皆さん初めまして。個人投資家の配当太郎(ハンドルネーム)です。私は主に、企業の株を保有することで受け取れる配当金を目的とした投資を実践しています。今年2023年2月に初の著書(下記リンク参照)を出版し、「X」(旧Twitter)でも日々情報を発信しています。先日、「X」のフォロワー数が13万人を超え(2023年12月時点)、配当金を目的とする投資に興味を持つ方が増えている実感があります。
投資といえば「株の売買で利益を狙うもの」というイメージが強い人もまだまだ多いかもしれません。私が実践している方法は、「株の売買で利益を狙う方法」とはひと味違う魅力があり、後で説明しますが、2024年1月に始まる「新NISA」でも注目されているようです。
今回の記事では、私が実践している投資の魅力について体験を交えてお伝えします。
投資家が企業の株を購入すると、その企業の株主になります。株を発行した企業は、利益を上げるとその一部を年1回ないしは2回株主に分配します(会社によって異なります)。これが配当金と呼ばれるものです。
株主は出資比率(持ち株数)に応じて配当金を受け取る権利があります。これは、「利益配当請求権」と呼ばれるものです。そして、株主はその株を保有している間、ずっと配当金を受け取る権利を持ちます。つまり、投資した企業が配当金を出し続けていれば、この間、ずっと配当金を受け取れることになります。
配当金は、企業の利益によって額が変動します。しっかりと「稼ぐ力」がある企業の場合、年々配当金の額が増えていくこともあり、これを「増配(ぞうはい)」と言います(逆に、業績などによって、配当金が減る「減配」や配当金が出ない「無配」となる場合もあります)。配当金を目的とする投資では、その企業の「稼ぐ力」が、投資先としてふさわしいかどうかを判断するひとつの基準になります。
企業が利益を株主に還元する仕組みのひとつである配当金
実は、私がこの投資法にはまった大きな要因がこの「増配」です。詳しくは後ほど「メリット」の項で説明しますが、株を持っているだけで段々と受け取れるお金が増えていくのは、とてもうれしいことです。一度体験するとなかなか抜け出せない魅力があり、私はこれを“配当沼”と表現しています。
とはいえ、私が今のような投資方法にたどり着くまでには紆余曲折(うよきょくせつ)がありました。私が初めて証券口座を開いたのは2006年のこと。当時実践していたのは、いわゆる「株を安く買って、高く売る」という方法でした(このような売買差益のことをキャピタルゲインといいます。以下、この投資方法を「キャピタルゲインを狙う投資」と表現します)。
当時は「ライブドア・ショック」(※)後で株価が底を打ったタイミングでした。あまり深く考えずに話題になっていた株を売買するだけで100万円ほどの利益を出すことができ、「株式投資は自分に合っているのかも」などと考えていました。
※ ライブドア・ショック
2006年1月、株式会社ライブドアの粉飾決算が明らかに。これを受け、翌17日に一部証券会社が、信用取引におけるライブドアおよびライブドア関連株の担保価値をゼロにしたことを契機に、個人投資家を中心に“売りが売りを呼ぶ展開”となり、東証1部(当時)の値下がり銘柄が全体の9割にも達しました。翌18日も売り注文が殺到し、処理システムの限界に近づいた東京証券取引所が「全銘柄取引停止」処置をとるなど影響は多岐にわたりました。
※解説は編集部
そんな折、2008年9月の「リーマン・ショック」(※)に襲われます。“100年に1度の金融危機”などとも呼ばれた「リーマン・ショック」ですが、ご存じのとおり世界的な株安となり、日経平均株価も40%以上下落し、その後低迷します。私が当時持っていた株も軒並み大きく値を下げ、文字通り目の前が真っ暗になったことを覚えています。
