こんにちは。金融文筆家の田代です。
今週(2024年2月12日〜)、東京株式市場で、日系平均株価が3万8,000円台を超えてきました。3万8,000円台を付けるのは1990年1月のバブル経済崩壊以来、34年1か月ぶりのことです。本記事校了直前の2024年2月16日午前には、3万8,859円と、1989年12月の史上最高値(3万8,915円)まで「あと56円」に迫る場面もありました。
※2024年2月22日追記(編集部)
2024年2月22日午前の東京株式市場で、日経平均株価が、1989年12月に付けた終値での史上最高値である3万8,915円を一時上回りました。
2024年1月より「新NISA」がスタートし、投資に興味を持ち始めた方や、実際に売買を始めた方も多いと思います。しかし、「日本の株が上がっている」と聞いても、それがどんな意味を持つのか? 何が要因になっているのか? など、ピンときていない人もいるかもしれません。
そこで今回は、主に投資未経験者・初心者の人を対象に、今、日本の株で起きている動きをまとめ、できるだけわかりやすく解説したいと思います。
※本記事内に掲載しているチャートの出典はInvesting.comです。
2024年1月以降の東京株式市場は株高に沸いています。報道では「34年ぶりの〜」、「1990年以来の〜」、「バブル後の高値を更新〜」といった、勢いを感じさせる伝え方が増えています。これらのことから、「日本の株価が上昇している」ということは、皆さんにも伝わっていることと思います。
日経平均株価の月足チャート(1985年〜2024年2月)。30年かけて「値を戻している」との見方もできそうです
報道などで株価の上昇を伝えられる際に使われるのが日経平均株価です。日経平均株価とは、日本経済新聞社が算出・公表している日本の株式市場の株価指数のひとつ。東京証券取引所(東証)のプライム市場(2022年4月にこれまでの東証一部に替わって誕生した市場)に上場している1,658社(2023年11月1日時点)のうち、225社で構成されています。
この225社は、過去5年間の売買代金(流動性=売りたいときにすぐに売れる、もしくは、買いたいときにすぐに買える)などの観点から選ばれており、定期的に入れ替えられています。
日系平均はなぜ225社で構成されているのか?
余談になりますが、「225」という数の根拠は“不明”のようです。日本経済新聞の2022年4月4日版の「よくあるご質問」には、「70 年以上も前(1950 年)から日々算出されているため、当時の詳しい経緯は不明ですが、指標性を保つために、売買高の多い銘柄を全業種からバランスよく選んだところ、この銘柄数になったとされています。225 という銘柄数に特別な意味づけはないと認識しています」との記載があります。
この日経平均株価が、2024年1月以降、大きく上昇しています。前掲のチャートを見ていただくとわかるとおり、1989年12月に付けた史上最高値(終値)の3万8,915円(取引時間中の史上最高値は3万8,957.44円)まで、あと少しというところまで迫っているわけです。
米国の代表的な株価指数であるNYダウや、ヨーロッパ諸国の代表的な株価指数は、ここ数年ですでに史上最高値を更新しています。しかし、日本の日経平均株価は、それに後れを取っている状況です。したがって、1年単位で見ると「上がっている」といった表現になりますが、数十年単位で見てみると、「値を戻している」もしくは「回復している」という表現が適切かもしれません。
2024年1月以降、日経平均株価が上昇中
では、日経平均株価は、今、なぜ34年前の水準まで回復してきているのでしょうか? ここでは、日本株の上昇につながっていると筆者が考える「5つの動き」を解説します。
2024年1月に「新NISA」がスタートしました。これが、株価の下支えにつながっていると考えられます。
NISAとは、投資信託や株式への投資で得られた利益が非課税となる投資の制度です。すでに2014年から始まっていた制度でしたが、2024年に制度が拡充し、「新NISA」と呼ばれるようになっています。
大きな変更点として、年間の投資上限額が大幅に拡大したことがあげられます。
変更前
つみたてNISA 年間40万円
一般NISA 年間120万円
↓
変更後
つみたて投資枠 年間120万円
成長投資枠 年間240万円
また、旧NISAに存在していた非課税保有期間が「無期限」となったほか、生涯非課税保有限度額も合計1,800万円へと大幅に拡大しました。簡単な言葉に置き換えると、「投資の制度として、使い勝手が非常によくなった」というわけです。
「新NISA」が始まったことによる、個人投資家の日本株への資金流入はどれくらいなのでしょうか? 一部ネット証券会社の発表によると、配当利回りが高く業績も安定しているような、日本たばこ産業(2914)、三菱UFJフィナンシャルグループ(8306)、トヨタ自動車(7203)、NTT(9432)といった銘柄にNISAの資金が向かったとのデータも出ているようです。
