カシオ「プロトレック」の新作の写真を見た瞬間、筆者が思ったこと。それは「このベゼル、シボ革みたいだぞ」というものでした。ベゼル上面においてペブル(pebble=砂礫/されき、砂利、小石のこと)パターンが浮き出しており、それが英国靴で採用される伝統の型押し革「スコッチグレインレザー」に見えたからです。
カシオ計算機「カシオ プロトレック PRW-6900」のニューバージョンとして2023年10月に発売された「PRW-6900BF-1JF」。ほかの時計では見られないシボ革風のベゼルが印象的です。公式サイト価格は71,500円(税込)
もちろん、このベゼルは革が貼られた仕様ではありません。
シボ柄は直に高圧プレスで施されたものであり、モチーフもスコッチグレインレザーなどではなく、キャンプ用の鋳物調理器具スキレットなどに見られるテクスチャーに由来するものとのこと。しかし、革好きの筆者にはこれがシボ革風に見えてしまったわけです。
今回紹介する「プロトレック PRW-6900BF-1JF」は、実は本連載にて紹介済みの「PRW-6900」の新デザインモデルなのです。その際に掲載した3モデルはベゼル上面が挽き目加工による浅いヘアライン仕上げでしたが、それが今回、高圧プレスのスキレット風に変更されています。
先行3モデルでは、「こんな形の時計、見たことない!」と驚いたのですが、今作「PRW-6900BF-1JF」では、その斬新な「形」に加え、これまたほかの時計では見たことないスキレット風ベゼルにも驚いて、「これも無骨でカッコイイぞ」と実感し、ここに紹介することにしました。
「PRW-6900」は、カシオのアウトドアウォッチのブランド「プロトレック」の「クライマーライン」にカテゴライズされるシリーズのひとつ。際立って精悍なそのデザインは、アウトドアファンの多くが憧れるプリミティブなキャンプスタイル、ブッシュクラフトによっています。
ちなみに、「ブッシュクラフト」とは何かというと、斧やナイフといった最低限の道具のみを使い、火打ち石を使ってたき火を起こし、食材は可能な限り現地で調達する……といった、キャンプ上級者向けのアウトドアスタイルをさすものです。
たとえば、「PRW-6900」で最も印象的なオクタゴンシェイプのステンレス製ベゼルは、薪割りで使われる斧がモチーフなのだとか。美しさと力強さを兼ね備えた独特の面構成から、鋭利に研ぎ上げられた鎬筋(しのぎすじ。刃身側面の切っ先刃と棟の切り替え部分のこと)を想起してもよいでしょう。そして、この独創的な形状のメタルベゼルはもちろん、新作「PRW-6900BF-1JF」にも引き継がれております。
スキレットの質感を再現したメタルベゼルが、この時計を唯一無二の姿に
前述したとおり、「PRW-6900BF-1JF」ではそのメタルベゼルの表面に、スキレットなどに見られる凹凸感が表現されています。具体的には、鋳物表面の凹凸を転写した金型を製作し、冷間鍛造(※1)で高圧プレス。これにより、鋳物表面の野性味ある表情や荒々しい手触りを忠実に再現しているのです。そして、ベゼルの斜面をミラーとヘアラインに仕上げ分けしたうえで、ベゼル全体にブラックIP処理を施してさらに質感を高めているとのこと。
こうして仕上がったベゼルは、その無骨なオクタゴンシェイプと相まってインパクトある存在となり、この時計の姿をとりわけ個性的なものに見せています。筆者には、「PRW-6900」の先行3モデル以上にワイルドで迫力ある時計になっているかに思えるのですが、いかがでしょうか?
ちなみに、「スキレット」とは小ぶりのハンドル付きフライパンの一種で、家庭で使用されているフライパンの多くがフッ素加工のアルミ製なのに対し、スキレットは鋳鉄製です。アウトドアで多用されるのは、これひとつで「焼く」「炒める」「揚げる」に加えて、鍋の代わりとして「煮込む」際にも使用できるためで、できるだけ荷の量を減らしたいキャンパーらに非常に重宝されているからです。
※1:常温状態にて、加工材料を加圧で変形させる成形技術のこと。加熱しないため、寸法精度が良好で、複雑形状の加工も可能となる
ところで、文字板はどうでしょうか?
