「休眠預金」という言葉を知っていますか?
2018年1月に「休眠預金等活用法」が施行され、2009年1月1日以降、10年間以上取引のない銀行預金などは「休眠預金」とみなされ、民間公益活動に活用されることになりました。そして、いよいよ今年2019年から「休眠預金」となる口座が発生することになります。
長い間使っていない銀行口座はありませんか?
これを読んでドキッとされた方、ご安心を。残高が10,000円以上の場合には事前に通知されますし、休眠預金となったあとも引き続き金融機関で引き出すことができるので、必要以上に恐れることはありません。(※詳しくは下記のリンクをご覧ください)
しかし、まったく使っていない銀行口座をたくさん持っているのは、なんとなく気分が落ち着かないもの。「お金の流れ」的にもよくなさそうな気がします。これを機に、銀行口座をすっきり整理し、賢い使い方を考えてみてはいかがでしょうか?
※休眠預金等活用法 Q&A(金融庁)https://www.fsa.go.jp/policy/kyuminyokin/kyuminyokinQA.pdf
とはいえ、いざ銀行口座を整理しようと思っても、「超低金利時代だから、どの銀行に預けても同じ……」「次々に新しい銀行ができてよくわからない……」など、銀行口座の違いや特徴も、意外とわかりにくいですよね。
そこで今回は、FPの坂本綾子さんに「銀行口座の賢い使い分け」をテーマにお話をうかがいました。コツをつかめば、使いやすく整理できるようです。
教えてくれた人
坂本綾子さん
日本ファイナンシャル・プランナーズ協会認定CFP。フリーランスの記者として女性誌、マネー誌にて、マネーに関する記事を執筆。取材した人数は1,000人以上。ファイナンシャルプランナーの資格を取得し、坂本綾子事務所を設立。20年以上の取材経験を生かして、誰もがお金とのよりよい関係を築くための提案と情報提供に取り組んでいる。『節約・貯蓄・投資の前に 今さら聞けないお金の超基本』(朝日新聞出版)など著書も多数。
――「休眠預金等活用法」をきっかけに、使っていない銀行口座をすっきり整理したいという人は少なくないと思います。筆者もこれまで、あまり深く考えずに銀行口座を作ってきたひとりで、うまく使えている自信がありません。ちなみに保有している銀行口座は「三井住友銀行」「みずほ銀行」「ゆうちょ銀行」の3つです。この持ち方はいかがでしょうか?
坂本さん:「銀行口座は多すぎると管理しきれなくなるので3つまでに抑えるのがいいでしょう。その意味で『数』は問題なさそうです。問題はその『種類』です。
ひと口に銀行といってもさまざまな種類があり、それぞれの特徴を考えて口座を使い分けるのが賢い持ち方と言えます。まずは、下記をご覧ください」
(1)都市銀行
【例】みずほ銀行、三菱UFJ銀行、三井住友銀行、りそな銀行など
【特徴】都市部を中心に、全国に支店がある。幅広い銀行サービスを提供
【向いている人、利用法】都市部に住む会社員。給与振込銀行として
【取扱商品】預金、ローン、投資信託、保険、公共料金の引き落としなど
(2)地方銀行
【例】横浜銀行、千葉銀行、福岡銀行、常陽銀行など
【特徴】県庁所在地などに本店、周辺に支店がある地域密着型
【向いている人、利用法】地方都市に住む会社員・個人事業主。給与振込銀行として
【取扱商品】預金、ローン、投資信託、保険、公共料金の引き落としなど
(3)ゆうちょ銀行
【特徴】全国展開。郵便局もゆうちょ銀行の窓口として利用できる
【向いている人、利用法】会社員、個人事業主、主婦など立場にかかわらず便利に使える
【取扱商品】貯金を中心に、個人向け国債、投資信託など
(4)ネット銀行(インターネット専業銀行)
【例】住信SBIネット銀行、ソニー銀行、じぶん銀行、大和ネクスト銀行など
【特徴】原則として店舗はなくインターネットで取引する。通帳は発行されない。手数料が安い
【向いている人、利用法】PCやスマホを使ったネット利用に抵抗のない人。住まいの場所を問わない。時間にとらわれない
【取扱商品】金利の高いネット定期、外貨預金、投資信託、住宅ローンなど
(5)流通系の銀行
【例】イオン銀行、セブン銀行、ローソン銀行など
【特徴】大手のスーパーやコンビニなどが参入。グループの施設などに店舗を設置、またはATMを設置するなどして展開。独自の電子マネーが使える
【向いている人、利用法】プリペイド式電子マネーでポイントを貯めることも可能なので、店舗やコンビニなどをよく利用する人
【取扱商品】預金のほか、銀行により、投資信託、住宅ローン、海外送金など
(6)信用金庫・信用組合
【例】城南信用金庫、埼玉県信用金庫、近畿産業信用組合、長野県信用組合など
【特徴】厳密には銀行ではないが銀行と同様に利用できる。営業区域内に住む人が対象
【向いている人、利用法】中小企業の会社員、個人事業主。ローン等の相談にのってもらえやすい
【取扱商品】預金、ローンなど。景品付きや金利上乗せの預金を扱うところもある
※上記【銀行の種類をおさらい】は、坂本さんの著書「今さら聞けないお金の超基本」を参考に作成。
銀行をうまく使い分けるには……?