また、金融庁が発表している「NISA口座の利用状況調査」によると、2023年6月末時点から同年9月末時点で1兆2,762億円が株式や投資信託などの買付に動いており、このうち約6割が投信、4割弱が株式に流入していたようです。投信のうち7〜8割は米国株式など海外の投資信託の買付に回っていると見られています。このことから、2023年6月末〜9月末のNISA口座からの国内株への資金流入は、1か月平均で1,000億円から2,000億円と試算できます。
「新NISA」によってこの数字がどれくらい拡大しているかは金融庁などの発表を待ちたいところですが、少なくとも、毎月数千億円の買付が日本株市場に入る可能性があることは、株価の大きな下支え材料となっていると考えられます。
「新NISA」のスタートが株価の下支えの要因になっていると見られています
2つめは、日本株の「出遅れ」です。
記事の冒頭でもお伝えした通り、日経平均株価は1989年12月に付けた史上最高値に到達していません。いっぽう、米国の主要株価指数であるNYダウやS&P500指数、ドイツのDAX、フランスのCAC40などはここ数年で史上最高値を更新。英国のFTSE100指数も2023年2月に史上最高値を更新しています。
単純に「史上最高値をまだ回復していないから出遅れている」とまでは言い切れないでしょう。しかし、2023年4〜12月期決算の日本の上場企業の純利益合計額が過去最高水準となる見通しであることや、企業業績が株価の裏付けとなることなどを踏まえると、「純利益が過去最高水準なのに、1989年12月の日経平均株価をいまだに超えられないのは出遅れである」と、考えることはできると思います。
金融政策の正常化などにより、日本株は「出遅れ」を取り戻すか?
3つめは、東証による企業統治の強化です。
東証は2023年3月31日に、「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応等に関するお願いについて」を公表し、上場企業に対して株価を意識した経営姿勢を求めました。その後も東証は、2024年から「PBR(株価純資産倍率)改善取り組み企業」の公開を始めたほか、2025年3月期より、プライム市場に上場する1,600社に決算情報などの英字開示を義務付けることも公表しました。
これらの動きをわかりやすく表すと、東証が上場企業に対して「株価をもっと意識した経営を求めている」と言えます。
この動きの背景には、「PBRが1倍を割りこんでいる日本企業」の多さがあげられます。PBRとは、株価を1株あたりの純資産額で割って算出する数値です。その企業の資産に対して、株価が適切かどうかを判断する目安になります。
「PBRが1倍を割り込んでいる」ということは、その時点で、企業が付加価値を十分に生んでいないことを指します。言い換えると、「今後事業を継続して得られる価値よりも、会社が解散した場合に株主に分配される金額のほうが大きい」ということなのです。
実際、「PBR1倍割れ」企業は、東証プライム市場において50%も存在していました(2022年7月1日時点、東証の「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議第5回」参考資料より)。こうした事態を東証が問題視し、前出のような「企業統治強化」を進めている構図となっています。市場がこうした動きに反応し、日本株の上昇につながっている可能性はあるでしょう。
東証は上場企業に「株価を意識した経営」を求めています
4つめは、海外の投資家の存在です。
「3」で紹介した、東証の「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応等に関するお願いについて」の発表翌月(2023年4月)より、海外投資家が日本株を大量に買い越しているとの数字が出ています。この時の日経平均株価を見ますと、2023年3月31日終値(2万8,041.48円)から同年7月31日終値(3万3,172.22円)へと、5,130.74円も上昇しています。終値ベースの上昇率は18.2%、取引時間中の高値ベースでは20.4%です。
過去にも、2005年に小泉純一郎元首相が郵政解散を行った際や、2012年の安倍晋三元首相によるアベノミクス相場スタート、2013年の黒田東彦前日銀総裁による量的・質的緩和政策(通称:黒田バズーカ)など、海外投資家が大きく買っている局面に、日経平均株価も大きく上昇したケースがたびたびありました。
そして、直近2024年1月も、海外投資家は約2兆円を買い越しています。日経平均株価がこれだけ上昇した背景に、海外投資家の動きがあることは頭に入れておいてもいいでしょう。
海外の投資家が日本の株に注目!?
