レビュー

新世代CPU「Core Ultra」搭載モバイルノート「Inspiron 13」徹底検証

デルのモバイルノートPC「Inspiron 13」に、インテルの新世代CPU「Core Ultra」シリーズを搭載した新モデルが追加された。新しいCPUの実力に迫りつつ、モバイルノートとしての使い勝手にも迫った。

定番「Inspiron 13」のボディに新CPUを搭載

デルの「Inspiron」シリーズは、コストパフォーマンスにすぐれたスタンダードなノートPC。なかでも「Inspiron 13」は、13インチディスプレイを備えたモバイルノートとして人気が高い。そんな「Inspiron 13」に、2023年末よりインテルの新世代CPU「Core Ultra 7 155H」および「Core Ultra 5 125H」を搭載したモデルがラインアップに加わった。

なお、今回の検証機は、「Core Ultra 7 155H」を搭載した最上位モデルで、16GB(LPDDR5x 6400)のメモリーと、1TB(M.2 PCIe NVMe)のストレージを備える。ディスプレイはComfortView Plus搭載13.3型2560×1600ドットのノングレア液晶を採用している。なお、メモリーの増設には対応していない。

さらに、検証機には「Microsoft Office Home&Business 2021」がインストールされており、記事執筆時点の直販価格は202,200円(税込)。「Microsoft Office Personal 2021」インストール版やOfficeなしモデルも用意されている。

新CPU搭載で期待の最新モデルだ

新CPU搭載で期待の最新モデルだ

検証機のハードウェア構成。「Core Ultra 7 155H」、16GBメモリー、1TBストレージを搭載する

検証機のハードウェア構成。「Core Ultra 7 155H」、16GBメモリー、1TBストレージを搭載する

ボディは基本的に従来機を継承

最初にボディ周りを解説しよう。

本体サイズは296.68(幅)×213.50(高さ)×14.35〜15.65(厚さ)mmで、重量は1.24kg。「超薄型」や「超軽量」の部類ではないが、13.3型モデルとしては標準的なサイズ感だろう。

ディスプレイは高輝度でHDRに対応している。色域はsRGB相当で、モニターキャリブレーションツール「Spyder X ELITE」によるとsRGB比で98%だった(デフォルトではやや緑がかっていたようだ)。広色域というほどではないが、必要十分な明るさ、視野角、解像度を持つディスプレイだ。

天板はさらさらとした手触りのマットなカラー。なお、米国国防総省の調達基準「MIL-STD-810H」の認定を受けたタフネス性能を備えている

天板はさらさらとした手触りのマットなカラー。なお、米国国防総省の調達基準「MIL-STD-810H」の認定を受けたタフネス性能を備えている

ノングレアのディスプレイは、必要十分な輝度、解像度、色再現性だ

ノングレアのディスプレイは、必要十分な輝度、解像度、色再現性だ

「Spyder X2 ELITE」で計測したディスプレイの色域。左はsRGB比で98%、右はAdobeRGB比で82%だった

「Spyder X2 ELITE」で計測したディスプレイの色域。左はsRGB比で98%、右はAdobeRGB比で82%だった

接続インターフェイスは、Thunderbolt 4×2、USB 3.2 Gen 1×1、ヘッドホン端子×1、HDMI 1.4端子×1という構成。なお、Thunderbolt 4は、電源供給として使用するほか、DisplayPort規格の映像出力にも利用できる。

また、ディスプレイ上部に1080PのフルHDカメラを備えるほかに、デュアルアレイマイクを備えおり、ニーズの高いオンライン会議の用途にも適している。サウンド性能は、スピーカーが2W×2のステレオで、サウンド補正機能「Waves MaxxAudio Pro」と「Dolby Atmos Core」に対応している。スピーカーは出力こそ一般的な2Wだが、音質はバランスよくまとまっているし、対応する音源なら「Dolby Atmos」の立体音響を体感できる。上述のHDR対応ディスプレイと相まって動画視聴でも心強い性能と言えるだろう。

