みなさんこんにちは。「株主総会お土産日記」というブログを書いている個人投資家の「まる子」と申します。私の株式投資歴は20年以上。配当や株主優待など、株式投資の魅力はたくさんありますが、その中でも大きな楽しみになっているのが15年ほど前から始めた株主総会への参加です。私は現在、年間150社ほどの株主総会に参加しています。その理由は単純におもしろいから。もらってうれしいお土産はもちろん、株主総会の前後に行われるイベントなども充実。そしてなにより、顧客として商品やサービスを利用するだけでは見えてこない、その会社の個性を感じられる貴重な機会だと感じています。この記事では、株主総会の魅力をさまざまな角度からお伝えします。
株主だけが参加できるライブもある⁉(画像はイメージです)
●株主総会について
役員選出など経営に関わる重要事項を決める会議が株主総会です。議決権を持つ株主に参加する権利があり、議案に対して賛否を投票し、多数決で決定していきます。1年に1回、決算月から3か月以内に開催が決められているものを「定期総会」と言い、必要に応じて行われるものを「臨時総会」と言います。この記事では、定期総会(以後、株主総会)を対象に話を進めていきます。
●この記事の楽しみ方
・記事の中に登場する企業名の後ろのカッコ内4桁の数字は、その企業の証券コードです。
・記事の最後に、記事中に登場する企業の「2020年1月21日時点の株価の終値」「単元株」「取得金額の目安」「決算月」を一覧にしてあります。気になる企業があったらぜひチェックしてみてください。
まずは、株主総会のお土産からお話します。株主総会の開催がピークを迎える6月、東京駅や品川駅の近辺に広がる光景はすごいですよ! いかにも株主総会を「はしご」してきた風(ふう)の人が、たくさんの紙袋を抱えている姿に出会います。
お土産が充実しているのは、やはりBtoCの企業です。たとえば、日清製粉グループ本社(2002 ※証券コード。以下同)であればパスタ、そうめんなどの麺類や、ホットケーキミックスなどの自社製品がもらえます。日清オイリオグループ(2602)ならオリーブ油やごま油などの食用油などですね。
小麦由来の自社製品が充実した日清製粉グループ本社の2019年株主総会のお土産(ブログ「株主総会お土産日記」より)
個人的にもらってうれしいお土産のトップは、業務用のコーヒーやお茶を手がけているダイオーズ(4653)です。ここはボリュームがすごくて、なんと200杯分のコーヒーの粉がもらえます。ちなみに、ダイオーズの株主優待に目を移すと、300株保有で「コーヒー100杯分の粉」がもらえます。同社の株の売買単位(編集部注・株を売買する際の最低の株数のことで「単元」と言う。単元は企業によって異なる)は100株で、株主総会への参加は100株=1議席あればOK。したがって、優待をもらうより株主総会のお土産をもらうほうが断然お得です。お土産は株主総会を最後まで聞いた人しかもらえません。株主総会の出席表に付いている引換券を、株主総会終了後に会場出口の回収箱に入れる仕組みになっています。このあたりの対応は企業によって異なっていて、受付と同時にお土産がもらえてそのまま帰ってしまってもいいという企業もあります。
ちょっと変わり種のお土産では、会社法、会計、税務などの専門書籍を出版している出版社の中央経済社ホールディングス(9476)があげられます。お土産は2つあって、まずは地方の銘菓。昨年2019年は福井県の和菓子店「村中甘泉堂」の羽二重餅をいただきました。もうひとつが「同社の書籍を5冊まで持って帰っていい 」というもの。普段なかなか手にすることのないジャンルの本が多く、毎年興味深く選ばせてもらっています。自社製品のないBtoBの企業の場合はカタログギフトや有名店の銘菓などが定番ですね。
コーヒーの粉がもらえるダイオーズの2019年株主総会のお土産(ブログ「株主総会お土産日記」より)
実は、近年、株主総会をやめる企業が増えていて(理由は次のパラグラフで説明します)、それによって同じ業種の企業の間で、お土産の有無が分かれるケースも少なくありません。たとえばアサヒグループホールディングス(2502)、キリンホールディングス(2503)、サッポロホールディングス(2501)のビール大手3社。昔は3社ともお土産がもらえましたが、まずサッポロがお土産をやめてしまいました。続いてキリンが、株式の売買単位を1,000株から100株に変更した影響で株主総会の参加者が増えすぎてしまい、その余波でお土産をとりやめに。ではアサヒはどうかと言うと、現在も続けています。「サッポロ、キリンがやめてもうちはやる」と、アサヒが考えたかどうかは定かではありませんが、ビール大手のライバル関係が透けて見えるような気がして興味深いです。
