2023年、誕生55周年を迎えた「セイコー 5スポーツ」は、セイコーが擁する数あるブランドのうち、機械式ムーブメントを搭載したカジュアルウォッチのコレクションです。歴史的経緯(詳細は後述)もあって、とりわけ海外に多くのファンを持つものの、2019年にリニューアルが図られて国内市場に再帰してからは、ここ日本でも人気が急上昇しています。
「セイコー 5スポーツ SKXスポーツスタイル 2024年スペシャルエディション」は2色展開。左はブルー文字板タイプの「SBSA243」、右はブラック文字板タイプ「SBSA245」。公式サイト価格は各44,000円(税込)
そんな話題の「セイコー 5スポーツ」から、今回は2024年2月9日に登場した「SKXスポーツスタイル 2024年スペシャルエディション」をチョイスしました。本モデルは、ブランド誕生から間もない時期に登場し、当時、若者たちの間でモータースポーツを想起させる大胆な装飾で人気を博した往年のヒット作がベースデザイン。ベゼルを飾る「チェッカーフラッグ」は遊び心がたっぷりで、シャープな色使いも相まって、夏のカジュアルな手元に映えるはずです。
実は、本連載で「セイコー 5スポーツ」を取り上げるのは、今回が初めて。ということで、「SKXスポーツスタイル 2024年スペシャルエディション」(以下、「SKXスポーツ 2024」と記載)を解説するに先立ち、同ブランド、および「SKX」シリーズについてご紹介します。
時はさかのぼり、1963年。セイコーは翌年に東京で開催予定の「第18回夏季オリンピック」と「第2回夏季パラリンピック」でオフィシャルタイマーの重責を果たすべく準備する最中、国産初のデイデイト(日・曜表示機構)付き自動巻きモデルを発売します。「セイコーファイブ」と通称された、その「セイコー スポーツマチック5」は、モデル名が示すとおり、「自動巻き」「デイデイト表示」「防水性能」「4時位置のリューズ」「高耐久性のケース&バンド」の5つの先端スペックを備えており、デザインこそ従来のドレスタイプではあったものの、こうしたスペックがスポーツシーンなどのアクティブな使用にかなうものとされ、世界的な人気を獲得しました。
こちらが1968年登場の「セイコー 5スポーツ」初代モデル。2023年7月にはブランド誕生55周年記念として、この初代の復刻デザインモデルが数量限定で発売されました
続いて1968年、さらに高まりつつあったスポーツウォッチの需要に応えるべく、「セイコー 5スポーツ」を発売します。これは「セイコー スポーツマチック5」と同様にデイデイト付き自動巻きながら、70m防水や回転ベゼル、特殊強化ガラス、夜光塗料など本格的なスペックを搭載。スポーティーなデザインも相まって、若い層に支持され一世を風靡しました。
その後、「セイコー 5スポーツ」はブランド化が図られ、多彩なモデルが投入されていきますが、やがて日本市場から退き、グローバル市場に向けて展開する機械式ムーブメント搭載のカジュアルウォッチとして海外で人気を博します。とりわけ1996〜2019年の長きにわたって生産され、「ブラックボーイ」の愛称で親しまれたブラック文字板モデル「SKX007」をはじめとするダイバーズ「SKX」は、「セイコー 5スポーツ」を象徴する人気シリーズであり続けています。
そんな「セイコー 5スポーツ」がブランド再構築が図られたうえで、全15機種をもって日本市場に返り咲いたのは2019年9月のこと。その際、日本人の感性にもかなうよう、デザインにさらなる洗練化が施され、仕上げの質感が向上。文字板を飾るロゴについてもブランドのシンボルだったワッペンモチーフから、よりシャープでモダンなデザインへと変更しました。
「SKXスポーツ 2024」は、「SKXスポーツスタイル」コレクションの人気ダイバーズにチェッカーフラッグ柄を取り込んだ期間限定生産バージョンです。写真は文字板のブルーが美しい「SBSA243」
ところで、この新生「セイコー 5スポーツ」には現在、アウトドアアクティビティーにもデイリーにも対応する「Field」シリーズや、ヘリテージデザインの進化型で構成される「SNXS」シリーズがありますが、今回取り上げる「SKXスポーツ 2024」は、往年の歴代「SKX」をベースにしたコレクション「SKXスポーツスタイル」にカテゴライズされるもの。そしてここに取り上げるモデルは、その中核を担っている、約41時間パワーリザーブの自動巻きムーブメント「4R36」を搭載する一連のモデルのうちの、2024年版スペシャルエディションです。
