新傑作ウォッチで令和を刻む
第13回/カシオ計算機「オシアナス マンタ OCW-S5000ME」

艶やかなのにシック! カシオ「オシアナス マンタ」蒔絵モデルの真価を探る

カシオ計算機のウォッチブランド最高級ライン「オシアナス」は、スポーティーで品あるたたずまいと、先進テクノロジーをあわせ持つジャパンメイドモデルで構成されています。その中でも、スリムボディと上質な仕上げにより、さらなるエレガンスを追求したモデルが、「オシアナス マンタ(OCEANUS Manta)」です。

「これぞ令和時代の傑作!」と讃えたい注目ウォッチを取り上げ、深掘りする本連載。今回取り上げるのは、「オシアナス マンタ」の限定モデルとして2021年6月11日に発売された「蒔絵(まきえ)」採用バージョン。約1200年前から今日に至るまで継承され続けている日本の伝統工芸「蒔絵」の概略と、その技術を応用して文字盤とベゼルに美しい「水のきらめき」を表現した、「オシアナス マンタ OCW-S5000ME」の魅力について解説します。

「オシアナス マンタ OCW-S5000ME」。公式サイト価格は、275,000円(税込)

「オシアナス マンタ OCW-S5000ME」。公式サイト価格は、275,000円(税込)

蒔絵は日本起源? 平安時代より連綿と続く和の工芸

「絶対精度を持つ美しい時計」を標榜し、2004年に誕生した「オシアナス」(ギリシア神話に登場する海の神の名に由来)では、カシオ計算機の革新的な技術力と日本の伝統的なモノ作りの融合を目指し、2018年と2019年に「江戸切子(えどきりこ)」、2020年に「阿波藍(あわあい)」とのコラボモデルを発表。そして2021年、さらなるチャレンジとして、ここで紹介する、蒔絵の技術を取り入れた「オシアナス マンタ OCW-S5000ME」を世界限定1500本でリリースしました。

と、ここで「蒔絵ってどんなものなの?」と疑問を抱く人も少なくないはず。あるいは、正月料理を詰める重箱や漆塗りの汁椀に施された金色や銀色の装飾と聞いて、「ああ、あれか」と気付く人もいることでしょう。ということで、以下では蒔絵について少し触れておきます。

蒔絵の「蒔」は、音読みが「シ」「ジ」で、訓読みは「ま(く)」「う(える)」。「種を蒔く」「植物を蒔える」などと使いますが、ほかに「粉末を散らして落とす」という意味でも使用されます。すなわち、蒔絵は「漆器の表面に漆(うるし)で絵柄や文字を描き、それが乾く前に金や銀などの金属粉を“蒔く”ことで器面に描く加飾技法、またはそれによって作られる漆器」を指すのです。

ちなみに漆は、落葉樹のウルシから採取した樹液に、油や着色剤などを加えて作られる塗料のこと。乾燥させると、熱、水分、油分、湿気、強酸などに強い硬質膜を形成する性質を持ちます。また、漆塗りの表面がうるんでいる(濡れている)ように見えることから、「うるし」と呼ばれるようになったとの見解もあります。

ところで、蒔絵は平安時代に開発されたと考えられており、「蒔絵」という用語もこの時代の文献で初出しています。しかし、その誕生については、実は謎に包まれています。現在、奈良県東大寺の正倉院に納められている宝物「金銀鈿荘唐大刀(きんぎんでんそうからたち)」の鞘(さや)に施された「末金鏤作(まっきんるさく)」が、蒔絵に近い技法であるとの説があり、これが正しければ、発祥は天平時代にさかのぼるわけですが、「末金鏤作」の工程については詳細が不明なうえ、そもそも、その太刀の鞘が日本産なのか渡来品なのかもわからないというのです。

ただ、中国には蒔絵、あるいはそれに類似する遺物が現存しないことから、日本起源説が有力であり、しかも、他国の漆工と比べて我が国の蒔絵作品が質においても量においても圧倒的。歴史的にも日本独自に発展し、あまねく普及したという事実から、まさに蒔絵は日本伝統の技術と言えるでしょう。

たゆたう水のきらめきを、プラチナ粉を使った蒔絵で表現!

