2017年12月7日にレイクウッド総成カントリークラブ(千葉県成田市)で行われた「ブリヂストンゴルフドリームフェスタ2017」に、同社契約のプロゴルファーの1人として登場した宮里藍さん。同年5月29日に現役引退を発表し、世間を驚かせた彼女が今思うこと、女子ゴルフ界に向けてのビジョン、そして現役時代のエピソードの一端を語ってくれた。
まずは、現役を退いて生活ぶりがどう変わったのかについて質問が飛ぶ。
――試合を離れて、生活はどう変わりましたか?
「何もしない時間がすごく新鮮。時間に追われることもないですし、自分がやりたいことをやっている感じです。練習したいなって思わないってことは、自分の中ではいいタイミングで終われたと実感しています。すごい、今楽しいです! 練習をしなくていいというのが一番大きな違いですね。次の試合に向けて逆算して生活していたのが、今は自分のやりたいことを日々やっている感じ。今まで頑張ってきた自分のごほうびとして、年内は少しゆっくりしたいと思っていました。期間限定ではありますけど…無職を今は楽しんでいます」(宮里藍さん・以下同)
「引退を発表してから2か月半、あっという間でした。エビアン(現役最後の試合となった、2017年9月アメリカツアーのエビアンマスターズのこと。藍さんはこの試合で過去2勝している)は自分の中ではまだ昨日のことのよう。改めて、応援してくださるファンの方たちと身近に1日通して触れ合える機会というのは貴重ですし、私にとっても、これだけの方の応援があって頑張れたんだなと、いろいろ客観的に見られる部分もあったので、今日のイベントはすごく楽しかったです」
ブリヂストンゴルフ契約のプロとラウンドしたり、レッスンを受けられたりするファン垂涎のイベントだ
賞金王から個別にアドバイスを受けられたラッキーな参加者も!
ブリヂストンゴルフからは、宮里藍さんの輝かしい功績をファンと共有する限定商品「Ai54 Limitedシリーズ」が発売されている
――引退した今も練習を続けていますか?
「9月のエビアンから帰ってきて、ラウンドしたのは1回。長男の聖志が試合の練習ラウンドに付き合ってほしいといわれたので、帰国2週間後にそのラウンドに付き合って以来(ゴルフはしていない)。一昨日このイベントのために2か月ぶりくらいにクラブを握ってボールを打ったんですけど、思ったよりも打てるなって。自分自身が一番びっくりしています。2か月じゃあんまり変わらないのかな」
2017年は、次兄の宮里優作選手が国内男子ツアーで4勝を挙げ、賞金王に輝いた。藍さんはSNSなどでその喜びを表現していたが、改めてきょうだいの偉業についての質問が。
左から、長男の宮里聖志選手、藍さん、次兄の優作選手。きょうだいの3ショットは、実はあまりお目にかかれない
――優作選手の賞金王獲得についてどう思いますか?
「去年(2016年)未勝利で今年に入っていく流れは難しかったし、なおかつ選手会長という立場もあり、ゴルフ場以外で時間を割くことが多かったと思います(選手会長は試合のスポンサーのもとに行ったり、各種打ち合わせなどに参加したりするため、クラブを握る時間が他の選手より少なくなってしまう)。思うようなスケジューリング、トレーニング、練習ができなかった。その難しさをものともせず、いや、裏ではすごく努力してたと思うんですけど、それが賞金王につながったのかなと思っています」
定評のあったショット力にパットがかみ合い、見事2017年の賞金王となった優作選手も、お客さんとのドラコン対決で沸かせた
「4勝の中でもメジャータイトル2つとれた(日本プロゴルフ選手権と日本シリーズ。ほか2勝は中日クラウンズとホンマ・ツアー・ワールドカップ)ということが、実力がないとできないことなので、今年1年を通してすごく強かった、すばらしいプレーをしていたと思います」
若くて力のある選手がどんどん出てくる今の女子ゴルフ界。高校生のときにプロツアーで優勝した藍さんが、その先鞭(せんべん)をつけたものだ。
――今の女子ツアーをどう見ていますか?
「いろんな選手がどんどん出てくることはツアーにとっていいことだと思います。ここ数年、アメリカツアーでも10代〜20代前半の選手の活躍がめざましかったので、ゴルフ競技のプレイヤーの年齢が若くなってきているという実感があります。今年は畑岡奈紗ちゃんの活躍(2017年は国内ツアー2勝でうち1勝は日本女子オープン。前年にも同大会を制している)がすごかったですし、アメリカで苦労したのを近くで見ていたので、そういうのを乗り越えたときにものすごく強くなりますし…これから出てくる若い子たちにはすごく期待しています」
――畑岡選手に何か言葉をかけたそうですが?
