キャンプやトレッキングといったアウトドアアクティビティのブームは衰えを知らず、むしろその人気は高まるばかりです。
カシオ計算機が「Feel the Field」をキーワードに掲げて1995年にスタートさせた「プロトレック(PRO TREK)」は、「タフソーラー」や「トリプルセンサー」をコアテクノロジーに添え、クライミングやトレッキング、ハイキング、フィッシングなどのアウトドアアクティビティを取り込んだライフスタイルをサポートする、まさに今の時代に合った時計ブランドと言えましょう。
今回の「新傑作ウォッチで令和を刻む」で取り上げるのは、その「プロトレック」のラインアップのうち、機能性とデザイン性を追求する最高機種シリーズ「マナスル(MANASLU)」の最新モデル「PRX-8001YT-7JF」。発売が半年前の2021年10月と少し時間は経つものの、春の訪れとともに、絶好のアウトドアシーズンを迎えたこの時期に再注目したいモデルと考え、ここに紹介する次第です。
威風堂々たる姿を見せる「PRO TREK MANASLU(プロトレック マナスル) PRX-8001YT-7JF」は、「プロトレック」の現行モデル中、最高峰の名品。公式サイト価格は、198,000円(税込)
本モデル「プロトレック マナスル」は、極限的な自然環境下での使用に応える耐久性と、実用度の高い多彩な機能を備えたスペックは、最高機種とうたわれるにふさわしく、しかもヒマラヤの高峰「マナスル」の雪稜(せつりょう)や雪紋(せつもん)を文字盤やベゼルに取り込んだデザインが誠に秀逸で、「マナスル」の歴代モデル以上に、そのたたずまいは力強くも美しい。これまさに、「新傑作」と讃えるに値するモデルであると断じましょう!
世界最高峰の「エベレスト」(標高8,848m)や2番目に高い「K2」(標高8,611m)など、この地球上において標高8,000mを超す山は14座あり、それらはすべて、ヒマラヤ山脈からカラコルム山脈にいたる「世界の屋根」と呼ばれる一帯に存在しています。サンスクリット語(※1)で「精霊の山」を意味する「Manasa」が語源の「マナスル(Manaslu)」はそのうちの1座で、標高8,163mは世界第8位の高さ。ヒマラヤ山脈に属し、ネパール領の東西ほぼ中央に位置する名峰です。
人類の初登頂は、1956年5月9日、何と日本隊によって達成されました。その偉業による影響は絶大で、日本で空前の登山ブームが巻き起こり、同隊が使用した「ビブラムソール」(※2)やナイロン製クライミングロープなどが急速に普及する契機にもなりました。また、1974年には、この「マナスル」において、日本の女性隊が史上初の女性による8,000m峰登頂を成し遂げるなど、「マナスル」と日本は縁浅からぬ関係があるのです。
いっぽう、カシオの時計シリーズ名「マナスル」は、1956年の日本隊による同峰初登頂の偉業にインスパイアされて命名されたもの。2009年4月にファーストモデル「PRX-2000T」が発売されて以来、厳しくも美しい「マナスル」の世界観を表現したデザインと、極限の環境下で求められるスペックを両立させた、「プロトレック」の最高峰シリーズとして、今日まで多彩なモデルが展開されてきました。そして、シリーズの当初より一貫して、それらの監修を担ってきたのが、「プロトレック」のアンバサダーでもあるプロ登山家、竹内洋岳(たけうちひろたか)氏です。
プロ登山家/竹内洋岳(たけうちひろたか)氏
【PROFILE】
1971年、東京生まれ。アルパインスタイル(※3)を積極的に取り入れており、少人数・軽装備で一時期に複数のサミットを狙う登山スタイルで知られるプロ登山家
竹内氏は、実は先述した14座すべての完全登頂を達成した、日本で唯一の登山家(※4)です。17年の歳月を費やし、この歴史的功績を打ち立て、しかもそのうちの11座を無酸素で登頂したという、とても偉大な人物なのです。したがって、当然ながら「マナスル」の頂にも立っており、それは2007年5月19日、無酸素登頂での偉業でした。
※1:インドや東南アジアなどで用いられた古代語
※2:イタリア・ビブラム社が開発したクライミング用ラバーソール
※3:装備に極力頼らず、サポートチームの支援も受けず、登る者の力のみで一気に頂上を目指す登山
※4:2022年3月9日時点
文字盤では半透過印刷で、ベゼルでは機械彫刻で雪紋を繊細に表現
では、ここからは、「プロトレック マナスル PRX-8001YT-7JF」について検証していきましょう。ちなみに、本モデルにおいても、その開発段階で竹内氏が監修に携わったことは言うまでもなく、同氏の感性とスピリットは、至るところに見て取れます。
まず、本モデルは、樹脂製インナーケースをチタン製アウターベゼルと裏ブタで挟み込んだコンポジットケース構造を採用しています。これにより、堅牢性と軽量化の両立が図られています。また、リューズ、および5つのプッシュボタン(2、4、6、8、10時位置)は着用したグローブ越しでも操作しやすいよう、サイズや形状などに細かい配慮が行き届いています。
