「ビットコインの価格がなぜ急に上がっているかわかりやすく教えてくれませんか?」。価格.comマガジンマネー担当のN氏から突然連絡があったのが10月の終わり。聞けば、ずっと「塩漬け」にしていた、「メルカリの売上金で買ったビットコイン」が(下記画像、関連記事参照)、いつの間にか20〜30%ほどのプラスになっていたと言います。
本記事編集担当N氏が運用しているメルカリの「ビットコイン取引」(左)と、価格.com「暗号資産(仮想通貨)・ビットコイン取引所比較」掲載のビットコイン円価格1年チャート(右)
N氏は「現物ビットコインETF」や「半減期」などがビットコイン価格急騰と関係していそうだ、というところまで情報をキャッチ。より深く理解したいとのことで、急きょ「FX羅針盤」執筆陣の筆者に原稿を依頼してきたのです。
N氏のようにビットコインに注目する人が増えることは、暗号資産業界に身を置くひとりとして実に喜ばしいこと。いっぽう、ビットコインも含め、「暗号資産に投資すること」のリスクも知っておいてもらいたいところです。そこでこの記事では、今年2023年のビットコイン価格の急騰や、暗号資産投資の注意点について、できるだけわかりやすい解説を試みました。
※本記事内のチャートの出典はinvesting.comです。
まずは、今年2023年のここまでのビットコイン価格について、円建てビットコインを中心に見てみましょう。
2023年10月以降、円建てのビットコインは右肩上がりの展開となり、11月12日時点では、1ビットコインが560万円水準まで上昇しました。10月上旬は400万円水準でしたので、わずか1か月弱で30%以上値上がりしたわけです(この値上がりの要因については次章の【要因3】で考察しています)。
年初の円建てビットコインは、200万円前半で推移。今思えば、この時の価格が年初来安値の水準でしたので、「買っておけばよかった!」と思う方もいるかもしれません。しかしこの時は、2022年11月の大手暗号資産交換所FTXの創業者サム・バンクマン・フリードによる巨額詐欺事件の余波で、「暗号資産は終わった」と漏らす人も少なくありませんでした。
“暗号資産業界のカリスマ”と言われたサムは、2023年11月に裁判で「有罪」が確定し、来年2024年3月には刑期が決まります。サムによる巨額詐欺事件はようやく終焉を迎えつつあるわけですが、いずれにせよ、今年2023年1月の時点では、「ビットコインを新規で買おう」という雰囲気はほぼない状況と言っても過言ではなかったのです。
「FTXの破綻」の余波で、暗い雰囲気で始まった2023年のビットコイン相場
そんな円建てのビットコインは、2023年1月の年初来安値の216万円水準から、11月時点ですでに2.5倍強も上昇し、2022年3月に付けた昨年高値の590万円水準に迫っています。約2年前にあたる2021年11月に付けた770万円水準が円建ての史上最高値となりますので、現状の価格水準から3割ほど上昇すると、そこにも届くことになります。
ビットコインには円建て以外にも、ドル建て、ユーロ建てなど「各通貨建て」が多数存在しています。代表的な通貨であるドル建ては、2023年11月10日時点で、3万7,000ドルで推移しています。円建てと同じくドル建ても上昇していますが、「史上最高値まであとどれくらいで到達できるか」という視点で見ると、やや見え方が変わってきます。
2021年11月に付けたドル建ての史上最高値は6万8,000ドルです。前出のとおり円建てはあと3割ほど上昇すれば史上最高値水準に到達しますが、ドル建てはあと8割強上昇しないと、ドル建ての史上最高値水準には届きません。この差は何だと思いますか?
