近年、メインバッグとして市民権を獲得したビジネスリュックは、多彩なモデルが登場しているが、その実力はいかほどか? 本連載「デキる人はこれを背負う!」では、スーツを着用して定期的にオフィスへと出勤しているビジネスパーソンの目線から、話題のモデルの実力を徹底検証していく。
リュックは、今やビジネスバッグの大本命!
今回取り上げるのは、エース「GADGETABLE(ガジェタブル) No.55533」。2018年6月に発売されて以来、常に売り上げランキングの上位に位置する人気作で、今やブランドを代表する看板モデルだ。
エース「ガジェタブル No.55533」(15L)。公式サイト価格は22,000円(税込)
改めて、本作について解説したい。
「エース(ace.)」は、国内にスーツケース工場を構えていることでも知られる屈指のバッグメーカー、エース社が展開するブランド。その中で生まれた「ガジェタブル」は、電車内など、混雑した場所での荷物の持ち方に着目してデザインされたシリーズだ。
以前、全国の私鉄が加盟する日本民営鉄道協会が発表した「2018年度 駅と電車内の迷惑行為ランキング」にて、「(背負ったリュックなどの)荷物の持ち方・置き方」が1位に躍り出たことを記憶している人も多いだろう。「ガジェタブル」は、こうした社会情勢をくんで生まれたシリーズであり、そのコンセプトや実用性の高さから「2019年度 グッドデザイン賞」にも輝いている。
まずは、今回取り上げる「ガジェタブル No.55533」の基本スペックから。
外寸は30(幅)×42(高さ)×10(奥行)cmで、容量は15L。縦横は標準的なサイズ感ながら、10cmという奥行は見た目にもスリムだ。外ポケットを多く備えながら飛び出た部分がなく、スッキリとしたスクエアフォルムにまとまっている。
外寸は30(幅)×42(高さ)×10(奥行)cm
重量は1040g。飛び抜けて軽いわけではないが、背負い心地はよく、背負ってみて重さが負担に感じることはなかった。
重量は1040gと標準的
生地は、強力糸ナイロンを使用した100デニールのツイル(デニムでも採用される綾織)タイプで、いやらしくない程度の光沢を放っている。撥水性を高めるテフロン加工も施されていて、さすがにゲリラ豪雨に遭ってしまうのはマズいが、小雨に降られる程度なら中まで濡れる心配は少なくて済む。
ナイロンツイル生地で、ほどよい光沢感がある
なお「ガジェタブル」は、今回紹介する15Lサイズの「No.55533」のほか、9Lサイズの「No.55531」、13Lサイズの「No.55532」、ショルダーストラップも付いた14Lサイズの「No.55534」、16Lサイズの「No.55535」がラインアップされている。
次に、収納性をチェック。
メイン収納は、両サイドにササマチが付いたラウンドファスナー仕様。パタパタとめくりながら目的の書類を探せるから便利だ。ボトルホルダーも装備。その内側には吸水速乾メッシュが使われており、水滴がほかの荷物に付着してしまうリスクを回避できる。
ササマチによって大きく開くメイン収納
メイン収納には、B4サイズの書類がしまえるファイルケースが収納できた。B4サイズの書類が入る角型0号(横28.7×縦38.2cm)のファイルケースも入ったが、こちらはあまりにもジャストサイズなので、いつの間にか角が曲がってしまうことがあるかもしれない。またB4サイズの荷物が多いと、ボトルホルダーの併用は難しそうだ。
メイン収納には、角型0号のファイルケースもギリギリ入れられる
スリムな2段式ランチボックスも収納できた。ただ、この場合、A4サイズ分の余剰スペースしかなくなり、さらにランチボックスの上に重ねる形になる。
2段式ランチボックス+A4サイズの書類
次にポケット類を見ていこう。