文字盤とベゼルの意匠は、京蒔絵師、下出祐太郎氏の傑作「悠久のささやき」がベース

文字盤とベゼルの意匠は、京蒔絵師、下出祐太郎氏の傑作「悠久のささやき」がベース

以上、蒔絵についての雑学に触れてみたわけですが、ここからは「オシアナス マンタ OCW-S5000ME」に話を戻したいと思います。

何と言ってもいちばん気になるのは、本モデルの核心とも言える蒔絵との関係でしょう。すなわち「そうした蒔絵のデザインや技術が、どのように生かされているのか?」という点です。

カシオ計算機は、本モデルの開発プロジェクトを始動させるにあたり、京都で100年以上続く工房「下出(しもで)蒔絵司所」の3代目京蒔絵師、下出祐太郎氏に監修を依頼しました。そして同氏の代表作と言われる、京都迎賓館「水明の間」に収蔵されている飾り棚の装飾「悠久のささやき」を、デザインモチーフにセレクトしたのです。

たゆたう波間を金粉で、水間(みなも)の照り返しを約70,000粒のプラチナ粉で表し、きらめきながら静かに命を循環させる水の悠久なる美を表現した、その飾り棚のモダンで洗練されたデザインに、同社の開発スタッフらはインスパイアされ、そこに「オシアナス」との親和性を見出したのだとか。

そこで、下出氏の協力を得たカシオ計算機の開発スタッフは、「オシアナス」のフラッグシップモデル「マンタ OCW-S5000」をベースに、その文字盤、およびサファイアガラスベゼルに「悠久のささやき」の装飾を範とするデザインを取り入れて、「水のきらめき」を表現しました。

技術面においても、蒔絵のエッセンスを導入しています。具体的には、水の流れを表現した文様に、プラチナ粉を下から上に向けて蒔くことで繊細な階調を表す「蒔きぼかし」と、プラチナが付着しない部分をあえて作る「抜描(ぬきがき)」の2つの技法を組み合わせて描く「蒔きぼかし抜描波文(まきぼかしぬきがきはもん)」というデザインコンセプトを採用。また、そのプラチナ粉については、時計サイズでも効果的に輝くよう、さまざまなサイズや形状を検討し、結果、丸粉を潰して小判型にした「平目粉(ひらめふん)」の2号サイズを選択しました。

ちなみに、先述した蒔絵を「漆で絵柄や文字などを描き、それが乾く前に金や銀などの金属粉を“蒔く”ことで器面に描く加飾技法」などと定義しましたが、本モデルでは漆は使用されていません。あくまで、プラチナ粉を“蒔く”という工程において、蒔絵の伝統的技法が使われたということなのです。

ここで特筆すべきは、何と下出氏がみずから本モデルすべてに手技を駆使し、蒔絵装飾を施しているという点です。世界限定1500本という希少性もさることながら、それら1本1本に蒔絵芸術における巨匠の研ぎ澄まされた美意識と、卓越した技が込められているという事実を知れば、このモデルの真価がいかなるものかが理解できるのではないでしょうか。

多彩な機能を針で表示! 知れば楽しい文字盤の“読み方”

日付を除く各機能を指針で表示しつつ、絶妙な設計とレイアウトで高い視認性も確保

日付を除く各機能を指針で表示しつつ、絶妙な設計とレイアウトで高い視認性も確保

「オシアナス マンタ」に蒔絵のデザインと技術がどのように取り入れられたのかがわかったところで、次に“文字盤の読み方”を解説します。

本モデルは、いわゆる3つ目ダイヤルの仕様ですが、その3つのインダイヤルは、それぞれの役を担っていると同時に、光のない場所でも安定して駆動し続ける、同社独自のソーラー発電&充電機能「インダイヤルソーラー」の受光部としての役割も兼ねています。また、そのバッテリー残量は、6時位置のインダイヤルにて、針が指し示す「H」「M」「L」の各表示で確認できます。

3時位置には、日付表示窓が備えてあり、「曜」は6時位置のインダイヤルにて、「Su」から「S」までの目盛りで読み取ります。また、そのインダイヤルは、サマータイムなどのモード表示も担っており、「DST」がサマータイム、「SDT」がスタンダードタイム、「AT」が自動切り替えモードです。なお、「ST」の表示は、ストップウォッチが動作中であることを知らせるもので、計時中はセンター秒針がクロノグラフ秒針となり、9時位置のインダイヤルが12時間の分積算計を担います。

その9時位置のインダイヤルは、ワールドタイムモードの際に第2時間を表示する12時間計となり、その直下のミニダイヤル(「A」「P」表示)がその午前/午後を表します。いっぽう、現在地の時刻は、センターの3針(時・分・秒)、および12時位置のインダイヤル(24時間表示なので、ここから午前・午後が読み取れる)で確認できます。

