主にインターネット上でサービスを提供する「ネット銀行」。既存の銀行と比べ、店舗運営のコストや人件費を抑えることができるため、ATMの利用手数料や振込手数料が安く設定されている傾向があります。本記事では、金融機関コード上で「インターネット専業銀行」に区分される「ソニー銀行」「PayPay銀行」「auじぶん銀行」「住信SBIネット銀行」「イオン銀行」「楽天銀行」の6行と、「支店数が最小限」「主にコンビニATMを利用」「従来型の銀行と比べて手数料や金利が有利」という、インターネット専業銀行と似た特徴を持つ「東京スター銀行」「SBI新生銀行」 の、合計8つの銀行を賢く使う方法を紹介します。
本記事の前編では、各ネット銀行を申し込み時の状態で使った際のATMと振り込みの手数料を比較しました(下記「関連記事」参照)。今回の後編は「手数料無料の回数が増える」や「普通預金の金利が上がる」など、ネット銀行をさらにおトクに使う方法がテーマです(最終更新日:2023年2月5日)。
メガバンクをはじめとする各銀行には、預金残高や住宅ローンの有無など、ユーザーの利用状況によってユーザーをランク(ステージ)分けし、ランクによって優遇サービスを提供する銀行があります。本記事ではこれを、「優遇制度」と総称しています。
ネット銀行も例外ではなく、各行が優遇制度を設定しています。一般的にネット銀行は、既存の銀行と比べて各種手数料が安く設定される傾向がありますが、こうした優遇制度を活用することでさらにおトクに使うことができます。ネット銀行の優遇制度の中身は各行で異なりますが、主にATMの利用手数料や他行宛の振込手数料が「無料で一定回数利用できるようになる」という内容が一般的です。また、銀行によっては、普通預金の金利の優遇や、グループ内の共通ポイントの付与率が上がるものもあります。
本記事では、各ネット銀行の優遇制度(あるいはそれに準ずるもの)の内容と、ランク(ステージとも)アップの条件をまとめてあります。また参考情報として、各ネット銀行の申し込み時点での各種手数料の情報も併記しています(こちらの情報の詳細は前編をご確認ください)。ぜひ、優遇制度で得られるメリットと比較して、そのおトクさをチェックしてみてください。
ソニー銀行の申し込み時の状態(=優遇サービス「Club S」の「ステージなし」)での各種手数料
ソニー銀行には、利用状況に応じてステージ分けされる「Club S」(クラブエス)という優遇制度があります。Club Sには、「シルバー」「ゴールド」「プラチナ」の3つのステージがあり、下記の画像のとおり、ステージによって各種手数料が無料になる回数が異なります。
ソニー銀行「Club S」の優遇内容。画像の中にある「Sony Bank WALLET」はソニー銀行のVisaデビットカードのこと。ソニー銀行のキャッシュカードには、大きく分けて「通常のキャッシュカード」と「Sony Bank WALLET付きのキャッシュカード」の2つがあり、「他行宛振込手数料」については、Sony Bank WALLET付きのキャッシュカードのほうが無料になる回数が多く設定されています。画像はソニー銀行公式サイトより
ソニー銀行は、「ステージなし」の状態でも、「振込手数料月1回無料」(Sony Bank WALLET付きなら月2回)、「ATMの利用手数料月4回無料」と、無料で使える範囲が広く設定されています。それもあってか、Club Sでステージを上げる条件は、他行と比べてやや厳しめに設定されています。
たとえば、もっともステージアップの条件が低い「シルバー」でも、「月末残高300万円以上」、「外貨預金の積立購入毎月3万円以上」、「投資信託の積み立てプラン毎月3万円以上」のいずれかを達成する必要があります。なお、ステージの判定は毎月末日に行われ、翌々月の1か月間、優遇が受けられます。
東京スター銀行の申し込み時の状態での各種手数料
東京スター銀行には、ほかのネット銀行のような優遇制度はありません。ただし、コンビニATMや大手金融機関ATMを「月8回実質無料」(ただし預け入れは一部ATMに限定)で利用できるほか、他行宛ての振り込みが「月3回実質無料」で使えるなど、申し込み時の状態でも十分おトクに使えるネット銀行と言えます。
同行をさらにおトクに使う方法としては、給与の振込口座として使う方法があります。この場合、優遇金利が適用され、普通預金の金利が通常の0.001%から0.1%へと100倍に上がります。
画像は東京スター銀行公式サイトより
SBI新生銀行の申し込み時の状態(=優遇制度「ステップアッププログラム」の「スタンダード」)での各種手数料
2023年1月、SBIホールディングスによる旧新生銀行の買収により、社名がSBI新生銀行に変更されました。それにともない、2023年2月6日より、それまで1回110円かかっていた提携コンビニATMでの出金手数料を無料にするなど(※)、新規ユーザー獲得に向けて積極的な動きを見せています。
※2023年3月31日までは回数無制限で無料。同4月1日からは月5回無料。
