投資と聞くと、一般的には株やFX、あるいは、ビットコインなどの暗号資産が頭に浮かぶ人も多いかもしれません。しかし最近、ちょっと変わった投資対象が話題になっているのをご存じでしょうか。それが、「スニーカー」と「現代アート」です。どんな仕組みで、どんな楽しみ方ができるのか? サービスを提供する3つのプラットフォーム、「モノカブ」「STRAYM」「ANDART」への取材をもとにご紹介します。
「スニーカーが投資対象」と聞いてもピンとこない人もいるでしょう。しかし、1990年代に盛り上がった「スニーカーブーム」を体験している人なら、少しイメージが沸くかもしれません。当時、1995年発売のナイキ「AirMax95」に、かなりのプレミア価格が付いたことを覚えている人も多いと思います。履いている靴が路上で奪われる、通称「AirMax狩り」なども話題になりましたよね。
過熱的なブームが下火になった後も、一部のスニーカーはマニアの間では高値で取り引きされていたようです。それがここにきて、スニーカーから離れていた人々や、今までスニーカーを投資対象とは考えていなかった人々を巻き込み、市場が熱くなっているといいます。それをけん引するのが、売買プラットフォームアプリの「モノカブ」です。
モノカブは2018年5月からサービスを開始。創業者(現、代表取締役)の濱田航平さんは、もともと大のスニーカーファンで、自分でもよく購入しており、その経験がモノカブ創業につながったそうです。
「濱田は、売り手の希望価格によってモノの価値が一方的に決定されることに違和感を覚えていたそうです。また、ネットオークションのように値段が吊り上がるシステムによって、相場からかけ離れて価格が高騰してしまうこともユーザーフレンドリーではないと考えていました。そこで、濱田自身が証券会社出身だったこともあり、株式市場で用いられている『板寄せ』という手法を使うことで、適正な価格で取引ができる『モノの取引所』を目指し、モノカブの創業につながりました」(モノカブ広報、巣鷹さん。以下同)
※画像はモノカブ公式サイトより
「板寄せ」は、証券取引所で用いられている売買方法のひとつ。簡単に説明すると、「●●円で買いたい人」と、「××円で売りたい人」をマッチングさせる方法のことで、主に、寄り付き(取引開始時)や、引け(取引終了前)に、それまでに出ている売買注文を「すべて同時になされたもの」として、順次付け合わせて売買を成立させていきます。このように、株式市場では売り手と買い手の需給バランスにより、適正な価格で取引が成立するわけですが、モノカブは、この仕組みをスニーカーの取引に取り入れたのです。
「モノカブの各商品のページには、サービス開始から今までの相場情報がグラフで可視化されています。ユーザーは株価の変動を見るように、自分の所有するスニーカー、あるいは購入したいスニーカーの値動きを知ることができます。つまり『この価格が天井のはずだから今売ろう』とか『底値になったから購入しよう』という判断材料にできるのです」
※画像はモノカブ公式サイトより
では、実際に、どんなスニーカーに高値が付いているのでしょうか?(以下は、2021年2月8日時点の値段を前提に解説いただいています)
「有名ブランドや、有名人とのコラボモデルは、発売から時間が経過しても高い人気を保つ傾向があります。たとえば、ナイキが人気ブランドのDior(ディオール)とコラボした『Dior×Nike Air Jordan 1 High OG』は、2020年7月に26万2,000円で発売され、発売当初は150万円以上の価値で売買されたこともあります。現在は落ち着いてきましたが、それでも80〜100万円前後で活発に取引されています。このほか、ナイキをはじめとして、スニーカーブランドからは毎週のように新作が発表されていますが、最近の傾向として、アメリカの有名大学をモチーフにしたカラーリングや、過去の名作の復刻品などに高値が付くケースが多いですね」
※画像はモノカブ公式サイトより
取引額が高額になる商品も多いため、モノカブではスニーカーに精通したスタッフによる真贋鑑定にも注力。また、すべての取引がモノカブを経由する形となっており、「商品の不達」など、ユーザー間のトラブルを未然に回避する工夫も欠かさないといいます。
「もともとモノカブのメインのユーザーは20代前半から40代までの男性でしたが、2020年夏頃から、女性ユーザーも増加傾向にあります。スニーカーに続いて2020年10月にはストリートウェアの取り扱いも開始しました。今後も商品ジャンルの幅を広げ、将来的には全ての『モノ』が株式のように取引できる世界観を目指しています」
参考
モノカブ:https://monokabu.com/
購入方法は「クレジットカード」「代引き」「コンビニ支払い」などが利用可能。
続いては「現代アート」。現代アート作品には、ピンからキリまでさまざまな作品があるわけですが、知名度の高い作家の作品にはかなりの値が付くイメージがあり、筆者のような庶民にはとても手が届かないものという先入観があります。しかし、これらのオーナー権を保有できる2つのサービスが、今、注目されています。