なお、以下に掲載する4点の俯瞰写真は、「写っているツールがすべて入る」のではなく、「こうした類のツールの収納に向いている」ことを示している。
ボトルホルダーも備えたメイン収納内の背面側
●大型ポケット(上の写真の青)
大事な書類のほか、片側がクッション性の高いバックパネルに面しているので、タブレットPCなどを入れておくのにも向いている。留め具は、ホックボタン付きストラップ。
●「2WAYスルーポケット-W」(上の写真の赤)
右側に配置されたボトルホルダー。ドリンクボトルやペットボトル、折りたたみ傘、ペンホルダーなどを入れておくのがいい。
メイン収納内の正面側には、3つの小型ポケットを配置
●ファスナーポケット(上の写真の青)
ファスナーで完全に閉じられるので、貴重品の収納に向く。マチがないため、かさばるものは入れられないが、歯ブラシや除菌ジェルなど、あまり人目に触れさせたくないものを入れておくのに適している。内寸は29(横)×19(縦)cmで、間口は25cm。
●メッシュポケット×2(上の写真の赤)
電卓やメモ帳、ポケットティッシュなどの小物の収納に向く。やわらかなメッシュ生地が使われていて、ほかの荷物と多少接触しても中身を保護できるため、マウスやピルケースなども気兼ねなく入れられる。留め具はなし。内寸は14.5(横)×13.5(縦)cmで、間口は14.5cm。
正面には3か所もの外ポケットがレイアウトされている
●ユーティリティポケット(上の写真の緑)
フロントトップに配置されたポケット。内部にパイル生地が敷かれているため、小キズがつきにくく、スマホやイヤホン、メガネなどの収納に向く。多少のマチがあるため、「アイコスケース」の収納も可能。留め具はファスナー。内寸は30(横)×11(縦)×3(厚さ)cmで、間口は21cm。
●ファスナーポケット(上の写真の青)
中央に配置。間口が広くて使いやすいものの、マチがないため長財布や文庫本、パスケースなどのフラットな小物の収納に向いている。留め具はファスナー。内寸は30(横)×17.5(縦)cmで、間口は25cm。
●「クイックラウンドポケット」(上の写真の赤)
右側面にあるL字ファスナーから開閉するポケット。かなり広々としていて、A5版のビジネス書や手帳、トラベルオーガナイザーなども余裕で入る。内寸は30(横)×30(縦)×2(厚さ)cmで、間口は22cm。
なお、「クイックラウンドポケット」の内部には、小型のファスナーポケットとペンホルダーも備わっている。
正面下部の「クイックラウンドポケット」内
背面側のPC収納部はL字ファスナーで大きく開口する
●PC収納部
L字ファスナーで開閉する背面のPC収納部には、15インチサイズの大型PCを収納可能。縦と横どちらからでもアクセスできる。留め具は、ファスナー&面ファスナー付きストラップ。
実際に使ってみて便利に感じたのが、やはり「ガジェタブル」のコンセプトでもある電車通勤のシーンだった。
前抱えスタイルが何とも快適なのだ。迷惑にならないようにと乗車時に始めたリュックの前抱えスタイルは、乗り換えの移動もそのままのスタイルでい続けたりするものだが、このモデルは自分の身体の前にすんなり落ち着いてくれる。パックパネル全体がやわらかなクッションパッドで覆われ、背中の形だけに特化していないから、身体の正面でもフィット感がいいようだ。
電車通勤時は、この前抱えスタイルが楽
10cmとスリムなマチ幅もいい。どう考えてもパーソナルスペース内だから、混雑時でもそう肩身の狭い思いをせずに済む。荷物の重さから、前のめりになる感覚もほとんどない。
マチ幅10cmだから、本人も周囲もジャマに感じにくい
また、正面に3つのポケットが用意されているので、必要なものをすぐに出し入れできるのも便利だ。上部のユーティリティポケットからスマホとイヤホンを取り出して車内で映画を鑑賞したり、下部の「クイックラウンドポケット」から手帳を出してスケジュールを確認したり……と、移動時に必要な大抵のツールは、これらにしまっておけるはずだ。もちろん、前抱え状態でもメイン収納へ難なくアクセスできる。