その「SKXスポーツ 2024」には、ブルー文字板の「SBSA243」とブラック文字板の「SBSA245」の、それぞれデザインがやや異なる2色が展開され、どちらも前述のとおり、1960年代後期に展開され、ファンから「チェッカーフラッグ」の愛称が付与されたモデルのデザインやカラーリングをオマージュ。
「チェッカーフラッグ」とは、カーレーシングにおいて競技の終了をドライバーなどに伝える市松模様の旗のこと(通常はホワイト×ブラック)。 レースコースの全距離、あるいは全時間を走破した1位のマシンに対して振られるもので、チェッカーフラッグを受けたマシンは、その周の終わりでピットインすることになります。レースに使用される旗はほかにさまざまあるのですが、なかでもチェッカーフラッグは最もメジャーなものであり、それゆえにカーレーシングの象徴的アイコンとされています。
「SBSA243」では、フランジの目盛りもバイカラーで装飾。ブルー文字板にオレンジの秒針も際立っています
「SKXスポーツ 2024」のベゼルデザインは、往年の人気を博した「SKX」に施された、そのチェッカーフラッグを再現したもので、本モデルをすこぶる個性的なものに見せているわけです。なお、「SKXスポーツ 2024」のデザインはダイバーズをベースにしていることから、このベゼルはカウントアップ表示が記された逆回転防止仕様です。
また、ブルー文字板の「SBSA243」では、ベゼル内側のフランジに記された分刻み目盛りも、ベゼルトップに呼応したバイカラーに。こちらはチェッカーフラッグ、あるいはゼブラゾーンをイメージさせます。ちなみにゼブラゾーンとは、サーキットにおいてはコース脇に設けられた縁石のこと。ドライバーに「コース端はここまで」であること知らせて走路外走行を防ぐ目的から、縞柄のバイカラーで塗り分けされているため、こう呼ばれています。レッド×ホワイトが最も一般的ですが、ブラック×ホワイト、ブルー×ホワイトに塗装される場合もあります。
文字板上のスカイブルー×ホワイトにより、ポップ顔に仕上がった「SBSA245」。ベゼルローレットもチェッカーフラッグをイメージさせます
いっぽう、ブラック文字板の「SBSA245」ではフランジの存在は控えめながら、文字板外周にてスカイブルー×ホワイトの目盛りが、その存在感を主張。ブルー文字板の「SBSA243」にはドレッシーな表情もうかがえるのですが、「SBSA245」では、この文字板デザインゆえ、よりポップでカジュアルな雰囲気があって、とても個性的です。
さらに注目したいのが、ベゼル側面に刻まれた綾目のローレットです。滑り止めとして、ごく一般的に回転ベゼルに多用される、ピラミッドパターンのローレット。本モデルにおいても、特にチェッカーフラッグを意識して採用されたものではないかもしれませんが、この凹凸がベゼルのチェック柄とピッチが同じである点は見逃せないポイントです。
ところで前述のとおり、「SKXスポーツ 2024」のデザインはダイバーズをベースにしているのですが、では「その防水性能は?」と言えば、それは日常生活用強化防水(10気圧防水)。しかし、これは空気ボンベを使用しないスキンダイビングであれば使用可能という性能です。また、PCやスマホなどの電子機器から発される電磁波からムーブメントを保護するべく、第1種耐磁も導入。
自動巻きキャリバー「4R36」の動作がうかがえるケースバック。裏ブタ外周に「SPECIAL EDITION」と刻印されています
「SKXスポーツ 2024」はシースルーバック仕様で、ガラス越しにデイデイト付き自動巻きキャリバー「4R36」の脱進調速機構、ならびに回転ローターの動作を目の当たりにできます。ちなみに文字板側、およびケースバックのガラスはセイコー独自の素材である「ハードレックス」(※1)で、文字板側では、これを曲面形状にして表情をより美しいものに見せています。
※1:ミネラルガラスを特殊強化処理した無機ガラスの一種
「ルミブライト」の高い輝度の採用で、暗い夜道でもしっかりと時間が確認できます