※ リーマン・ショック
2008年9月、アメリカの投資銀行大手リーマン・ブラザーズが、負債総額約6,000億ドルという史上最大級の規模で倒産したことをきっかけに発生した世界的な金融・経済危機。低所得者向け住宅ローン(サブプライムローン)の焦げ付きにともなう信用不安が原因。同社の破たんは連鎖的に大手金融機関の経営危機を招き、世界的に株価が下落。日経平均株価も大きな影響を受けました。
※解説は編集部
「リーマン・ショック」で「キャピタルゲインを狙う投資」の難しさを痛感
そんな中で目に止まったのが、配当金の存在です。株価は下がっていても、数千円、数万円の配当金がしっかりと入ってきていました。企業の業績悪化が盛んに伝えられる状況でしたが、着実に利益を上げ、株主に利益を分配する企業が存在していたのです。私自身は資産が大きく目減りするつらい状況でしたので、これには救われる思いがしました。
このときの体験をひとつのきっかけとして、予測が難しい株価の動向に左右される「キャピタルゲインを狙う投資」から、配当金を安定して受け取れそうな企業を中心に投資をする方法にシフトしていったのです(配当金のように資産を保有することで得られる利益をインカムゲインといいます。以下、この投資方法を「インカムゲインを狙う投資」と表現します)。
この後私は、「稼ぐ力」を持つ企業選びで試行錯誤を続け、今では保有銘柄の約9割を、年々配当が増える「増配銘柄」が占めるまでになっています。
記事の冒頭で、私の「X」のフォロワーが13万人を超えたと述べました(2023年12月時点)。「X」を始めたのが2021年7月でしたので、急激にフォロワー数が増えたことになります。
個人的には、2022年頃の、日経平均株価が芳しくなかった時期にフォロワーが増えた感覚があります。この時期、「キャピタルゲインを狙う投資」ではパフォーマンスが上がらず、「インカムゲインを狙う投資」への関心が高まったのではないかと考えています。そして今も、“2つの追い風”によってこの関心が続いているようです。
冒頭でも紹介しましたが、ひとつは、2024年1月から「現行NISA」が大幅にパワーアップする「新NISA」によるものです。NISAとは「少額投資非課税制度」の略称です。この制度(NISA口座)を利用して株や投資信託などに投資した場合、通常の課税口座ではかかる「利益に対する税金」(税率20.315%)が非課税になります。
そして、非課税になるのは株や投資信託などを売却して得た利益=キャピタルゲインだけでなく、配当金=インカムゲインも含まれます。
「NISA」はすでに存在している制度なので、なぜ「新NISA」であらためて「インカムゲインを目的とした投資」が注目されるか不思議に思う人もいるかもしれません。「新NISA」の詳細は別の記事にゆずりますが、「現行NISA」から「新NISA」になることで有利になる変化がいくつか存在します。
1 年間に非課税で投資できる金額が倍増
「新NISA」の「成長投資枠」で年間に投資できる金額が、現行の「一般NISA」の120万円から240万へ倍増します。
2 「積立投資」と併用できる
「現行NISA」では、「一般NISA」と、積立投資に活用できる「つみたてNISA」の併用ができませんでした。「新NISA」では「成長投資枠」と「つみたて投資枠」との併用が可能になります。
3 非課税になる期間が無期限になる
現行の「一般NISA」は非課税期間が最長5年でしたが、「新NISA」はこれが無期限になります。
※現行NISA、新NISAでの「高配当株投資」の活用方法とは?