こちらは先行3モデルと変わるところはなく、スキレットと同様にアウトドアで多用されているダッチオーブン(※2)に見られる鋳物の質感が、クリアマット印刷(※3)で表現されています。
時分針は非常に極太でなかなかに迫力があり、それらに呼応してインデックスも太く、立ちの高い堂々たるものに。また、秒針もユニークで、「FIRE GRADATION」と名づけられた多色印刷が施されており、キャンプファイアの炎を表現しているのです。
多彩な機能を備えつつも、巧みな設計によってフェイスはスッキリとしたレイアウトに。視認性も上々です
搭載機能も先行3モデルと変わることはなく、「タフソーラー」(※4)で駆動し、アナログ表示で時・分を知らせ、デジタル表示の液晶フォントでカレンダーや各種の計測値などを表す多機能ウォッチに仕上がっています。
また、このアナデジのフェイスを見て、最初に存在が気になるであろう9〜11時位置のインダイヤルはモード表示用。その外枠はケース&ベゼルの形状にならってオクタゴンにデザインされており、小針はブッシュクラフトで必須のアウトドアナイフがモチーフの愛らしいデザインです。
では、ここで搭載機能のうちの、主なものについて少し触れておきます。
まず「トリプルセンサー」ですが、これは「方位」「気圧&高度」「温度」を計測する3種の検知機能のこと。ことに登山やトレッキングなどのアウトドアシーンにおいて大いに役立つであろう、カシオ独自の革新的機能です。また、世界6局の標準電波を受けて自動的に時刻修正する電波受信機能や、世界29都市+UTC(協定世界時)のワールドタイム、1/100秒単位の計時を可能にするストップウォッチなども装備。ちなみに、防水性能は10気圧です。
と、以上を踏まえたうえで、写真で文字板を確認してみましょう。
液晶ではカレンダーが表示されており、「SU 6.30」は「日曜/6月30日」を示し、その液晶左上では「ALM」でアラームが、「SIG」では時報がそれぞれON状態にあることを示しています。また、モード切り替え用インダイヤルでは、各モードが以下の略号で記されています。
「■」=時刻モード
「R/C」=受信モード
「WT」=ワールドタイムモード
「AL」=アラームモード(上の写真では時針の直下に表示があるため視認できません)
「TR」=タイマーモード
「ST」=ストップウォッチモード
「REC」=高度記録
「TEMP」=温度計測
「BARO」=気圧計測
なお、上記のモード切り替えやストップウォッチの作動などは、2/4/8/10時位置に、それぞれがベゼルに隠れるように設けられている各プッシュボタンで操作できます。
※2:分厚い鋳鉄製のフタ付き鍋の一種。煮物や蒸し料理、スモーク料理などの用途で使える万能鍋
※3:透明ツヤ消し加工を施す印刷技術のこと
※4:太陽光や蛍光灯などの光を動力に変えて各機能を安定的に動かす、カシオ独自のソーラー充電システム
たき火を表現する赤色系の蓄光塗料が採用された点も「PRW-6900BF-1JF」の特徴です
「PRW-6900BF-1JF」が先行3モデルと大きく異なる点は、ベゼルの仕上げにあることは先述したとおりなのですが、実は夜光塗料の発光色も異なるものを採用しています。
時分針と秒針の先端部、およびインデックスに塗布されているのが「ネオブライト」(※5)である点は新旧共通。ですが、先行3モデルを含むカシオ「ネオブライト」はブルーやグリーン、イエローといった色に発光するものがほとんどだったのに対し、「PRW-6900BF-1JF」のそれは珍しいレッドカラー! 聞けば、これは夜のたき火の炎を表現したものとかで、その美しい発色には視覚において確かにたき火のごとき暖かみがあり、それを目にすればおのずと心が和んできます。ちなみに、この塗料は光の下においては白色に光り、それが暗くなるにつれて赤みを帯びます。
6時位置のボタンをプッシュしてLEDライトを点灯。漆黒の環境下でも文字板を鮮やかに照らし出します
「PRW-6900」には「ネオブライト」とともに、文字板と液晶を照射する2つの高輝度「フルオートダブルLEDライト」も併載されています。これにより、6時位置のボタンを押すと、ライトに採用された「スーパーイルミネーター」が鮮やかな光で文字板を明るく照らし、さらなる視認性を提供。しかも、このボタンを押さずとも時計を40度傾けただけでも点灯する「オートライト機能」が備わっており、手袋の装着でボタン操作が難しい状況でも確実&容易に時刻を確認できます。
カーボンニュートラルの一助となるべく、ケース&裏ブタ、バンドはバイオマスプラスチック製です
なお、ケースや裏ブタ、バンドでは先行3モデルに引き続き、トウゴマの種やトウモロコシから抽出した成分を含むバイオマスプラスチックが採用されています。こうした再生可能物質を原料とすることで、自然環境下におけるアクティビティーに応える「プロトレック」にふさわしい、サスティナブルなウォッチに仕上げているわけです。
※5:短時間で光を吸収し、長時間にわたって光り続ける、カシオ独自の蓄光性夜光塗料
ゴツいデザインに、ブラックIPのスキレット風ベゼルのツヤも加わって、何気に手元がセクシーに!