左側面のポート類。写真の左側からHDMIと2基のThunderbolt 4を備える

左側面のポート類。写真の左側からHDMIと2基のThunderbolt 4を備える

右側面にはUSB Type-Aポートとヘッドホン端子を備える。USBポートは薄くするためか、利用時に端子を広げて挿入するハーフオープンタイプだ

右側面にはUSB Type-Aポートとヘッドホン端子を備える。USBポートは薄くするためか、利用時に端子を広げて挿入するハーフオープンタイプだ

背面には別素材のヒンジ。ディスプレイを開いたときに角度を付けるためだろうか

背面には別素材のヒンジ。ディスプレイを開いたときに角度を付けるためだろうか

ディスプレイは180度までは開かず、ここまでが限界。ほどよくキーボードに傾斜がつく

ディスプレイは180度までは開かず、ここまでが限界。ほどよくキーボードに傾斜がつく

キーボードはバックライト付きの日本語キーボード。薄くやわらかな感触で、キーピッチは十分確保されている。ただし、キーボード左側の半角/全角やTabキーなどは余裕があるのに、右側のバックスペースとEnterキーがそれぞれ隣のキーと一体化しているほか、スペースキーも左右の変換・無変換キーと一体化しており、少々せせこましい。これは、英語キーボードのキートップを変更した「日本語化キーボード」ではよく見かけるものだ。基本的には慣れの問題だが、利用頻度が高いバックスペースの誤タッチには注意したい。

キーピッチは十分で左側のキーには余裕があるが、右側はバックスペースやEnterキーが隣のキーと一体化しており少々せせこましい

キーピッチは十分で左側のキーには余裕があるが、右側はバックスペースやEnterキーが隣のキーと一体化しており少々せせこましい

右上にあるのが電源ボタン一体型指紋センサー。誤タッチを防ぐためにもう一段上にレイアウトされていてもよかった

右上にあるのが電源ボタン一体型指紋センサー。誤タッチを防ぐためにもう一段上にレイアウトされていてもよかった

タッチパッドは大型で操作性は良好だ

タッチパッドは大型で操作性は良好だ

無線LANはWi-Fi 6Eに対応。バッテリーは容量64Whで、65WのUSB PDアダプターが付属する。必要となる電力供給の上限が65Wのため、USB PDの電力供給に対応したディスプレイの多くで安定した駆動が可能だ。

「PCMark10」のバッテリーベンチを使用したところ、オフィス製品の利用で駆動時間は11時間53分だった。メーカーの発表の値だが、Netflixの4Kストリーミングの連続再生が最大11時間30分とされているので、一般的な用途ならバッテリー駆動で1日分の作業は可能だろう。また、1時間で最大80%まで充電できる急速充電「ExpressCharge」も見逃せない。スマートフォンで普及している急速充電は、フットワーク向上につながる。

AIやGPUがウリの「Core Ultra」はデスクワークにも高い適性がある

新CPUの気になるパフォーマンスをチェックしよう。電源設定はデルのアプリから「超高パフォーマンス」で実施している。「超高パフォーマンス」は、性能を重視してファンの動作をコントロールするモードだ。

なお、今回比較として私物の「FMV LIFEBOOK UH」シリーズも用意している。こちらのスペックは、CPUが「Core i7-1360P」、メモリーが32GB(LPDDR5-6000)、ストレージが256GB SSD。完全な比較対象とはならないが、CPUの傾向を調べるなら大きな問題はないだろう。

まずはCPUパフォーマンスを計測する「Cinebench R23」の結果から。「Inspiron 13」はシングルコアが1765pts、マルチコアが11347ptsだった。「FMV LIFEBOOK UH」における同スコアは、1522ptsと6497ptsで、特にマルチコア性能が大幅に向上しており、ピーク性能が向上していることがわかる。

「Cinebench R23」の結果。左が「Inspiron 13」で、右が「FMV LIFEBOOK UH」だが、「Inspiron 13」はシングルコア、マルチコアともに高いスコアになった

「Cinebench R23」の結果。左が「Inspiron 13」で、右が「FMV LIFEBOOK UH」だが、「Inspiron 13」はシングルコア、マルチコアともに高いスコアになった

