増やす
令和にブレイク。「日本資本主義の父」にお金の哲学を学ぼう

最強経済人 渋沢栄一が「お金を散ぜよ」と言った真意とは? 直系子孫に聞いた

諭吉から栄一へ。令和は渋沢栄一とともに幕を開けた

2021年のNHK大河ドラマ「青天を衝け(せいてんをつけ)」でその生涯が描かれ、2024年には新しい一万円札に肖像が使われる「渋沢栄一」。約100年前に活躍した経済人が、令和の訪れとともににわかに注目されています。なぜ今、渋沢栄一なのでしょうか?

主に明治に活躍した渋沢栄一。2024年にはこの顔が一万円札の「顔」になります(提供:渋沢史料館)

江戸時代末期から明治時代にかけて活躍した渋沢栄一。2024年にはこの顔が一万円札の「顔」になります(提供:渋沢史料館)

現代社会の土台を作った明治の”最強経済人”

本題に入る前に、まずは渋沢栄一が何を成し遂げた人なのかを共有します。筆者は他の媒体で歴史物を手がけることもあるのですが、恥ずかしながら渋沢栄一については「明治に活躍した経済人」ということ以外ほとんど知識がありませんでした。駆け足ですが、彼の人生と業績を5つのポイントにまとめてみます。

1. 埼玉県深谷市生まれ。わずか13歳で商才を発揮する早熟ぶり

幕末の1840年に現在の埼玉県深谷市に生まれた渋沢栄一。生家は畑作や養蚕(ようさん)、藍問屋を手がけていた農商家。なんと7歳で「論語」を読み、かつ剣道にも打ち込み文武両道を修めます。13歳で藍葉(あいば。染料の元になる葉のこと)の目利きになるほどの商才も見せたそうです。

2. 幕臣としてヨーロッパを視察。西洋の進んだ知識に触れる

縁あって一橋慶喜(ひとつばし・よしのぶ)の家臣に。領内貿易の合理化、有能な人材選びなどに力を発揮。慶喜が江戸幕府最後の15代将軍となり、渋沢も幕臣に。ヨーロッパ視察団に選ばれ、海外の最先端の知識を吸収。このときに西洋の合理的な金融システムに深く感銘を受けたことが後の活躍の土台になったそうです。

3. スーパー官僚として活躍。退職後33歳で日本初の銀行を設立

大政奉還後、明治新政府の役人になった渋沢。官僚として度量衡(どりょうこう。長さなどの物理単位)の統一、租税制度や郵便制度の導入など圧倒的な実績を残します。しかしほどなく大久保利通と衝突し官僚を辞職。民間の力で日本の活性化と発展を決意。彼が役人時代に立案した条例を基に日本初の「第一国立銀行(現・みずほ銀行)」が設立され総監役に就きます。

渋沢栄一が居を構えた東京都北区の「飛鳥山」に残る彼の銅像。彼の目に今の日本はどう映っているのか

渋沢栄一が居を構えた東京都北区の「飛鳥山」に残る彼の銅像。彼の目に今の日本はどう映っているのか

4. およそ500の企業の設立に関与。現代に残る企業も多数

渋沢栄一が創業に関わり、現在も残る大企業がとにかくすごい。東京電力、東京瓦斯(現・東京ガス)、帝国ホテル、王子製紙、札幌麦酒会社(現・サッポロビール)、帝国劇場(現・東宝)、東京貯蓄銀行(現・りそな銀行)、横浜正金銀行(現・三菱UFJ銀行)など、あげてもきりがありません。その数はおよそ500。現代社会でも重要なインフラを担っている企業が多数含まれています。

5. 念願だった理想の街として、田園調布を作り上げた

理想の街を作りたいという思いを抱き続けた渋沢栄一。78歳のとき「田園都市玉川台」の土地を購入。水道も電気も満足に引かれていなかった土地を整備し半分を住宅専用として分譲、残りの半分に商店街や学校を整備。日本で初めての計画された都市開発を実施。ちなみにこの時に栄一が設立した会社から、後の東急電鉄が生まれました。

――――

いかがでしょうか? 彼が手がけた領域があまりに広いので、リアルにそのすごさを実感するのはなかなか難しいかもしれませんが、「渋沢栄一がいなかったら今の私たちの生活はまったく違うものになっていた」ということは間違いないでしょう。