この差が「為替」なのです。ドル建てビットコインが史上最高値を付けた2021年11月時点の1ドルは115円水準でしたが、2023年11月11日時点では、1ドルが151円水準まで「円安・ドル高」が進んでいます。仮に、ドル建てビットコインの史上最高値水準である6万8,000ドルを今の為替レートで計算しますと、1,026万円になってしまいます。
簡単に言いますと、今の円建てビットコインの上昇分の3割ほどは「為替(円安・ドル高)」の“追い風”が含まれているのです。現在のビットコイン価格を考えるうえで、このことは頭に入れておくといいでしょう。
ここからは、円建て、ドル建て共通のお話をします。ビットコインの価格が上がる要因はいろいろ考えられますが、究極的には「需要と供給のバランス」に尽きます。つまり、買いたい人が多ければ、ビットコインの価格は上がります。これは、市場価格の原則として当然の話ですね。
では、なぜ人はビットコインを買いたくなるのか? ここが重要です。大きくは3つの要因があると考えます。
まずひとつ目は、ビットコイン特有の性質です。そもそも、ビットコインは発行枚数に限りがあり、2,100万枚が上限としてプログラムされています。そして、すでに上限の9割ほどに該当する約1,900万枚が発行されています。プログラム上、2140年には発行が終了する予定です。
上限が設定されている点は、日本円やドルなど主要な通貨とは大きく異なる部分です。ドルや日本円は各国中央銀行が管理しており、輪転機を回せば、理論上いくらでも紙幣を刷れてしまいます。ところが、ビットコインはそうした管理を行う中央銀行もなければ、輪転機も存在しませんので、「いくらでも発行数量を増やす」ということはできないのです。
ビットコインはどちらかと言いますと、地球上に存在する量が決まっている「金」と似たような存在かもしれません。実際、ビットコインを「デジタル・ゴールド」と呼び、発行枚数が限られている希少性に価値を見出している人が多いのは確かです。
ビットコインは、法定通貨と異なり発行上限数が決まっています
ここまでの話を聞いた方の中には、もしかすると、「2009年に誕生したビットコインが、誕生から14年ですでに9割発行されているのに、2140年にかけて発行が終了するというのは、計算がおかしくないか?」という疑問を持たれる方もいるでしょう。
この答えが、「半減期」というビットコインにある特有の性質なのです。「半減期」に関する詳細は次章でふれますが、簡単に言うと「ビットコインの供給量低下」を意味します。「希少性」と「供給量の低下」に投資家は「価値」を見出していると考えます。
2つ目は、日本円やドルなど既存の通貨を凌駕(りょうが)する存在となることへの期待感です。「何のこと?」と思われる方も多いでしょうが、世界に目を向けてみますと、すでにビットコインを法定通貨として取り入れている国も存在します。
中米のエルサルバドルは、2021年9月、世界で初めてビットコインを自国の法定通貨のひとつに取り入れました。エルサルバドル以外にも、不安定な自国通貨や、止まらないインフレを収束できない経済情勢を打破するために、ビットコインの法定通貨化を検討する国は少なくありません。アフリカのジンバブエのほか、たび重なる債務不履行(デフォルト)で自国通貨ペソの信用度が低下しているアルゼンチンなどは、政権次第ではありますが、ビットコインの法定通貨化に舵を切る可能性はあります。
中米エルサルバドルは法定通貨のひとつにビットコインを採用
そもそも2017年頃、中国でビットコインが爆発的に流行った背景には、中国政府に管理されている人民元で資産を持つことへの不安がありました。ビットコインで送金を行うことで、中国政府が管理できないおカネの流れを確立したのです。
結果として、中国政府主導で「中国内でのビットコイン禁止」となり、中国でのビットコイン取引は衰退しましたが、自国通貨を信用できない人たちが、管理されず自由な送金が可能なビットコイン取引を好んだという歴史的な事実はあります。
ひと足早く法定通貨化を決定したエルサルバドルは、スムーズな決済手段の確立を模索している状況ですが、既存の通貨に変わる存在となる可能性があるビットコインに期待する国は多いと考えます。
そして、3つ目は、投資資金流入拡大への期待感です。2023年10月以降にビットコイン価格が上昇したきっかけとなったのがまさにこれです。具体的には、「現物ビットコインETF(上場投資信託)」の承認期待が該当します。少し詳しくお話しします。
まずきっかけとなった事象を時系列で追っていきます。2023年10月14日、米証券取引委員会(SEC)は、暗号資産ファンド大手の「グレースケール・インベストメンツ」が運用する暗号資産ファンドを「現物ビットコインETF」に転換することを巡る裁判の判決に対して控訴しませんでした。
そして、10月24日、世界最大手の運用会社である「ブラックロック」がSECに申請している「iシェアーズ・ビットコイン・トラスト」が、クリアリングハウス(証券取引の決済や清算などの金融サービスを提供する組織)である「DTCC」が管理するリストに登録されました。
一般的には、クリアリングハウスのリストに登録されるということは、SECによる承認が近い、という理解に直結します。そのことから、10月に「現物ビットコインETF」の承認観測が高まるようなニュースが連続し、ビットコイン価格は上昇したわけです。
では、「現物ビットコインETF」はそもそもどういった話なのかをご説明します。現状でも、「ビットコイン先物のETF」は存在しています。これは、シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)に上場するビットコイン先物に連動したETFです。今年話題になっている「現物ビットコインETF」と「何が違うの?」という疑問がわくかもしれませんね。
