子どもの学費や、急な病気・ケガでまとまったお金が必要になったけど、貯金では対応できない……。
こうした場合、一時的にお金を借りる方法として、銀行や消費者金融のカードローン、クレジットカードのキャッシングなどが候補になります。もうひとつ、貯蓄性のある生命保険に加入していれば、一定の範囲内まで保険会社からお金を借りられる制度があるのをご存じでしょうか。これを「契約者貸付制度」と言います。
参考:「急な出費で家計がピンチなときに。カードローンを安全に使うための4つのポイント」
「契約者貸付制度」は金利などの面で、カードローンやキャッシングと比べて有利な傾向があります。「今の生命保険を解約したくないけれど、一時的にお金が必要」といった場合、選択肢のひとつになるでしょう。そのいっぽうで、返済が滞ると予定していた保障が受けられなくなったり、最終的に保険の契約が失効したりするケースもあります。
今回は「契約者貸付制度」のメリットと注意点を紹介します。
貯蓄性のある生命保険では、「解約返戻金」と言って、保険契約が解除されたときに、契約者に払い戻されるお金があります。払い込んだ保険料のすべてが返ってくるとは限りませんが、契約後、年数がたつほど、返戻率は高くなることが一般的です。
「契約者貸付制度」を利用できるのは、解約返戻金のある保険に加入している場合に限られます。解約返戻金のある商品としては、終身保険、養老保険、学資保険、個人年金保険などがあげられます。かけ捨て型の医療保険やガン保険などにはありません。「契約者貸付制度」を利用する際には、約款やコールセンターで、加入している保険が利用可能かどうかを確認しましょう。
「契約者貸付制度」は、解約返戻金の一定の範囲内で保険会社からお金を借りることができます。上限額は、保険会社や契約している保険によって異なりますが、解約返戻金の7〜9割程度とされています。上限額の範囲内であれば、何度でも借り入れが可能で、利用目的も問われず、保証人も不要です。
「契約者貸付制度」で適用される金利は、保険会社や保険商品ごとに定められています。2019年6月時点で、低い保険会社(商品)では年利2%程度、高い保険会社(商品)で年利8%程度となっています。また、後ほど説明しますが、同様の性質の商品でも契約した時期によって適用金利が変わってきます。
申込方法は保険会社の窓口、コールセンター、Webサイト、スマートフォンアプリなど、保険会社ごとにいくつかの方法が用意されています。郵送による手続きの場合は申込書が到着後、必要事項を記入し返送します。
借り入れまでの日数は、インターネット申込などの場合、当日〜2営業日後、郵送の場合は1週間程度で指定の口座に振り込まれます。また保険会社によっては専用のカードが用意され、現金を銀行ATMなどで引き出すこともできます。
「契約者貸付制度」はほかのローンのように、一定額を毎月返済する、というようには決められていません。保険の契約期間が終了するときまでに返済を完了していればよいため、「元金と利息を希望日に一括で返済」「定期的に元金と利息を返済する」「当面の間は、利息分のみ返済していく」「一部返済を不定期に分けて行う」といった返済方法を選ぶことができます。返済手段も、インターネット決済やATM、指定口座への振り込み、保険会社の窓口で支払いなどがあります。
「契約者貸付制度」について、その特徴とともに、4つのメリットを紹介します。
保険を解約すれば、その時点での解約返戻金が全額支払われますが、本来カバーしておきたかったリスクが発生したときに、保障を受けられなくなります。また、一般に生命保険は契約時の年齢や持病で保険料が決まるため、解約した後に再度契約すると、不利な条件になる可能性があります。「契約者貸付制度」を利用すれば、今の保障を継続したままお金を借りられます。
一般的に、現時点ではカードローンの金利が3〜18%前後、クレジットカードのキャッシングの金利が15〜18%前後となっているのに比べると、「契約者貸付制度」の金利は低い傾向にあります。ある大手生命保険会社の場合、3〜5.75%(契約した時期により異なる)となっています。
ただし、カードローンやキャッシングは単利で計算しますが、「契約者貸付制度」は複利で計算することが一般的です。仮に3%の金利で100万円を借りた場合、まったく返済せずに1年間が経過すると、金利分が元金に組み込まれ、次年度は103万円に対して3%の金利が発生します。返済がまったくされないと、返済額が大きくふくらんでいく点は十分に注意しておくべきでしょう。
カードローンを利用する際、その人の年収をはじめ、今の借り入れ状況や過去の延滞の有無などについて、信用情報機関に登録された情報を基に「審査」が行われます。解約返戻金の範囲内で貸付を行う「契約者貸付制度」では、本人確認はありますが、「審査」はありません。また、「契約者貸付制度」の利用が信用情報機関に登録されることはなく、ほかのローンの借り入れに影響を与えることもありません。
