新傑作ウォッチで令和を刻む

セイコーのスポーツウォッチの始祖モデル「ローレル アルピニスト」がスペックアップして復刻!

1959年、戦後復興期を経て、高度経済成長期に入っていた日本では、国民の暮らしにささやかながらゆとりが生まれ始め、登山やスキーなどのレジャーに親しむ人々が増えていました。その最中、セイコーはレジャー需要に応えるべく、初のアウトドアウォッチをリリースしました――。

「これぞ令和時代の傑作!」と讃えたい注目ウォッチを取り上げて深掘りする本連載。今回は、そのセイコー最初のアウトドアモデルにして、今日まで連綿と続く同社のスポーツ&アウトドアウォッチの原点にもなった「ローレル アルピニスト(LAUREL ALPINIST)」と、そんなエポックモデルの姿を限りなく忠実に再現しつつ、スペックアップが図られた最新作「セイコー プロスペックス 1959 アルピニスト 復刻デザイン(SEIKO PROSPEX THE 1959 ALPINIST RE-CREATION)」を取り上げていきます。

「セイコー プロスペックス 1959 アルピニスト 復刻デザイン SBEN001」。1959本の数量限定で、2021年8月6日発売予定。公式サイト価格は、330,000円(税込)

「セイコー プロスペックス 1959 アルピニスト 復刻デザイン SBEN001」。1959本の数量限定で、2021年8月6日発売予定。公式サイト価格は、330,000円(税込)

62年の時を超え、この夏、往年の名品がよみがえる

昨今、時計市場では、多くのブランドが復刻モノを積極的に展開しており、これがひとつのトレンドとして盛り上がっています。セイコーもそれは同様で、長い歴史を持ち、数々の革新を成してきた老舗だけに、往年の名品は少なくなく、それらをベースとするさまざまな復刻モデルを現代によみがえらせてきました。

ダイビングやトレッキングなど、スポーツ&アウトドアシーンに対応する本格機能搭載のウォッチブランド「セイコー プロスペックス(SEIKO PROSPEX)」から、来たる2021年8月6日にリリースが予定されている「セイコー プロスペックス 1959 アルピニスト 復刻デザイン」(以下、「プロスペックス 復刻デザイン」)も、その名のとおりの復刻モノです。“元ネタ”は先述したとおり、1959年発売の「ローレル アルピニスト」なるスポーツウォッチです。

ちなみに、「アルピニスト」とは、「アルプス登山者」が語源であり、一般的には登山者のうち、とりわけ高度な登山技術を有し、アルプス山脈のような高く、険峻な山々に挑むスペシャリストのことを指します。新・旧両モデルともに、モデル名に「アルピニスト」と冠しているため、ユーザーをそんなスペシャリストたちに絞っているのかと言えば、そういうわけではなく、軽登山などのアウトドアレジャーを楽しむ人々も意識して開発された時計と解してよいでしょう。

さて、「プロスペックス 復刻デザイン」の解説に先立ち、以下ではまず、そのルーツモデルの誕生の背景や特徴について触れておきたいと思います。

オリジナルは防塵仕様&防汗パッド付きフィールドモデル

高まるレジャー需要に応え、1959年に登場したセイコー「ローレル アルピニスト」

高まるレジャー需要に応え、1959年に登場したセイコー「ローレル アルピニスト」

セイコーの前身は、1881年に服部金太郎氏が創業した、舶来時計の修繕・販売を事業とする服部時計店でした。同店は、1892年に時計工場の精工舎を設立し、かけ時計の製造に着手。3年後に懐中時計の生産も開始し、1913年には国産初の腕時計「ローレル」を誕生させました。「ローレル」という名称はその後、製品名として展開されます。

そして「セイコー」は、1923年の関東大震災によって全焼した精工舎が翌年、再興を誓って冠したブランド名。ここで取り上げるルーツモデルの文字盤には、12時位置にクラシカルなフォントで「SEIKO LAUREL」とプリントされております。

時は移り、高度経済成長期真っただ中の1956年、セイコーは国産初の自動巻き腕時計「オートマチック」を生み出すとともに、「マーベル」なる手巻きモデルをリリースします。これは、既存の手巻きモデルに比して外径の大きいムーブメントを搭載することで、より安定した精度を実現したもので、戦後の国産腕時計を代表するモデルと言えます。

2年後、その「マーベル」の普及版として、「ローレル」という手巻きモデルが発売。これは、裏ブタがスナップ式の非防水ドレスモデルでした。そして翌1959年、その「ローレル」のアウトドアバージョンとして登場したのが「ローレル アルピニスト」だったのです。