大ざっぱな説明で恐縮ですが、「現物」のほうが「先物」よりもリスク及びコストは低くなると考えます。ビットコイン先物のETFの場合は、あくまでも「CMEに上場するビットコイン先物」に投資することになります。つまり、ビットコイン先物は現物のビットコインへの連動を目指してはいるものの、必ずしも100%一致しませんし、連動させるためのコストが発生します。
〇現物ビットコインETF・・・「現物ビットコインへの連動を目指したETF」への投資
〇ビットコイン先物ETF・・・「『現物ビットコインへの連動を目指したビットコイン先物』への連動を目指したETF」への投資
上記を見比べてみてください。「現物」よりも「先物」のほうが“ワンクッション”多いのです。ここがリスクでありコストなのです。ほかにも細かい違いはありますが、この点をまずは押さえておけば大丈夫です。
「現物ビットコインETF」が承認されると、ビットコインへの投資資金流入拡大が期待されます
この「現物ビットコインETF」は、2017年頃から、米国でSECに申請されては「却下」が続いていました。「価格操作の可能性が排除できないため」というのがその理由で、投資家保護の観点から却下され続けていました。しかし、この却下理由に対して、前出のとおり、今年、世界最大の運用会社「ブラックロック」は「監視することでクリアにするスキーム」を構築して、SECに申請したのです。
この「現物ビットコインETF」が承認された場合、既存の暗号資産交換所以外(証券会社など)でも、ビットコインと似たような動きをする金融商品を購入することが可能となります。新たな金融商品の誕生をきっかけに、ビットコインに投資したいと考える人が増える可能性があるわけです(もしかすると、既存の暗号資産交換所でビットコイン投資をする人は減るかもしれませんが)。これが、3つ目の投資資金流入拡大への期待感の背景です。
この章では、前章の「ビットコインの発行枚数の上限」のところで少しふれた「半減期」に関するお話をします。
ビットコインは、約4年に1度の周期で、マイニング(採掘)でもらえる報酬を半減させる「半減期」が来ます。直近では、2020年5月11日に実施されており、報酬のビットコインは「12.5枚」から「6.25枚」に減少しました。次の半減期は、来年2024年4月から5月頃に訪れ、報酬は「3.125枚」となります。
マイニングとは、ビットコイン取引が正しく行われているかの検証・承認(取引などのデータをブロックチェーンに保存する作業)をすることです。つまり半減期とは、マイニングを行った人(企業)にもらえる報酬が半分になるわけです。
ビットコインは約4年に1度の「半減期」によって供給量がコントロールされています
なぜ、このような制度がプログラムされているのかと疑問に思う方もいるでしょう。理由は、供給過多による価格下落を防ぐためです。ビットコインは最初から需要と供給をコントロールするようにプログラムされているのです。となれば「半減期は価格下落を回避するためのイベントなので、ビットコインは買い?」と考える人もいるでしょう。そこで、過去3回の半減期をざっと振り返ってみましょう。
記載の価格はドル建てビットコインのもの
いかがでしょうか。過去3回の半減期はいずれも、その後ビットコイン価格が上昇しました。この結果を受けて、半減期を買い材料ととらえ、次の半減期である2024年4〜5月頃にかけては思惑的な上昇が入る可能性はあります。もちろん、「半減期の前後でたまたま上昇した」との指摘もあるかもしれませんが、半減期という特殊な需給イベントがあることは気にしておいたほうがいいでしょう。
最後に、ビットコインを含め、暗号資産に投資することについて、私なりの見解を述べておきたいと思います。まず前提として、株式投資でもFX(為替差金決済)投資でも同じなのですが、自分で投資できる許容範囲を決めて、その範囲内で投資することが何より重要です。
私の経験上、あらゆる投資は損失を出すケースのほうが多く存在します。その要因のひとつが、購入(投資)した後に価格が下がってしまうと、まだ投資資金があれば「ナンピン買い」(値が下がった状態で追加で買い付けし、全体の買い付けコストを下げることを目指す買い方)、資金がなければ「塩漬け」(売ると損が出る状態をきらって、やむなく長期保有すること)を選択する投資家が多いからです。
「損切り」は、自分の投資判断が間違っていたと認める行動でもありますので、「投資のルール」としてよく出てくる「〇割下がったら損切り」を実行できる投資家はなかなかいません。「自分は正しい」と思い込み、ナンピン買い、もしくは塩漬けに突入する投資家が多いのが現実ではないかと思います。
ちなみに、ナンピン買いを漢字で表記すると「難平買い」です。文字通り「平(たいら)にするのは難しい」ので、結果として火傷を大きくするケースも多いのです。
ビットコインなどの暗号資産への投資にも、当然このようなリスクは存在します。また、暗号資産には、「株の配当金」も、「FX投資のスワップポイント」もありませんので、「塩漬け」していても、長期投資の旨味はまったくありません。
ただし、2023年秋のビットコイン価格の急騰のように、保有していたことも忘れていたようなある日、突然急騰するのがビットコインなどの暗号資産に投資することの醍醐味ではあります。したがって、「塩漬け」となった場合でも困ることがない資金の範囲内で投資しておくのが鉄則です。
ビットコインなどの暗号資産への投資は、買った後にそれを忘れるぐらいがちょうどいいのかもしれません
ビットコイン以外の暗号資産をアルトコインと言いますが、日本で登録済みの暗号資産交換所でも、50種類以上のアルトコインに投資することができます。投資可能な資産の1割でも、こうした暗号資産に投資しておいて、1年後ぐらいに状況を確認すると、面白いパフォーマンスとなっているもしれません。短期的に一喜一憂するのではなく(仮に値が下がって「塩漬け」となった場合でも……)、投資したことすら忘れるぐらいの気概で暗号資産に投資するのがよいのではと考えます。