OfficeアプリなどのPC作業のパフォーマンスを計測する「PCMark 10」では「Inspiron 13」が6341で、「FMV LIFEBOOK UH」は5138だった。内容を見てみると、Webブラウジングの性能差があまりなく、アプリスタートアップとビデオ会議、文章作成の性能もそれほど差はなかった。しかし、表計算スコアの差が大きく、「Inspiron 13」ではこうしたビジネスアプリケーションで生産性の向上が期待できる。

「PCMark 10」の結果。上が「Inspiron 13」、下は「FMV LIFEBOOK UH」。いずれも順当な結果だが、表計算スコアにおいて「FMV LIFEBOOK UH」と大きな差が出た。また、写真編集、レンダリングと視覚化、ビデオ編集のようなデジタルコンテンツ作成のパフォーマンスが大幅に向上している

「PCMark 10」の結果。上が「Inspiron 13」、下は「FMV LIFEBOOK UH」。いずれも順当な結果だが、表計算スコアにおいて「FMV LIFEBOOK UH」と大きな差が出た。また、写真編集、レンダリングと視覚化、ビデオ編集のようなデジタルコンテンツ作成のパフォーマンスが大幅に向上している

グラフィックス性能を計測する「3Dmark」も実施した。「Inspiron 13」では、「Time Spy」のスコアが3448で、グラフィックスが3180、CPUが6623、ゲームパフォーマンス予測が35+FPSだった。「FMV LIFEBOOK UH」はTime Spyスコアが1723で、それぞれ1535、5646、30FPS未満ということで圧倒的な差がついている。

「3Dmark」の結果。左が「Inspiron 13」、右が「FMV LIFEBOOK UH」。「Time Spy」と「グラフィックス」のスコアは2倍の大差がついた

「3Dmark」の結果。左が「Inspiron 13」、右が「FMV LIFEBOOK UH」。「Time Spy」と「グラフィックス」のスコアは2倍の大差がついた

ゲーミング性能をチェックするためさらに「FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION」 のベンチマークも実行した。「Inspiron 13」の結果は1920×1080のウィンドウモードで2628の「やや重い」評価。それに対して「FMV LIFEBOOK UH」は2109の「重い」評価だった。

「FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION」の結果。左が「Inspiron 13」、右が「FMV LIFEBOOK UH」。「Inspiron 13」は「やや重い」、「FMV LIFEBOOK UH」は「重い」という判定で、差は歴然としている

「FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION」の結果。左が「Inspiron 13」、右が「FMV LIFEBOOK UH」。「Inspiron 13」は「やや重い」、「FMV LIFEBOOK UH」は「重い」という判定で、差は歴然としている

ストレージに関してもCrystalDiskMarkで計測した。十分以上の速度だろう

ストレージに関してもCrystalDiskMarkで計測した。十分以上の速度だろう

以上の結果から、新たな「Core Ultra」の性能が着実に向上していることが確認できた。特に、グラフィックス性能の向上が目覚ましく、動画の視聴は当然として、画像の補正、動画の編集といった作業でそのパワーを実感できる。もちろん「FMV LIFEBOOK UH」に搭載される「Core i7-1360P」でも、大きな問題はなかった。だが、8K動画や空間ビデオ、ゲームといった用途は、今後も負荷が増えてくることは間違いない。「Inspiron 13」の性能は近未来が求めるものを具現化したものだろう。

「Inspiron 13」の基本性能は最新機種らしい満足できるものだ。ただ、ファンの騒音が気になった。駆動音自体は一般的な音質だが、音量は大きい。ベンチマークテスト中はずっと回り続け、YouTubeの動画再生でもファンが回り出した。動作を観察していると特にGPU周りでかなり熱が発生しているようだ。

ただ、熱処理が間に合わないとことはなく動作は安定している。先に触れたようにスピーカーの音は悪くはないため、騒音が気になるのは惜しい。気になる場合、ノイズキャンセリング搭載ヘッドホンを使うなどしたほうがよいかもしれない。

AI処理を受け持つNPUの実力をチェック

AI性能を向上させるために新たにNPUが搭載されているのも「Core Ultra 7」シリーズの特徴だ。なお、NPUは、タスクマネージャーでは「Intel AI Boost」という名前で表示される。