一見わかりづらいのが、文字盤外周に記された「C」「R」「Y」「N」のイニシャル。これらは、時刻自動修正機能に関連するもので、いずれもセンター秒針が指し示すことで、それぞれの役を果たします。まず、「C」はBluetooth機能を利用したスマートフォンリンクによる時刻修正機能において、スマホと接続中であることを表します。また、「R」は世界6局標準電波受信による時刻修正において、その電波を受信中であることを告げる記号。「Y」は自動時刻修正が成功したことを、「N」は失敗したことを知らせるものとなっています。

暗所で鮮明に光り続ける蓄光性夜光塗料「ネオブライト」を使用

暗所で鮮明に光り続ける蓄光性夜光塗料「ネオブライト」を使用

時・分針、およびインデックスには、短時間で光を吸収・蓄光し、長時間の発光を可能にした、同社独自の技術「ネオブライト」を塗布。これにより、たとえ漆黒の環境下にあっても、美しく鮮やかに光り続けて、ユーザーに時刻を知らせてくれます。

見た目スマート&着け心地快適なスリム設計!

ヘアライン×鏡面の異なる仕上げを巧みに組み合わせて、立体感に富む表情に

ヘアライン×鏡面の異なる仕上げを巧みに組み合わせて、立体感に富む表情に

蒔絵が施された文字盤とベゼルの美しさを引き立てているのが、加工が難しいとされる純チタン素材のケースとブレスレットです。軽量、かつ肌にやさしい純チタン素材に、チタンカーバイト処理と呼ばれる特殊処理を施して表面を硬化させ、きわめて高い耐摩耗性と美しい発色を実現しています。また、それらの鏡面部分には、研磨技術の最高峰と言われる「ザラツ研磨」を採用。職人が手仕事でていねいに磨き上げた、平滑度の高い、美しい輝きを確認できます。

電波ソーラーを搭載しながらも、独自の先端実装技術によりケース厚9.3mmを実現

電波ソーラーを搭載しながらも、独自の先端実装技術によりケース厚9.3mmを実現

スタイリッシュなスリムボディは、「オシアナス マンタ」の最大の特徴で、それはもちろん、この限定モデルにも踏襲されています。しかも、カシオ独自の高密度実装技術に、Bluetoothシステムの部品点数削減と小型化があいまって、電子部品の実装を従来の両面から片面に変更。この革新的な技術により、電波ソーラーを搭載していながら、ケース厚9.3mmの薄型化を実現しました。

スポーティーでありながら、和の品格もあわせ持つ唯一無比の存在感で、個性ある手元に

スポーティーでありながら、和の品格もあわせ持つ唯一無比の存在感で、個性ある手元に

本モデルは、ケース径42.3mmとやや大ぶりながら、スリムボディゆえに手元をスマートに演出できます。また、チタンモデルゆえに、見た目に反して非常に軽量。これに加え、ケースとバンドをつなぎ、かつ双方と一体感を成すラグの形状と、矢羽根形のH駒×鏡面ライン入りの中駒で構成されたブレスレットの組み合わせにより、着け心地も上々です。

装着時における見た目の印象は、「オシアナス」らしいアクティブさはそのままに、そこに蒔絵の伝統技術によって施された装飾「水のきらめき」が醸し出す和の風情が見事に調和。結果、鮮麗で品があり、それでいてグラマラスさも感じさせるという、ほかに類を見ない固有の美に昇華されているのです。

「オシアナス・ブルー」が清涼な、藍染めタイプもラインアップ!

以上、「オシアナス マンタ S5000」の蒔絵タイプを詳解してきましたが、実は同型で、同じく日本の伝統技術である「藍染め」で色染めした白蝶貝文字盤のバージョンもラインアップされています。「ジャパンブルー」として世界的に知られる藍染めですが、なかでも徳島県特産の「阿波藍(あわあい)」は、とりわけ手間と時間を要することもあって、非常に貴重とされています。

「オシアナス マンタ S5000AP」では、その徳島の天然藍を沈殿法で染料化し、「インダイヤルソーラー」以外の文字盤全面を着色。これにより、「ジャパンブルー」を「オシアナス」のブランドカラーである青のルーツとしてデザインに落とし込んでいるのです。