セイコー初の本格アウトドアウォッチとなった「ローレル アルピニスト」は、スクリューバック構造の採用によって防塵性が高められており(防水仕様ではない)、さらにケースバックからの汗の浸入を防ぐべく、レザーバンドに大ぶりのウォッチパッドが装着されました。また、12時、3時、6時、9時位置に視認性のよい楔(くさび)型のインデックスが配置され、時・分針と各インデックスに夜光が塗布されたのも「ローレル」との相違点でした。

ケース素材は、ステンレススチール無垢で、黒文字盤と白文字盤が存在。耐震仕様で17石。亀戸工場にて、おそらくは「ローレル」とともに1961年頃まで生産されたようです。ちなみに価格は4,500円(当時は消費税はなし)で、これは1960年頃の大卒の平均初任給16,115円(展望社刊「物価の文化史事典」より)の3分の1弱ということになります。2020年の大卒初任給の平均額が209,014円(「産労総合研究所」調べ)とのことなので、現在の価格に換算すると税別58,000円ほどになるでしょうか。

先述したとおり、「ローレル アルピニスト」は、レジャーブームの兆しを受け、登山やスキーなどのアクティビティに応える耐久性と機能を備えた実用時計として誕生しました。しかも、セイコーにとって、このモデルから始まったアウトドアシーンに応える機能の追求は、1965年の日本初のダイバーズモデル誕生を経由しつつ、同社のさまざまなスポーツモデルに継承されることとなりました。すなわち「ローレル アルピニスト」は、セイコー・スポーツウォッチの草分け的存在だったのです。

文字盤デザインもバンド&防汗パッドもオリジナルに忠実

詳細まで再現されたクロスラインレイアウトが、時間の誤読を防ぎます

詳細まで再現されたクロスラインレイアウトが、時間の誤読を防ぎます

さて、ここからは「プロスペックス 復刻デザイン」についての紹介です。

ルーツモデルが発売された1959年にちなみ、1959本数量限定で発売される本モデルでは、オリジナルのデザイン要素が忠実に再現されており、同時に大幅なスペックアップが施されています。すなわち、デザインにおいては、セイコー・スポーツウォッチの原点であるルーツモデルをリスペクトしつつ、現代のライフスタイルにもかなう機能と高い実用性を備えたモデルとなるわけです。

まず文字盤は、ドルフィンタイプの時・分針とクロスラインレイアウトを組み合わせていますが、これは言わずもがな、ルーツモデル由来です。古くは、羅針盤にも採用されたクロスラインレイアウトは、上下と左右で相対する十字位置の4点に、楔(くさび)型の略字を配することで、視認性と判読性を高めた伝統的な文字盤デザインで、本モデルでは12時、3時、6時、9時の4点に楔型を採用しています。なお、このレイアウトは、ルーツモデル「ローレル アルピニスト」に端を発し、以後、今日に至るまでセイコーのスポーツモデルの多くに採用され続けています。

さらに、新・旧「アルピニスト」においては、このモデル名を体現するように、各楔型が峰々の連なりを思わせるマウントシェイプインデックスに。しかも、このうち12時位置のみが3つの山を組み合わせたようなデザイン。これにより、瞬時に水平&直角が判読でき、時刻確認の誤りを防ぐのです。ちなみに、4時と5時の間に日付表示窓が付いていますが、これはルーツモデルにはなかった機能です。

ところで、「プロスペックス 復刻デザイン」では、クロスラインレイアウト&マウントシェイプインデックスとともに、「ローレル アルピニスト」の大きな特徴であったレザーベルト&ウォッチパッドも忠実に再現されています。アウトドアシーンでの使用において、このパッドが防汗の役を担うのはもちろんのこと、週末でのカジュアルな着こなしでは、精悍な手元を演出。しかもパッドを取り外すことで、しかるべきビジネスシーンでも違和感のない時計として使用できます。

セイコーの最薄自動巻きキャリバー「6L35」を搭載

ルーツモデルと同じスクリューバックだが、気密性はより向上

ルーツモデルと同じスクリューバックだが、気密性はより向上

「プロスペックス 復刻デザイン」は、ルーツモデルと同様のスクリューバック仕様なのですが、防塵性能に留まらず、より気密性の高い10気圧防水も備えるなど、スペックアップが図られています。また、その裏ブタには、1959本限定生産の証となるシリアルナンバーを刻印(上の写真では「0001/1959」と記載)。さらに、搭載されているムーブメント「6L35」のキャリバーも刻まれています。