SBI新生銀行には「ステップアッププログラム」という優遇制度があります。「スタンダード」「シルバー」「ゴールド」「プラチナ」「ダイヤモンド」の5つのステージに応じて、ATMの利用手数料や他行宛振込手数料の無料回数が増えるほか、同行が発行するプリペイドカードのキャッシュバックなどの優遇サービスも適用されます。
SBI新生銀行「ステップアッププログラム」の特典内容。画像はSBI新生銀行公式サイトより
SBI新生銀行の口座を新規に開設すると、「プラチナステージ」が6か月間自動で適用されます。口座開設7か月目のステージについては、口座開設から5か月後までの取引状況によって判定され、それが口座開設年の翌々年1月まで適用されます。その後は1〜12月末までの取引状況によって年に1回ステージが判定され、翌年2月〜翌々年1月までそれが適用となります。
なお、ステージアップ条件の中には、「給与振込口座として利用する」のように、条件達成の翌々月から前倒しでステージアップが適用され、通常どおり翌々年1月まで適用されるものもありますので、これらを狙って条件達成を目指してもいいかもしれません(下記の表の*印の条件参照)。
PayPay銀行の申し込み時の状態での各種手数料
PayPay銀行には、前月の預金平均残高に応じて、ATMの利用手数料や振込手数料が優遇される制度があります(優遇内容は下記の表参照)。ただし、この優遇を受けられる条件は、「前月の預金平均残高が3,000万円以上(円普通預金、円定期預金)」とハードルが高く設定されています。こうしたことから、「利用状況によっておトクになる」という本記事のコンセプトに照らし合わせた場合、PayPay銀行は他行と比べてやや見劣りする状況となっています。
前月の平均預金残高3,000万円以上で受けられるPayPay銀行の手数料優遇制度(個人向け)。画像はPayPay銀行公式サイトより
優遇制度とは若干趣が変わるものの、PayPay銀行独自のサービスとして、決済サービス「PayPay」の残高(※)を無料で現金として出金することができます。PayPay銀行以外の金融機関の口座の場合、出金1回につき100円の手数料がかかりますので、「PayPay」をよく使う人にとってはメリットと言えそうです。
※PayPayマネー=銀行や「ヤフオク!」および「PayPayフリマ」の売上金からチャージした残高。
auじぶん銀行の申し込み時の状態での各種手数料
auじぶん銀行の優遇制度「じぶんプラス」は2022年4月にリニューアルされ、それまでの5ステージ制から、「レギュラー」「シルバー」「ゴールド」「プレミアム」の4ステージに変わりました。ステージごとにATMの利用手数料や他行宛振込手数料の無料回数が設定されている点はリニューアル前と同じですが、新たに、ステージによって「Pontaポイントの還元倍率」が上がる特典が追加されています。
じぶんプラスの手数料の特典内容。画像はいずれもauじぶん銀行公式サイトより
auじぶん銀行は、下記の画像のように、取り引きに応じてauグループの共通ポイントである「Pontaポイント」が貯まります。このポイント還元の倍率はauじぶんプラスのステージによって異なり、「レギュラー」は1倍、「シルバー」は5倍、「ゴールド」は10倍、「プレミアム」は15倍となります。
auじぶん銀行Pontaポイントが貯まる取引例。画像はauじぶん銀行公式サイトより
じぶんプラスのステージは、auじぶん銀行の取り引きで貯まるスタンプの数によって判定されます。判定期間は毎月21日~翌20日の間です。また、「総資産残高1,000万円以上でプレミアムステージに判定」など、スタンプ数に関わらずステージがアップする条件もあります。
住信SBIネット銀行の申し込み時の状態(=スマートプログラムのランク1)での各種手数料
住信SBIネット銀行の優遇制度「スマートプログラム」は、利用状況によってランク1〜4に分かれ、ランクに応じてATMや他行宛振込手数料の無料回数が設定されています。ランクは、前々月の利用状況から自動的に判定される仕組みです。ランクごとの手数料の無料回数は下記のとおりです。
画像は住信SBI銀行の公式サイトより
「スマートプログラム」の判定基準は下記のとおりです。入会時は「ランク1」で、同行の認証システムである「スマート認証NEO」を登録すると「ランク2」に。その後、「ランク3」「ランク4」にランクアップするには、同行での取引条件が関わってきます。
イオン銀行の申し込み時の状態での各種手数料
イオン銀行の優遇制度「イオン銀行Myステージ」は、取り引きに応じてイオン銀行スコア(点数)が貯まり、貯まったスコアによってステージが決定する仕組みです。ステージによって「他行ATM入出金手数料無料」(1〜5回)、「他行宛振込手数料無料」(0〜5回)、「普通預金の金利アップ」(通常の普通預金金利0.001%の10〜100倍)の特典があります。
イオン銀行「イオン銀行Myステージ」の特典内容。画像はイオン銀行公式サイトより
イオン銀行スコアの配点は、取引内容によって異なります。たとえば、比較的一般的な取り引きとして「給与や年金の受け取り」で30点、「インターネットバンキングの登録」で30点が加算されます。