このNPUを生かしたアプリや機能として、AIノイズリダクション機能やAIアイコンタクト修正など、特にビデオ会議に有効な機能が利用できる。こうした機能をオンにしてタスクマネージャーの動きを見ていると、ビデオ会議ソフトで人を検出するとNPUの利用が上昇する。

AI性能を活用するアプリとして「Camo Studio」がプリインストールされていた。カメラの映像を処理して、Zoomなど任意のビデオ会議ソフトなどで活用できるものだ

AI性能を活用するアプリとして「Camo Studio」がプリインストールされていた。カメラの映像を処理して、Zoomなど任意のビデオ会議ソフトなどで活用できるものだ

ビデオ会議においてCPU負荷を抑えながら背景ぼかしを実行できる。実行してタスクマネージャーを確認すると、GPUではなくNPUで処理していることがわかる

ビデオ会議においてCPU負荷を抑えながら背景ぼかしを実行できる。実行してタスクマネージャーを確認すると、GPUではなくNPUで処理していることがわかる

NPU動作中のタスクマネージャーの様子。人が離れていた状態から人の顔を認識すると処理が行われるため、NPUが動作しているが、CPUやGPUはほとんど動作していない

NPU動作中のタスクマネージャーの様子。人が離れていた状態から人の顔を認識すると処理が行われるため、NPUが動作しているが、CPUやGPUはほとんど動作していない

背景をグリーンバックに処理したり、手の動きを認識して大きな「いいねアイコン」を表示できる。ただし、手の認識精度はあまりよくなかった

背景をグリーンバックに処理したり、手の動きを認識して大きな「いいねアイコン」を表示できる。ただし、手の認識精度はあまりよくなかった

NPUの具体的なパフォーマンスを、「UL Procyon AI Inference Benchmark」で調べたが、スコア自体はNPUよりもGPUのほうが高かった。つまり、性能的にはGPUのほうが上なのだ。だが、NPUを使った場合、CPUもGPUの負荷が軽減され、別の作業にリソースを割り当てることができる。結果、トータルのパフォーマンス向上が図れるだろう。

「UL Procyon AI Inference Benchmark」によるベンチマーク。左がNPU使用時でスコアは279。GPU使用時だと379で、GPUのほうが高性能だ。なお、CPUを使った場合のスコアは43だった

「UL Procyon AI Inference Benchmark」によるベンチマーク。左がNPU使用時でスコアは279。GPU使用時だと379で、GPUのほうが高性能だ。なお、CPUを使った場合のスコアは43だった

NPUの「Intel AI Boost」を使うには、アプリケーションの対応が必要だが、利用できる機会はまだ少ない。ただ、NPUの用途は今後増えるはずだ。たとえば最近はAI処理が多いAdobe「Photoshop」などの編集ツールが対応すれば、AI処理はNPU、画像処理はGPUと使い分けることで、全体のパフォーマンスが向上しそうだ。また、サーバーで行っていたAI処理をPCが行うことは、情報の漏洩などセキュリティの視点でもすぐれているとインテルは主張している

AIやグラフィック性能に加えて、デスクワークにも強い最新モバイルノート

以上、新しい「Inspiron 13」のレビューをお届けした。今回の検証機は「Core Ultra 7」搭載、「Microsoft Office Home & Business 2021」を備えた最上位モデルだが、それでも価格は202,200円(税込)なので、登場したての新世代モデルとしては値ごろ感がある。

「Core Ultra」プロセッサーは、GPUの性能が大幅に向上しているうえにNPUを備えるなど、ゲームやAI処理などで注目されている。ただ、今回の検証で表計算アプリにも強く、デスクワーク用としての適性も高いことがわかった。PCの一般的な使い方と新たな使い方の両方をハイレベルで満たす1台と言えるだろう。

小山安博
Writer
小山安博
編集者からライターに転身。PC、デジカメ、スマホ、セキュリティ、決済などのジャンルをつまみ食い。軽くて小さいものにむやみに愛情を感じるタイプ。
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田中 巧(編集部)
Editor
田中 巧(編集部)
通信を中心にしたIT系を主に担当。Androidを中心にしたスマートデバイスおよび、モバイルバッテリーを含む周辺機器には特に注力している。
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