン曲がる感じではないので、いざというときに大げさにチャレンジできるバランスのよさを感じます。
ミスへの寛容性は、このヘッドサイズからすると高め。それなりの飛距離ロスはあるものの、逆球になりにくく、シビアなショットを安心して狙っていけます。
日本のフォージドモデルに多い“ソフトでフェースにのっかる”感触ではなく、ソリッドでクリアな打感です
弾道の高さとスピン量、どちらも申し分ありません。飛距離も思ったより出ており、非常に完成度の高いアイアンに仕上がっています。多くのツアープロが手にする理由がよくわかりました
「ブループリント T」は、バックフェースにくぼみがなく、フラットバックやマッスルバックと呼ばれる形状で、操作性を最優先にして作られたアイアン。操作性に極振りしている分、ミスへの寛容性はほとんどなく、ゴルファーがボールを操ることに特化しています。
微妙な段差がついているものの、くぼみはどこにもなく、マッスルバック然とした形状
ブループリント T・#5
ブループリント T・#7
ブループリント T・#9
「ブループリント S」同様にブレードが薄く、ネックもスリムでシャープな形状。「S」との相違点はトゥ側上部。こちらは少し尖っており、シャープさがより強調されています。
ロフト構成は、「S」とまったく同じです。これは「S」と「T」を混ぜたセッティング、いわゆるコンボセッティングを見越してのことでしょう。
シャフトのラインアップは、「S」と同じです。上記と重複しますが、コンボセッティングをできるように、あえて揃えているのでしょう。操作性を重視している「T」こそ、自分に合った重量のシャフトを選びたいところ。あまり軽いものを選んでしまうと、芯でとらえる確率が下がり、長所である操作性が発揮されにくくなってしまいます。
溝は「S」と同じ「マイクロマックス・グルーヴ」を採用。球筋の操作に必要なスピンを安定してボールに与えてくれます
ソール幅は「S」と比べると狭く、特にヒール側が顕著です。ミスへの寛容性よりも操作性を重視しているのが、こういったところからもうかがい知れます
構えた印象は、「S」よりさらにシャープ!! 「S」と比べてトゥ側上部が尖っており、小ぶりでカチッとした形状が、いかにも動かしやすそうな印象を与えてくれます。ヘッドの動くイメージが湧きやすいため、飛んでいく弾道もとてもイメージしやすいですね。
打ってみると、弾道に「S」との大きな差はありません。ロフトなりの高さが出て、しっかりとしたスピン量で飛んでいきます。違うなと感じたのは、曲がり幅。明らかに「S」より曲がり幅が大きく、大きめに操作してもしっかり弾道が応えてくれます。
もうひとつ感じた違いが、打感です。「S」は芯で打ったときと芯を外したときの差が少なめでしたが、「T」はその差がはっきりと感じられました。いっぽうでミスヒット時の飛距離ロスは、「T」のほうが若干大きいかなという程度で、正直大きな差は感じられませんでした。
左が「T」で右が「S」。基本的には同じ特性を持つ2本ですが、ミスへの寛容性と操作性の高さ、そして芯を外したときの打感に違いがありました
こちらもほぼ文句なしのデータですね。ある程度芯で打てるゴルファーであれば、そこまで難しいとは感じないでしょう。アイアン選びに操作性を重視するなら、候補に入れるべきモデルです
「ブループリント」シリーズのアイアン2種は、どちらもボールをコントロールできる技術を持つゴルファーのための“やさしい”モデルです。
「S」は、十分な操作性と適度なミスへの寛容性により、実戦で安定した結果を残すためのバランスの取れたモデル。「T」は、過度とも言えるほど操作性が高く、テクニックのあるゴルファーの技量を最大限に発揮できるように設計されたモデル、といったところでしょうか。
私は今までも、「ボールストライキングの技術を磨きたいなら、こういったモデルを使うべき」という旨の主張をよくしてきましたが、まさに「S」はそれに打って付けのアイアンですね。うまく打てたときに明確に答えてくれ、失敗したときは少しだけ助けてくれる。普段は厳しいけれど、頼れる先輩のようなアイアンです。では「T」はというと……“スパルタ教師”といったところでしょうか(笑)。いつも厳しいけれど、正しいスイングをしたときだけはほめてくれます。
「S」のライバルモデルは、タイトリスト「T100」、ブリヂストン「221CB」、ミズノ「Mizuno Pro 243」。「T」のライバルモデルは、タイトリスト「620MB」、ミズノ「Mizuno Pro 241」、ブリヂストン「220MB」といった感じです。
スコアだけでなく、技術を磨きたいというゴルファーには、ぜひ試してほしいアイアンです!
写真:野村知也