オグさんです。
今回から、女性ゴルファーのクラブ選び「競技志向編」を不定期でお届けします。モデルはこちらの米原桜さん、ヘッドスピード36m/sのアスリート女子ゴルファーです。
ドライバーでの持ち球はドローボールの米原さん
実は米原さん、スクランブル競技(※)を運営するゴルフライフという会社にお勤めで、ご自身もゆくゆくは競技に挑戦されるのだそうです。
※スクランブル…2人ないし4人のチーム戦。各人が打ったティーショットの中から以降はチームとしてベストのボールを選択してプレーする競技。2打目以降はマークした位置から各人が打つ
競技に臨むに当たり、クラブをフィッティングしたいとのことで私のショップに来てくれました。ゴルフ歴は10年と長く、キレイなスイングをなさるのですが、ドライバーでのトップやスライスを軽減したいとのこと。
さっそくクラブフィッティング開始。まずは簡単に問診から。準備やストレッチをしながらどんな悩みがあるのか、目標は何を求めているか、などをお聞きしつつ、ウォームアップを兼ねてボールを打っていただき、スイングと球筋を見せてもらいました。
米原さんのドライバーはメンズモデルのヘッドに40g台の軽量カーボンシャフト・フレックスRという組み合わせ。クラブ長は46インチとやや長めで、かなりの飛距離仕様といった印象です。
トップで振り上げたクラブを一度フラットな位置に収めてからヘッドを加速させる動きが米原さんのスイングの特徴。トップはしっかり高い位置に上がっていますが、実際のスイングプレーンはかなりフラットです。
お悩みはスライスやトップということでしたが、体は前傾をキープできているので、長尺クラブによる振り遅れや手が浮いたときにそういったミスが起きるだろうと分析しました。
「スイングのどのタイミングでシャフトに負荷をかけているのか」を見抜くのがクラブフィッターの腕の見せどころ。米原さんの場合、一度振り上げたクラブをフラットなプレーンに落としてからクラブを加速させています。そのプレーンに乗った直後、4コマ目のあたりでシャフトに最大の負荷がかかっていると分析します。切り返し直後に強い負荷をかけるスイングの場合は手元が硬いシャフトが合うケースが多いのですが、すべての人に当てはまるわけではないのがフィッティングの難しいところなんです
スイングの状態がどうなっているのかを説明しているところ。写真には写っていませんが、実際は現状のスイングを確認する際に弾道データを計測し、弾道データとスイング、そして実際の弾道すべてをチェックしたうえで説明するようにしています
ある程度上達してきた女性ゴルファーに多いのが、男性用クラブの純正モデルをそのまま使用しているケース。男性シニア向けのモデルであればそれほどズレていないスペックなのですが、長尺仕様のモデルが多く、そのまま使えば「当たれば飛ぶけれど安定して飛ばすのが難しいクラブ」になってしまいがちです。
スイングの傾向を含めた現状を把握したら、次はシャフトのブラインドテストを行います。シャフトの最大の役割は「スイングのリズムやタイミングを取りやすくすること」にあります。スイング中のタイミングはゴルファーそれぞれによって異なり、それが最も顕著なのが、トップからクラブを切り返すときです。この切り返すときにシャフトのどこがしなるかがタイミングの取りやすさに大きく関わっているんですよ。
ブラインドテストですが、やり方は簡単。重さ、長さ、フレックスが同じでしなる部分だけが異なる4本のシャフトを同じヘッドで順番に打ってもらい、弾道データを計測します。その弾道データと振ったときの振り心地を確認しながら、どれが一番タイミングを取りやすく狙った結果が打てるシャフトなのかを探していきます。
見た目では違いがわからない4本のシャフトを同一ヘッドで試打します
シャフトのしなりについて説明し……
打ってもらいます
4本を打ってもらい、弾道や計測データと本人の感想をもとにすると、米原さんは手元が硬く先端がしなる「先しなり」のシャフトが合うことがわかりました。
次に市販されているシャフトの中から診断結果に近いシャフトをいくつかピックアップし、それをまた試打してもらいます。
