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「ビットコイン現物ETF」の承認に“暗号資産関係者が歓喜”のワケ

「ビットコイン現物ETF」の承認は12年越しの悲願

皆さん初めまして。金融文筆家の田代です。今年2024年の暗号資産市場は、年明け早々の「ビットコイン現物ETF」の承認に沸いています

ニュースやSNSなどで、この動きを目にした方もいると思いますが、暗号資産関係者や投資家がなぜこんなにも盛り上がっているのかまでは、なかなかわかりにくいかもしれません。実は、「ビットコイン現物ETF」の承認には、暗号資産業界にとって「12年越しの悲願」という側面があるのです。

そこで今回は、この「ビットコイン現物ETF」の承認について、暗号資産投資の未経験者・初心者の方に向けて、背景などを含めてわかりやすく解説したいと思います。

※本記事内に掲載しているチャートの出典はinvesting.comです。

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年明け早々「ビットコイン現物ETF」承認!

東京時間の2024年1月11日未明、暗号資産業界が待ちわびたニュースが流れました。「ビットコイン現物ETF」(ETFは上場投資信託の意味)の審査を行っていた米証券取引委員会(SEC)が、これを「承認」したのです。

今回承認された「ビットコイン現物ETF」は、事前に申請されていた下記11社分です。これらは、昨年2023年6月頃に相次いで申請されていました。

「ビットコイン現物ETF」を申請していた11社
資産運用会社の「アーク・インベスト」、老舗運用会社の「フィデリティ」、「インベスコ」、「フランクリン・テンプルトン」、「ブラックロック」、運用会社の「ヴァルキリー」、「ヴァンエック」、ETFに特化した「ウィズダムツリー」、暗号資産運用会社の「グレースケール」(投資信託からETFへの転換)、「ビットワイズ」、ブラジルのファンド企業「ハッシュデックス」

市場関係者の間では、1月が審査期限だった「アーク・インベスト」がまず初めに承認され、その後、審査期限が3月だった10社が順次承認されると想定されていました。ですので、1月11日のタイミングで申請が上がっていた11社すべて承認、という展開はややサプライズの結果となりました。

「ビットコイン現物ETF」がSECに却下され続けた歴史

暗号資産関係者にとって、「ビットコイン現物ETF」の承認は悲願と言えるものでした。

大手暗号資産交換所「ジェミニ」を運営する暗号資産億万長者のウィンクルボス兄弟が、最初に「ビットコイン現物ETF」の申請をSECに提出したのが2013年です。しかし、これはSECに却下されました(ウィンクルボス兄弟は2018年にも申請し、却下されています)。

また、ウィンクルボス兄弟だけではなく、今回承認された暗号資産運用会社「グレースケール」も、何度もSECの壁に跳ね返されていました。つまり、「ビットコイン現物ETF」の“承認をめぐる攻防”は2013年から始まっていたのです。

「監視共有協定」で価格操作の懸念をクリア

SECが却下し続けた主な理由は、「価格操作の可能性がある」「投資家保護策が整備されていない」の2点でした。ビットコインの市場はまだ未成熟で、ほかの金融資産と比べても時価総額が低いことから、価格操作を行うことが容易であるうえ、法整備が追い付いていないことから投資者保護の施策も十分ではない、というわけです。

ではなぜ、今回、「ビットコイン現物ETF」は承認されたのでしょうか? 一例として、「ブラックロック」のスキームを紹介します。

「ブラックロック」のETFが上場するナスダックは、市場操作を防ぐ「監視共有協定」(Spot BTC Surveillance-Sharing Agreement)を、取引プラットフォーム運営者(暗号資産取引所)と締結しました。この協定は、市場での取引、清算、顧客識別に関する情報を取引所間で共有するもので、市場操作の可能性を低くする効果があるとされています。

つまり、監視をすることによって、SECが指摘していた「価格操作の可能性がある」という問題点をクリアしたわけです。そして、「ブラックロック」以外の他社のETFにも、大なり小なりこのようなスキームが盛り込まれています。

司法判断も承認を後押し

また、昨年2023年にあった訴訟も大きなターニングポイントとなりました。

「ビットコイン現物ETF」に先んじて、「ビットコイン先物ETF」は、すでに2021年10月にアメリカで上場していたのですが、この事実を基にして、2023年に「グレースケール」が「ビットコインで運用する未上場投資信託のETFへの転換」をSECが拒否したことを不服とする訴訟を起こし、8月にSEC側が敗訴していました。裁判所は、SECが承認しない理由を十分に説明することができないとしたのです。