風防は、透明度が高く、耐傷性にすぐれる反射防止コーティングサファイアガラス製。そのガラスを通して視認できる文字盤は、「マナスル」などのヒマラヤの峰々に見られる「ナイフリッジ」(※5)をイメージしたシャープなデザインです。たとえば、時・分針には山カット処理を施したアルミ製の立体針を採用し、大ぶりのインデックスには立体形状に蒸着処理を施すなど、高級感を演出しています。
しかし、本モデルを最も個性的に見せているのは、何と言っても文字盤とベゼルに施された、大変印象的な波状の精密模様ではないでしょうか。マットブラックの文字盤では半透過印刷で表され、ベゼルでは機械彫刻で刻まれたこの柄は、雪紋(※6)をモチーフにしたもので、すなわち、ここでもヒマラヤの厳しくも美しい世界観が表現されているのです。
なお、側面に都市コードが刻印されたベゼルは、純チタンの約2倍もの硬度を誇る64チタン(※7)製。しかも、そこにDLCコーティング(※8)を施すことで、硬度、耐摩耗性、表面平滑性、耐食性などの向上も図られています。
※5:ナイフの刃のように鋭く切り立った尾根のこと
※6:空気の流れによって雪の表面に生じた風紋のこと
※7:チタン合金の1種で、質量に対し、チタン90%、アルミニウム6%、バナジウム4%で構成
※8:DLC=Diamond Like Carbonの略。金属面に、主に炭素と水素で構成される非晶質カーボンの硬質膜をコーティングする技術
「トリプルセンサー」など、多機能を搭載しながらも、文字盤のデザインはシンプル
ライトハイキングから極地登山まで、あらゆるマウンテニアリングに対応できる本モデルには、「トリプルセンサー」を始めとする多彩な機能が満載されているのですが、アナログと液晶デジタルの両表示(いわゆるアナデジ表示)を採用したことは、文字盤の複雑化回避に貢献しているものと考えられます。ちなみに、上の写真では、液晶に「SU 6.30」と表示されていますが、これは「6月30日/日曜日」を示しており、その上の「ALM」はアラームが、「SIG」は時報がそれぞれオン状態にあることを伝えています。
文字盤左上の扇状のインダイヤルが気になりますが、これはモード表示用。すなわち、ケース側面にある5つのボタンのいずれかを操作すると、赤い小さなモード針が動いて、各略字(※9)を指し、ここから現在どのモードなのかが確認できるのです。たとえば、今、自分がいる場所の標高を知りたいなら、4時位置のボタンをプッシュ。すると、高度計測モードになり、モード針が「REC」を指し、液晶に現在地の高度が数値で表されます。
ところで、本稿の冒頭で触れた、ともに「プロトレック」のコアテクノロジーと位置付けられている「タフソーラー」と「トリプルセンサー」について、ここで少し解説したいと思います。
まず、「タフソーラー」ですが、これはカシオが独自に開発したソーラー充電システムのこと。もちろん、本モデルにおいても、これが太陽光や蛍光灯などの光を動力に変え、各機能を安定的に駆動させてくれます。また、フル充電からだと、ソーラー充電せずとも約6か月動き続け、パワーセービング状態では何と約2年間駆動する、文字どおりの「タフ」さが自慢のテクノロジーなのです。
いっぽう、「トリプルセンサー」は、「方位」、「気圧/高度」、「温度」を計測する、これもまた、カシオ独自の革新的機能。磁気センサーによって自分がいる位置が確認でき、圧力センサーで高度や天候の変化がわかり、現在地のみならず目的地の天候予測もできるというものです。しかも、これらのセンサー機能では、単に計測するに留まらず、たとえば気圧計測では過去20時間分の気圧傾向をグラフで示したり、特徴的な気圧変化が起こった際に矢印表示と報音でそれを知らせたりする気圧傾向インフォメーション機能など、アウトドアアクティビティの折々で重宝する多彩な付加機能も備わっています。
また、このほかにも10気圧防水や、世界6局の標準電波を受けて自動的に時刻修正する電波受信機能、世界29都市+UTC(協定世界時)のワールドタイム、1/100秒ストップウォッチなど、さまざまな機能を搭載。アウトドアのみならず、日常でも、あるいはビジネスや海外旅行などでも活用できるマルチな実用時計に仕上がっています。
「ネオブライト」発光時の様子。さらなる明るさを要する際には「ダブルLEDライト」を活用します
文字盤の発光機能についても触れておきましょう。
針とインデックスに塗布されているのは、蓄光塗料「ネオブライト」。短時間で光を吸収し、長時間にわたって鮮やかに光り続けることで、漆黒の環境下においても確かな視認性をもたらしてくれます。