アサヒグループホールディングスの2019年株主総会のお土産は自社製品の詰め合わせ(ブログ「株主総会お土産日記」より)
ここで簡単に株主総会の変化について説明したいと思います。みなさんは「しゃんしゃん総会」という言葉を聞いたことがあるでしょうか? ひと昔前によく使われていた言葉で、特に議論や質疑応答がなく短時間で終わる株主総会のことを意味します。当時はしゃんしゃん総会こそよい株主総会だと考えられていました。それを妨害する「総会屋」の存在が取り沙汰されていたのを覚えている人もいるのではないでしょうか。
その後、個人株主を増やそうという動きが国内で出てきたのにともなって、株主総会に変化が訪れます。具体的には株主総会の前後に、事業内容について詳しく説明する「事業報告会」(「見せ方」が工夫された楽しめるものも多いです)や、簡単な飲食付きで出席者や社員が語り合う「懇親会」などを開催する企業が増えたり、あるいは前出の「お土産」が豪華になったりといった具合に、出席者を「飽きさせない」「楽しませる」といった工夫がなされるようになりました。
こうした株主総会の盛り上がりは、今から3〜5年くらい前にピークを迎えます。SNSなどでもその様子が拡散するようになり、出席者が増えすぎてしまう企業が続出。株主総会の運営が企業にとって無視できない負担になってしまうところも出てきました。私もある会社の総務の方に「お土産用に用意した銘菓を、紙袋にひとつずつ入れるマンパワーが大変」という話を聞いたことがあります。これに加えて「株主の公平」という考えも強くなってきました。つまり、株主総会に参加できる人と参加できない人の間に不公平感があってはいけないという考え方です。それもあって近年は、前出のキリンのように「お土産なしで株主総会だけをシンプルに行う」あるいは「懇親会をとりやめる」といった企業も増えています。
一般的に、株主総会に参加する株主の数は1〜3%程度と言われていますが、これはお土産や懇親会の有無にどうしても左右されます。私が実際に経験したのが不動産情報サイトの運営などを手がけるLIFULL(2120)の株主総会です。同社は2018年までお土産と株主総会後の懇親会があり、その際は150人ほどの株主が参加していました。LIFULLの株主は約6,000人いますので参加率は2.5%程度になります。ところが2019年にお土産と懇親会がとりやめに。その代わりに「総会が終わった後に事業説明会をやります」と株主総会招集通知(株主総会の日の2週間前までに議決権を持つ株主に発送される書類)には書いてあったものの……、蓋を開けてみると参加者は約30人と少々寂しい結果でした。
LIFULLの2019年株主総会の株主総会招集通知。「お知らせ」の項に、懇親会とお土産の中止が記載されています(画像はLIFULL公式サイトより)
株主が「お土産がないなら株主総会には出席しない」と考えるのは致し方ない面があります。しかし、株主総会にはその場に行かないと体験できない魅力もたくさんあります。より厳密に言うなら、オフィシャルな場としての株主総会の前後に行われる「事業報告会」や、「懇親会」などのイベントに各社は工夫をこらします。このパラグラフではそんなちょっと”通な”株主総会の魅力を紹介したいと思います。
株主総会の前後にイベントを開催する企業は少なくありません。たとえば芸能事務所のアミューズ(4301)。こちらは、総会の後に所属アーティストたちのライブが行われることで知られています。私が行ったときも原由子(はらゆうこ)さんの歌声を聞くことができましたし、私が知るかぎりではデビュー間もないBABYMETAL(ベビーメタル)や、Perfume(パフューム)が登場したり、10年以上前には福山雅治さんが登場したりしたこともあるそうで、大変豪華な顔ぶれとなっています。同様に、エイベックス(7860)もさいたまスーパーアリーナなどの立派な会場を借り切って株主向けのライブを行っています。いずれも週末の午後の開催で、会社員の方でも参加しやすいよう配慮がなされているようです。このほか、ぴあ(4337)の場合は、昨年2019年は株主総会の後に、同社が主催するPFF(ぴあフィルムフェスティバル)の受賞作品が上映されました。