ゲンスラーSEC委員長は、今回の承認に関して発表した声明文で、この裁判所の判断が承認に大きな影響を与えたとのコメントを残しています。つまり、司法の判断によってSECは「ビットコイン現物ETF」を否定することができない状況に追い込まれた、という見方もできるのです。

現物ETF承認で期待される“ビットコインの盛り上がり”

では、なぜ暗号資産業界は、こんなにも「ビットコイン現物ETF」の承認にこだわり、その結果に歓喜したのでしょうか? それは、新しい投資資金が暗号資産市場に流入する可能性が高まりそう、という期待感に基付いています。

これまでは、ビットコインに興味を持つ投資家が市場でビットコインに投資するには、現物のビットコインを「暗号資産交換業者が運営する取引所」で購入するのが主な手段でした。

ただ、ビットコインをはじめとする暗号資産が「法的に整理されている」と言える国は日本ぐらいです。日本以外の場合、仮に暗号資産交換所が破綻した際、暗号資産交換所の分別管理が十分でないと、預けている顧客が資産を失うリスクが存在します。また、ハッキングによってビットコインを失うリスクや、送金アドレスを誤って送金した際、二度と取り出し不可能な状況(所在不明)となる可能性なども考えられる状況でした。

ETFは証券会社の口座を通じて売買

「ビットコイン現物ETF」であれば、投資家はSECが監督する証券会社の口座を通じて売買することになります。仮に証券会社が破綻しても、SECの管理下、投資家の資産は保護されます。また、ハッキングなどの可能性も抑えられます。

アメリカのETF市場は、7兆ドル(日本円換算で約1,000兆円)ともいわれる規模を誇ります。アメリカの暗号資産市場の時価総額が1.6兆ドル(約230兆円)ほどですので、4倍強の市場規模です。

ゴールドETFなど、さまざまな種類を有するETF市場に「ビットコイン現物ETF」が加わることで、新たな投資資金が暗号資産市場に流入する可能性は非常に高いと暗号資産業界では考えられています。つまり、「ビットコイン現物ETF」の承認によって、今後、ビットコインの価格が上昇すると見込んでいる暗号資産関係者が多いというわけです。

「承認」前後でビットコイン価格はどう動いた?

実際、これまでも、「ビットコイン現物ETF」をめぐるニュースに合わせてビットコインの価格は変動してきました。

2023年6月15日、資産運用会社の巨人である「ブラックロック」が「ビットコイン現物ETF」の申請を行ったというニュースが流れたタイミングで、2.5万ドルだったビットコインは、6月24日には3万ドル台に乗せました。

その後、「ブラックロック」だけではなく、老舗の「フィデリティ」や「フランクリン・テンプルトン」、「インベスコ」が追随したほか、「イノベーション」企業への投資でメジャーとなったキャシー・ウッド氏の「アーク・インベスト」やETFのプロである「ウィズダムツリー」なども申請を行ったことで、暗号資産業界は「誕生」への期待感を高め、ビットコインの価格はじりじりと上昇していきました。

そして、期待感先行の地合いが続くなか、いよいよ24年1月にも承認される可能性が高い、とのニュースが駆け巡った23年12月には、ついにビットコインの価格は4万ドル台に突入しました。

2023年6月以降のビットコインドル日足チャート

2023年6月以降のビットコインドル日足チャート

承認前日には偽ニュースも!?

承認が伝わる前日には、SECのX(旧ツイッター)が何者かに乗っ取られ、「承認された」という偽ニュースが流れたことで価格は乱高下しましたが、結局、翌日の東京時間1月11日未明に承認が伝わりますと、1月12日には約4.9万ドル台まで駆け上がることとなりました。

本記事執筆時点、承認の発表から10日ほど経過したビットコインは4.2万ドル台で推移しています。相場の格言通り「噂で買って事実で売る」(※)といった状況で、いったん利益確定売りが強まっています。

※投資家は、買いの材料となる「噂」を聞いた段階から行動を始め、その後、「事実」として材料の結果(企業業績、経済指標など)が発表された段階では、すでに買い材料が株価に反映された状態(=織り込み済み)で、いわゆる“天井”に近い。そのため、「噂で買って事実で売る」のがちょうどいい売買タイミングである、という考え方。もともとアメリカのウォール街で生まれたと言われています(英語では「Buy the rumor, sell the fact」)。
※解説は編集部

日本国内での「ビットコイン現物ETF」の展開は?