5つめは、少々難しい話になります。
「4」で登場した海外投資家などは、世界の各地域への運用割合をあらかじめ決めています。たとえば、アジア市場には2割、欧州市場には3割、北米市場には4割、残りはアフリカや南米などに、といった具合です。さらに、各地域には、各国の市場が存在しています。たとえばアジア市場には、日本株、中国株、インド株、東南アジア諸国の株などさまざまな投資先があります。
現在、このアジア市場内における投資先の「リバランス」が行われた可能性が高いと考えられています。具体的には、中国株への投資割合が下がり、日本株の割合が引き上げられたのではないかと見られているのです。
中国は不動産価格の低迷が続いており、経営破綻する不動産会社が続出しているほか、中国の2023年のGDP(国内総生産)も伸び率が前年比プラス5.2%にとどまりました。この数字は、一見、高い水準にも思えますが、中国政府の目標とする5%をかろうじて達成した数字であり、当初見込まれていた「ゼロコロナ政策からの反動増」とはならなかったことから、市場では「伸び悩んだ」と見られています。
また、上海総合指数や香港ハンセン指数など中国の主要株価指数も数年ぶりの安値を更新しており、中国当局は株価対策に躍起になっています。こうしたことから、中国株への投資割合を引き下げ、日本株の割合を引き上げるという「アジア市場内におけるリバランス」が起きていると推測されています。
ただし、実際にリバランスが行われているかどうかは、今のところはっきりとはわかりません(数か月後に、市場関係者の話などから実態がわかる可能性はあります)。あくまでも可能性のうえでの話にはなりますが、市場の見方のひとつとして知っておいていただければと思います。
中国経済の落ち込みを背景として、相対的に日本株への資金流入増加が指摘されています
上述の1~5を総合的に考慮すると、個人的に、日本株の上昇余地はまだあると見ています。あまり遠くないタイミングで、日経平均株価が1989年の史上最高値を更新する可能性は考えられます。これも個人的な見通しになりますが、当初、史上最高値の更新は「2025年3月あたり」を想定していました。しかし、前倒しで「2024年3月あたり」に更新するかもしれません。
もちろん、株価は一本調子でどんどん上昇するわけではありません。ある程度上昇すると、調整局面入りするケースがほとんどです。
日経平均株価の場合、「25日移動平均線」との乖離率が7%ぐらいまで広がると、短期的な上昇にともなう過熱感(上昇しすぎ感)が意識されて、いったん上昇が止まり調整局面入りするケースが多く見られます。このあたりを参考にして、日々の日経平均株価の動きをチェックされるといいかもしれません。
最後に、現在筆者が注目している投資テーマなどをご紹介します。あくまでも個人的な見立てになりますので、参考程度にお読みいただければと思います。
ひとつめが「不動産」です。今後、日本銀行が金融政策の正常化のひとつとして、「マイナス金利の廃止」を早ければ4月頃に実施する可能性があります。日本は過去30年あまり経験しなかった「利上げ」という状況を目の当たりにする可能性が高いわけです。
しかしながら、2023年秋以降、日本の物価上昇率は落ち着きが見られ、インフレが一服した感もあります。これを受け、「マイナス金利の廃止」後も、「急速な利上げ」の可能性は低いとの見方が強まってきています。こうしたことが、現状では買われにくくなっている不動産関連株への「見直し買い」に向かう可能性があると考えています。
また、現在、物色の対象外に置かれている印象が強い「グロース市場」にも注目しています。現状は、海外投資家によるプライム市場の大型株中心の地合いと言えますが、いずれ、大型株を利益確定した投資資金が、グロース市場の銘柄に向かう可能性があります。個人的には、「東証グロース市場Core指数」の20銘柄に採用されている、比較的時価総額が大きく、かつ好業績の企業への関心を高めています。
※本記事は、執筆者個人の見解です。特定の銘柄を推奨するものではありません。