直系5代目の子孫、渋澤健さんに「渋沢栄一ブレイク」の理由を聞いてみた

前述のとおり、令和になって渋沢栄一の存在感が急速に高まっています。今このタイミングで、なぜ彼が注目されるのか? 特に1万円札の肖像に起用されたことには「これからの時代にふさわしいお金との付き合い方」のメッセージが込められているのではないかとも感じます。それを探るため、渋沢栄一から数えて直系5代目の玄孫(やしゃご)で、コモンズ投信株式会社・会長の渋澤健さんに「渋沢栄一に学ぶお金との付き合い方」をテーマにお話をうかがってみました。

渋澤健(しぶさわ・けん)さん。コモンズ投信株式会社 取締役会長。渋沢栄一から数えて5代目の玄孫。1961年生まれ。83年テキサス大学BS Chemical Engineering卒業 。84年財団法人日本国際交流センター入社。87年UCLA大学MBA経営大学院卒業。ファースト・ボストン証券会社入社。以後、JPモルガン銀行(東京)、ゴールドマン・サックス証券会社、ムーア・キャピタル・マネジメントなどを経て、2001年シブサワ・アンド・カンパニー(株)を創業。08年コモンズ投信株式会社を創業

一万円札の話は、最初冗談かと……

新元号「令和」が発表されて1週間が過ぎた2019年4月9日午前、麻生太郎財務大臣(当時)が紙幣の刷新を発表。そこで明らかになったのが、新しい一万円札の肖像として「渋沢栄一」が採用されることでした。

「私が知ったのは皆さんより少し遅いぐらいでした。実は前夜飲み会がありまして(笑)。発表当日の朝、出勤するときにスマホをチェックしていたら、知人から『渋沢栄一 一万円札 祝』なんてメッセージが送られてきたんです。イタズラかフェイクニュースの類かと思いましたが次々と同じ内容のメッセージが届いて私自身も初めて知った次第です。親族としてどういう心境かと問われたりもしましたが『ビックリした』というのがそのときの正直な感想ですね」(渋澤さん)

経済成長というソリューション

記事の冒頭で紹介したように、圧倒的な業績を残した経済人である渋沢栄一。彼が、今このタイミングで注目される理由はどこにあるのか? 渋澤さんはそれを解くカギに明治と令和の共通点をあげます。

「明治と令和には『変化』と『不安』という共通点があると思います。明治は265年間続いた幕藩体制が終わり、社会や世の中の仕組みや枠組みが大きく変わった時代です。当時の人々は『この先どうなるのか』という大きな不安も抱いたことでしょう。そんな状況の中、栄一は『未来のために日本を豊かにする』というソリューション(解決策)を提示し、実践した人物だったのだと思います。現在も少子高齢化や経済の停滞など社会の行く末が不透明です。先行きが見えず不安を感じている人も多くいると思います。『変化』と『不安』という明治に似た状況が、かつてソリューションを提供した栄一に視線が集まる一因ではないかと思います」(渋澤さん)

古い成功体験から、新しい成功体験へ

明治以後の日本の発展の礎を築いた渋沢栄一。日本はやがて高度経済成長からバブルに至る過程を経て、一時「ジャパンアズナンバーワン」と評されるほどの経済的な頂点を極めます。しかしその後、ご存じのとおり日本は経済的な停滞期に突入。いわゆる「失われた20年」を過ごすことに。

「バブルまでの日本の経済的成功は、いわば『古い成功体験』と言えるかもしれません。現在は、それまでとは違う『新しい成功体験』が求められています。渋沢栄一の講演録である『論語と算盤(そろばん)』を読むと、100年前の言葉を集めた本にもかかわらず、その言葉が少しも色あせていないことに気づきます。栄一の言葉や考えは『新しい成功体験』が求められる今の時代にこそマッチしているとすら感じます」(渋澤さん)

「お金儲け」と「社会貢献」。両方が大切

日本の「古い成功体験」の礎を築いた渋沢栄一が、現代に求められる「新しい成功体験」にもマッチする理由とは? 渋澤さんはそれを「2つの価値観の共存」と説明します。

「栄一は経済発展に尽くした人という印象が強いですが、いっぽうで『金儲けだけに走ってはいけない』と、『論語』にもとづく商業倫理を説いたことでも知られています。彼は約500の企業の設立に関わりましたが、その他にも教育・病院・養育・慈善活動で関わった機関が約600もあります。一橋大学、早稲田大学、東京女学館、日本女子大学、聖路加国際病院、日本赤十字社などその多くが現在も残っていますが、これこそ彼の『お金儲けをした人』以外の側面をよく表していると思います。そして彼がとてもモダンだと感じるのは、営利活動も決して否定しなかったことです。お金を稼ぐこと(算盤)と、社会的貢献(論語)は、どちらを欠いてもダメだと。『論語と算盤』の2つが揃うことで未来に進む両輪になるのだと主張しているわけです。エシカル消費、持続可能性など、ビジネスにも高い倫理観が求められる現代に近い考えを、100年前にすでに説いていました」(渋澤さん)