すでに説明しましたが、一定額を毎月決められた日に返済する必要がない「契約者貸付制度」は、返済方法の手段が幅広い借り入れの仕方と言えるでしょう。元金と利息を一括で、定期的に分割で、あるいは、お金に余裕ができたときにその都度不定期で、といったように、家計の状況にあわせて返済することができます。督促を受けることもありません。なお、手続きに関して通知の書類が届く会社もありますが、郵送物ではなく、メールで完了する会社もあります。
上記では、メリットについて説明しましたが、「契約者貸付制度」について注意しておきたい4つのポイントを説明します。
「契約者貸付制度」は解約返戻金のある保険に加入していないと、利用できません。また、対象の保険に加入していたとしても、契約当初は払い済みの保険料も少なく、解約返戻金も少額であるため、そもそも「契約者貸付制度」を利用できなかったり、少額の借り入れしかできなかったりする可能性があることを覚えておきましょう。
上記で「契約者貸付制度」のメリットとして、「返済方法の手段が幅広い」点をあげました。しかしこれが裏目に出て、督促もないこともあり、ついつい返済が後回しになるケースも考えられます。しかも借入期間中は、金利が「複利」でかかってきます。
元金と利息が解約返戻金を超えた後、保険会社が通知した金額を指定の期日までに返済しなかった場合、保険契約は失効します。「契約者貸付制度」は返済手段の選択肢が幅広い分、一層の自己管理が必要になってきます。
「契約者貸付制度」を利用してお金を借りている間に、保険金支払いの事由が発生したり、満期を迎えたりすると、保険金や満期返戻金、学資保険のお祝い金などから、元利金(元金と利息)が差し引かれます。子どもの入学金などを、学資保険などで準備していた場合、十分な額を受け取れない可能性があります。こうした意味でも、早期返済するのがよりよい選択と言えるでしょう。
バブル期や1990年代中ごろまでに契約した保険の中には、予定利率が5%を超える商品がありました。こうした保険で「契約者貸付制度」を利用したときほど、適用金利が高くなる傾向があります。
ある大手生命保険会社の場合、2014年4月2日以降に契約した保険の場合、金利は3%。契約日が古くなるほど高くなり、20年以上前の1994年4月1日以前の契約だと5.75%に設定されています。利用する際は、自分にどの金利が適用されるか、しっかりとチェックしましょう。
これまで紹介した内容を踏まえ、「契約者貸付」「カードローン」「クレジットカードのキャッシング」の違いを、6つの視点でまとめました。
【担保】
・契約者貸付:不要
・カードローン:原則不要
・キャッシング:原則不要
【審査や信用情報機関への登録の有無】
・契約者貸付:審査なし。登録されない
・カードローン:審査あり。登録される
・キャッシング:審査あり。登録される
【金利(年利)】
・契約者貸付:3%程度〜8%程度(保険会社や契約時期で異なる)
・カードローン:3%程度〜18%程度(条件次第)
・キャッシング:15%程度〜18%程度(条件次第)
【融資の限度額】
・契約者貸付:契約した生命保険の解約返戻金の7〜9割程度
・カードローン:10万〜1000万円程度(条件次第)
・キャッシング:10万〜100万円程度(条件次第)
【申込方法と融資のスピード】
・契約者貸付:ネットや郵送、窓口など。ネットで2日程度、郵送で1週間程度
・カードローン:ネットで完結するサービスも多い。即日融資も可能(条件次第)
・キャッシング:ネットで完結するサービスも多い。即日融資も可能(条件次第)
【返済が遅れた場合】
・契約者貸付:督促なし。元金と利息が解約返戻金を超えた後も返済がされないと、保険が失効の可能性
・カードローン:督促あり。遅延損害金が発生
・キャッシング:督促あり。遅延損害金が発生
解約返戻金がある生命保険を使ってお金を借りられる「契約者貸付」について紹介しました。信用情報機関への登録もなく、金利もカードローンなどと比べると低い傾向になるのはメリットになります。ただ、返済期限が毎月設けられていないため、自己管理がより重要になってくるお金の借り方と言えるでしょう。
「契約者貸付」で借りたお金の返済が滞り、保険料を払い続けてきた生命保険を失効させては元も子もありません。
「万が一に備えて、このまま保険には入っておきたい(保険を解約したくない)」
「しかし、今は一時的にお金が必要」
「自分が加入している保険では、カードローンなどよりも有利な条件で借りられる」
といった場合に利用し、あくまで一時的な借り入れと認識したうえで、早期返済を目指していくのがよいでしょう。
オフィスクイック代表。1990年より編集・ライターとして出版業界に携わる。リクルート、小学館、講談社ほか多数の出版社の各媒体にて、主に企業取材、企業人インタビューを手がける。1999年の金融ビッグバンを機に金融・保険を自身の専門分野として確立。ユーザーの視点からの、わかりやすい記事を多数執筆。