皆さんこんにちは。金融文筆家の田代です。
ここのところ、ビットコインの価格上昇が続いています。先日、円ベースでついに1,000万円を突破し、史上最高値を更新しました(4月8日時点では1,100万円を突破しています)。そして、今後のビットコイン価格に影響を及ぼしそうなビッグイベントも目前に迫っています。それが、ビットコインの「半減期」です。今回の記事では、この「半減期」についてわかりやすく解説したいと思います。
ビットコインの「半減期」とは? そしてビットコイン価格への影響は?(画像はイメージです)
2024年3月、ビットコイン価格が円ベースで1,000万円を超え、史上最高値を更新しました。
2024年3月、ビットコインは円ベースで1,000万円を突破。その後も高値で推移しています(画像は、価格.com「暗号資産(仮想通貨)・ビットコイン取引所比較」)
このほか株式市場でも、日経平均が1989年12月29日の史上最高値3万8,915.87円を超え、4万円台に乗せたほか、NYダウやナスダック指数などの米国株指数も史上最高値を更新するなど強い動きが続いています。株式や暗号資産など、リスク資産(※)の上昇が目立っています。
※リスク資産とは?
収益が期待できる半面、損失を被る可能性もあり、将来の収益が確定していない資産のこと。一般的には、株式、投資信託、不動産、暗号資産などの投資商品のことを指します。リスク資産に対し、預貯金、国債など、将来受け取る金額が確定しているものを安全資産と言います。
※解説は編集部
そんななか、2024年1月公開の記事、「『ビットコイン現物ETF』の承認に“暗号資産関係者が歓喜”のワケ」のなかでも説明した、ビットコイン「半減期」が間近に迫ってきました。
本記事執筆時点(東京時間2024年4月10日)では、「半減期」の到来(84万ブロック到達)日は、2024年4月20日頃と見られています。2024年1月時点と比べると到来予想が1週間ほど早まっており、本記事公開後約1週間で「半減期」が到来すると見込まれています。
ビットコインの「半減期」は今回で4回目です。この需給イベントの前後でビットコインの価格がどのように動くのか? 今、暗号資産関係者や投資家の注目が集まっている状況なのです。
ビットコインの「半減期」とは、一体どのようなものなのでしょうか? 結論から話すと、「半減期」には、ビットコインの発行枚数をコントロールする役割があります。それを理解するためには、まず、ビットコイン特有の性質である、発行枚数について知っておく必要があります。
ビットコインの発行枚数はあらかじめ決まっており、発行枚数の上限は2,100万枚にプログラムされています。そして、すでに上限の9割ほどに該当する、約1,900万枚が発行されています。このことから、ビットコインは2140年には発行枚数の上限に達し、発行が終了するとされています。
発行枚数に上限が設定されている点は、日本円やドルなど主要な法定通貨と大きく異なる部分です。ドルや日本円は各国の中央銀行が管理しており、輪転機を回せば、理論上いくらでも紙幣を刷れてしまいます。ところが、ビットコインはそうした管理を行う中央銀行もなければ、輪転機も存在しません。「いくらでも発行数量を増やす」ということは、プログラム上不可能なのです。
この特徴をふまえると、ビットコインは、流通量に限りがある「金」と似たような存在と言えるかもしれません。実際、ビットコインのことを「デジタル・ゴールド」と呼び、発行枚数が限られていることによる希少性に価値を見出している人が多いのは確かです。
少し話が横道にそれますが、現在、米国の経済制裁を受けているロシアや、経済の不透明感が強まっている中国において、金とともにビットコインが買われている、といった話もあります。中国では2017年以降、本国で暗号資産投資はできなくなっていますが、オフショア(中国市場以外の海外市場)でうまく購入していると見られています。
そして、このビットコインの発行枚数をうまくコントロールしているのが、「半減期」なのです。ビットコインには4年に1度の周期で、マイニング(※)でもらえる報酬を半減させる「半減期」が到来します。
※マイニング(採掘)とは?