上の写真は試着例ですが、ご覧になってどのような印象を持たれましたか? 本連載にて先行3モデルを紹介した際、カーキバンドタイプの「PRW-6900Y-3JF」を試着し、「何やら強そうというか、ガツッとラギッドな手元」になったと感想を述べましたが、今回の「PRW-6900BF-1JF」ではケース幅44.8mm、ケース厚14.7mmのデカ厚フォルムや大ぶりのオクタコンベゼルなどに、ベゼル表面のスキレット風仕上げが相まって、先行3モデルを大きく凌いで無骨&ワイルドな手元に仕上がっています。
しかも、そのスキレット風にブラックIP処理によってもたらされたツヤ感が加わったためか、グラマラスなテイストさえ感じられて、これまでに目にしてきた時計とはまったく異なる、まさに唯一無二と呼ぶにふさわしいたたずまいに結実しています。正直、この存在感は圧巻! 手元に男のセクシャリティーを添加したいという人にもおすすめできる時計であるなと実感いたしました。
以前に紹介したモデルと基本デザインも機能も同じでありながら、今回わざわざここに取り上げたのは、スキレット風に仕上げられたベゼルによってもたらされる比類のない姿に強い衝撃を受け、すこぶる魅力的に思えたからです。時計単体で見るとややおとなしくも感じますが、いざ腕に装着してみれば、この個性がさらに引き立って、圧倒的な主張で目にする者の心を釘付けに!
しかも、最初はただ異形に思えても、目になじむほどにどんどんカッコよくなっていき、「無骨であることがすてきだ」ということを実感させてくれる……。「PRW-6900BF-1JF」は、そんな不可思議な魅力に満ちた傑作アウトドアウォッチなのです。
もちろん、キャンプスタイルに違和感なく合って、フィールドでのさまざまなシーンで本領を発揮する時計であることは言わずもがなですが、デイリーユースにしても申し分はなく、多くの街スタイルとも相性ヨシ。たとえば、細身シルエットの華奢なカジュアルに、あえて無骨な靴と一緒にこの時計を合わせて、メリハリをつけてみるといったコーディネートも面白いと思います。
また、本稿の冒頭で「スコッチグレインレザーのよう」などと評しましたが、改めてスキレット風ベゼルをじっくりと見るにつけ、その風合いから「あながち勘違いでもない」と感じ、これは革好きの人にとってもなかなかに魅力的な時計であるなとの印象も強くした次第です。
●写真/篠田麦也(篠田写真事務所)
カシオ計算機「カシオ プロトレック PRW-6900BF-1JF」
●駆動方式:クォーツ
●電源:ソーラー充電システム「タフソーラー」
●耐環境性能:耐低温仕様(-10度)
●防水性能:10気圧
●ガラス:無機ガラス
●ベゼル材質:ステンレススチール
●ケース材質:バイオマス樹脂
●バンド材質:ソフトウレタン(バイオマス樹脂)
●ケースサイズ:44.8(横)×49.6(縦)×14.7(厚さ)o
●重量:約65g
●時刻修正機能:電波時計(日本・北米・ヨーロッパ・中国地域対応マルチバンド6)
●ワールドタイム機能:世界29都市(29タイムゾーン、サマータイム設定機能付き)+UTC(協定世界時)の時刻表示など
●センサー機能:「トリプルセンサー」
・方位計測:16方位/方位の角度(0〜359度)、磁気偏角補正、方位補正など
・気圧/高度計測:計測範囲260〜1100hPa、気圧傾向グラフ、気圧差インジケーター、気圧傾向インフォメーションアラーム、相対高度計(計測範囲:-700〜10000m)、高度メモリー、高度傾向グラフなど
・温度計測:計測範囲-10〜60度
●そのほかの機能:12/24時間制表示切り替え、フルオートカレンダー、ストップウォッチ、タイマー、アラーム、ダブルLEDライト「スーパーイルミネーター」、蓄光夜光塗料「ネオブライト」など