今回は夏にふさわしいダイバーズの注目作を取り上げます。スポーツ&アウトドアに対応する機能を備えた腕時計ブランド「セイコー プロスペックス」から、2025年6月6日に発売された「1968ヘリテージ セイコーダイバーズウオッチ60周年記念 限定モデル SBEJ027」(以下、「SBEJ027」)。こちらはモデル名からもわかるとおり、セイコーダイバーズの誕生60周年を記念する、全世界6000本(うち国内2000本)の数量限定モデルです。
「セイコー プロスペックス ダイバーズ 1968ヘリテージ セイコーダイバーズウオッチ60周年記念 限定モデル SBEJ027」。手巻き付き自動巻き。ステンレスケース&バンド
2025年は、国産初のダイバーズ「1965 メカニカルダイバーズ」の誕生から60年目。時計好きの間で「150mダイバーズ」と通称され、アンティークマニアに珍重されてきました。そのエポックメイキングなモデルは、当時としては画期的な150m防水を備えた本格ダイバーズであり、1960年代後半、4回にわたって南極観測越冬隊の装備品にもなった伝説的な存在です。
この「1965 メカニカルダイバーズ」の発売を皮切りに、セイコーは数々の傑作ダイバーズを生み出していきます。そうした60年間のさまざまな偉業を讃える記念モデルのひとつとして今年、発売されたのが「SBEJ027」です。
ただし、デザインのベースモデルはその国産初ダイバーズではなく、3年後に登場した「1968 メカニカルダイバーズ」。当時、世界最高水準10振動ハイビートの自動巻きムーブメントを、裏ブタのないワンピース構造のケースに収めることで、300m防水を実現した革新的なダイバーズでした。1970年に登山家の故・植村直己、故・松浦輝夫の両氏が日本人初のエベレスト登頂を成功させた際に携行したことでも知られる、レガシーな名品です。
スキューバダイビング(呼吸に圧縮空気を用いる浅海潜水)に十分以上の耐性がある300m空気潜水用防水を備えています
写真左が「1965 メカニカルダイバーズ」で、写真右が「1968 メカニカルダイバーズ」。時分針や秒針、インデックスの形状、回転ベゼル表示板のデザインなどからわかるとおり、後者が「SBEJ027」のデザインベースとなっています
「SBEJ027」をひときわ個性的にしているのは、ブルー文字板を飾るウェーブパターンでしょう。そのブルーは広大無辺の外洋のごとく、そこに型打ち加工で施されたパターンが眼下で烈々と立ち上がる荒波の情景をもたらします。まるで大自然に身をゆだねているかのような、そんなロマンを感じさせてくれるのです。
ウェーブパターンの型打ち文字板が、荒々しく波立つ大海原を一望しているかのような感覚へといざないます。ちなみに、発色はやや濃いブルーですが、光の加減により、その濃淡は繊細に変化します
ところで文字板の、このダイナミックな装飾は、「ウェーブマーク」をパターン化したもの。1975年に発売された世界初のチタン製600m飽和潜水モデル「セイコーダイバー プロフェッショナル600」の裏ブタに刻まれ、以来、信頼性と技術力の高さを象徴するものとして、「SBEJ027」を含むセイコーダイバーズ全モデルの裏ブタに刻印されてきました。つまり「SBEJ027」では、表・裏両面においてセイコーダイバーズのアイデンティティが表現されているというわけです。
世界で初めてチタン製ケースが採用されたダイバーズとなった、1975年発売の「セイコーダイバー プロフェッショナル600」。高気密性一体型ケースにより、600m飽和潜水用防水も実現しました
「SBEJ027」でも裏返すと、「ウェーブマーク」が目の当たりにできます
ハイスペックな300m空気潜水用防水の本格ダイバーズでありながら、「SBEJ027」は、2023年6月にお目見えして「セイコー プロスペックス」の定番自動巻きムーブメントとなった「6R54」が搭載されたことで、GMT機能が備わっています。これにより、たとえば海外に滞在中、この機能を活用することで現地時刻とともに、日本時間も同時に確認できます。
7時位置を指しているのがGMT針。グローバル化が進む現在に求められる機能のひとつです
時分針、秒針、GMT針、インデックスに塗布された蓄光性夜光塗料が、暗い水中でも確かな視認性をもたらします
