近年、コードレススティック掃除機市場にて、確たる存在感を示しているのがシャークです。特に、ゴミ捨ての手間が大幅に減らせる「自動ゴミ収集ドック」シリーズが支持を集めています。
今回は、そのなかでも価格.comで人気の2モデルに注目。高機能と軽さを両立させた「EVOPOWER SYSTEM NEO II+」と、同シリーズの普及モデル「EVOPOWER SYSTEM STD+」をメーカーから借りて、比較検証を行いました。
片や同社の最先端機能を詰め込んだ先進モデルで、片や機能を絞ったシンプルモデル。これらの実力差はどの程度なのか。また、2万円前後の価格差は実際納得できるものなのか。そのあたりを深掘りしていきます。
「自動ゴミ収集ドック」を標準装備しつつ、掃除機の機能に差を付けたシャークのスティック掃除機。左の上級モデル「EVOPOWER SYSTEM NEO II+」と右の標準モデル「EVOPOWER SYSTEM STD+」は、どちらも価格.comユーザーから人気抜群です
シャークの「自動ゴミ収集ドック」シリーズの軽量&高機能モデル「EVOPOWER SYSTEM NEO II+(以下、「NEO II+」)」と、普及モデル「EVOPOWER SYSTEM STD+(以下、「STD+」)」のスペックを比較すると、次のような違いがあります。
【1】掃除の状況によって、吸引力やブラシの回転を自動調整するセンサーの有無
【2】操作性に影響する本体重量とヘッド幅の違い
【3】暗い場所での掃除に役立つ、ヘッド前方に設置されたLEDライトの有無
【4】パイプが曲がって家具の下もしゃがまずに掃除できる「Flex」機能の有無
【5】アクセサリー(付属品)の違い
今回の検証では、まず基本となるゴミ除去性能や自動ゴミ収集機能を試しつつ、上の5項目が実際の掃除にどれくらい影響するのかをチェック。さらに、スペック表に出ていない両モデルの違いも見ていきたいと思います。
連続運転時間は、コードレススティックでの使用時。「NEO II+」はバッテリー2個連続使用時
最初に両モデルのゴミ除去性能をチェック。
「NEO II+」はノズル部分に「ハイブリッドパワークリーン」を、「STD+」は「ブラシレスパワーフィン」を採用しており、どちらも薄い“ヒレ型”のパワーフィンとソフトローラーを組み合わせた、シャーク独自のブラシロールを搭載しています。通常のブラシロールのような毛ブラシではないので、髪の毛やペットの毛が絡みにくいのも特徴です。
2モデルのブラシロールの形状を比較。「NEO II+」(上)のパワーフィンは「STD+」(下)のフィンと比べて幅が短くやや硬め。ヘッド部においてソフトローラーが占める面積は「NEO II+」のほうが「STD+」より大きく取られています
検証テストでは、フローリングとカーペットのそれぞれに綿糸(髪の毛の代用)、綿ゴミ(少しずつちぎったコットン)、猫用ドライフード、重曹をまき、走行1回でのゴミの取れ具合をチェックしました。
フローリングの上に、左から綿糸、綿ゴミ、ドライペットフード、重曹をまいて、ゴミ除去力をテスト
まずはフローリングでの検証。
上級モデル「NEO II+」は、ゴミの量などに応じて吸引力を変える「iQモード」でテストしましたが、綿糸、綿ゴミはほぼすべて除去。重曹はフローリングの目地などにやや取り残しがあったほか、掃除機の運転を止めたあとのノズル下にも取り残しがありました。ゴミを“面”でとらえるパワーフィンの形状が災いしてか、丸型で転がりやすいドライフードが盛大に弾かれていたのも残念。とはいえ、この検証後、普段使いで部屋を掃除したところ、同程度の大きさの俵型の猫砂は問題なく除去していたので、今回のドライフードの形状とブラシロールの相性がよくなかったとも言えそうです。
ブラシロールが大量の重曹を吸い切れないまま前に押し出し。その結果、フローリングの目地に落ちた重曹がわずかに残ってしまいました
1回走行したあとヘッドを持ち上げてみると、重曹とドライフードがかなり残っていました。とはいえ、この現象はほかの多くの掃除機でも見られるもので、再度ヘッドを通過させればちゃんと除去できます
いっぽう、標準モデル「STD+」は、吸引力の調整機能はなく、「標準モード」のみを搭載していますが、綿糸、綿ゴミ、重曹はほぼ完璧に除去。ドライペットフードも「NEO II+」ほど弾き飛ばさずに吸引できました。
