健康維持やダイエットを目的にジョギングやウォーキングを始めるならば、やっぱり専用シューズを選びたい。スニーカーであれば何でも大丈夫だろうと思いがちだが、さにあらず。たとえばバスケットボールシューズをベースにしたスニーカーは、ジャンプ動作やステップ動作には適しているものの、走り続ける・歩き続けることを想定して作られてはいない。ランニング用、ウォーキング用に設計されたシューズと比べれば、当然足への負担は大きくなるのだ。
ただ、そんなことは百も承知だけれど、続けられるかわからないのに専用シューズを買うのはハードルが高い……と考える人も多いだろう。できればタウンユースと兼用可能なジョギング&ウォーキングシューズが欲しい、というワガママも聞こえてくるが、そんな声に応え、長く支持されているのがニューバランスの「1080」だ。このシリーズはそもそも、日々のジョグ用や、完走を目指すレース用として多くのランナーに選ばれ続けるロングセラーなのだが、いっぽうで通勤用に履くシューズとしても高い人気を誇っている。走っても、歩いても快適な一足なのだ。
今回テストした「フレッシュフォーム エックス 1080 v14」(以下、「1080 v14」)は、定評のあるクッショニングはそのままに、走行安定性の向上を目指してアップデートが施されている。とはいえ、前作「フレッシュフォーム エックス1080 v13」(以下、「1080 v13」)から継続している部分も多い。
ニューバランス「フレッシュフォーム エックス 1080 v14(Fresh Foam X 1080 v14)」。公式サイト価格は19,800円(税込)。写真のカラーはネイビー(品番:M1080N14)
前回、v13で見直されたラスト(足型)はそのまま。長時間着用した際にも足にプレッシャーがかからないよう、クセを抑え、甲の部分に少しゆとりがある設計が採用されている。ミッドソールの素材も変わらず、「フレッシュフォーム エックス」が採用されている。ドロップ(爪先とかかとの高低差)も6mmのままだ(ちなみにv12は8mmだった)。
安定性向上のために施されたアップデートの1つが、ミッドソール形状の変更だ。中足部からかかと部にかけて、サイドウォールの高さが前作の約2倍になった。これによって、主に着地時のブレが抑制され、かかと周辺のフィット感、ホールド感も高まっている。
ミッドソールの素材は前作同様の「フレッシュフォーム エックス」。厚さも前作から変わっていない
ミッドソールが厚くなったように見えるのはサイドウォールが高くなったから。かかと周辺のホールド感が高まっている
アウトソールのパターンは、前作からガラリと変わっている。接地から蹴り出しまでの重心移動に注目し、重心がシューズの中央に集まるように設計されたのだという。アウトソールのかかと部外側には、耐久性にすぐれた「Nデュランス」を採用。また、中央部のラバーは外側のラバーとは素材が異なる。ぬめり感があり、より地面をとらえやすい素材にすることで、中央に重心が乗るのをサポートしてくれる。
アッパーには、環境に配慮したリサイクル素材のエンジニアードメッシュ(部位に応じてメッシュの孔の大きさを調整し通気性とサポート性を両立)を採用。前作のものよりも通気性と軽量性が向上している。
アウトソールパターンが変更され、重心がシューズの中央に集まるような構造に
アッパーは前作よりも通気性と軽量性が向上。ソフトなフィット感
シューズのアップデートは、クルマやデジタルガジェットと同じように、フルモデルチェンジ的な場合とマイナーチェンジ的な場合がある。ラスト(足型)や、ミッドソール素材が変更されたり、プレートが加えられたりすると、ライド感が大きく変わるため、フルモデルチェンジと表現されることが多い。いっぽう、アッパーのメッシュパターン、アウトソールのパターンの改良は、ライド感に大きな影響がないのでマイナーチェンジとされる。
前回のアップデートでラスト(足型)が変更していることもあり、今回のv13からv14へのアップデート(サイドウォールの高さも変わってはいるが、主な仕様変更はアッパーとアウトソール)は、マイナーチェンジなのだろうと筆者は考えていた。シューズの発表時に説明を聞いている段階でもそう思っていたのだが、実際にシューズに足を入れて歩いてみると、すぐにその予想をよい意味で覆された。
今回のアップデートでは、ドロップやトゥスプリング(爪先の反り上がりの傾斜)に変更がなく、プレートや硬度の違うフォーム素材を加えたわけでもない。アウトソールパターン変更のみでの重心移動のガイドは、感覚が繊細なランナーにしか伝わらないレベルなのかと想像していたのだが、筆者でも明らかにv13との違いがわかるほどのものだった。
サイドウォールが高くなったことによる左右のブレ軽減との相乗効果もあり、着地から蹴り出しまでの重心移動が安定して行える。走行安定性を目指したアップデートではあるものの、ウォーキングの速度でも十分にそれが体感できる。むしろ接地時間が長いウォーキングのほうが安定性の向上を感じやすい、という人もいるかもしれない。
重心が中央に寄るので、蹴り出し動作も安定して行え、地面からの反発を推進力へと変えやすい感覚も得られる。前作よりも前足部の底面積が広がったのではないか、と錯覚するほどだった。
歩き出すとすぐに安定性が高まったことが感じられる。アウトソールのパターン変更の効果がかなり大きいように思う
フカフカとしたクッション性が大きな魅力だった前作「1080 v13」。決してブレやグラつきが気になるわけではなかったが、クッショニングを押し出して感じやすくするようなバランスの設計ではあったように思う。
今回の「1080 v14」でのアップデートは、クッション性はそのままに、走行安定性の向上を目指したものだが、その試みは大成功だったと言えそうだ。
重心移動がとてもスムーズに行え、走りやすさも歩きやすさも、明らかに前作よりレベルアップしている。以前から「1080」を愛用しているという人も納得できるライド感のはずだ。
本作は、ランナーの日々のジョグを支えるデイリートレーナーとしてはもちろん、ウォーキングシューズとしても、通勤・タウンユース用のシューズ(オールブラックやオールホワイトといったカラーも展開されている)としても、大いに活躍してくれるだろう。