スマホとおカネの気になるハナシ

「1円スマホ」規制のいっぽう大手MVNOで大幅値下げが可能に、楽天モバイルも?

多くの人に影響を与える、スマートフォンやモバイル通信とお金にまつわる話題を解説していく「スマホとおカネの気になるハナシ」。今回は、MVNO事業者向けの値引きルール改正を中心に取り上げる。規制対象から除外されたことで他社より有利な端末割引を行える事業者が現れたのだ。その詳細を解説しよう。

以前のような価格の魅力に陰りのあるMVNOですが、規制緩和による端末値下げが期待できそうです

規制緩和でMVNOの端末値下げが期待できそうです

端末値引きの規制強化の陰でMVNO対象の規制緩和が行われていた

2023年12月27日に電気通信事業法が一部改正され、いわゆる「1円スマホ」といったスマートフォンの割引手法に規制がなされたことは、本連載でも過去に取り上げている。だが、今回の法改正では規制が強化されただけでなく、規制が緩和された部分もある。

それはMVNOに対する規制の緩和だ。実は1円スマホの規制だけでなく、2019年の電気通信事業法改正で定められた期間拘束を前提に料金を割り引く“縛り”、そして長期契約者に対する割引などへの規制は、すべてのモバイル通信事業者に対してかけられているわけではない。あくまで公正競争を実現するための規制なので、規制を受けるのは電気通信事業法で禁止行為規律の指定対象事業者に限られているのだ。

総務省「電気通信事業法の一部を改正する法律の施行に伴う関係省令等の整備について」概要より。「1円スマホ」などの規制対象となる事業者は実は限定されており、携帯電話会社とその関連企業、そしてシェアの大きいMVNOが対象とされている

総務省「電気通信事業法の一部を改正する法律の施行に伴う関係省令等の整備について」概要より。「1円スマホ」などの規制対象となる事業者は実は限定されており、携帯電話会社とその関連企業、そしてシェアの大きいMVNOが対象とされている

「IIJmio」と「mineo」が規制対象の指定対象事業者から除外された

指定対象事業者のひとつは、携帯4社(NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイル)と、その特定関係法人である。特定関係法人の代表例としては、以前「OCNモバイルONE」の提供元だったNTTドコモ子会社のNTTコミュニケーションズや、KDDI傘下で「BIGLOBEモバイル」を運営するビッグローブ、「J:COM MOBILE」を提供するジェイコム地域会社(11社)など携帯大手のMVNOがあげられる。

そしてもうひとつは、シェアの大きい独立系のMVNOであり、従来その基準は携帯電話市場におけるシェアが0.7%、契約者数がおよそ100万人とされていた。ゆえにこれまでは、100万契約を超えているMVNO大手の「IIJmio」を運営するインターネットイニシアティブ(IIJ)と、「mineo」を運営するオプテージも規制対象だったのだ。

だが、これら2社のシェアは、2000万、3000万といった契約を抱える携帯大手3社だけでなく、およそ600万契約の楽天モバイルと比べてもかなり小さい。しかも菅義偉前政権下で進められた携帯料金引き下げ要請により、携帯大手が安価なプランを提供するようになったことから、低価格に強みを持っていたMVNOの競争力は年々低下傾向にある。

そうしたことから昨年末の電気通信事業法改正では、独立系MVNOの指定対象範囲を0.7%から4%、およそ500万契約にまで引き上げられている。その結果IIJとオプテージは規制の対象から外れ、携帯大手が実現できないような端末の値引きや、長期契約者に向けた特典の提供なども堂々とできるようになったのだ。

総務省「電気通信事業法施行規則等の一部改正」概要より。MVNOの競争力低下などもあり、規制の対象となる独立系MVNOのシェア基準は0.7%から4%に変更され、従来対象だった2社は外れることとなる

総務省「電気通信事業法施行規則等の一部改正」概要より。MVNOの競争力低下などもあり、規制の対象となる独立系MVNOのシェア基準は0.7%から4%に変更され、従来対象だった2社は外れることとなる