また、クレジットカードもスコアアップに役立ちます。イオンの公式クレジットカード「イオンカードセレクト」の契約で10点、また「イオンカードセレクトを直近1年間で100万円以上利用」など所定の条件を満たした人に発行される「イオンゴールドカードセレクト」を契約すると30点加算されます(イオンカードセレクト分のポイントと合算して計40点)。いずれも、契約中は継続してスコアが加算されます。さらに、イオンカードセレクト、イオンゴールドカードセレクトの利用金額に応じて10〜100点貯まるほか、イオン系の電子マネー「WAON」を使って買い物をすると、WAONの利用金額に応じて月10〜100点が貯まります。
仮に、「給与や年金の受け取り」(30点)、「インターネットバンキングの登録」(30点)、「イオンカードセレクトの契約」(10点)の状態で、「イオンカードセレクトで月4万円以上決済する」(30点)と、合計100点となり「ゴールドステージ」に届く計算です。なお、イオン銀行Myステージの判定は、利用月の翌月に行われ、特典が適用されるのは利用月の翌々月の1か月間になります(たとえば、5月の利用に応じて6月に判定。7月から特典が適用)。
楽天銀行の申し込み時の状態での各種手数料
楽天銀行には「ハッピープログラム」という優遇制度があり、ATMや振り込みにかかる手数料をひと月に数回無料にすることができます(下記一覧表参照)。特典を受けるにはあらかじめ楽天会員の情報と楽天銀行の口座情報を連携させたうえで、ハッピープログラムにエントリーする必要があります。ハッピープログラムの優遇内容は会員ステージで異なり、会員ステージは「毎月25日終了時点の預かり資産残高」、または「前月26日〜当月25日の対象商品・サービスの取引件数」で決定。条件をクリアしている高いほうのステージの優遇を翌月の1日から受けることができます。
楽天銀行「ハッピープログラム」の優遇内容と判定条件。画像は楽天銀行公式サイトより
楽天銀行のもうひとつのおトクな特徴が、対象の取り引きで楽天ポイントが貯まることです。対象となるのは「振り込みをする(受ける)」、「楽天カードの振替口座として使う」、「給与振込口座として使う」、「公共料金を支払う」などで、前出のハッピープログラムの判定条件とも重なります。また、ハッピープログラムのステージによってポイント還元率が1〜3倍に変化します。
また、楽天のほかのサービスとの連携で優遇されるサービスもあります。たとえば、楽天証券の口座と楽天銀行を連携させる「マネーブリッジ」という制度を利用すると、楽天銀行の普通預金の金利が5倍になります(通常0.02%→0.10%)。
楽天カードの引落口座に楽天銀行を指定した場合では、楽天市場での買い物で得られる楽天ポイントの還元率が1%上乗せになるほか(楽天カードでの決済が条件。2022年7月より還元率は0.5%に変更 )、楽天銀行の普通預金の金利が2倍になります(通常0.02%→0.04%。ただし、楽天証券との口座連携を併用している場合は、楽天証券分の優遇金利のみ適用されます)。
以上、ネット銀行をおトクに使う方法を紹介してきました。まとめとして、「給与振込口座」として使った場合と、「月末時点の預金残高」によって受けられる特典から、おトク感のあるネット銀行を考えてみたいと思います。
まず、「給与振込口座」として使った際に受けられる特典で比較してみます。この条件で、「申し込み時の状態」以上の特典を受けられるのは「東京スター銀行」「SBI新生銀行」「イオン銀行」「楽天銀行」の4つ。その内容は下記のとおりです。
条件や特典内容が異なるので単純な比較は難しいものの、「給与を受け取った後、用途別に他行の口座に振り込む」という使い方を想定した場合は、他行宛振込手数料が月3回無料になるSBI新生銀行や楽天銀行におトク感がありそうです。また、普通預金の金利にこだわる人であれば、通常金利の100倍になる東京スター銀行が魅力的でしょう。
次に、月末時点での預金残高(日本円)によって受けられる特典を比べてみます。各行で条件をそろえるために「30万円以上50万円未満」(一部10万円以上で特典が適用される銀行も含みます)、「50万円以上100万円未満」、「100万円以上」の3つのケースで比較します。
この条件で特典を受けられるのは、「SBI新生銀行」「auじぶん銀行」「楽天銀行」となります(新生銀行は年間の平均預金残高)。この中でおトク感があるのは「楽天銀行」です。比較的少額からステージアップの対象となり、50万円以上からは同行での取り引きで貯まる楽天ポイントの倍率も上がります。
ネット銀行にどんな特典を重視するかは人それぞれだと思います。大切なのは、利用スタイルに合わせてムリなく狙える特典を受けることでしょう。本記事および、ネット銀行を「申し込み時の状態」で比較した前編を、ネット銀行選びの参考にしていただけると幸いです。
また、本文の楽天銀行の項でも触れていますが、ネット銀行は銀行以外のサービスとの連携でおトクになるケースが少なくありません。今回紹介した8行のうち、「auじぶん銀行」「住信SBIネット銀行」「楽天銀行」については、下記の記事で証券会社の口座やクレジットカードと合わせて使うとおトクになるケースを解説しています。こちらも参考にしてください。
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