「給料日まであと1週間だけど、お金がない」
「冠婚葬祭の急な出費でお金が必要」
こんなとき、皆さんはどこからお金を借りますか。銀行や消費者金融のカードローン、あるいはクレジットカードのキャッシングを利用しよう、という人もいるかもしれません。
参考:「急な出費で家計がピンチなときに。カードローンを安全に使うための4つのポイント」
実はもうひとつ、お金を借りる手段として「質屋」があります。
質屋は物品を担保にお金を貸す「庶民の金融」として、長年存在してきました。かつてほど、一般的な存在ではなくなりつつありますが、カードローンやキャッシングとは異なる以下のような特徴を持ち、使い方次第ではメリットを得ることができます。
【質屋を使う3つのメリット】
・信用情報に基づく「審査」をせず、信用情報機関に登録されないので借り入れの事実が漏れない
・借入期間中の「督促」「取り立て」がない
・3か月後までに返済できなければ、預けた品物の所有権を失う代わりに、返済も不要に
また後ほど説明しますが、利息を支払っていれば預けたモノを大切に保管してくれる、という点も人によってはメリットになるでしょう。
では、「急にお金が必要になった」ときに備えて知っておいて損はない、質屋の仕組みやお金の借り方、ほかの商品と比べたときのメリットとデメリットについて紹介していきます。
質屋の歴史は古く、700年以上前の鎌倉時代に誕生したとされ、小説や川柳にもたびたび登場してきます。しかし、近年は店舗数が減少。1950年代には全国で2万を超えた店舗数も、最近では約3,000店舗まで減っています。実際、価格.comマネー編集部のメンバーはもちろん、知り合いに聞いても、質屋を利用した人はいませんでした。
そこで、その実態を知るために、全国で質屋を展開する「大黒屋」に取材することに。「質六本木アマンド上店」を訪れ、入社15年目の飯村崇史店長に、質屋の仕組みや借りるまでの手順などをうかがいました。
笑顔での接客を心掛けているという「質六本木アマンド上店」の飯村崇史店長。これまでに、福岡店や仙台店、新宿店などで、質屋業務に携わってきた
――まずは、質屋のシステムを教えてください。
飯村店長:「質屋では、お客様の品物を担保に、お金を融資します。お客様が預けた品物は『質草(しちぐさ)』と呼ばれます。そして3か月後の返済期日までに、元金と利息を返済すれば、質草は返却されます。もし、返済できなければ『質流れ』と言って、質草の所有権は質屋に移ります」
――カードローンやクレジットカードのキャッシングなど、今は手軽にお金を借りられる手段が増えています。そんな中で、質屋を使うメリットはどこにあるのでしょう。
飯村店長:「最大のメリットは、『審査』と『督促』がないことだと思います。カードローンやキャッシングは、その人の過去の借り入れや延滞の有無など、信用情報機関に登録された情報を基に『審査』します。その結果次第で、借り入れ限度額や金利が決まり、場合によっては融資を断られることもあるでしょう。そして、お金を借りた記録は信用情報機関に記録され、住宅ローンなどを借りようとすると、金融機関はその記録をチェックします。
いっぽう、質屋では、借りに来た人の信用情報をチェックすることはないし、融資の記録や返済状況も他社と共有することはありません。あくまで、預けていただく品物を査定し、査定額の範囲内でお金を貸すだけです。
返済の督促もいたしませんので、ほかの人にお金を借りていることがわかってしまうことはありません。万が一返済ができなくても、預けた品物が『質流れ』になってしまうだけです」
――質屋でお金を借りたいとき、どのような流れになるのでしょうか?
飯村店長:「お金を借りる手順は以下のとおりです。
(1)質屋に品物を持ち込む
(2)担当者が品物を査定し、融資可能な金額を決定する
(3)利用者がこの金額に納得したら、預かり証である『質札(しちふだ)』とお金を借りる
以上の手続きにかかる時間は15分程度です」
――誰でも利用できるのでしょうか?