最初に紹介するのが、2019年12月からサービスを開始した、アート作品の共同保有プラットフォームの「STRAYM(ストレイム)」です。アート作品の「オーナー権(オーナー枠数)」を最小100円という低額から購入できるサービスで、購入したオーナー権は作品の時価で売買し合うことも可能。さらに、オーナー権を100%保有することで、アート作品の現物を受け取ることもできます。会員登録は無料です。
「これまで、高額な値段で取引される現代アートを、『購入してみたい』『投資してみたい』と考えるのはひと握りの富裕層が中心層でした。しかし、それでは現代アートのマーケットは成長・拡大していきません。そして、『現代アーティストになりたい』『現代アートを生業にして生活したい』という『作り手』側も増えていきません。現代アートを気軽に購入出来るシステムを創り、より多くの人に現代アートを嗜んでもらいたいという思いから、このサービスを立ち上げました」(株式会社STRAYM CEO、長崎幹広さん。以下同)
※画像はSTRAYM公式サイトより
STRAYMが扱っている作品は、現代アートに疎い筆者でも耳にしたことのある著名な作者のものが少なくありません。たとえば、アメリカのポップアートの旗手として知られるアンディ・ウォーホルが1985年に発表した「The New Spirit Donald Duck」。作品価格は1,922万4,000円で、共同オーナー権として4万50枠が設定されています。つまり、ひと口あたり480円でこの作品の共同オーナーになれるというわけです(価格はいずれも2021年3月4日時点)。
このほか、現代アートの世界でもっとも注目されているひとりであるKAWS(カウズ)の「Untitled」の場合、ひと口あたり200円で共同オーナーに。同じく、ストリートに描かれる社会風刺的な作品で世界的に有名なBanksy(バンクシー)の「Rude Copper」であれば、185円で共同オーナーに、といった具合に、有名作品にもかかわらず、我々にも手の届く価格でオーナー権が提供されています(価格はいずれも2021年3月4日時点)。
※画像はSTRAYM公式サイトより
興味深いのは、これらの価格がユーザーのニーズによって変動している点です。前出のウォーホルの「The New Spirit Donald Duck」の場合、公開時の作品価格は400万5,000円で、ひと口あたり100円の価格が付いていました。つまり、現在では作品の価値が約5倍にまで上がっていることになります。
「アートは人の心を豊かにしてくれる力を持つものであるのと同時に、景気に左右されにくい”ディフェンシブな資産”という側面も持っています。アート作品を保有するということには夢があり、また価値のあることだと思います」
いざSTRAYMを利用してみようと考えたとき、どのようにその「良し悪し」を判断すればいいのでしょうか?
「一概に言うことは難しいのですが、傾向として、まず『作品のメッセージ性』があげられます。現代アートは作品に込められたメッセージ性が必要であり、極めて重要です。作品の文脈や構図を含め、主張したいことが明確であればあるほど、作品の訴求力が上がります。2つめが、『そのアーティストが誰に後押しされているか』という点です。誰がそのアーティストのコレクターで、誰がそのアーティストの応援や後押しをしているかも重要視されます。これまでは、美術評論家など権威ある方々のレビューやコメントが主でしたが、現在はSNSなどが浸透し、美術業界以外のインフルエンサーや一般の方のアートコレクションがきっかけで作品の価値が高まるという時代が訪れつつあると感じています。こういった点を、作品を見る際の参考にしていただければと思います」
STRAYMの各作品の紹介ページには、価格や枠数、小口の価格などのほかに、作品の説明や作者の経歴などの情報も充実しています。また、筆者が個人的に面白いと感じたのが、その作者に関するメディアでの露出情報が網羅されている点です。たとえば前述の「The New Spirit Donald Duck」の紹介ページには、ウォーホルの作品が高値で取引された際のニュースや、ウォーホル作品のモチーフとして「靴」が重要なアイテムになっていることを解説する記事などへのリンクが張られています(2021年3月4日時点)。これらの情報を継続的にチェックすることで、長崎さんがあげた「メッセージ性」や「誰に後押しされているか」など、その作品の「文脈」が見えてくるように感じます。
※画像はSTRAYM公式サイトより
「昨今、アーティストがファッションブランドとコラボするなど、現代アートがより身近になってきているように感じます。そして、アート作品に触れる人が増えてきたことで、アート自体の価値もより高まると言えると思います。私たちが扱う作品は、評価が安定したトップアーティストから、これから評価が上がっていく可能性の高い期待のアーティストまでさまざま。いずれも、STRAYMのキュレーターが精査したものばかりです。今後も、時代を見据えつつ、時代を先導するサービス、たとえばブロックチェーン技術の導入やアジアを筆頭としたグローバル化も含めたプラットフォームを創り、多くの方に現代アートの素晴らしさを伝えていければと考えています」
参考
STRAYM:https://straym.com/
オーナー権の購入は「銀行振込」が利用可能。「クレジットカード」も近日導入予定。