「高配当株投資」にNISAを活用するには、2023年12月までの「現行NISA」では、個別株が買える「一般NISA」を活用します。また、2024年1月の「新NISA」からは、現行の「一般NISA」に該当する「成長投資枠」を活用します。
※解説は編集部
おおまかではありますが、仮に「年間100万円の配当金」を受け取る場合、通常ですと税引き後に約80万円となってしまうところ、「新NISA」の口座で購入し保有していれば、100万円をそのまま受け取れることになります。
しかも、「現行NISA」には非課税の恩恵を受けられる期間に期限があったのですが(「一般NISA」の非課税期間は最長5年間)、「新NISA」にはその期限がありません。株を長期で保有し、ずっと配当金を受け取ったとしても無期限で税金がかからないということです。「インカムゲインを狙う投資」にとって有利な状況が到来すると言っても過言ではないと思います。
※「新NISA」についての詳細は、当メディアの下記の記事をご参照ください(編集部)
もうひとつ、日本企業の株主に対する還元意識が高まっている点も見逃せません。元々日本企業は、アメリカ企業と比べて株主に対する還元意識が低く、配当金も少ない傾向にあると言われてきました。しかし近年、株主重視の方向に変わり始めていると指摘されています。
理由のひとつに、ネット証券の登場により多くの個人投資家が手軽に株を買えるようになったことが考えられます。個人投資家が増えたことで企業の株主還元に対する目がシビアになり、配当金や「自社株買い」(企業が自社の株を購入すること。一般的に株価の上昇要因として考えられています)などの株主還元に力を入れる状況になりつつあるようです。
実際、日本企業の株主還元の額は、2021年、22年と2年連続で過去最高を記録しており、2023年もこれを更新する見込みのようです。
「新NISA」や日本企業の還元意識の高まりが追い風に
ここでは、私が「インカムゲインを狙う投資」を実践してきて感じる3つのメリットを紹介します。
企業の株価が上がるのか下がるのかは誰にもわかりません。個人投資家はもちろん、投資のプロでも不可能です。しかし、配当金の行く末はある程度予測できます。
日本企業の多くは、3月決算であれば、4月から5月にかけて決算内容を発表し、それを受けて配当金の額を最終決定します。同時に、「今期はどのように配当金を出していくか」という予想を発表します。これらの数字は、企業が株主や投資家に対して発信している「IR情報」で公開されており、その企業の株主還元の姿勢までも読み取ることもできます。
一例として、総合住宅メーカーの最大手、大和ハウス工業(1925)のIR情報をチェックしてみましょう。「株主還元方針・配当金」には、【株主還元に関する基本的な方針】として、次のような一文があります。
《配当性向については、親会社株主に帰属する連結当期純利益の35%以上、かつ一株当たり配当金額の下限は130円として業績に連動した利益還元を行い、かつ安定的な配当の維持に努めます》
出典:大和ハウス工業公式サイト(2023年12月8日時点)
「配当性向」とは利益に占める配当金の割合を指します。日本企業では30%から40%が平均レベルです。大和ハウス工業の1株当たりの配当金は、2020年3月期は115円、2021年3月期は116円、2022年3月期は126円、2023年3月期は130円と右肩上がりで、2024年3月期の配当金も140円が予定されています。
ここでは、配当金の下限は130円、つまり「130円より下げることがないように努める」と宣言しているわけです。もちろん、業績によって変動する可能性はありますが、少なくとも、大和ハウス工業が配当金を「重視している」「積極的である」という姿勢は伝わってきます。
このように、企業が発表する情報からある程度金額が予測でき、今後の姿勢も知ることができるのはメリットだと思います。
大和ハウス工業の配当金・配当性向(右グラフ)。画像は公式サイトより(2023年12月8日時点)
「キャピタルゲインを狙う投資」の場合、株価の値動きをウォッチするのが普通です。投資した企業の株価が上がるのか、下がるのか、日々チャートを見たり、ニュース情報を確認したりする作業が必要です。仕事や生活との両立が難しく、振り回されてしまう個人投資家も少なくありません。
実際、昔の私もそうでした。株が市場で取引されるのは日中で、多くの人は仕事をしている時間帯です。仕事中、保有する銘柄の株価が気になって落ち着かなかったり、休憩中に携帯でチャートを見て安心したり不安になったりしていました。今思えば精神的にあまりよくなかったですね……。
