最近、「投げ銭」という言葉をちょくちょく耳にすると思いませんか? もともとは、路上での大道芸やミュージシャンのパフォーマンスに対して、「おひねり(チップ)」を投げ入れる行為を指す言葉ですが、最近はネット上での投げ銭も盛んです。特に、新型コロナウイルスの感染拡大以降は、エンタメ業界やスポーツイベントなども活用を始め、すそ野が急速に広がりつつあります。
ネット上の投げ銭とはどんな仕組みで、どのように活用されているのか? これまで投げ銭とは無縁だったアラフォーのマネー記者が、その世界をのぞいてみました。記事の前半ではコロナ禍での活用例を紹介。記事後半ではメジャーな投げ銭プラットフォームを紹介します。
筆者も、応援しているJリーグチームに「1,000円」を投げ銭してみました(スマホの画像は「Player!」の投げ銭画面)
「ネット上の投げ銭」(以下、本稿では「投げ銭」)とは、ざっくり表現すると「ネット上のコンテンツ(主にライブ配信)に対して視聴者がオンラインで送金すること」と言えます。これまでも、動画上で広告を配信して、それが配信者の収益になるシステムがありました。投げ銭の場合は、コンテンツに対してリアルタイムでお金を送金でき、それが配信者の利益になる点がポイントで、支援や応援の気持ちをよりダイレクトに表現できるのが特徴です。
投げ銭には、動画配信サービスに設けられた「投げ銭機能」(機能名はサービスによってなります)や、投げ銭機能に特化したWebサービスやアプリを用います。これらは、「投げ銭プラットフォーム」と総称されることもあります。現在、投げ銭プラットフォームは多数存在しており、プラットフォームによって、リーチしやすいユーザー層や得意とするコンテンツが微妙に異なります。
投げ銭を行う方法ですが、基本は視聴者がプラットフォームにクレジットカードなどの支払い手段を登録し、そこから引き落とされる形です。視聴者から投じられた投げ銭のうち、何割かが投げ銭プラットフォーム側に入り、残りが配信者の収入になります。
筆者が投げ銭の存在を初めて身近に感じたのは、趣味のサッカー観戦がきっかけでした。サッカープロリーグの「Jリーグ」は、新型コロナウイルスの影響で、2020年2月下旬に今年のリーグ戦が開幕した直後に中断。7月に再開したものの、現在もスタジアムの観客数を5,000人までとする制限の中で試合が行われています(2020年9月18日時点)。
当然、入場料収入にも大きな影響が出ます。たとえば、筆者が応援している「浦和レッズ」の場合、昨年の1試合あたりの平均観客数は3万4,184人。単純計算で、1試合あたり約29,000人の観客が減少していることになります。チームの収入はこれ以外にも「広告収入」や「放映権料の分配金」などがあるわけですが、チームの経営に大きな影響が出ることは必至。実際、浦和レッズは2020年6月の段階で、今年度の赤字を10億円程度と見込んでいると発表しました。その額の大きさに、応援している人間のひとりとしてショックを受けた記憶があります。
そんな中、浦和レッズは、投げ銭プラットフォームのひとつ「Player!」を使ってファンが課金できる仕組みを導入しました。「オンラインギフティングイベント」と題し、実際の試合が行われている時間に合わせて、Player!上で元選手などが試合のトーク解説を配信。ファンはそれを聞きながら投げ銭ができる仕組みです(Player!上では映像配信がないため、試合の映像を見たいファンは別途ネット配信映像などを見る形)。Player!上ではチャット形式でファンの書き込みがリアルタイムで表示されるのですが、投げ銭があると、その金額がメッセージとともにチャット上に表示されます。
チャット上に応援コメントとともに投げ銭金額が表示されます(赤枠内が筆者の投げ銭)。なんとなく、ほかのファンの投げ銭額に対抗意識が芽生える気も……
現在まで、その収益などは明らかにされていませんが、実際に、数試合「オンラインギフティングイベント」に参加した筆者が見る限り、おおむねファンに好意的に受け止められている印象で、1,000円程度の投げ銭が活発に行われていました。前出のとおり、経営危機が報じられた後だったこともあり、「チームを支えよう」というご祝儀的な投げ銭が多かったとも考えられますが(一部の試合で、10万円の投げ銭があったときはファンの間で話題になりました)、それを割り引いても、予想していた以上に「お金が動く」印象を受けました。
Jリーグでは浦和レッズ以外にも、「鹿島アントラーズ」「清水エスパルス」など、投げ銭を活用するチームが続出。プロ野球でも「阪神タイガース」が活用するなど、スポーツ界で投げ銭の活用が広がっています。