長期契約者優遇や最大26,400円の端末値引きを打ち出した「mineo」

そこでさっそく動きを見せたのがオプテージである。同社は2024年1月30日に「mineo」のサービス発表会を実施し、2024年2月28日によりサービス利用者向け特典「ファン∞とく」のリニューアルを実施することを明らかにしている。

「ファン∞とく」は2017年から提供されているもので、元々は契約年数に応じて端末購入特典や、mineoのさまざまな特典が利用できる「王国コイン」などがもらえる、長期利用者向け特典サービスだった。だが、2019年10月にオプテージが電気通信事業法の指定対象事業者となったことでサービス内容変更を余儀なくされ、現在はmineoのアプリ利用状況に応じて王国コインがもらえたり、mineoで端末を購入すると電子マネーギフトがもらえたりするなど、契約期間に関係のない内容となっている。

だが今回、再び指定対象事業者から外れたことで、長期利用者に向けた特典サービスに再び変更。契約年数に応じて1年に1回、王国コインからリニューアルした「mineoコイン」がもらえる仕組みとなり、契約2年目までなら1枚、4年目までなら2枚、5年目以降であれば3枚もらえるなど、長く利用するほどお得感が高まるようになっている。

mineoの「ファン∞とく」は長期利用特典サービスへとリニューアルされ、長く使うこと「mineoコイン」が多くもらえる仕組みとなる

mineoの「ファン∞とく」は長期利用特典サービスへとリニューアルされ、長く使うこと「mineoコイン」が多くもらえる仕組みとなる

なお、「mineoコイン」は、mineoのコミュニティサイト「マイネ王」のイベント参加やアイテムの入手などに利用できるだけでなく、手数料やオプションサービスの利用料金、端末購入時のクーポンなどに変えて利用することも可能。たとえばコイン1枚で10分かけ放題(月額550円)相当を割り引く、5枚でプラン変更時の事務手数料3,300円相当を割り引く、コイン10枚でmineoでの端末購入代金を7,000円割り引く……といった使い方が可能だ。

「ファン∞とく」で獲得した「mineoコイン」は枚数に応じた使い方が可能で、各種手数料やオプション料金、端末購入時の割引として使うこともできる

「ファン∞とく」で獲得した「mineoコイン」は枚数に応じた使い方が可能で、各種手数料やオプション料金、端末購入時の割引として使うこともできる

そしてもうひとつ、「mineo」が指定対象事業者から外れたことでできるようになった施策にあげられるのが「端末価格割引キャンペーン」だ。これは2024年2月1日から3月31日まで実施されているもので、「mineo」のデュアルタイプに番号ポータビリティによる乗り換えで申し込み、端末を一括払いで購入することで、最大26,400円の割引が受けられるものだ。

「mineo」では期間限定で「端末価格割引キャンペーン」を実施。定価が44,000円を下回るスマートフォンに対しても、最大で26,400円と法規制の上限を超える値引きを適用するケースが見られる

「mineo」では期間限定で「端末価格割引キャンペーン」を実施。定価が44,000円を下回るスマートフォンに対しても、最大で26,400円と法規制の上限を超える値引きを適用するケースが見られる

そしてその内容を見ると、先の法改正で変更されたスマートフォンの値引き上限を上回った値引きがなされるケースがあるようだ。たとえば、セール対象となるモトローラ・モビリティの「moto g52j 5G SPECIAL」の場合、「mineo」での定価は38,016円なので、指定対象事業者であれば22,000円以上の値引きはできない。だがこのセールでは26,400円を値引きして11,616円で販売するとしており、法規制の上限を上回った値引きを実現していることがわかる。

もちろんMVNOは携帯大手と比べ企業体力は弱いので、規制が緩和されたとしても派手なスマートフォン値引き施策を継続的に実施するのは難しいだろうし、今回のケースもあくまで期間限定の施策にとどまっている。だが、契約を増やしたいときに大幅な値引きを実施できるなど、規制緩和によって柔軟な値引き施策ができるようになったことは、今後MVNOの優位性を高める大きな要因となりそうだ。