多彩なポケットで荷物を分類。通勤中も時間をムダにしない
使い勝手がいいから、駅から出た後も前抱えスタイルのままで移動したくなるほどだ。
前抱えスタイルの心地よさに感心しつつも、「ガジェタブル」はほかのスタイルでも快適だった。
特にすばらしいのが、「クイックラウンドポケット」の存在だ。
リュックは、両手を開けた状態で荷物を背負えて、負担感が少ないのが利点だが、いっぽうで荷物をすぐに取り出しにくいのが欠点だ。そのひとつの解決策となるのが、「クイックラウンドポケット」。背負った状態で左側のショルダーハーネスを肩から外し、リュック本体を背中から身体の正面へとスライドさせると、この「クイックラウンドポケット」が操作しやすい位置に来る仕組みだ。慣れれば2〜3秒で荷物を取り出せるようになり、出し入れのストレスが軽減する。
ハーネスを片方の肩にかけた状態で、グルンと本体を身体の前へ
ボトルホルダーの「2WAYスルーポケット-W」は、その名称のとおり、メイン収納内からでも、側面ファスナーからでも2WAYでアクセスできるようになっているのも面白い。外回り営業などで、のどの渇きを感じたらすぐに、側面からボトルを取り出せる。
ボトルは、内部からでも外部からでもアクセスできる
メイン収納は、リュック本体を縦位置で使うのが基準だが、両サイドに配置されたササマチは面ファスナーで着脱できる。さらに、ダブルファスナー仕様で間口も広いため、横位置でも問題なくアクセスできる。ただし、ボトルホルダーを活用している場合は、ボトルが少々ジャマになった。
ササマチ付きでガバッと開くメイン収納
ササマチは着脱できるので、外せば横方向からでもモノを出し入れできる
PCの取り出しも、縦と横どちらでもOKだ。大型PCの場合は、L字ファスナーを全開すると出し入れしやすい。
PCは縦と横どちらからでも出し入れが可能
また、ショルダーハーネスは内部に収納することが可能。こうすることで、ブリーフバッグのような手持ちスタイルへと変身する。
ストラップ末端のナスカンを外し、スリーブ内にハーネスを収納できる
手持ちハンドルは2か所に備わっているため、縦持ちと横持ちどちらでも利用できる。
縦持ちと横持ち、どちらでも手持ちできて便利
こうした自由度の高さは、気持ちがよく、効率的に仕事できそうだ。
上記2つのポイントのほかにも、随所からこだわりを感じられた。
たとえば、ショルダーハーネスは立体的な作りで、肩周りや身体側面に違和感なくフィットする。裏面にはメッシュが当てられており、ムレを抑制。特に首に近い部分は、表側もメッシュにすることで通気性を高めており、首への当たりも悪くない。特に、汗をかきがちな季節に効果を感じられるはずだ。
また、ホールド感を高めて肩からのずり落ちを防ぐチェストストラップも付いているので、自転車での通勤にも活躍する。
個人的にはハーネス上にDカンを設けているのも好印象だった。別で用意したスマホホルダーなどが装着できるからだ。
ショルダーハーネスはチェストストラップ付き
背面には、「キャリーバーとおし」が備わっており、トローリーケースの上にセットアップできる。これがあるのとないのとでは、出張時の快適性が大きく変わってくる。
トローリーケースにセットアップできる
メイン収納の底部には、およそ1cm厚のクッション芯材が入れられていることもバッグメーカーらしいこだわりと言えるだろう。さらに底面外側には底鋲も付いており、床に直置きしても衝撃が中まで響きにくくなっている。
底部にクッション芯材を配置し、外部からの衝撃を抑制
最後は、使ってみて少し気になった点に言及してみる。