――あらためて見ると、さまざまな銀行があり、特徴も違うのですね。これらをどのように使い分ければいいのでしょうか?
坂本さん:「自分に合った口座を下記の2つの用途で使い分けることから考えてみてください。
・“ふだん使い用”のメイン口座
・ “増やす用”のサブ口座
それぞれの口座に適した銀行がありますので、すでに持っている口座を転用したり、足りないものを新規契約したりしてメインとサブの口座を用意し、使わない口座は解約して整理してみてはいかがでしょうか?」
坂本さん:「まずメイン口座から説明しましょう。メイン口座の役割は『ふだん使い用』です。お金の流れを記録する家計簿のような存在にするといいでしょう。
・給与の振込(個人事業主なら報酬の振込)
・公共料金の引き落とし
・クレジットカード代金の引き落とし
など、基本的に生活のすべてをその口座で完結させるのがおすすめです。これで自分のお金の流れをひと目で管理することができます。
また、銀行間でお金を動かすと手数料がかかるケースが多く、手間もかかりますので、メイン口座で完結するほうが節約にもつながります。
加えて、『自動積立定期預金』などの貯める機能を一部持たせるのもいいでしょう(『貯める機能』については下記のサブ口座の項で解説)」
――メイン口座はどの銀行に開くのがいいのですか?
坂本さん:「メイン口座に適しているのは、
・(1)都市銀行
・(2)地方銀行
・(3)ゆうちょ銀行
・(5)流通系の銀行
になります。
・(6)信用金庫・信用組合(以下、信金・信組)
をメインにするのがいい人もいますが、これはあとで説明します。
会社員の人なら給与の振込先として、勤務先から金融機関を指定される場合もあると思います。また、指定されていない場合でも長く使っている給与振り込みの口座を持っていると思いますので、それをメイン口座とすればいいでしょう」
――うまい使い方のコツはありますか?
坂本さん:「各銀行には会員優待サービスがありますので、うまく活用したいポイントです。たとえば、佐野さんが口座を持っているみずほ銀行には『みずほマイレージクラブ』があります。ランクに応じてみずほ銀行のATMの時間外手数料が無料になりますし、コンビニATMの手数料も月4回まで無料。出金や振り込みの回数が多い人は、これだけでも利便性が高いと思います。
肝心なのは、メインバンクをコロコロ変えず、じっくりと付き合うことです。みずほマイレージクラブの場合、上記の特典を受けるには、
・給与の受け取り口座として使用する(通帳の取引内容欄に『給与』『賞与』と記載される)
などの取引条件を満たす必要があります。このほか、
・一定額を預け入れする
・クレジットカードの引き落とし口座として使う
など、特典を受けられる条件は各銀行によってさまざまなものがあります。共通するのは、銀行にとって一定以上の取引が見込める客であること。特典を受けられるような”深い付き合い”こそ、メイン口座にはふさわしいのです。
住宅ローンの借入を考えている人は、審査で有利に働く場合もありますので、メイン口座との付き合いは大切にしていただきたいです」
――メイン口座を人間関係に例えるなら、家族、親友のような存在といったところでしょうか。じっくり、深く付き合うほど、人生が豊かになるイメージを持つといいかもしれませんね。
メイン口座のまとめ
・給与振り込みなどの収入。クレジットや公共払いなどの支出をメイン口座で一元管理する。
・じっくり付き合うことで、会員優待などのメリットを享受する。
・住宅ローンなどの審査が有利になることも。
【参考記事】「ATMや振込の手数料が無料」など4大銀行の優遇サービスを受ける条件とは?
メイン口座は深く付き合うべき”家族”のような存在
――続いてサブ口座について教えてください。
坂本さん:「サブ口座は、増やす用の口座です。適した口座としては、
・(2)地方銀行(ネット支店)
・(4)ネット銀行(インターネット専業銀行)
――メイン口座からサブ口座へ、どのタイミングで移すのですか?
坂本さん:「毎月メイン口座からサブ口座へ、貯金したい額を移すのももちろんいいのですが、それでは少し面倒と感じる人もいるでしょう。そこで、メイン口座のところで少し触れましたが、メイン口座に一部貯める機能を持たせ、一定額に達したタイミングでサブ口座に移すことをおすすめします。
具体的には、メイン口座で貯金したい額を毎月定期預金に積み立てておくといいですね。目安として、100万円以上貯まったタイミングで、金利の高いサブ口座に移すのが王道です。”積み上がったら口座を移す”というお金の動きをイメージしていただければ」
――サブ口座の選び方に、金利以外のコツはありますか?