いっぽう、「インカムゲインを狙う投資」で個人投資家が行う作業といえば、「目当ての企業の株を購入し、保有すること」となります。もちろん、その企業の業績など最低限チェックすべきことはありますし、場合によっては銘柄の入れ替えも行います。しかし、「キャピタルゲインを狙う投資」のようにひんぱんに行うわけではありません。
投資した企業が利益を上げ続けると、株主に分配される配当金も増える期待感があります。先ほども触れましたが、配当金が前期よりも増えることを増配といい、私は増配がこの投資法の一番の楽しさだと感じています。
増配できるのは、その企業の業績がよかった表れです。株を持つ企業がしっかり稼ぐことが増配につながります。株主の立場で考えれば、これほどうれしく、楽しいことはありません。企業が増配を続けてくれれば配当金はどんどん増えていきます。
増配にはいくつか種類があり、主に次の3つです。
・普通増配……企業の業績がよかったときに株主還元されるもの
・記念増配……「創業何十周年」など、企業が節目を迎えたときに株主還元されるもの
・特別増配……固定資産の売却など何らかの特別な理由で企業の業績がよくなったときに株主還元されるもの
一般的に増配といえば「普通増配」を指します。
増配を具体的な数字で見てみます。たとえば、現在1株10円の配当金を出しているA社が毎年1円ずつ増配すると、配当金は10年で2倍の20円になります。仮に、1株10円のときに1万株保有していると10万円の配当金を受け取れますが、これをそのまま保有していると、10年後には2倍の20万円受け取れることになります。
そんな「増配銘柄」の一例をあげます。皆さんにもおそらくおなじみの日本最大の金融グループ、三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306)がそのひとつです。同社の配当金は10年前の2013年3月期には13円でした。それが増配により2023年3月期には32円となっています。また、2024年3月期には41円が予定されています。
これは後編で説明しますが、「インカムゲインを狙う投資」は10年以上の長いスパンで取り組んでほしいと私は考えています。投資資金が少ないうちはなかなか増えていることを実感しづらいのですが、このような「増配銘柄」を長く保有しながら少しずつでも保有する株数を増やしていくと、配当金の増加が加速する醍醐味があります。
三菱UFJフィナンシャル・グループの配当状況。画像は同社公式サイトより(2023年12月8日時点)
「インカムゲインを狙う投資」にもデメリットがあります。下記の3つは頭に入れておきたいところです。
本記事で紹介している投資方法では、株価の値動きに一喜一憂する必要があまりないと述べていますが、それでも株価の影響を受けないわけではありません。投資した企業の株価が下がることもあり、その場合は資産を減らすことになります。
企業が利益を上げていれば「増配」の期待感も高まりますが、企業の業績が悪化となればそういうわけにはいきません。逆に配当金を減らす「減配」、配当金なしの「無配」ということもあり得ます。銘柄を選ぶ際は、こうした企業をできるだけ避ける必要があります。
「キャピタルゲインを狙う方法」の投資は、成功すれば一度の取引で大きな利益を得る可能性もあります。しかし私が実践している方法は、コツコツと地道に利益を積み上げていくタイプの投資です。もしかしたら、そこに物足りなさを感じる人もいると思います。合うかどうかは、皆さんの好みに左右されるかもしれません。
本記事の最後に基本の流れをご紹介します。
・証券会社を通じて株を買う
↓
・投資した企業が利益を上げ、配当金を受け取る
↓
・給料などの収入からの追加投資や、受け取った配当金の再投資
↓
・企業の業績好調により配当金が増配されることも
↓
・さらに配当金が増える
選ぶ銘柄や購入時期にもよりますが、2023年12月時点では、10万円程度の元手で年3,000円程度の配当金が狙えます(配当利回り3%)。100万円程投資できるようになれば、毎年3万円程度の配当金が目指せることになります。
個人的な感覚ですが、年12万円(つまり、毎月1万円換算)の配当金を受け取れるようになると楽しさを実感できるようになります。また、それくらいの収入になると、新規銘柄の購入や保有銘柄の追加購入にもはずみがついてきます。その際に重要なのが銘柄の選び方です。次回はそのエッセンスをお伝えしたいと思います。
構成・執筆協力:百瀬康司
※本記事は、取材者・執筆者個人の見解です。特定の銘柄を推奨するものではありません。