2023年11月10日、カシオのG-SHOCKから最上位シリーズ「MR-G」の最新モデル「MRG-B2000SG」が発売された。G-SHOCK40周年を記念して特別に制作された兜「衝撃丸 -皚(がい)-」をモチーフに、白糸威(しらいとおどし)や虎の前立(まえだて)を造形で表現している。世界限定700個を販売。
オリジナルの兜をモチーフとした「MR-G」の新作「MRG-B2000SG」
「MRG-B2000SG」の公式サイト価格は880,000円(税込)
まずは「MR-G」シリーズについて解説。
「MR-G」は、「究極のタフネスウオッチ」をコンセプトに最先端技術や熟練の金属加工技術を採り入れ、細部まで丹念に作り上げたG-SHOCKの最上位シリーズ。よりプレミアムなモデルを志向するなかで従来にない「壊れない金属製の時計」を目指し、1996年にメタルを使った「MRG-100」を発売したのがその原点だ。現在もハイエンドな機能性を搭載しつつも、近年では日本固有の技術や伝統に着想を求める傾向が強まり、戦国武将が身につけていた武具をモチーフにしたモデルも生み出されている。
今回の「MRG-B2000SG」は、ブランド創設40周年を記念して作られた兜「衝撃丸 -皚(がい)-」がモチーフ。これは、創業100年あまり続く老舗甲冑工房の四代目に当たる伝統工芸士・甲冑師の鈴甲子雄山氏と、日本を代表する金属工芸作家のひとり、小林正雄氏が手掛けたもので、金色の前立に立体的な虎が鎮座しているのが特徴だ。ちなみに、2020年にもオリジナルの兜として「衝撃丸」が制作され、そちらでは前立に龍が座し、やはり兜をモチーフとした限定モデル「MRG-B2000SH-5AJR」(完売)が発売された。この2刎(はね)で龍虎が出揃った形だ。
熟練の甲冑師がG-SHOCKのために手掛けた「衝撃丸 -皚(がい)-」
日本の伝統美が宿るという趣向を凝らした造形を見ていこう。
いちばん目を引くのがチタン製のベゼルだ。3時位置から7時位置にかけ、雌伏する虎の姿が彫り込まれている。手掛けたのは、前述の小林正雄氏。神社仏閣の金具の制作や文化財の復元などを手掛ける錺師(かざりし)で、彫金師としても活躍している人物だ。間近で見ればひと彫りひと彫りの力強さに感心し、虎の豊かな表情につい見惚れてしまう。
ベゼルに彫り込まれた虎の姿
そのほかの面は、鏨(たがね)で叩き、表面にまばらな点形状を作り出す石目を表現。それも、一定の間隔で使用する鏨の種類や打ち込む方向を変えることで柄のように見せ、これが虎の縞模様を連想させるという仕掛けだ。小林氏の彫金技術の精巧さに心打たれるとともに、すべてが一点モノだというところに所有者は格別な喜びを得られるに違いない。
鏨を打ち込んで表現した石目
多様な石目が虎の模様を表している
12時位置にあるG-SHOCKのネームにも石目が見える
ベゼル以外にも、きめ細やかな表現が尽くされている。
ベゼルを固定するビスには、ルビーがはめ込まれている。カッティングも加えられ、光を受けると美しい輝きを放つ。機械式ムーブメントの軸受にも使われるルビーは、「情熱」「勝利」といった石言葉も持っていることから、兜をモチーフにした今作にふさわしい宝石だ。
4つのビスに使われたルビー
ケースにもチタン素材が使われているが、深層硬化処理を行う際にあえて結晶模様を浮かび上がらせる技法を採用。それにより兜の色味を表現するとともに、無骨さを表現している。ひとつとして同じ表情を見せない結晶模様には、芸術性が宿っているように感じられる。
結晶模様を浮かび上がらせたチタンケース
ケースは直線的な造形で、キリッと勇ましい表情が戦におもむく武士の心意気を思わせる。
シャープなケースフォルム
ケースサイドも大いにこだわりを感じさせる場所だ。
プッシュボタンのない左上には、代わりにメタルプレートを設置。40周年記念モデルであることをさり気なく刻印している。
メタルプレートを設置した左上のケースサイド
最も頻繁に押すことになる左下のボタンは、横に2本の溝を入れたデザイン。
横に溝を入れた左下のボタン
いっぽう、LEDライトの点灯や一部モードの「決定」操作で用いる右上のボタンは、縦のライン。
縦にラインを入れた右上のボタン