色あせることのない渋沢栄一の言葉が今注目がされています

色あせることのない渋沢栄一の言葉が今注目がされています

令和人の不安解消は「合本主義」にヒント

先日、2019年の出生数が90万人を割ったと一斉に報じられました。それを受けてSNSなどでは悲観的な反応も見られました。渋澤さんが話すとおり令和の今を生きる私たちには「このままでは日本の未来が貧しくなってしまう」という不安がぬぐえません。

「少子化の問題を解決するのはそう簡単ではないと思いますが、『日本をもう一度豊かにする』という意味では、栄一が提唱していた『合本主義』という考え方がヒントになると思います。彼は『日本資本主義の父』と呼ばれていますが、実は『資本主義』という言葉を使った形跡はないんです。栄一がよく口にしていたのは『合本主義』という言葉。これは『公益を追求するという使命や目的を達成するのに適した人材と資本を集め、事業を推進させるという考え方』を意味します。ここで言う『公益』とは、『皆のため』。つまり、国を豊かにするとうことです。限られた数の株主が会社を動かすのではなく、1人ひとりは小さくても、多くの株主が会社を運営することを栄一は主張しました。こうすることで会社が生む富を多くの人に分配でき、結果として国全体も富むと考えたのです。同時代に生きた三菱財閥の岩崎弥太郎は、才能ある者が経営と資本を支配することによって利益を上げる、という考えに近かったようですがそれとは対照的な考え方です。

実際、栄一自身が大株主になることを避けていたふしがあります。よく500社の会社の設立に関わったと表現されますが、彼自身が経営していたわけではないのがポイントです。会社が軌道に乗ったところで人に譲り、自分は次の会社に向けて動き出す。それを繰り返して経済活動を活性化させることに注力しました。富を囲い込むのではなく、皆が豊かになる道を選んだ。いわゆる財閥を作らなかったのも彼らしい点です」(渋澤さん)

銀行設立に込められた渋沢栄一の「お金の哲学」

「彼の考えがよく表れているのが、彼が作った第一国立銀行です。銀行は現代では当たり前の存在ですが、彼が作った当時はスタートアップのベンチャー企業。一体どういう存在で社会でどんな役割を果たすのか、それを理解する人は少なかったそうです。そこで栄一が使ったたとえがあります。

『銀行は太河のようなものである。銀行に集まってこない金は、溝に溜まってる水や、ポタポタと垂れる雫(しずく)と同じである。せっかく人を利し、国を富ませる能力があっても、その効力が表れない。お金は、より集まって太河となって流れたとき、大きな力が生まれる』

この考え方こそ栄一の根本です。個人や家族が持つお金は小さなもので、それだけだと効力が限られる。でも、小さなお金がたくさん集まることで社会を動かす力になる。これは前述の株式会社の考えにも通じますよね。これらの経済活動の集積が国力を高め、その結果として多くの人が健全に富を築き、その状態を永続させることができるというわけです」(渋澤さん)

「栄一が銀行を作ったのは、国民1人ひとりのお金を集め、”大河”のようにして社会を発展させるため」と渋澤さんは話します

「栄一が銀行を作ったのは、国民1人ひとりのお金を集め、”大河”のようにして社会を発展させるため」と渋澤さんは話します

よく集め、よく散ぜよ

「栄一には『能(よ)く集め、能(よく)く散ぜよ』というお金にまつわる言葉があります。銀行を作った栄一が『集めよ』と言うのは自然なことでしょう。そして『散ぜよ』というのは、先ほどの『大河』の話のように社会のためになる使い方をしなさいということを意味します。これは現代日本でも意味のある言葉だと思います。よく日本には資源がないと言われますが、私はそれは間違いだと思います。日本では使われていないタンス現金が推定で50兆円ほどあると言われています。家計の預貯金の全体は約970兆円(日銀調査2018より)。これら莫大な金額が、集められたまま眠っている。これらは活用されていない資源と言えます」(渋澤さん)