「6L35」は、中・高級モデル向けムーブメントで、厚さ(ムーブメント厚)が3.69mmと、セイコーの現行自動巻きのうちで最薄のキャリバーです。自動巻きムーブメントは、ローター機構などが内蔵されているため、概して手巻きよりも厚みが出やすいもの。ルーツモデルには、手巻きムーブメントが搭載されていましたが、「プロスペックス 復刻デザイン」では自動巻きに変更されながらも、「6L35」の採用のおかげで、ムーブメントの厚みをわずか1mm増に抑えることに成功しています。

簡潔明瞭な文字盤デザイン&「ルミブライト」で夜間の視認性も◎

簡潔明瞭な文字盤デザイン&「ルミブライト」で夜間の視認性も◎

夜明け前の出発やナイトハイク、テント場での暗所作業などを想定し、ルーツモデルには時・分針とインデックスに夜光塗料が施されましたが、それは「プロスペックス 復刻デザイン」も同様です。しかも、ルーツモデルでは自発光塗料だったのに対し、「プロスペックス 復刻デザイン」にはセイコー独自の蓄光塗料「ルミブライト」が使われています。これは、輝度は高く、発光時間は長く、さらに劣化しにくいため半永久的に使用でき、しかも放射性物質を一切含まないため、人体や環境にやさしい夜光塗料。そしてこれが、シンプルで明瞭なクロスラインデザインの文字盤との相乗効果により、暗闇においても高い視認性をもたらすのです。

インパクトあるカーフ製バンド&パッドもデキ映えは見事

風防やケース、ストラップが一体となって生み出される絶妙な立体感

風防やケース、ストラップが一体となって生み出される絶妙な立体感

ルーツモデルの風防は、なだらかなドーム型のプラスチック製でしたが、「プロスペックス 復刻デザイン」では円形卓状地を想起させるボックス型のサファイアクリスタル製に変更。この風防の形状に呼応するように、ベゼルも立ち上がりが高い形状にリデザインされています。

また、鮮やかな鏡面に仕上げられたケースやベゼル、ラグと、バンド&ウォッチパッドのカーフならではの繊細で味わいに富んだ質感が、絶妙なコントラストを醸し出しており、時計全体のたたずまいを個性的、かつ品あるものとして印象付けます。

ジグザク縫いや尾錠の「S」の飾りもルーツどおりに

ジグザク縫いや尾錠の「S」の飾りもルーツどおりに

バンドには、革とはアンマッチングなトーンの縫製糸でジグザク縫いが施されており、印象的なデザインに。また、そのジグザクに呼応させたスラント形状のループ(定革)や、「SEIKO」のイニシャルをワンポイントアクセントにしたピンバックル(尾錠)も小粋です。もちろん、これらはいずれもがルーツモデルのレザーバンドに採用されていたデザインを再現したものです。

装着すると、手元がスポーティーでありながら端正なたたずまいに

装着すると、手元がスポーティーでありながら端正なたたずまいに

ルーツモデルが登山やスキーなどに対応したモデルだったこともあり、アウトドア系の着こなしとの相性は抜群。ワークやミリタリーを取り入れたスタイルともよく合いそうです。しかも、スポーティーでありながら、端正でドレッシーな雰囲気も感じられ、これにウォッチパッドが醸し出す無骨さが相まって、大人の手元をアクティブに見せてくれるのです。

ON&OFFで使いやすい現代デザインモデルも!

「セイコー プロスペックス 1959 アルピニスト」においては、上で紹介した数量限定の「プロスペックス 復刻デザイン」に加え、ルーツモデルの特徴的デザインをさらに洗練化させた「現代デザイン」バージョンもラインアップされます。

「現代デザイン」バージョンに搭載される自動巻きキャリバー「6R35」は、「プロスペックス 復刻デザイン」の「6L35」に比してやや厚く、精度ではやや引けは取るものの、週末に着用せずとも翌月曜にそのまま使用可能な約70時間(最大巻き上げ時)のパワーリザーブを誇り、この点で「6L35」を凌いでいます(「6L35」は約45時間)。しかも、そのムーブメントの動作が目の当たりにできるシースルーバック仕様(「プロスペックス 復刻デザイン」はウォッチパッド付き想定なのでノン・シースルーバック)でありながら、防水性能では「プロスペックス 復刻デザイン」の10気圧防水を上回る20気圧防水を備えています。