坂本さん:「メイン口座との相性は判断基準のひとつになります。たとえば、じぶん銀行はKDDIと三菱UFJ銀行が共同出資して設立したインターネット銀行です。auユーザー限定でポイントが貯まりやすく、また、住宅ローンの金利が下がるなどのサービスを実施しています。歴史の浅いネット銀行は、親会社を調べることで、相性のよさが見えてくることがあります。
また、楽天市場を使うことが多いユーザーなら、楽天ポイントが付く楽天銀行が選択肢に入ってくるでしょうし、ヤフオクのヘビーユーザーなら、ジャパンネット銀行の利便性が高いでしょう。このように、サブ口座は、自分にとってメリットがどれだけあるかを、金利やポイントなどを見ながら判断してください。
銀行のサービスは時々変わります。サブ口座の目的は“増やす”なので、いいサービス、お得なキャンペーン、自分へのメリットがある銀行がほかに出てきたら、気軽に乗り換えを検討してください」
――なるほど。じっくり付き合うべきのメイン口座とは対照的に、サブ口座はメリットを追うのですね。メイン口座で積み立てている期間に、お得なサブ口座を探しておくのがいいかもしれませんね。
サブ口座のまとめ
・ネット銀行や地方銀行で、金利のよい口座を選ぶ。
・メイン口座との相性のよさもチェック。
・ほかによい口座があれば乗り換えるのもOK。
サブ口座は金利や使い勝手で気軽に変えてOK
――「信金・信組」についても教えてください。これらは厳密には銀行ではありませんが、街中でよく目にしますし、同じようにお金を預けるなどの機能があります。使い勝手はいかがでしょうか?
坂本さん:「借りる人の属性によって、信金・信組がお得になるケースがあります。給与振り込みのない人、つまり自営業の人にとっては、地元の信金は強い味方になりえます。
たとえば、都銀や地銀よりも、融資や住宅ローンを受けやすくなる人も多いでしょう。ただし、仕事の収入全部を信金に入れ、完全にメイン口座として使うのが前提になります。預金者の経済状況をリアルに把握し、その数字をもとに融資やローンの判断をするからです。ある意味で、家族ぐるみで付き合うのが信金・信組の特徴と言えるでしょう。
また最近は減りつつありますが、“訪問集金”などのサービスがあるのも特徴です。前述のようにメイン口座で定期積立貯金をする場合、信金・信組の場合、担当者がわざわざ集金にきてくれることがあるんです。このようなきめ細やかなサービスはほかの銀行にはないメリットと言えるでしょう」
――会社員が信金・信組を使うメリットはありますか?
坂本さん:「最近は、副業を認める会社も増えてきましたよね。法人を立ち上げているサラリーマンはメイン口座の選択肢のひとつに入れてもいいかもしれません。
また、意外に知られていないのですが、信用金庫なら『しんきんゼロネットサービス』。信用組合なら『しんくみお得ねっと』という、全国各地のATMを無料で使えるサービスがそれぞれあるんです」
――地域限定で小規模なイメージを持っていました! それは便利ですね。
坂本さん:「ひとつずつの営業エリアは小さくても、全国的なネットワークが強く、お互いに助け合っているんですね。
信金・信組はユニークな金融商品も特徴です。たとえば城南信金の“懸賞金付き定期預金”は有名になりましたよね。今後は、全国共通のユニークな商品が出てくる可能性もありますので、チェックしておくといいかもしれません」
信金・信組のまとめ
・自営業者の場合、銀行よりもよいサービスを受けられる可能性がある。
・提携している信金間・信組間ではATMが無料で使える。
・銀行にはないユニークな金融商品がある。
自分に合った銀行口座を選びましょう
――最後に、これまでうかがったお話を私のケースに当てはめて考えてみたいと思います。
坂本さん:「佐野さんの場合、『三井住友銀行』『みずほ銀行』『ゆうちょ銀行』をお持ちでしたね。これらは特徴が似ているので、メイン口座として、どれかひとつに集約するのがいいでしょう。
もし長く使っていなくて、休眠預金になりそうな口座があれば、残高を調べたうえで解約することもおすすめします。
次に、メイン口座と相性がよく、金利のいいネット銀行を選び、サブ口座を開きましょう。もしメイン口座が『三井住友銀行』の場合、『ソニー銀行』 、『ジャパンネット銀行』の口座なら、三井住友銀行のATMが使えて便利です。
また、この先も現在お住まいの地域での活動を深め、将来的な法人化や不動産取得などをお考えでしたら、地元の信金・信組をメイン口座にすることも選択肢に入ってくるでしょう。
いずれにせよ、銀行口座を単なるお金の預け入れ機関としてみるのではなく、お金の通り道として認識するだけでも、口座の使い方が変わってくると思います。「休眠預金等活用法」を機に、ぜひ銀行口座への意識から変えていってください」