飯村店長:「大黒屋では、20歳以上の方なら誰でも利用できます。査定に費用はかからないので、査定額に納得がいかなければ、そのままお帰りいただいても問題ありません。手続きに必要なものは身分証明書のみです」
「質六本木アマンド上店」の店内。相談しやすい雰囲気作りのため、店内を明るくしているという
――――気になる金利はどのくらいなのでしょうか。
飯村店長:「大黒屋の場合、以下のとおりです。カードローンやキャッシングの金利は1年間にかかる『年利』で表記しますが、質屋は1か月間にかかる『月利』で表記するのが一般的です。ほかの金融機関でも同様でしょうが、融資額が大きくなるほど、金利は低くなります。
1000万円以上:0.95%
100万〜1000万円未満:1.25%
30万〜100万円:1.5%
10万円以上:5%
1万円以上:6%
1万円未満:8%
※2019年4月19日現在。30万円未満の金利は店舗により異なり、上記は『質六本木アマンド上店』での金利
※質屋を営業する際の規則を定めた「質屋営業法」では、利息の上限を「年利109.5%」としている
たとえば、4月1日に10万円借りて、5月1日に返済する場合、元金(10万円)と利息(10万×5%=5,000円)の合計10万5000円が必要になります。6月1日なら利息分が10,000円になるので返済総額は11万円、7月1日には利息分が15,000円になるので、返済総額は11万5000円となります。
ちなみに大黒屋では、1日目から1か月分の利息がかかりますので、4月1日の午前中に借りて、その日の夕方に返済する場合も、1か月分の利息がかかってきます」
来店客がスタッフとやり取りする「質六本木アマンド上店」のブース。同店にはブースが2つ設置されている
――質流れとなった商品はどうなるのですか?
飯村店長:「上記の例で言うと、7月1日までに元金と利息を返済しなければ、預けた品物は質流れとなってしまいます。質流れの品物は大黒屋の店舗で販売したり、業者同士のマーケットに出品したりします。質流れした品物は原則、取り戻すことはできません。大黒屋では通常『明日で質流れになってしまいます』とお客さんにお伝えはしていませんので、ご自身でスケジュール管理することが大事になってきます」
――質流れは避けたいけれど、元金は返済できない、というときはどうすればよいのでしょう?
飯村店長:「利息をお支払いいただければ、保管期間を延長することができます。上記の例で言えば、6月30日までに1か月分の利息5,000円をお支払いいただければ、保管期間は1か月間延びて、8月1日に延長されます。これを『利上げ』と言いますが、利上げは何度でもすることができるので、利息さえ支払えば長期間預けることも可能です」
――どういった方が利用されているのでしょうか?
飯村店長:「主婦の方が家計の足しに、サラリーマンが給料日まで乗り切るために利用するケースが一般的でしょうか。こうした方の借入額はだいたい10万円以内です。また、3月や9月の決算期には、自営業の方が事業資金にあてるために目立つようになります。
高額の借り入れをする方もいます。つい最近は個人投資家の方が、高級腕時計を質草に、お店のオープン直後に訪れて500万円借りていき、その日の夕方『プラスにできました』と返済しに来ました。
質屋はお金の使用目的を問わない、ということもメリットのひとつと言えると思います」
――ほかに、飯村さんが印象に残っている借り方はありますか?
飯村店長:「倉庫代わりに使う人もいます。練習を終えたバンドマンがギターを預けて、2万円を借りる、次の練習のときに引き取りに来る。六本木アマンド上店の場合、1か月で1,200円の金利(6%分)が発生しますが、倉庫代わりと考えて使っていただいているのだと思います」
傷の有無などをチェックし、真剣な表情で高級時計を査定する飯村店長
――どういった品物が質草になるのでしょう?
飯村店長:「市場で値段が付くものであれば、基本的にお預かりしています。多いのは、腕時計やジュエリーなどの貴金属、ブランドバックや財布、カメラやパソコンなどの電化製品を持ち込むお客さんが多いですね。これらの商品を『定価』『製造年』『人気商品なのかどうか』に加え、新品か中古品なのかといった『品物の状態』で査定額を決めていきます」
――査定額が高くなる質草はどんなものなのでしょう?
飯村店長:「価格が公表されている『金』や『高級時計』など、換金性が高い品物はしっかりとした値段を付けやすいですね。保証書や鑑定書など、付属品がそろっていれば、査定金額が高くなることもあります。
いっぽうで、シーズンごとに最新モデルを出す電化製品やブランド品は、思い切った査定額は出しづらくなります。たとえば、預けたときは『最新』モデルの電化製品だったとしても、質流れになる3か月後には新作が出ていて『型落ち』モデルになっているリスクを考えざるを得ないのです」
――質入れと買い取りの違いはなんでしょう?
飯村店長:「買い取りのほうが高い値段が付きやすく、質入れより買い取りのほうが2割増しぐらいの査定額になるケースが多くなります。たとえば、買取額が10万円の商品だった場合、質入れの査定額は8万円程度になることが一般的です。店頭では、両方の査定額をお伝えしているので、手放したくない品物であれば質入れを選び、より大きなお金が必要なときは買い取りを選ぶ、といった対応が可能になります」
――質屋を上手に使うポイントはありますか?