「mineo」のプランを価格.comでチェックする

楽天モバイルも規制緩和の可能性大

実は今後、もう1社、規制緩和がなされる可能性のある事業者が出てきており、それは楽天モバイルである。というのも現在、総務省の有識者会議「競争ルールの検証に関するWG」で、競争促進のためMVNOだけでなく、シェアの小さい携帯電話会社に対する規制緩和の議論が進められているのだ。

同WGでの説明によると、携帯電話会社がすべて規制対象となっていたのは、かつて携帯各社が、スマートフォンのSIMにロックをかけて他社の回線で利用できないようにする「SIMロック」をかけることが一般的だったことから、ネットワークを持つ事業者が競争に与える影響が大きいとされてきたためだという。だが、2021年にSIMロックが原則廃止されたことでその前提が崩れたことから、自前のネットワークは持つがシェアが小さい携帯電話会社を規制対象から外すのはどうか? という提案がなされているのだ。

総務省「競争ルールの検証に関するWG」第51回会合資料より。2021年にSIMロックが原則廃止されたことにより、MVNOだけでなくシェアの小さい携帯電話会社に対する規制緩和の検討も進められるようだ

総務省「競争ルールの検証に関するWG」第51回会合資料より。2021年にSIMロックが原則廃止されたことにより、MVNOだけでなくシェアの小さい携帯電話会社に対する規制緩和の検討も進められるようだ

その提案をしたのは楽天モバイル自身なのだが、楽天モバイルは規制緩和によって何をしたいのかというと“お試しサービス”の提供であるという。楽天モバイルのような新規参入のサービスに消費者が乗り換えるには不安もあり、乗り換え促進には動機付けが必要なことから、規制緩和で楽天モバイル回線をより試しやすい環境を提供するチャレンジがしたい、というのが同社の訴えのようだ。

具体的な施策の事例として、同社は「30日間有効の無料お試しSIMをエリア限定で配布」「6カ月間の通信サービス無償体験または全額ポイントバック」「新規契約者限定で合計3万円分のポイント付与」などをあげている。そのいっぽうで、規制緩和がなされてもスマートフォンの大幅値引きは実施する考えがないとし、「規制緩和で1円スマホをやりたいのでは?」という行政側の懸念を払しょくしようとしている様子だ。

総務省「競争ルールの検証に関するWG」第49回会合における楽天モバイル提出資料より。同社は競争促進のため、規制緩和により新規事業者の回線を消費者がより手軽に試すことができるサービスを提供したいとしている

総務省「競争ルールの検証に関するWG」第49回会合における楽天モバイル提出資料より。同社は競争促進のため、規制緩和により新規事業者の回線を消費者がより手軽に試すことができるサービスを提供したいとしている

「楽天モバイル」の料金プランを価格.comでチェックする

MVNOや楽天モバイルの動向に注目したい

総務省が十数年来、業界の商習慣を変えてまで大規模な規制を実施しているのはなぜか? それは携帯大手3社のシェアが9割を超え、寡占状態にある現状を何が何でも変えたいためだ。それだけに3社への規制は今後より厳しくなるいっぽう、下位事業者の規制は大幅に緩和する可能性は十分考えられる。

規制緩和がなされたMVNOの今後の動きや、楽天モバイルに対する規制緩和の動向は、2024年に消費者がサービスを選ぶうえでも大きな注目テーマのひとつとなりそうだ。

佐野正弘
Writer
佐野正弘
福島県出身。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。
記事一覧へ
田中 巧(編集部)
Editor
田中 巧(編集部)
通信を中心にしたIT系を主に担当。Androidを中心にしたスマートデバイスおよび、モバイルバッテリーを含む周辺機器には特に注力している。
記事一覧へ
記事で紹介した製品・サービスなどの詳細をチェック
関連記事
SPECIAL
ページトップへ戻る
×