またスポーツ界以外でも、人気講談師の「六代目 神田伯山」さんが、「YouTube LIVE」の「スーパーチャット機能」(後述)を利用し、ファンが投げ銭できる「オンライン釈場」を2020年8月までに6回実施して話題になったほか、演劇や音楽ライブなどでも投げ銭の活用が広がっています。なかでも大きな成功例として報じられたのが、4人組のゲーム実況・音楽制作ユニット「M.S.S Project」(エム エス エス プロジェクト)です。新型コロナウイルスの流行により予定していたライブツアーが中止となり、2020年3月4日に「YouTube」での無観客ライブを生配信。その際、投げ銭で約1億2,000万円(主催者発表)もの金額を集めたとして大きな話題となりました。
では、実際にどんな「投げ銭プラットフォーム」が使われているのでしょうか? 比較的知名度が高い5種類のプラットフォームを紹介します。
ご存じ、動画配信サイトの大手「YouTube」。YouTube内には、動画をライブ配信する「YouTube LIVE」機能があり、この中の「スーパーチャット機能」(通称:スパチャ)を使って、視聴者が配信者に投げ銭できる仕組みがあります。人気講談師の神田伯山さんが使っているのもこの仕組みで、若者向けから比較的年代の高い人向けまで、さまざまなジャンルの配信が行われています。なお、この機能を使えるのは、YouTube内に自身のチャンネルを開設している配信者で、かつ「チャンネル登録者数1,000人以上」「過去12か月のチャンネルの視聴時間が4,000時間以上」など、一定の実績を残している必要があります。
画像は、株式アナリスト藤本誠之氏が運営する公式チャンネルのライブ配信画面。配信画面の下がスーパーチャット欄。投げ銭金額が多いコメントが目立つ仕組みで配信者に気づいてもらいやすくなっています
視聴者が投げ銭する方法は、ライブ配信中の画面の右下にある、「¥」マーク(カーソルを合わせると「●●●(チャンネル名)をサポート」と表示されます)をクリックし、金額とコメントを記入して送信するだけ。支払方法は、あらかじめアカウントに登録した「クレジットカード」「デビットカード」「プリペイドカード」のいずれか。一度送ってしまうと返金できないので注意が必要です。
投げ銭できるのは、「100円から5万円」です。投げ銭をしなくてもチャット機能でコメントを残せますが、投げ銭することで、そのコメントが目立つ形で掲載されます。これを見て、配信者から直接的な反応がもらえるのが、視聴者にとってもうれしいポイントです。
台湾発のライブ動画配信アプリが「17LIVE」(イチナナ)です。アジアを中心にグローバルに展開し、全世界に4,500万人以上のユーザーを抱えています。なお、動画をライブ配信できるのはスマホのみでPCには対応していません(PCでの視聴は可能)。また、利用には年齢制限があり、17歳以下だと22時から翌朝5時までの深夜帯に配信することができません。加えて、録画機能がなく、リアルタイムでの配信・視聴に限られます。
画像は17LIVEのトップ画面
配信者は「ライバー」と呼ばれ、有名芸能人が多数利用しているほか、アイドルや歌手、アーティストなどを目指す人もアピールの場として活用。視聴者を含め、ユーザーは比較的若い印象です。「一般」と「公式」のライバーに分かれ、17LIVE公認の公式配信者の場合は露出が増えたり、報酬の換金率が上がるなど優遇されたりする仕組みです。
投げ銭の方法は、ライブ配信している画面右下にある「ギフト」アイコンをタップし、表示されるアイテムを選べば完了。ギフトアイテムを入手するには「コイン」が必要となり、マイページからチャージして購入(最小単位は120円=330コイン。交換する金額が増えるほど交換レートがよくなる)。支払いにはクレジットカードが使えます。なお、ギフトアイテムは、値段が安いものから高いものまで100種類以上あります。
なお、配信者側のメリットとしては、プロダクションと業務提携したイベントやオーディションで配信者が上位に入ると、賞金を受け取れるほか、アイドルデビューや雑誌などのメディア媒体掲載といった特典などが受け取れることもあるようです。
「TwitCasting」(通称:ツイキャス)は無料で楽しめるライブ配信サービスの元祖。スマホやPCなどで手軽にライブ配信可能です。プロよりも一般の人の配信者が多く、「ミュージック」「アニメ」「ゲーム」「ガールズ」「ボーイズ」などのチャンネルを通じて自己表現したり、コメントのやり取りなどによる交流ができたりします。2018年6月に、視聴者が購入したアイテムを投げ銭として贈れるシステムがスタートしました。
画像はTwitCastingのトップ画面
ツイキャスの投げ銭の方法は、ライブ配信している画面のコメント欄に出てくる「キャラクター」ボタン(ケーキ、拍手、クラッカーなど)をタップし、アイテムを選べば完了。ただし、10以上あるアイテムのうち、配信者の収益となるのは「お茶爆」(おちゃばく)というアイテムのみ。「お茶爆50=500ポイント→350円還元、お茶爆100=1,000ポイント→700円還元、お茶爆500=5,000ポイント→3,500円還元」の換金レートで配信者に入ります。
アイテムを入手するにはポイントが必要となり、マイページから1P=1円で購入。支払いには、「Amazon Pay」「クレジットカード」「PayPal」などが利用可能です。