「SBEJ027」のケース径は42mmと若干大ぶりではありますが、ダイバーズとしては標準的なサイズの範囲と言えます。装着すると、腕の太さによらず、多くの人の手元に違和感なく合いそうという印象を持ちました。いっぽう、ケース厚は13.3mmとやや厚め。見た目においてケース径とのバランスは申し分ありませんが、ビジネスシャツだと袖口にちょっと響くかもしれません。
さまざまなアクティビティスタイルになじむ、スポーツモデルらしいたたずまい。男の手元にちょうどいいサイズ感も◎
一見すると、ごくベーシックなデザインのダイバーズですが、ブルーベゼルを船窓にたとえて、ガラス越しに蒼色を湛えた文字板をうかがえば、荒ぶる海面が陽光の移ろいに合わせて濃淡を変化させるさまが想像できます。これは手元にあって、私たちのイメージを日常から遥かに隔たった大海へと導く小窓なのだと感じました。
さらに注目すべきが、ユーザー自身でバンドのサイズ調整が容易に行える新開発バックル(中留)の採用です。これはバンドを手首に通してバックルを閉じ、サイドボタンを両側から押し込むと、約2.5mmピッチ×6段階=約15mmの調整幅でクイックに長さが微調整できる機構。折々で自分好みの装着感がフレキシブルに得られるとあって、これはかなりうれしいポイントでしょう。
バックル両脇のボタンを押し、中板(2レーンのリブ&▽マークのあるパーツ)をスライドさせることで、簡単にバンド長の調整ができます
実は「SBEJ027」には、発売は1か月ほど先行(2025年5月10日)したものの、“弟分”と呼びたくなるモデル「SBDC213」が存在します。文字板に「ウェーブマーク」が型打ちされている点は両者で共通なのですが、ケースサイズでは「SBEJ027」が径42mm×厚13.3mmなのに対し、こちらは径40mm×厚13mmとまさに弟分らしく、やや小ぶりです。
パワーリザーブ約72時間の自動巻きキャリバー「6R55」搭載の「セイコー プロスペックス ダイバーズ 1965ヘリテージ セイコーダイバーズウオッチ 60周年記念 限定モデル SBDC213」。空気潜水用防水(300m)。ステンレススチールケース&バンド
また、「セイコーダイバーズウオッチ60周年記念」モデルであり、それぞれが世界6,000本(うち国内2,000本)の限定展開であるのは同じながら、「SBEJ027」は「1968 メカニカルダイバーズ」のデザインをアップデートしたモデルです。いっぽうで、この「SBDC213」は「1965 メカニカルダイバーズ」をオリジナルにしています。
さらに、同じ手巻き付き自動巻き式でも「SBDC213」にはGMT機能がなく、それもあって価格設定がお手軽であるのも大きな違いです。何より印象的なのは、グレーのベゼルに囲まれたシルバー文字板でしょう。この清潔感あふれるカラーリングに「ウェーブマーク」が相まって、夏場の手元を清涼に見せてくれること請け合いです。
国産初ダイバーズ「1965 メカニカルダイバーズ」をリスペクトし、300m防水を実現した「1968 メカニカルダイバーズ」の基本デザインを継ぎ、そこに1975年発売の「セイコーダイバー プロフェッショナル600」に端を発する「ウェーブマーク」も取り入れた「SBEJ027」。誰かにちょっと語りたくなる、そんな歴史的ウンチクを背景に、シーンやスタイルを問わない高い汎用性と今どきな使い方にかなった性能&機能を備えているのも、このモデルの大きなアドバンテージです。
そのうえで、ウェーブパターンが型打ちされたブルー文字板に見入れば、そこに大自然のロマンが感じられて、とりわけ日ごとに日差しが強まっていくこれからの季節には、ダイバーならずとも、今すぐにでも海辺へと繰り出したい気分になることでしょう!
【SPEC】
セイコー「プロスペックス ダイバーズ 1968ヘリテージ セイコーダイバーズウオッチ60周年記念 限定モデル SBEJ027」
●駆動方式:手巻き付き自動巻き
●キャリバー:6R54
●パワーリザーブ:約72時間
●防水性能:空気潜水用防水(300m)
●ケース材質:ステンレススチール(ダイヤシールド)
●風防素材:サファイアガラス(内面無反射コーティング)
●ケースサイズ:径42.0mm×厚さ13.3mm
●バンド素材:ステンレススチール(ダイヤシールド)
●機能:時・分・秒表示、第二時刻表示、日付表示
●生産本数:世界限定6,000本(うち国内2,000本)
写真/坂下丈洋(BYTHEWAY)