イベントとは違いますが、世界的な企業の経営者を間近に見られるのも株主総会の楽しみです。私は、個人的にマシーンやロボットなどが好きなこともありホンダ(7267)の株主総会を楽しみにしています。2019年の株主総会ではまず、こった映像とナレーションで作られた映画顔負けの事業報告が行われた後に、ヘッドセットを付けた八郷隆弘(はちごうたかひろ)社長が登場。そのプレゼンスキルはさすがのひと言でした。ジェスチャーや目線、話し方などがしっかり訓練されており、思わず「ほー」と見入ってしまったほど。立ち居振る舞いもとても堂に入っていました。メディア関係の方ならともかく、一般の人が経営者のプレゼンに触れる機会はありませんので、これも株主ならではの楽しみだと思います。
経営者のプレゼンは一見の価値あり(画像はイメージです)
ちょっと変わった楽しみ方になりますが、参加している株主に注目してみるのも楽しいですよ。たとえばアニメ「攻殻機動隊」などを手がけているプロダクションI.Gという会社がありますが、その持ち株会社であるIGポート(3791)はその好例です。こういったコンテンツ系の会社の場合、その会社の作品が好きな人が株主として総会に参加する傾向があります。質疑応答でも作品やグッズ展開などについて、とても「濃い」質問が飛び交います。私などが聞いてもその内容を十分には理解できないのですが、ファンの方の間では重要な質問なのであろうことは伝わってきます。またファンの方にとっては「あの作品のクリエイターが、会社ではお偉いさんなのか!」というような意外な発見もあるようです。ちなみにIGポートの代表は著名なアニメプロデューサーの石川光久さん(「攻殻機動隊」「新世紀エヴァンゲリオン劇場版」「進撃の巨人」など)が務めていらっしゃいます。バンダイナムコ(7832)などの大手の株主総会にも似たような傾向がありますね。
参加者に特徴がある企業としては、ほかにほぼ日(3560)があります。ほぼ日代表の糸井重里さんが好きな方が集まっている印象で、株主総会の前にクリエイターの方と糸井さんとの対談があったり、株主総会の後にはシェイクスピアの講座があったりと「文科系」のイベントが充実しています。
コンテンツ系の会社では、作品のファンから質問が飛ぶことも(画像はイメージです)
各企業の株主総会の情報を調べる方法ですが、お土産については年に4回発行されている「会社四季報」(東洋経済新報社)が参考になります。編集部は各企業にお土産の動向について取材しているようで、その情報が四季報にも掲載されています。ただし内容がわかるのはあくまで「前年の株主総会」。次もお土産がある保障はありません。「行ってみないとわからない」のを楽しむぐらいの心の余裕があったほうがいいかもしれませんね。イベントの内容を事前に知るのは難しそうですが、アミューズやほぼ日では、過去のイベント内容をホームページで紹介しています。
最後に、私なりの株主総会の楽しみ方についてご紹介します。もし株主総会に興味がわいてきた方は、ぜひ、同じ会社に何年か通ってみることをおすすめします。株主総会では、社員の方との距離感が近く、通ううちに企業の”中の人”と顔見知りになるというケースもあるからです。
私が好きで何年も株主総会に参加しているのがサニーサイドアップグループ(2180)です。PR業・販促業を中心にスポーツ選手のマネジメントでも有名で、元サッカー日本代表の中田英寿さんのマネジメント会社としても知られています。同社は株主総会で事業報告会を開くのですが、PR会社らしく作りがこっています。昨年2019年は架空の報道番組「News32(サニー)」で、代表の次原悦子さんがニュースキャスターになりきって会社の業績を報じていく、という体の映像作品が流れました。大変おもしろい内容で、会の後に会場ロビーで次原さんにあいさつしたり、顔見知りの社員の方とひとしきり盛り上がったりしました。私にとって同社の株主総会に出ることは年に1度の恒例行事のようになっています。