「STD+」で掃除したフローリングにはゴミがほとんど残りませんでした。ただ、ブラシが弾いたドライフードが遠く離れた場所にわずかに残留
ヘッドの下には、やはりわずかに重層とドライフードが残留
続いては、カーペットの上での検証。上級モデル「NEO II+」では、カーペットの繊維とからむと除去しにくくなる綿ゴミを強力除去(綿糸はやや取り残しあり)。重曹もドライペットフードもほぼ完璧に取り除けました。ペットフードはカーペット上では滑りにくいため、しっかり捕捉できたようです。
カーペットでの「NEO II+」の検証。重曹やドライフードをしっかり除去できたいっぽう、綿糸の取り残しがやや目立つ結果に
これに対し、「STD+」は綿糸と綿ゴミの除去力は「NEO II+」と同等以上。重曹はカーペットの生地のすき間に潜り込んだ分の取り残しがやや見られ、ドッグフードも「NEO II+」に比べて取り残しが多かったです。
綿糸の取り残しは「NEO II+」より少ないいっぽうで、重曹はカーペットの繊維の奥にうっすらと残留。ドライフードは、停止後に掃除機を持ち上げると、ヘッドの下に多く残っていました
フローリングとカーペットの掃除に関しては、意外にも「STD+」が優秀なゴミ除去能力を発揮しましたが、そのいっぽうで、壁際の掃除では「NEO II+」が高い性能を見せつけました。
「NEO II+」には壁際を検知して吸引力を高める機能が搭載されており、実際に壁際に重曹をまいて掃除したところ、ほぼ完璧に重曹を除去できていました。「STD+」のほうは壁際にかなりの取り残しが見られました。
「NEO II+」で壁際の重曹を除去検証。壁ギリギリまで重曹を逃さず吸引できています
「STD+」で同じように壁際の除去検証。壁際にはっきりと白い重曹が残ってしまっています
次に、同シリーズのもうひとつのメイン機能「自動ゴミ収集」をチェック。
この機能に関しては、「NEO II+」と「STD+」に違いはありません。本体をドックにセットすると、自動的にドックへのゴミ回収を開始。17秒ほどでゴミ回収を終了します。ドックには自動ゴミ収集停止ボタンが付いていて、このボタンを押せばゴミ回収運転を停止。もう一度ボタンを押すまで、掃除機をドックに戻しても自動ゴミ収集を行いません。夜に掃除する際は、このボタンを押しておくと安心です。
ここからは、先述した両モデルの違いについて、実際の掃除能力や使い勝手にどの程度の影響を与えているのかを見ていきます。
上級モデル「NEO II+」には、吸引力やブラシの回転スピードを自動調整する3種類のセンサーが搭載されています。
1. ゴミの量に応じて吸引力を変える「iQセンサー」
2. 床のタイプに応じてブラシの回転スピードを調整する「フロアセンサー」
3. 部屋の角や壁際を掃除する際に、吸引力を2.5倍に上げる「エッジセンサー」
標準モデル「STD+」にはこれらのセンサーは非搭載です。
3つのセンサーのうち、最も便利だと感じたのは「エッジセンサー」。通常の掃除機だと壁ギリギリのゴミは取り切れない場合が多いですが、「NEO II+」はヘッドが壁に近づくと、「エッジセンサー」により自動的に吸引力がアップ。しっかりとゴミが除去できました。
いっぽうで「iQセンサー」は、本当にわずかなゴミにも反応して吸引力をアップ。「NEO II+」には強運転の「ブーストモード」と、夜の掃除などに適した弱運転の「エコモード」も搭載されていますが、「iQセンサー」を使えばバッテリー消費を抑え、かつ効率的にゴミを除去できます。ゴミの量に合わせて手元のLEDライトの色が変わるのも、ゴミの取り残しを防ぐのに効果的です。
吸引モードを変えるボタン。通常は、自動で吸引力を調整してくれる「iQモード」で運転させるのがいいでしょう。「ブーストモード」や「エコモード」はハンドル部のボタンで選べ、ボタンを再度押すと「iQモード」に戻ります
ハンドル部の「iQリング」がセンサーと連携。ゴミが少なければ「緑」、ゴミがややある場合は「黄色」、ゴミが多ければ「赤」と、LEDライトの色が変わります
「フロアセンサー」は、カーペットの上に来ると、吸引力を上げるのでなく、ブラシの回転を速めるのがミソ。ブラシの回転数を上げるだけだとそれほど運転音もうるさくならずに掃除できます。
以上が上級モデル「NEO II+」に搭載された3つのセンサーの特徴ですが、標準モデル「STD+」ではこうした“掃除機に任せるパワー制御”はできません。これは掃除の快適さに少なからず影響を与えていると感じました。