これは趣味嗜好の話にはなるが、ずっと使っていると、デザインに物足りなさを感じてくることがあった。多くのビジネスパーソンが活用できるスタンダードモデルであり、どんなスーツスタイルにもマッチする汎用性の高さは魅力でもある。ブランドロゴは目立つ正面を避け、左側面に据えたのもこうした配慮からだろう。唯一のアクセントになりそうなファスナーの引き手は、鏡面仕上げではありつつも、表面にわずかなザラつきがあり、そこまでの主張はない。
高級感やステータス感など、バッグに装飾品としての役割を期待している人にとっては、その希望はあまりかなえられないかもしれない。とは言え、機能を徹底した末に生まれる「用の美」は全体に漂っているわけだが。
デザインはかなりのシンプルさ
見た目にちょっとした変化をつけたい人には、2021年1月下旬に新登場する派生シリーズ「ガジェタブル ヘザー」がいいかもしれない。生地は杢調(もくちょう)で適度なカジュアル感があるうえ、裏面をPVC加工したことで耐水性を獲得。黒い止水ファスナーにも機能美を感じる。
エース「ガジェタブル ヘザー No.62983」。公式サイト価格は24,200円(税込)
また注意しなければならないのが、荷重バランスだ。
バッグを知り尽くしたエースの製品なだけに、前後や上下の荷重バランスは徹底して計算されており、少ない負担感で荷物を持ち運べる。しかし、時に左右のバランスが崩れてしまうことがある。
ボトルホルダーは、本体の右側面に配置されていて、さらには側面ファスナーからも出し入れできるようにやや高い位置に吊られている。加えて、正面下部の「クイックラウンドポケット」の開口部も本体右側面にあり、荷物が開口部付近に集まりやすい。そうすると、右側に荷重が偏ってしまいかねない。
こうした課題は、ボトルホルダーを備えた製品すべてに言えることではある。バッグ中央にボトルホルダーをレイアウトしたリュックは、ほとんど例がない(トレイルランニング向けなど、飲み物をソフトボトルに入れるハイドレーションは別だが)。常日頃満杯にしたボトルを持ち運ぶ場合は、左右で荷重のバランスが取れるように配慮してパッキングしたいところだ。
重めのペットボトルを入れると、重心が右に傾く可能性も……
このほか、ペンホルダーは1個だけと割り切った作りで、仕分けポケットが集合したオーガナイザーパネルもない。ペンケースを常用している人はいいが、バッグに備え付けられたホルダーを活用したい人にとっては、不便に感じるかもしれない。
「電車通勤でジャマになりがち」、「今や手放せなくなったドリンクボトルがバッグの奥に寝転がりがち」、「ツールを素早く取り出せない」、「2WAYと言いながら結構使い方に制限があって実質1WAY」のような、ビジネスリュックにありがちな課題をひとつひとつていねいに解決していく。エース「ガジェタブル」は、そんなビジネスリュックの成長の過程を感じさせる、正統派で優秀なバッグだと感じた。
2020年に猛威を振るった新型コロナウイルスは、テレワーク推進による通勤者の減少や経済不安による購買欲の減退を招き、バッグ全体の売り上げを大きく落ち込ませた。それにもかかわらず、エースのビジネスリュックの販売数は同年5〜7月の前年同期比で1.2倍に拡大したという。テレワーク推進によってオフィスの大型ノートPCを持ち帰る必要性が生まれ、快適に持ち運べるものとして「ガジェタブル」が選ばれたようだ。この逆風の中で売り上げを伸ばしたという事実も、実力が認められた証(あかし)と言えるだろう。
今後テレワークが増加して電車利用者が減少すれば、現在の「ガジェタブル」の優位性は少しずつ薄らいでいくかもしれない。しかし、ビジネスリュックとしての優秀さは揺るがないし、「ニューノーマル」と呼ばれる時代になっても活躍するはずだ。
カバン、靴、時計、革小物など、男のライフスタイルを彩るに欠かせないモノに詳しいライター。時代を塗り替えるイノベーティブなテクノロジーやカルチャーにも目を向ける。