「いや、もうほとんど覚えていないくらいなので…(成績を出したのは)本人の実力だと思いますし、私がどんな言葉をかけようとも、それを消化して結果につなげるのは彼女自身なので、それは彼女のすごさだと思っています」
アメリカツアーに挑戦し、通算9勝(国内はアマチュア時代を含む15勝)を挙げ、世界ランク1位にまで上り詰めた藍さん。現在活躍しているのは「藍ちゃん世代」の活躍を見て、あこがれて育ってきた選手たちだ。
――自身の海外経験をもとに、若手選手へアドバイスするとしたら?
「自分自身をどんどん発信していってほしいという本音はありますね。女子ゴルフもパワーゲームになりつつあるんですが、その中でどう個性を出していくかというのはすごく難しいところだと思うので…」
「私の場合はショートゲームメインで自分の個性を生かすことができましたし、そうやって"自分はこういうふうにできるんだよ”っていう発信をどんどん追求していくところにおもしろさが出てくるんじゃないかな。それぞれの違いが見えて、それで勝利できるっていうのがゴルフのおもしろいところじゃないかと思います。若い子には、自分らしさ、自分の色というものをどんどん出していってほしいなと思います」
体格的に劣るアメリカツアーで藍さんが戦えてきたのは、卓越したショートゲーム。他の選手に飛距離で負けても、スコアに直結する技術を磨き抜くことで好成績を挙げた。
――現役時代に、印象に残っているクラブは?
「ユーティリティーの6番だと思います。私のゲームを変えたというか、それまでは5番アイアンをどうしても使いこなさなければならなかったんですけど、アメリカで戦っていくうえで、高い球でグリーンに止められるクラブが必要だった(5番アイアンはある程度のパワーがないとコントロールされたボールを正確に打つのは難しいが、ユーティリティーはそれよりも楽に球を上げられる)」
ゲームを組み立てるうえでのよきパートナーになったという、「ファイズ」のユーティリティー
「私は飛ぶほうではないので、セカンドでその距離を残すことが多かったですし、あのクラブにだいぶ支えられたかなと思います。モデル名はファイズです」
藍さんを担当していたブリヂストンゴルフの担当者によれば、ユーティリティーの4番と5番はプロ入りからずっと入れているとのこと。印象に残っていると答えた”6番”は、ブリヂストン側からの提案でインバッグされたのだとか。
ユーティリティーの飛距離はすべて目安ながら以下のとおり。
4番-175ヤード
5番-165ヤード
6番-155ヤード
あなたの飛距離と比べて、いかがだろうか? 「藍ちゃん、俺より飛ばないんじゃない?」と思う方も少なくないのではないか。しかし驚くべきは、その正確性。新製品が完成したときに彼女にテストをしてもらったら「今より3ヤード飛ばないから使えない」とコメントされた。疑問に思ったスタッフが機械で計測したら、本当に3ヤード飛んでいなかったのだという。ユーティリティーであっても“1ヤード単位”の距離感を持ち、それを打ち分けるだけの精密なショットを武器に、宮里藍は世界ランキング1位に上りつめたのだ。
女子ツアー発展の功労者である藍さんのもとには、さまざまなオファーが届いているとうわさされているが…?
――(東京オリンピックの)コーチ要請があったという報道をどう思いました?
「いまひとつピンとはきてないですが、自分のコーチとしてのスキルを東京オリンピックまでにつけるのは難しいと思っています。ですが、そういうお話をいただけるのであれば非常に光栄なことだと思いますが、そこは慎重に考えたいなと思います」
「選手としてのスキルはありますが、コーチングに関してはスキルがないので、長い目で見て、いろんなことを勉強していきたいと思っていますし、それがジュニア育成になるのか、プロ(を見るコーチ)になるのか、どう関わるのかというのは今のところわからないです。まずは自分がどうしていきたいのかという方向性を決めるのが先だと思うので、その先にコーチングというのがあれば勉強していかなければいけないと思っています。そのへんはすごく難しいですね」
――来年以降、何か具体的に決まっていることは?
「何も決まっていないのが現状なんですけど、来年以降は 現役時代に支えてもらったスポンサーさんと一緒に何かできればいいな、と考えています。それが具体的にどうなるのかというのはまだわからないです。でも、スポンサーさんへの恩返しは来年以降重点的にやっていきたいと思っています」
「スポンサーさんの意向もあり、どんなかたちでやっていくのかは決まっていませんが、どんなかたちでもできると思うので、すごく楽しみにしています。でも、メインはゴルフになると思うので、何かお手伝いができればいいなと思っています!」
高校生がプロの試合で勝つという前代未聞の事態はゴルフ界を超えた話題となり、「藍ちゃんフィーバー」が巻き起こった。あれから14年、現役を退いたとはいえ、宮里藍さんの動向は絶えず注目されている。
写真:富士渓和春