シリーズ最上位モデル「NEO II+」は、さまざまな高機能を搭載していながら、コードレススティックとして使用する際の重さが約1.7kg(後述する「Flex機能」搭載の「LC551JBK」の場合)。いっぽう、「STD+」は約1.9kgと約200gの差があります。
それでも、筆者の使用感としては、手首や腕にかかる重さにそれほど差を感じませんでした。ただし、ヘッド部の操作性は「NEO II+」が一枚上手。左右に首を振る動作は「STD+」も十分スムーズなんですが、「NEO II+」はそのスムーズさにちょうどいい“しなり”が加わり、自分が操作したい方向にストレスなくヘッドが動いてくれます。この滑らかな操作性のおかげで、掃除機がけの快適さがワンランク高まると感じました。
「NEO II+」は操作が快適で、テーブルの足周りなども引っ掛からずにスルスル掃除できます
ヘッド幅は、上級モデル「NEO II+」のほうが幅22.8cmとコンパクト。ただし、「STD+」は幅26.7cmとその差は約4pなので、ヘッド幅の違いによる操作性や掃除にかかる時間の違いはそこまでないと感じました。
上級モデル「NEO II+」は、ヘッドの前面にLEDライトを搭載しており、暗い場所を照らしながら掃除が可能。ただし、「目に見えない細かなゴミまで浮き上がるように照らす」ような性能はなし。これがどうしても必要かというと、個人的にはそこまでではないかなと感じました。
部屋の電気を消して掃除機がけ。LEDの光がそこまで遠くに届くわけではありません
「Flex」機能は、シャークのコードレススティック掃除機の代名詞的機能。ボタンを押すだけで延長パイプが直角に曲がり、家具の下などをしゃがまずに掃除できます。同機能は「NEO II+」(「LC551JBK」)は搭載していますが、「STD+」は非搭載です。
この機能は、確かにシニア層などのヒザが悪い人には便利。ただ、パイプのロック解除ボタンがパイプの裏面にあり、ボタンを押す際に少し腰を屈める必要があります。筆者は腰を屈めなくてはいけないぐらいなら、そのまま腰を落としてベッドの下まで一気に掃除したくなりました……。とはいえ、スチールラックの下など、本体を床とほぼ並行にしないとヘッドが入らない場所では、「Flex」機能は大いに役立ちます。
延長パイプの折れ曲がっている部分の裏に付いているのが「ロック解除ボタン」。ここを押すと、自重でパイプが90度まで曲がります
PCデスクの下を掃除。これくらいの高さしかないすき間の掃除には、「Flex」機能は非常に有効です
「NEO II+」と「STD+」の付属品は次のとおり。
「マルチノズル」と「ブラシ付き隙間用ノズル」は両モデル共通で、違いは「ミニモーターヘッド」と「布団ノズル」
上級モデル「NEO II+」に付属する「ミニモーターヘッド」は、モーター駆動のブラシを内蔵し、「布団ノズル」より強力に布団の奥の微粒子ゴミなどを除去できます。いっぽうで「布団ノズル」は、実際に使ってみると、ノズルが布団に吸い付きやすく、スムーズに掃除しにくかったのが残念でした。
「NEO II+」に「ミニモーターヘッド」を装着してベッドを掃除。ヘッド内のパワーフィンがゴミをかき出すので、吸込口が布団に吸い付くことなく快適に掃除できました
アクセサリーに関してはもうひとつ、バッテリーの数が異なります。「STD+」はバッテリーが1個付くのに対し、「NEO II+」にはバッテリーが2個付属。「NEO II+」の自動ゴミ収集ドックにはバッテリー充電スロットが搭載されおり、掃除機本体を使用中も予備バッテリーの充電が可能です。広い家に住んでいる人や毎回家中をしっかりと掃除したい人には「NEO II+」がおすすめです。
ドックの背面に用意されたバッテリー充電スロット。バッテリーはキャップ側面のタブを押しながら抜き出します。前後が逆だと正しく入らないので、「Shark」のロゴを目安にセット
ここからは、そのほかの気になる使い勝手について見ていきましょう。
シャークの掃除機は、コードレススティック掃除機だけでなく、ハンディ掃除機にも定評があります。そこで、今回の2モデルもハンディ時の使い勝手をチェックしました。
ハンディ使用時の重量と長さは以下のとおり。ハンディ掃除機ではおなじみの同社の「EVOPOWER DX」とも比較してみました。