ということで、以下では、その「オシアナス マンタ S5000AP」のカラーバリエーション2タイプを紹介。いずれも、秀麗にして神秘的、かつ清涼感ある発色が美しい極上のエレガンスウォッチに仕上がっています。

爽やかで清潔感ある表情の「オシアナス マンタ OCW-S5000APA-2AJF」。藍染め白蝶貝文字盤に加え、「インダイヤルソーラー」に白く染めた白蝶貝を取り入れることで、藍染めの手法のひとつである「叢雲(むらくも=集まって群がった雲のこと)染め」を表現した。ケース厚は9.5mm。世界限定1,000本。公式サイト価格は、231,000円(税込)

爽やかで清潔感ある表情の「オシアナス マンタ OCW-S5000APA-2AJF」。藍染め白蝶貝文字盤に加え、「インダイヤルソーラー」に白く染めた白蝶貝を取り入れることで、藍染めの手法のひとつである「叢雲(むらくも=集まって群がった雲のこと)染め」を表現した。ケース厚は9.5mm。世界限定1,000本。公式サイト価格は、231,000円(税込)

「オシアナス マンタ OCW-S5000AP-2AJF」は、見切り(パーツ同士のすき間を隠す部位。ここでは文字盤外周の傾斜面を指す)に、白から青へと階調を成す24面カットのサファイアガラスを施し、そこに藍染め白蝶貝文字盤を合わせてぼかし染めを表現。ケース厚は9.5mm。世界限定2,000本。公式サイト価格は、258,500円(税込)

「オシアナス マンタ OCW-S5000AP-2AJF」は、見切り(パーツ同士のすき間を隠す部位。ここでは文字盤外周の傾斜面を指す)に、白から青へと階調を成す24面カットのサファイアガラスを施し、そこに藍染め白蝶貝文字盤を合わせてぼかし染めを表現。ケース厚は9.5mm。世界限定2,000本。公式サイト価格は、258,500円(税込)

【まとめ】 華やぎと落ち着きを兼備する“和の美”を体現

本モデルを目にした時の最初の印象は、「艶(あで)やかでシック」というものでした。「艶やか」と「シック」はまったく相反する形容なのですけれど、それでもなお、その表現がピッタリに思えたのです。

しかし、考えてみれば、重箱や硯箱(すずりばこ)、椀、盆などに施されている伝統的な蒔絵装飾からして、「艶やかでシック」だと思うのです。金色や銀色で装飾されながらも、たとえば西洋バロック装飾に見られるような絢爛豪華からはほど遠く、より繊細であり、静的、かつ抑制的なのです。そんな艶やかでありながらも控えめな点は、やはり日本人の美意識に根差すものなのかもしれません。

その蒔絵のエッセンスと技術をもって装飾された「オシアナス マンタ OCW-S5000ME」は、蒔絵の漆器と同様の、控えめなグラマラスさを身にまとっており、ある種の「和の美」を体現しています。巷には、華(はな)やぎある時計もシックな時計も数多あるわけですが、では「艶やかでシックな時計は?」となると、それはレアな存在なのです。だからこそ、本モデルも、その希少性において価値の高いものであると言えるのではないでしょうか。

●写真/篠田麦也(篠田写真事務所)

【SPEC】
カシオ計算機「オシアナス マンタ OCW-S5000ME」
●駆動方式:クォーツ
●電源:ソーラー充電システム「タフソーラー」
●防水性能:10気圧
●ケース材質:チタン
●ベゼル材質:チタン(DLC処理)×サファイアガラス
●ガラス:サファイアガラス(両面反射防止コーティング)
●ケース径:42.3mm
●ケース厚:9.3mm
●バンド素材:チタン
●重量:約87g
●主な機能:「タフソーラー」、バッテリーインジケーター表示、パワーセービング、世界6局標準電波受信による時刻自動修正マルチバンド6、約300都市対応ワールドタイム設定、最新のタイムゾーン&サマータイム情報自動反映、フルオートカレンダー、ストップウォッチ、「ネオブライト」など
●モバイルリンク機能:Bluetooth通信による機能連動
●対応アプリ:「OCEANUS Connected」
●生産数:世界限定1,500本

山田純貴

山田純貴

東京生まれ。幼少期からの雑誌好きが高じ、雑誌編集者としてキャリアをスタート。以後は編集&ライターとしてウェブや月刊誌にて、主に時計、靴、鞄、革小物などのオトコがコダワリを持てるアイテムに関する情報発信に勤しむ。

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