「経済成長」の重要性は明治も今も変わらない

将来に不安を感じれば感じるほど守りに入ってしまうのは人間の性です。生活防衛のためにお金を貯め込んでしまうのも仕方がない面があります。しかし、それによって社会が動かず、経済が成長しないとなれば、結果的に私たち全員がマイナスをこうむってしまう。その意味で日本人はすでに十分すぎるほど「よく集めた」状態と言えるのかも……。

「この眠っている資源を『散ずる』ことで社会にお金が循環し、日本経済が再び成長するエネルギーとなります。そこで注目してもらいたいのが投資や寄付、クラウドファンディングなど社会にお金を循環させる仕組みです。銀行の役割はお金が余っている人と、お金が足りない人や企業をマッチングさせることですよね? しかしお金を出す側の『意志』をどう反映させるかが今の時代は重要で、その意味で銀行の機能だけでは不十分です。そこでたとえば少額でいいので、『有望だな』と考える分野に投資をしてみたり、クラウドファンディングや寄付という形で自分の意志や考えをお金に乗せて社会に循環させると考えてみてはいかがでしょうか? それが、令和流の『よく散ずる』ことではないかと私は思います」(渋澤さん)

取材後記:お金に自分の意思を乗せてみる

飛鳥山の最寄りのJR王子駅には新一万円札肖像採用を祝う掲示物がたくさん。2020年には飛鳥山にある「渋沢史料館」もリニューアルされますます盛り上がりそうです

飛鳥山の最寄りのJR王子駅には新一万円札肖像採用を祝う掲示物がたくさん。2020年には飛鳥山にある「渋沢史料館」もリニューアルされますます盛り上がりそうです

自分が受けてきた「お金の教育」を振り返ってみると、私たちは「お金の貯め方」は小さな頃から親や教師に繰り返し教わりますが、「貯めたお金を社会全体のために使う」ことについては教わる機会は乏しかったように思います。

それが、現在多くの人が抱えている「将来の不安」の解決に直結するとは必ずしも言い切れないかもしれませんが、状況を少しでも変えたいなら、たとえ額は小さくとも「お金の使い方」を変えていく必要性はあるのではないかと今回の取材で感じました。読者の皆さんにもこの記事がなにかしら良い刺激になれば幸いです。

「お金に自分の意志を乗せる」か……。ちょっと先になりますが栄一さんの一万円札を手に、私もじっくり考えてみたいと思います!

※本記事は、取材者及び執筆者個人の見解です。
佐野裕

佐野裕

フリーランスのライター。マネー誌、ビジネス誌などで一般ビジネスパーソンから著名人までを多数取材。ビジネス、自己啓発、副業、歴史など幅広いジャンルで記事を執筆している。「活字で活力を与えたい」と日夜奮闘中。

記事で紹介した製品・サービスなどの詳細をチェック
ご利用上の注意
  • 本記事は情報の提供を目的としています。本記事は、特定の保険商品や金融商品の売買、投資等の勧誘を目的としたものではありません。本記事の内容及び本記事にてご紹介する商品のご購入、取引条件の詳細等については、利用者ご自身で、各商品の販売者、取扱業者等に直接お問い合わせください。
  • 当社は本記事にて紹介する商品、取引等に関し、何ら当事者または代理人となるものではなく、利用者及び各事業者のいずれに対しても、契約締結の代理、媒介、斡旋等を行いません。したがって、利用者と各事業者との契約の成否、内容または履行等に関し、当社は一切責任を負わないものとします。
  • 当社は、本記事において提供する情報の内容の正確性・妥当性・適法性・目的適合性その他のあらゆる事項について保証せず、利用者がこれらの情報に関連し損害を被った場合にも一切の責任を負わないものとします。
  • 本記事には、他社・他の機関のサイトへのリンクが設置される場合がありますが、当社はこれらリンク先サイトの内容について一切関知せず、何らの責任を負わないものとします。
  • 本記事のご利用に当たっては上記注意事項をご了承いただくほか、価格.comサイト利用規約(http://help.kakaku.com/kiyaku_site.html)にご同意いただいたものとします。
関連記事
価格.comマガジン タイムセール
投資・資産運用のその他のカテゴリー
「価格.comマガジン」プレゼントマンデー
ページトップへ戻る