株主総会の会場ロビーでは、社員の方に気軽に話しかけられる雰囲気があります。たとえば前出のホンダの場合、最新の車種などがロビーに展示されていて、近くにいる社員の方に「この商品は何ですか?」と話しかけると、開発担当の方を連れてきてくれ一生懸命に説明してくれます。顧客として会社と接するとどうしても「客と売り手」という関係性になりますが、「株主と社員」という関係性には独特の距離感の近さがあるように思います。
ホンダの2019年株主総会の会場ロビーでは、試乗会にも出ていない最新のNBOX(当時)が展示されていました(ブログ「株主総会お土産日記」より)
日本には上場企業が3,000以上も存在します。当然、企業によって個性はさまざま。株主総会は各企業の個性とじかに触れられる数少ない機会だと思います。その意味で、私は就職活動中の方に株主総会に目を受けてもらうといいと思っています。会社のカラーや社員の雰囲気がすごくよくわかります。もちろん会の運営がイマイチだったり、受付の対応に違和感があったりと時にはマイナス面を発見してしまう場合もあるかもしれませんが、これも貴重な情報になるはずです。もちろん、就職活動中じゃない人にも気軽に株主総会に参加してもらいたいと思います。きっと、お目当ての企業との距離がぐっと縮まると思いますよ。
(聞き手:価格.comマネー編集部 野 洋介)
株主総会に参加するにはお目当ての企業の株主になることが先決です。そして、株主になるには証券会社を通じてその会社の株を購入する必要があります。証券会社の口座を持っていない人は、証券会社の口座を開設することが第一歩になります。
次に、株主総会に参加したい企業の決算月にご注目。株主総会に出席するには、決算月の時点で株主になっている必要があります。また、株主総会の議決権は1単元=1議席なので、最低でも1単元(100株、1,000株など企業によって異なります)の株を持っている必要があります。つまり、1株あたりの株価×単元株数が株主総会に参加するのに必要な金額ということになります。株主総会は決算から3か月以内に開催される決まりです。日本の企業には3月決算の企業が多いため、6月に多くの株主総会が開かれますが、下記の一覧のとおり最近は決算月が分散する傾向にあります。開催日が近づくと株主総会招集通知書が送られてきますので、同封されている議決権行使書を持って行くと、株主総会の会場に入ることができます。
※企業名(証券コード)/2020年1月20日の株価終値/単元株数/取得目安金額(株価×単元株数)/決算月
◆日清製粉グループ本社(2002)/1,868円/100株/186,800円/3月末日
◆日清オイリオグループ(2602)/3,785円/100株/378,500円/3月末日
◆ダイオーズ(4653)/1,388円/100株/138,800円/3月末日
◆中央経済社ホールディングス(9476)/528円/100株/52,800円/9月末日
◆アサヒグループホールディングス(2502)/4,997円/100株/499,700円/12月末日
◆キリンホールディングス(2503)/2,464.5円/100株/246,450円/12月末日
◆サッポロホールディングス(2501)/2,616円/100株/261,600円/12月末日
◆LIFULL(2120)/544円/100株/54,400円/9月末日
◆アミューズ(4301)/3,015円/100株/301,500円/3月末日
◆エイベックス(7860)/1,269円/100株/126,900円/3月末日
◆ぴあ(4337)/4,630円/100株/463,000円/3月末日
◆ホンダ(7267)/3,066円/100株/306,600円/3月末日
◆IGポート(3791)/1,979円//100株/197,900円/5月末
◆バンダイナムコ(7832)/6,471円/100株/647,100円/3月末日
◆ほぼ日(3560)/5,050円/100株/505,000円/8月末日
◆サニーサイドアップグループ(2180)/1,164円/100株/116,400円/6月末日
※本記事は取材者の見解であり、特定の銘柄を推奨するものではありません。
短大卒業後大手企業に就職し社内恋愛で寿退社。会社員時代に始めた株式投資で優待の魅力にハマり数百銘柄の優待銘柄を運用中。株主総会にも年間150回以上参加しブログ「株主総会お土産日記」でその活動を公開。