今回の「ビットコイン現物ETF」の承認は、アメリカでの話になりますが、日本で買えるようになるか気になる人もいるかもしれません。

現時点で具体的な情報は出てきていませんが、今後、日本国内の証券会社が「ビットコイン現物ETF」を取り扱いたいと日本の金融規制当局(金融庁)に申請し、承認されることで、国内でも売買できるようなる可能性はあるでしょう。証券取引所と話を綿密に詰めておく必要などがありますので、それなりにハードルは高いでしょうが、国内で売買できるようになる可能性はゼロではないと思います。興味のある方は、ぜひ動向を追っていただければと思います。

ビットコイン・暗号資産の今後は?

さて、「ビットコイン現物ETF」誕生によって、今後ビットコイン、あるいは暗号資産にはどのような展開が想定されるでしょうか?

私個人の見解としては、ビットコイン価格がより評価される、つまり上昇する展開が期待できると思っています。前出の、暗号資産関係者の見立てと同様に、これまで入ってこなかった投資資金がビットコインに流入する可能性があると考えるからです。

ハッキングなどのリスク管理の観点から、ビットコインを直接保有することができなかった機関投資家などの投資資金が流入することで、ビットコインを筆頭に暗号資産の時価総額は拡大する可能性があると考えます。

ビットコインには4年に1度の「半減期」が控えている

そして、今後の注目イベントとして、2024年4月末頃にビットコインは「半減期」という4年に一度の需給イベントを迎えます

ビットコインは、約4年に1度の周期で、マイニング(採掘)でもらえる報酬を半減させる「半減期」が来ます。過去、2012年、2016年、2020年と3回実施されてきました。2020年は5月11日に実施され、報酬としてもらえるビットコインは「12.5枚」から「6.25枚」に減少しました。2024年4月末に訪れるとみられる次の「半減期」では、報酬は「3.125枚」となります。

そもそもマイニングとは暗号資産独特の用語で、ビットコイン取引が正しく行われているかの検証および承認を行う作業を指します。具体的には、ブロックチェーンに書き込まれた送金や売買などの情報に間違いがないかの作業を正確に早く行えた人(法人)に報酬がもらえる仕組みです。

ビットコインが誕生したときのマイニングは、興味を持つ個人が行っているケースが多かったのですが、マイニングがビジネスになると考えた人が組織的に行うようになり、現在では、莫大(ばくだい)な電力を費やし、多くのPCを駆使して法人が行うようになりました。

余談ですが、2021年には、テスラ創業者のイーロン・マスク氏が「ビットコインのマイニングにかかるエネルギー消費は常軌を逸脱している」と批判したこともあるほど、マイニングでは膨大な電力が消費されており、CO2削減の観点からは問題視する動きもあります。

「半減期」の目的とは?

話を戻しますが、「半減期」は、マイニングを行った人(法人)にもらえる報酬が半分になるわけです。なぜ、このような制度を取り入れているのか不思議に思う方もいるかもしれません。

この制度は、供給が増えることに伴う価格の下落を防ぐために存在しています。ビットコインは、誕生したときから、需要と供給をコントロールするようにプログラムされているのです。世に出回る枚数を事前に決められたルールに則ってコントロールすることで、ビットコインの価値の減少を防ぐロジックになっています。

過去3回の「半減期」以降半年後のビットコインの価格推移を確認しますと、いずれも上昇しています。ビットコインの価格を決めるのは需要と供給のバランスです。単純な話ですが、ビットコインに限らず、モノの価値は、売りたい人よりも買いたい人の方が多ければ、その価値は上昇します。

「過去3回が上昇したから今回も上昇する」という短絡的なものではないですし、その時々の世界情勢などを考慮する必要もありますが、今回の「半減期」においても、ビットコイン価格の推移を注目する価値はあると考えます。次の「半減期」の到来は、2024年4月下旬と見込まれています。「ビットコイン現物ETF」の動向と合わせて注目していただけると幸いです。

※本記事は、執筆者個人の見解です。特定の暗号資産や銘柄を推奨するものではありません。

田代昌之
Writer
田代昌之
金融文筆家。証券会社等を経て金融情報会社でのアナリストやグループの暗号資産交換業者・証券会社の経営に従事。IFTA国際検定テクニカルアナリスト3次資格保有。ラジオNIKKEIでパーソナリティも務める。
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野 洋介(編集部)
Editor
野 洋介(編集部)
書籍や月刊マネー誌の編集者を経て価格.comマネー編集部。“世界3大投資家のひとり”を含む投資家、専門家、経営者、副業実践者などへの取材経験豊富。名字の読みは「の」。ルーツは北陸(らしいです)。
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