なお、アイテム購入による投げ銭支援を受けられる配信者は、年齢18歳以上かつ直近3か月の累計視聴時間が100時間以上のユーザーという制限があります。
「SHOWROOM」(ショールーム)も、先の17LIVEやツイキャスなどと同じく、個人が無料でライブ配信できるサービスです。「AKB48」や「乃木坂46」などアイドルグループのメンバーもレギュラーでライブ配信。有名人からアイドル、アーティストを目指す卵まで個性豊かな配信者がそろい、「公式枠」と「アマチュア枠」に分かれてパフォーマンスしています。視聴者はギフトアイテムを購入して投げ銭する仕組みです。17LIVEと同じく録画機能がないため、リアルタイムの配信・視聴に限られます。
画像はSHOWROOMのトップ画面
視聴者は自身が作ったアバターで配信画面上に実際に登場します。配信者がステージ上のスクリーンに登場して生配信するのを、アバターが整列して視聴するバーチャル空間になっているため、オンラインとはいえ「参加している感」が味わえます。
投げ銭の方法は、配信者のページに「入室」し、右下に表示されるアイテムを選んでタップしたら完了。ギフトアイテムの入手にはポイント(Show Gold)が必要となり、マイページから購入。支払いはクレジットカードなどが使えます。
ライブ配信のパイオニアとして2008年にスタートした「ニコニコ生放送」。「やってみた」「ゲーム」「顔出し」などの多種多様な番組ジャンルがあり、一般の配信者がリアルタイムで映像を流し、視聴者はその放送中にコメントをつけて楽しむことができます。2019年4月にギフトアイテムを贈る形式で投げ銭ができる機能が実装されました。また、現在では、無観客の生配信の特集ページが設けられ、有名バンドやグループなどの有料配信にも力を入れています。
画像はニコニコ生放送のトップ画面
投げ銭の方法は、生放送の番組で画面下の「ギフト」ボタンを押し、好きなアイテムを選択して贈ります。ギフトアイテムの入手にはニコニコポイントが必要となり、ニコニコポイントページにアクセスして購入。支払いは「クレジットカード」「auかんたん決済」「Apple Pay」「楽天Edy」「PayPay」など幅広く対応。ニコニコポイントは1P=1円換算、ギフトアイテムは100P〜となっています。
投げ銭のギフトアイテムを贈ると、生放送中の画面に表示されて番組を盛り上げることができます。バーチャル配信の場合はVギフトアイテムを贈ることができ、VR空間上に表れる演出になっています。贈られたギフトアイテムに応じて配信者のクリエイター奨励スコアが加算され、同スコアはニコニコポイントや現金に交換できます。
上記の5つのプラットフォームは、いずれもライブ配信をメインとし、そこに投げ銭機能が実装されています。これ以外にも、ライブ配信機能はなく、投げ銭機能に特化したプラットフォームもあります。前出の「Player!」もそのひとつ。アプリ上では音声やテキスト速報を提供し、映像を見たいユーザーは別の手段で見る必要があります。また、送金アプリの「Pring」(プリン)も、Web会議ツールの「Zoom」(ズーム)と提携して投げ銭サービスの提供を始めるなど、現状、百花繚乱の様相を呈しています。こうした投げ銭サービスの拡大にともない、有名無名問わず無数の配信者が生まれており、そのちょっとカオスな状態も、投げ銭をめぐる面白さの特徴となっています。
以上、ネット上での投げ銭の現状をかけ足で紹介してきました。筆者が趣味としているサッカー観戦を含め、投げ銭全体の傾向として、配信されるコンテンツに対して純粋に対価を払うというよりは、「支える」「応援する」という性格が強いと感じました。リアルの興行で得られるものとまったく同じものを期待して参加すると、やや肩透かしを感じるかな、というのが個人的な感想です。
いっぽう、配信者の知名度などにかかわらず、いくつかのライブ配信をのぞき見して感じたのが、既存のエンタメにはない魅力でした。「プロではない一般人の人が、とりとめなく会話しつつ、時々視聴者のコメントに答えたりする」といった動画も少なくないのですが(むしろ、ライブ配信の主流かもしれません)、眺め続けていると不思議と居心地のよさや面白さを感じてくるものもあります。筆者も何度かコメントを書き込んでみましたが、反応があると確かにうれしい。たとえが古くて恐縮ですが、ラジオの深夜番組でハガキを読まれるような、「ゆるい双方向感」が投げ銭の最大の魅力なのかもしれません。
今後、人が集まるリアルでのイベントが徐々に復活することが予想されます。それを考えると、リアルのイベントを補完する意味での投げ銭は徐々に姿を消すのかもしれませんが、むしろ、これまでになかったような、まったく新しいエンタメとして発展していく方向に筆者は魅力と可能性を感じます。新型コロナで配信者、視聴者ともに増えたと言われている投げ銭。皆さんも一度、のぞいてみてはいかがでしょうか?
(執筆協力:百瀬康司)