現代アートに関するもうひとつ注目のサービスが、2019年3月に日本で初めてサービスを開始した、現代アート作品のオーナー権プラットフォーム「ANDART(アンドアート)」です。現在会員数は約8,000名、取扱高も2億円を突破するなど、国内最大級のアートシェアプラットフォームとなっています。
「日本にはアートを鑑賞する人は多くいても、購入となると一気にハードルが上がります。また、人気作家の作品や資産性のある作品はすでに高額で、多くの一般層には手が出せません。憧れの作品に対して、『鑑賞以上のより強い接点を持てる新しいアートの楽しみ方』がないかと模索する中で生まれたのがANDARTです」(創業者で代表の松園詩織さん。以下同)
※画像はANDART公式サイトより
ANDARTは、厳選された人気の現代アートをメインに扱っています。現在は、草間彌生、奈良美智、バンクシー、バスキア、カウズ、ピカソなど、誰もが知るような有名作品が約20点。個人ではとても手が届かなったような作品ラインアップが売りになっています。ANDARTではこれらの作品のオーナー権を、1枠1万円で手にすることができます(全作品一律1枠1万円)。
「オーナー権を購入された方には、購入者限定で作品をリアルに鑑賞いただけるオーナー限定鑑賞イベントや、デジタル証明書の発行、オンライン上でのマイコレクション、アートに関する知識が身につくレポートなど、作品をさらに楽しんでいただける優待を用意しています」
※画像はANDART提供
株の優待が、保有する株数によって変化するのと同じく、ANDARTも、保有するオーナー権の枠数によって優待の内容が変動。たとえば、直近で販売され、すでに完売しているバンクシーの「BOMB LOVE」の場合、1枠保有している人には「オーナー名の掲載」「年に1回、アーティストの活動レポートのサマリー版を送付」「デジタル証明書の発行」などの優待があります。これが、3枠保有の場合は「オーナー限定優待イベントへの招待(抽選の可能性あり)」が追加され、10枠以上保有の場合には「オーナー限定優待イベントへの招待(VIP)」「年に1回、アーティストの活動レポート(全文)を送付」が追加されるといった具合に、保有数によって優待が豪華になる仕組みです。
サービス開始以来、数千万円を超える値段の作品のオーナー権の売り切れが相次ぐなど、松園さんはアート人気の高まりを感じています。
「コロナ禍による業界全体のオンライン化の流れとも相まって、自身のアイデンティティーとして『豊かさ』を求める、感度の高い若年層にまでアート人気が拡がっているように感じます。ANDARTのユーザーは、20〜40代の男性がメイン。これまでアートに興味はあるものの、その世界に踏み込む機会がなかったアート購入未経験者の方や、アートの資産性は理解していたものの、個人で購入するにはハードルの高さを感じていたアートファンの方々にご利用いただいています」
オーナ権が完売後、3月14日にオーナー間取引が解放されたバンクシーの「Jack and Jill (Police Kids)」
作品自体の値上がりも、現代アートの楽しみ方のひとつ。ANDARTでは、現在、「オーナー間取引機能 β版」がリリースされており、オーナー権の売買が、一部の作品で可能となっています。これには、カウズ、ロッカクアヤコ、奈良美智、名和晃平など、すでに完売してしまった作品のオーナー権も含まれており、値上がりが期待できるケースも少なくないそうです。今後も、人気が高く、数分での完売が続いているバンクシー作品(一部開始済み)などのオーナー権の売買も可能になっていく予定とのことです。
ANDARTでは、実際に売買せずとも、無料の会員登録をすることで、サイト上で触れられる作品情報が広がります。たとえば、各作品のオークションでの落札実績や最高落札価格作品などの詳しい市場情報もサイト内で見ることができます。STRAYMの項でも触れましたが、これらの情報に継続的に接していると、現代アートに疎い筆者でも作品の理解を深められていきそうな予感がします。
「ANDARTの作品の保全管理や選定は、プロフェッショナルが監修しています。先日も、ポーラ美術館学芸員の内呂博之さんを顧問アドバイザーとして迎えたばかり(2021年2月9日)。専門家のご指導をいただき、作品の適正な価格設定や品質保持に努めるほか、プラットフォームを拡充すべく、ブロックチェーンの導入などテクノロジーの強化にも注力していく予定です。いずれは、グローバルに通用する、アートのニュースタンダードとなりたいと思っています」
参考
ANDART:https://and-art.jp/
オーナー権の購入は「クレジットカード」「銀行振込」が利用可能。
スニーカーと現代アートという、定番の株やFXとはちょっと異なる投資対象についてご紹介してきました。3つのプラットフォームに共通するのが、ネットを利用してうまく仕組み化していること。それにより、アートやスニーカーの資産としての価値に光が当たりやすくなっていると感じました。
取材前は、「スニーカー・現代アート×投資」という構図に疑心暗鬼だった筆者ですが、サービスの中身を知るごとに興味が沸くのを感じました。集める楽しさや心の豊かさ、そして、(もしかしたら)経済的なメリットも!? そんな「大人が楽しめる魅力」があるのが、今回紹介した3つのプラットフォームだと感じます。興味を持たれた方はぜひ、その世界に触れてみてはいかがでしょうか?
※本記事は、取材者および執筆者の⾒解です。