で、私がすすめたのは以下の4本。
■スピーダーエボリューションV(フジクラ)
先端側にしなりのピークがあり、ボールをつかまえる機能も大きいモデル
■ダイヤモンドスピーダー(フジクラ)
エボリューションV同様、先端側が大きくしなるが、つかまりをやや抑えたモデル
■バサラP(三菱ケミカル)
手元側もしなるがしなりのピークは中間やや先端側にあるモデルでシャキッとしていて当たり負けしにくい
■フブキV(三菱ケミカル)
先端寄りに重さを持たせ、当たり負けしにくいモデル。しなりのピークも先端寄り
先しなりのシャフト4モデルを私が選びました
ブラインドテストと同様、同ヘッド異シャフトの試打をし、振り心地と弾道データの両方をチェックしていきます
試打したフィーリングだけでなく数値でも確認できるので、ほとんどの方に納得していただけますね
で、フィッティングの結果、私がイチオシしたのが「バサラP」。まず振り心地の面では一番振りやすい、タイミングが合うとご本人もおっしゃっていましたし、数値を見てもばらつきが少なく安定して飛距離が出ていました。バサラPのシャキッとした特性とスイングとの相性がよかったようですね。
ちなみに一発の飛距離があったのはエボリューションV。飛距離だけを望むならコッチかもしれませんが、今後競技をやっていこうという目標があるなら、安定性も必要ですので。
タイミングの取りやすいシャフトが決まれば、後はどんな弾道を打ちたいかによってヘッドのモデルやスペックを絞っていきます
これがバサラP
米原さんは軽量で46インチの長尺モデルをもともとお使いで、しっかり振れるパワーは持っていました。そのパワーを生かすために、今より短い「45インチ程度」に仕上げつつ、かつ重めの「50g台」のシャフトを選ぶことで衝突力を高め、飛距離を維持しながら安定感を高める仕様がいいと判断しました。
これがフィッティングの一連の流れです。この結果をもとにFWやアイアンのシャフトなどを導き出し、流れのいいセッティングなどをアドバイスしています。
現状の彼女のクラブでは、長さがデメリットになってしまっている部分があるので少し短めに、その分の抵抗を減らさないようにやや重めのシャフトを採用するのがベターだと判断しました。
エンジョイゴルファーでプレーするなら今のクラブでもいいだとは思いますが、一打を争う競技に挑戦するのであれば、タイミングの取りやすく自分が求める結果の出やすいクラブをできるだけ早く手に入れて練習するほうが上達も早まりますよ! 合わないクラブで練習することは、そのクラブに「合わせて打つ」だけの練習になってしまいます。自分のスイングに合ったクラブはスコアを左右する大変重要なアイテムなんです。
今回の米原さんのドライバーフィッティングをまとめると以下のとおり。
男性用の「長め」のドライバーを使っており、当たれば飛ぶが、正確性に欠ける
↓
自分のスイングによりマッチしてしなるシャフトを選び、今よりも「短く・重く」組む。正確性をアップしながら、今まで長さで稼いでいた衝突エネルギーを重さで出力することで飛距離は落とさない
クラブメーカーの「純正モデル」は、多くの人にマッチするよう設計された「最大公約数的」スペックで、ゴルファー各人にとってベストなスペックを探っていくのがクラブフィッティングです。
「自分は下手だからフィッティングはまだ早い」という人がいますが、そんなことはありません。私は、たとえビギナーでもフェースにある程度当たるようになったらフィッティングを受けるべきだと思っています。長さ、重さ、硬さやしなるポイントを自分に合わせたクラブで練習すると、上達のスピードが圧倒的に違うんですよ。
フィッティングは、ゴルフショップやゴルフ工房、あるいはメーカー直営施設などで受けることができます。私が3メーカーのフィッティングを受けた記事がありますので、気になった方は参考にしてみてください。
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写真:中居中也