また、これに加えて「ダブルLEDライト」が搭載されているのも注目ポイント。これは、6時位置のプッシュボタンを押すことで、2灯の高輝度LEDが文字盤、液晶それぞれを明るく照射する機構です。しかも、併載された「オートライト」機能をあらかじめオンにしておけば、時計を約40°以上傾けるだけで点灯させることも可能。グローブ着用時など、ボタンが押しにくい時、この「オートライト」はなかなかに使える機構と言えます。
※9:「BARO」は気圧計測、「TEMP」は温度計測、「REC」は高度計測など
チタンカーバイト処理が施されたチタン製ブレスレットは、傷に強く、見た目の美しさも魅力
ブレスレットには、強さと軽さをあわせ持つチタンのムク素材を採用。しかも、そこにチタンカーバイト処理(※10)を施して耐摩耗性を強化すると同時に、素材の美しさも引き出しています。また、中留めは着脱スムーズなダブルロック3つ折れ式で、しかも、スライド機構の併載により、長さの微調整も簡単に行えます。たとえば、バイクグローブを着用する際、この機構を使ってバンド長を伸ばすことで、時計をグローブの上から装着できるわけです。
ラージサイズながら品のあるデザインゆえに、大人スタイルと合わせても違和感はなし
腕に装着してみますと、大ぶりなケース幅52.5mmがさらに際立って、手元がラギッドなものに。アウトドアスタイルに直球でマッチするのは言わずもがなですが、それでいて落ち着きあるカラーリング、シャープな造形、文字盤やべゼルに施された波状のパターン、チタンカーバイト処理によってもたらされた奥行きある光沢などが相まって、そのたたずまいには品が感じられます。それゆえに、きれいめなカジュアルやビジカジの装いに合わせても違和感なく、さまざまなシーンで使うことができるでしょう。
なお、「これだけ大きいと、さぞ重いのでは?」と思えるでしょうが、ベゼルやブレスレットなどの素材にチタンが採用されていることもあって、見た目に反して軽く、したがって装着にストレスは感じられず、快適に使用することができそうです。
※10:電気処理により、チタンを炭化させて表面を超硬化させるプレーティング技術の1種
一般的に、大ぶりの時計はフェイスが過度に複雑であったり、逆に、そのサイズ感ゆえに大味な印象を受けることがあります。ところが、本モデルでは、そのどちらでもないとの印象を受けました。ラージサイズ、かつ超多機能であるにもかかわらず、文字盤のレイアウトはシンプルですし、時・分針やリューズ&リューズガード、各ボタンなどでは直線と流線の組み合わせが巧みで、バランスは良好。ゆえに、時計全体のたたずまいはシャープで、キリッと引き締まったスマートなものに仕上がっています。
また、文字盤とベゼルに施された、雪紋がモチーフの飾り模様がもたらす繊細な美しさは、比類なく、つい見とれてしまうほど。これは個人的な感想ですが、「マナスル」の歴代モデルの中でも、本モデルは最も気品あるモデルなのではないでしょうか。
もちろん、「プロトレック」らしい多彩な機能は操作することの楽しさを与えてくれますし、耐久性も必要にして十分。ですが、それは当然のものとしたうえで、プロ登山家・竹内洋岳氏の情熱と生きざまを写し取ったかのような力強さと、ヒマラヤの大自然が見せる天上的な美しさをこのモデルは兼ね備えているのだと、そう確信しました。
●写真/篠田麦也(篠田写真事務所)
【SPEC】
カシオ計算機「PRO TREK MANASLU PRX-8001YT-7JF」
●駆動方式:クォーツ
●電源:ソーラー充電システム「タフソーラー」
●防水性能:10気圧
●耐環境性能:耐低温仕様(-10℃)
●ケース材質:樹脂、チタン
●ベゼル材質:樹脂、チタン
●バンド材質:チタン
●ガラス:内面反射防止コーティングサファイアガラス
●ケースサイズ:52.5(横)×59.7(縦)×14.4(厚さ)mm
●重量:約136g
●時刻修正:電波時計(日本・北米・ヨーロッパ・中国地域対応のマルチバンド6)
●ワールドタイム:世界29都市(29タイムゾーン、サマータイム設定機能付き)+UTC(協定世界時)の時刻表示など
●センサー機能
・方位計測/16方位・方位の角度(0〜359°)、磁気偏角補正、方位補正など
・高度計測/相対高度計(計測範囲:-700〜10000m)、高度メモリー、高度傾向グラフなど
・気圧計測/計測範囲:260〜1100hPa、気圧傾向グラフ、気圧差インジケーター、気圧傾向インフォメーションアラームなど
・温度計測/計測範囲:-10〜60℃
●そのほかの機能:12/24時間制表示切り替え、フルオートカレンダー、ストップウォッチ、タイマー、アラーム、時報、ダブルLEDライトなど
東京生まれ。幼少期からの雑誌好きが高じ、雑誌編集者としてキャリアをスタート。以後は編集&ライターとしてウェブや月刊誌にて、主に時計、靴、鞄、革小物などのオトコがコダワリを持てるアイテムに関する情報発信に勤しむ。