「EVOPOWER DX」はシャークの人気ハンディ専用モデル
「NEO II+」と「STD+」は、ハンディ専用モデルに比べるとひと周り大きい分、やや操作の軽快さに欠けます。「NEO II+」と「STD+」では約100gの違いしかありませんが、その分、ラクに取り回せました。
「NEO II+」(上)も「STD+」(下)も、ハンドルに絶妙な角度が付いています。この角度のおかげで、特にハンディ機として使う際に操作がしやすかったです
もう1点、両モデルともに便利だったのが、付属アタッチメントを並べて置ける専用ドック。本体との接合部分が真上を向いた状態で各アタッチメントをセットできるので、ハンディ掃除機の状態でそのまま差し込めば装着が完了するわけです。
ハンディ状態の本体をアタッチメントにそのまま差し込み、「カチッ」と音が鳴ったら装着完了。そのまま掃除に入れます
最後に、ドックのゴミ捨てとメンテナンスについて。
シャークの掃除機の自動ゴミ収集ドックは、紙パック式でなくダストカップ式を採用しています。紙パック購入のコストを抑えられるいっぽう、サイクロン式掃除機と同様に、ゴミ捨て時にホコリが舞い上がるリスクがあります。ちなみに、ドックのダストカップのゴミ捨ての目安は月に1回で、水洗いが可能です。
ドック上部のリリースボタンを押して、ダストカップ(写真)をドック側面から取り外します。オレンジのボタンを押すと、底のフタが開いてゴミ捨てができます
ちなみに、ハウスダストなどの微粒子ゴミは、このダストカップより自動ゴミ収集ドック左側のフォームフィルターとフェルトフィルターに大量に溜まっていました。フィルターはお手入れしないままだと、吸引力低下に直結。少なくとも月に1〜2回はお手入れしたほうがよさそうです。
検証テスト後、フォームフィルターには大量の重曹が付着していました
ここまで、シャークの上級モデル「EVOPOWER SYSTEM NEO II+」と「EVOPOWER SYSTEM STD+」を比べてきました。
基本の吸引力では、「STD+」が上位機に迫る性能を見せてくれました。特に、フローリングでは「STD+」のほうがより効率的にゴミ除去する場面も。カーペット上では重曹とドライペットフードの除去で「NEO II+」が優位性を見せていました。また、壁際の掃除では両モデルの差が明確に出ました。
つまり、ゴミの除去力を重視するなら、「STD+」でも文句なしです。ただ、より快適な掃除を求めるなら、「NEO II+」にアドバンテージがあります。センサー機能はもちろん、スペック表には表れない「掃除機の取り回しの滑らかさ」でも「NEO II+」はワンランク上のクオリティーを感じさせました。「Flex機能」の採用や、「STD+」に比べて軽いことなどからも、「NEO II+」が「掃除の快適化」により注力した製品であることがうかがえます。
いっぽうの「STD+」は、上級モデル「NEO II+」と比較しなければ、掃除機の取り回しは十分にスムーズなレベル。掃除後のゴミ回収は上級モデルと同じように自動ですから、掃除の負担は十分に軽くなります。これで「NEO II+」より2万〜3万円安く購入できるのは、コスパ抜群と言えそうです。
また、そうした違いとは別の意味で、掃除できる時間の長さは選ぶ際の重要ポイントです。「NEO II+」はバッテリー2個付きで、バッテリー切れになっても予備と交換して掃除が続けられるうえ、ドックの充電スロットで空いたバッテリーをすぐに充電できます。「STD+」の連続使用時間は最大13分と短めなので、一軒家や広めの部屋でメイン掃除機として使う予定なら、「NEO II+」を選ぶほうがよいでしょう。
ちなみに、シャークは2025年3月に、自動ゴミ収集ドック付きの新モデル「EVOPOWER SYSTEM FIT+」を発売しました。同機は、「NEO II+」にも搭載されている「iQセンサー」を採用しつつ、ヘッドのブラシロールは「STD+」と同じ。運転モードは「iQモード」と「ブーストモード」の2種類で、アタッチメントには「ミニモーターヘッド」が付属します。本体重量は、「NEO II+」と同じ約1.7kgで、スペック的には「NEO II+」と「STD+」の中間に位置する製品です。「NEO II+」ほどの高機能は必要ないけど、「STD+」では少しだけ物足りなさそう、という人には狙い目の製品になるでしょう。