そして右下のボタンにはゴールドに輝くリングもプラス。それぞれに異なる意匠をあしらい、こだわりの深さを見せつける。
ゴールドのリングを差し込んだ右下のボタン
また、右中央にはワールドタイムの設定に用いるリューズも設置。ねじ込み式だが、「MR-G」のロゴがしっかり正対した位置に止まるよう設計されているところもさすがだ。
ねじ込み式リューズを採用
バンドにはホワイトのフッ素ラバー製のデュラソフトバンドを採用。やわらかで着用感がよく、汚れもつきにくい素材だ。「ほかの色に染まらず己を貫く強い意志」という思いが込められた「白糸威」を見立てたもので、立体的な三ツ矢がモノグラムでレイアウトされている。
「白糸威」を見立てたラバーバンド
バックルはワンプッシュ三つ折れ式。凹凸する部分が少なく、スマートに着用できるのが利点だ。
着用感のいいワンプッシュ三つ折れ式バックル
最後に文字板のデザインを見ていこう。
文字板全体には、板状のパーツを組み合わせた威(おどし)を彷彿とさせる柄を表現。和の雰囲気を高めている。
和テイストを感じさせる文字板の模様
インデックスは、天面がゆるやかなカーブを描いているのが特徴。日本刀の反りを表現したもので、美しいエッジや曲面への挽き目加工にはカシオ山形のナノ加工技術が生かされている。
日本刀の反りを思わせるインデックスのフォルム
インデックスが並ぶ外周部には、扇のような山形の凹凸をリング状に配置。光の反射に応じて存在を感じるもので、奥ゆかしさの中に確かな美しさを味わえる。
扇のような凹凸を表現
さりげないポイントなのが、見返し部分に加えたメタリックなレッドカラーパーツだ。真正面からだとあまり意識しないが、傾けるとインデックスやインジケーターのリングにも色が映り込み、真紅の世界が拡大する。G-SHOCKのブランドカラーでもあり、戦国武士のたくましさを感じさせる色合いでもある。
見返しに設けたレッドカラーのパーツ
3時位置にはモードインジケーターを設置。中央には放射状の凹凸を、リングには挽き目加工を施すなど、やはり手が込んでいる。
細部にまで装飾されたモードインジケーター
7時位置にデュアルタイムを、10時位置に24時間表示を設置。多針仕様ながら視認性を確保し、さらに高級感を高めるディテールまで施している。
デュアルタイムや24時間表示も搭載
機能はストップウォッチ、タイマー、アラームといった基本のものに加え、デュアルタイムを搭載。Bluetoothでスマートフォンと連携できる機能も備える。
スマホとの連携が可能
アプリ「CASIO WATCHES」では、ほかの対応G-SHOCKと同様に各種操作をスマホから行ったり、ソーラーの発電状況を確認したりできる。特別なのは、一部の高級モデルに搭載されている「セルフチェック」が使えることだ。1日に1回、時計の各機能が正常に動いているかを自動で診断してくれるほか、手動でも実施でき、問題がないかを常に確認しておける。
「CASIO WATCHES」で実施できるセルフチェック機能
このほか「Premium Production Line生産証明書」も表示可能だ。「MR-G」のモデルには基盤にデジタルIDが書き込まれており、メーカーのサーバー上にある生産リストとの照合に合致すれば、この「証明書」と製造シリアルナンバーが表示される仕組み。“本物”であることをいつでも確認できる。
王侯貴族が愛用していた時代より、時計は実用性のほかに芸術性や希少性も求められる存在だ。すぐれた耐衝撃性を出発点としたG-SHOCKに対しても、ほかの高級ブランドと同様にそうした価値を期待する時計愛好家は少なくない。日本の技術や伝統美をテーマにした「MR-G」が海外を中心に好調な売れ行きを見せていることからも、その事実は明らかだ。
今作「MRG-B2000SG」が見せた芸術性は、相当な高さだ。虎が彫り込まれた特別なG-SHOCKの存在は、今後語り草になるはずだ。
【SPEC】
●ガラス:内面反射防止コーティングサファイアガラス
●防水性:20気圧防水
●ケース・ベゼル材質:チタン
●バンド材質:デュラソフトバンド(フッ素ラバー)
●ケースサイズ:54.7(横)×49.8(縦)×16.9(厚さ)mm
●重量:138g