夜間での視認性にも怠りなく、針、インデックス、フランジ、およびベゼルのカウント「0」のそれぞれに「ルミブライト」を塗布。これは、太陽光や照明の光を短時間で吸収して蓄え、暗い環境下で長時間(約3〜5時間)発光し続ける蓄光塗料です。放射能などの有害物質をまったく含んでおらず、したがって人体に安全で、環境にもやさしい素材です。
では、ここで試着してみましょう。今回は「これから来る夏のカジュアルに合わせてみたい!」との思いから、この「SKXスポーツ 2024」を取り上げたので、Tシャツスタイルの手元を想定しての試着です。選んだのは、ブラック文字板にスカイブルー×ホワイトのデザインがキリッと映えて爽やかな「SBSA245」です。
少しくどいデザインに思えますが、だからこそフラット感のある素肌にカッコよく映えます。写真は「SBSA245」
こうして腕に装着して、まず感じたのは表情が「濃いな!」ということ。チェッカーフラッグやオレンジの秒針などからなる複雑顔が、肌のプレーンな質感と強烈なコントラストを生み出して、その存在感をさらに際立たせています。とはいえ、このバランスがなかなかに秀逸で、かつフレッシュ! 意外にも悪目立ちなどはせず、手元を効果的にセンスアップして、男のアクティブな休日スタイルに絶妙なアクセントを添えてくれるはず。
ケース幅42.5mmは、スポーツモデルとしては大きすぎず、小さすぎずのほどよいサイズ感。これなら、細い腕にもバランスよくマッチ&フィットすることでしょう。対して、リューズは大ぶりなのですが、それがリューズガードとともに4時位置に設けられている(「SKX」伝統の特徴的デザイン!)ため、背屈(※2)しても、それらが手の甲を干渉しない点もうれしい配慮と言えます。
※2:甲側に手首の関節を折ること
最後に「SKXスポーツ 2024」の魅力をここで整理してみましょう。第1に、往年のヒット作のデザイン復刻版だということをあげたいと思います。高度経済成長の真っただ中、クルマへの関心が高まりつつあった時代にカーレーシングをモチーフにし、大いに人気を博した「SKX」をすこぶる個性あるものにしたチェッカーフラッグ柄を始め、基本的デザインはそのままに、クラシックな味わいをほんのり残しながらも今時の感性にかなうよう、より洗練化されている点が小粋です。
また、詳述はしませんでしたが、仕上げの美しさにも注目したいところ。中級モデルではあるものの、細部を見入ってもそこに粗さなどはなく、大変ていねいに作り込まれており、ここにもメイド・イン・ジャパンの真骨頂がうかがえてうれしくなるのです。
そして何よりも、そのチェッカーフラッグ柄などがもたらすシャープな表情に、清涼でハイコントラストなカラーリングが相まって、Tシャツスタイルに絶妙にマッチするという点です。ごくシンプルなコーディネートであっても、この時計を装着するだけで、これがアクセントになってスタイルをおしゃれに見せてしまう……と、そんなパワーが「SKXスポーツ 2024」に備わっているのでしょう。ということで、とりわけ夏の晴れた休日カジュアルに、ぜひとも合わせてみてください。
もちろんクルマ好きやカーレーシングのファンにとって注目のモデルであるのは言わずもがなですが、時計やファッションにこだわりがある人にもおすすめ。自動巻きでありながら手の届きやすいプライスとあって、時計通にはデイリーで使うセカンドウォッチとして、また、機械式時計入門者にとっては最初の一本として、これはかなりいいと思うのです。加えて、チェッカーフラッグがトップでゴールしたドライバーに向けて振られるものという点から、この柄をデザインに取り入れた本モデルを「勝利」や「成功」を呼び込む“タリスマン(お守り)”にもできるのでは、などとも考えてみた次第です。
●写真/篠田麦也(篠田写真事務所)
【SPEC】
セイコー「セイコー 5スポーツ SKXスポーツスタイル 2024年スペシャルエディション」
●品番:「SBSA243」(ブルー文字板タイプ)、「SBSA245」(ブラック文字板タイプ)
●駆動方式:自動巻き式(手巻き付き)
●キャリバー:「4R36」
●機械式駆動時間:約41時間
●表示機能:時・分、秒、日付、曜日
●防水性能:日常生活用強化防水(10気圧防水)
●ケース&バンド材質:ステンレススチール
●ガラス材質:ハードレックス
●ケースサイズ:縦46.0×幅42.5×厚さ13.4mm
●そのほかの機能:カウントアップ表示付き逆回転防止ベゼル、シースルーバック、耐磁(JIS1種)、ルミブライト、裏ブタに「SPECIAL EDITION」表記など