飯村店長:「いくつかあります。最初は質入れをしていたけど、『もっとお金が必要になった』という場合は買い取りに変更することが可能です。その場合は、買い取り金額から、元金とその時点までの利息を差し引いた金額をお渡しします。
また、貸し出し額が大きくなるほど、金利は低くなるので、利息の負担を減らしたいときは、質草を複数用意するのもひとつの方法です。たとえば、1個5万円の査定額だった場合、金利は6%ですが、同様の査定額の質草をもうひとつ用意し、10万円の借り入れになれば金利は5%に下がります。
借り入れをした後、元金全部は返済できなくても、一部でも返済すれば金利負担は軽くなります。たとえば、4月1日に10万円を借り入れ、5月1日までに5万円と利息の5,000円(5%分)を返済すれば、元金は5万円になるので、その後の金利負担は3,000円(6%分)になります。
質屋は若い人には、なじみがないかもしれませんが、急場をしのぐ際の選択肢のひとつになります。財布をなくしてしまい、帰りの交通費のために利用する、という方もいらっしゃいました。このような利用法も踏まえて、使ってもらえればと思います」
お金を借りる先として、候補にあがりにくくなってきた質屋ですが、ひとつの手段として、覚えておいて損はないでしょう。取材中も隣のブースを訪れた男性が、高級腕時計「ロレックス」を質草に100万円の融資を受けていました。来店から融資までの時間はわずか10分程度。即日融資が可能なカードローンもありますが、100万円もの大金を10分間の手続きで貸してくれ、信用情報機関に記録も残らない、というのは、ほかのローン商品にはない大きな特徴でしょう。
JR恵比寿駅近くにある創業65年目の「横倉屋」。右手には質草を預かる蔵も設置されている
また今回、大黒屋のような大手ではなく、個人で経営している質屋の実情はどうなっているのかを調べようと、JR恵比寿駅近くにある「横倉屋」にも話をうかがってきました。
横倉屋は1955年に創業し、今年で65年目。お店を切り盛りする番頭の男性によると、利用するのは近くのサラリーマンや主婦が多いとのこと。
金利(月利)は以下のとおりです。
3万円以下:8%
5万円以下:7%
10万円以下:6%
10万円超30万円以下:5%
30万円超100万円以下:4%
100万円超500万円以下:3%
500万円超1000万円以下:2%
1000万円超:1%
(2019年4月19日現在)
基本的なシステムは大手の大黒屋と変わりありませんでしたが、こちらは、3か月後の質流れになる直前には、利用者に連絡しそのことを伝えているそうです。
番頭の男性は、「宝飾品や高級時計などを持ち込んで、査定額に不満そうな方には、『ぜひ大手のお店で見てもらってきてください』と言うんです。そうしたお客さんも十中八九、うちに戻ってきます。うちで提示した査定額のほうが高いからなのでしょう」
伝統に裏付けられた“目利き力”に絶対の自信を持っていることが伝わってくるコメントでした。地域の質屋がたくましく生き残っている理由のひとつに、この“目利き力”があるのでしょう。
これまで紹介した内容を踏まえ、「質屋」「カードローン」「クレジットカードのキャッシング」の違いを、6つの視点でまとめました。
【担保】
・質屋:必要
・カードローン:原則不要
・キャッシング:原則不要
【信用情報機関】
・質屋:登録されない
・カードローン:登録される
・キャッシング:登録される
【金利(年利)】
・質屋:12%程度〜109.5%(条件次第)
・カードローン:3%程度〜20%(条件次第)
・キャッシング:15%程度〜20%(条件次第)
【融資の限度額】
・質屋:預ける品物の査定額次第(1000万円以上も可能)
・カードローン:10万〜1000万円程度(条件次第)
・キャッシング:10万〜100万円程度(条件次第)
【申し込み方法と融資のスピード】
・質屋:来店が必要。来店から最短15分程度
・カードローン:ネットですべて完結の場合も。即日融資も可能(条件次第)
・キャッシング:ネットですべて完結の場合も。即日融資も可能(条件次第)
【返済が遅れた場合】
・質屋:督促なし。3か月後までに返済しなければ、預けた品物の所有権を失う。
・カードローン:督促あり。遅延損害金が発生
・キャッシング:督促あり。遅延損害金が発生
このような特徴を踏まえると、質屋を利用するメリットのある人は
「査定額が付きやすい高価なアイテムを所有している」
「信用情報機関に借り入れの記録を残したくない」
「3か月以内に元金と利息を支払える見通しがある」
と言えそうです。
質屋の最大のメリットは「信用情報に傷が付かず」、「督促」もなくお金を借りられることです。いっぽうで、カードローンなどと比べて、金利が高いことは覚えておきましょう。カードローンに適用される「利息制限法」では、金利が「10万円未満:年利20%」「10万円以上100万円未満:年利18%」「100万円以上:年利15%」に制限されています。
これに対し、質屋を営業する際の規則を定めた「質屋営業法」では、「年利109.5%」が上限とされ、利息制限法より上限金利は高くなっています。こうした、ほかのお金を借りる手段との違いについても理解しつつ、急にお金が必要になったときに備えて、質屋の使い方を覚えておいて損はありません。
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