楔型インデックスは、12時、6時、9時のみとし、3時位置には日付窓を配置。時・分針の「ルミブライト」は、針先近くまで塗布されており、秒針も「ルミブライト」仕様にして、夜間での時間の読み取りをさらに容易なものに。また、3色から選べる文字盤は、いずれにも繊細なヘアライン仕上げが施されたほか、ウォッチパッドは廃され、バンドはブレスレット、ないしはホースレザー(馬革)製に変更。と、アウトドアウォッチ由来でありながらも、洗練されたたずまいを醸し出しており、ビジネスシーンにもフィットするオールラウンドなモデルに仕上がっています。

なお、この「セイコー プロスペックス 1959 アルピニスト 現代デザイン」は、定番展開のモデル。発売日は、「プロスペックス 復刻デザイン」と同じ2021年8月6日予定です。

ノーブルなたたずまいも感じさせる「SBDC145」は、美しくエレガントなアイボリー文字盤×ブレスレットタイプ。公式サイト価格は、82,500円(税込)

ノーブルなたたずまいも感じさせる「SBDC145」は、美しくエレガントなアイボリー文字盤×ブレスレットタイプ。公式サイト価格は、82,500円(税込)

スーツスタイルの手元でも違和感が出ない、端正でドレッシーなブラック文字盤×ブレスレットタイプの「SBDC147」。公式サイト価格は、82,500円(税込)

スーツスタイルの手元でも違和感が出ない、端正でドレッシーなブラック文字盤×ブレスレットタイプの「SBDC147」。公式サイト価格は、82,500円(税込)

ダークグリーン文字盤に針やインデックスのアイボリーが品よく調和。バンドはホースレザー製。「SBDC149」。公式サイト価格は、80,300円(税込)

ダークグリーン文字盤に針やインデックスのアイボリーが品よく調和。バンドはホースレザー製。「SBDC149」。公式サイト価格は、80,300円(税込)

【まとめ】数多のアウトドアウォッチに差をつけられます!

例の感染症流行から、密集を回避しつつ楽しめるアウトドアレジャーが目下、大人気です。カテゴリーも多様化し、本格登山のみならず低山ハイク、トレッキング、トレイルランニング、ライトキャンプ……とさまざまです。最近になって、こうしたアウトドアにハマったという人も少なくないことでしょう。

過去を振り返ってみますと、こうしたアウトドアブームは繰り返し起こりました。そして日本における最初のブームは、おそらくは「ローレル アルピニスト」が発売された1950年代終わり頃から1960年代までの時期だったはず。となれば、62年間という時間を隔てながらも、新・旧の「アルピニスト」は、ともに時のアウトドアブームを背景にして世に現れたことになります。

ところで、巷にはアウトドアウォッチがあふれており、とりわけ高機能&多機能なハイテク系が主流をなしています。もちろん、そうした製品も魅力的ではあるのですが、「他人とはひと味違うアウトドアウォッチを!」という人には、この「プロスペックス 復刻デザイン」は買うべき格好の的になるはずです。確かに、多機能ではありませんが、キャンプシーンなどでは必要にして十分な役割を果たしてくれますし、オシャレ感も十分。ウォッチパッドの採用により、見た目のインパクトも申し分ありません。

また、時計好きなら、この「プロスペックス 復刻デザイン」を手に取りつつ、ルーツモデルを生み出した時代、すなわち日本社会が明日に希望を託して急成長しつつあった往時に思いを馳せてみるのもオツな楽しみ方。感染症などで今ひとつ元気が出ない今だからこそ、そんな楽しみ方もできる時計だと思います。

「セイコー プロスペックス 1959 アルピニスト 復刻デザイン SBEN001」
●駆動方式:自動巻き(手巻き付き)
●キャリバーNo:6L35
●精度:日差+15秒〜−10秒
●駆動期間:最大巻き上げ時約45時間持続
●防水性能:日常生活用強化防水(10気圧)
●表示:時・分、秒、日付
●文字盤カラー:ブラック
●ガラス材質:サファイアクリスタル(内面無反射コーティング)
●ケース材質:ステンレススチール
●ケースサイズ:36.6(横)×43.8(縦)×11.1(厚さ)mm
●バンド&パッド素材:カーフスキン
●発売年月日:2021年8月6日(予定)

●写真/篠田麦也(篠田写真事務所)

山田純貴

山田純貴

東京生まれ。幼少期からの雑誌好きが高じ、雑誌編集者としてキャリアをスタート。以後は編集&ライターとしてウェブや月刊誌にて、主に時計、靴、鞄、革小物などのオトコがコダワリを持てるアイテムに関する情報発信に勤しむ。

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