ビットコイン取引が正しく行われているかの検証・承認(取引などのデータをブロックチェーンに保存する作業)をすることを指し、この作業の報酬としてビットコインを獲得することを含めてマイニング(採掘)と言います。また、マイニングに参加している人や企業のことをマイナー(採掘者)と呼びます。余談ですが、2021年に、テスラ創業者のイーロン・マスク氏が「ビットコインのマイニングにかかるエネルギー消費は常軌を逸脱している」と批判したこともあるほど、マイニングにはPCパワーを要し、ひいては膨大な電気消費を要します。
※解説は編集部
ビットコインでは、約10分に一個のペースでブロックが形成されますが、そのブロックが21万個できると「半減期」を迎える設定になっています。直近では、2020年5月11日に「半減期」が到来しており、報酬のビットコインは「12.5枚」から「6.25枚」に減少しました。そして、今回の「半減期」では、マイニングの報酬は「3.125枚」となります。
なぜ、このような制度がプログラムされているのか疑問に思う方もいるでしょう。理由は、供給過多によるビットコインの価格下落を防ぐためです。つまりビットコインは、最初から需要と供給をコントロールするようにプログラムされているのです。
ビットコインには定期的に供給量が減る仕組みがプログラムされています
ビットコインの発行枚数や「半減期」の仕組みを知ると、「『半減期』は価格下落を回避するためのイベントなので、ビットコインを買うべきタイミング?」と考える人もいるかもしれません。
そこで、過去3回の「半減期」における、ビットコイン価格の動向を振り返ってみましょう。下記は、「半減期」当日の終値と、その後半年間の高値、安値のデータです(いずれも円ベース)。
2012年の1回目の半減期では、11月28日以降右肩上がりで価格が上がっていたため11月28日を半年安値として記載しています
上にあるとおり、過去3回の「半減期」では、いずれも、その後ビットコイン価格が上昇しました。
この結果を受け、目前に迫っている4回目の「半減期」前後で、“思惑的な買い”が入る可能性はあります。もちろん、「半減期の前後でたまたま上昇した」との指摘もあるかもしれませんが、アノマリー(ロジックとしては説明できない事象)的なイメージが先行して買い優勢となる可能性は無視できません。
過去3回の「半減期」では、その後、ビットコイン価格が上昇しました
いっぽうで、4回目の「半減期」には、過去3回の「半減期」の状況とは大きく異なっている点もあります。
1回目の「半減期」があった2012年当時は、ビットコインの知名度が非常に低く、主に技術者や先見の明がある一部投資家が「ネタ」として保有しているような状況でした。
2回目の「半減期」の2016年時点では、2014年のマウントゴックス事件(※)なども影響し、ビットコイン自体の知名度は上昇。投資対象としての存在感も高まりつつありました。しかし、まだまだ興味本位で保有する投資家が多く、「大化け」を期待する側面が強かったと思います。
※マウントゴックス事件とは?
2014年、大手仮想通貨取引所「マウントゴックス」のサーバーが何者かにハッキングされ、合計85万ビットコインや現金が流出した事件。
※解説は編集部
そして、2017年から2019年のビットコイン価格の乱高下を経て、3回目の「半減期」があった2020年は、一部の機関投資家やヘッジファンドなどが、「半減期のアノマリー(半減期は価格が上がりやすい)」に基づいて保有していたと推測します。
ビットコイン円の月足チャート
では、2024年、4回目の「半減期」にはどんな特徴があるのでしょうか? 過去の「半減期」から大きく変わった点として、「ビットコイン現物ETF(上場投資信託)」の存在と、「世界の金融情勢の大きな変化」があります。
「ビットコイン現物ETF」に関する詳細は前回の記事で説明していますので割愛しますが、「ビットコイン現物ETF」の取引開始によって、ビットコインに投資する層は大きく変化したと考えられます。
具体的には、これまで、ハッキングリスクなどセキュリティの観点でビットコインに投資することができなかった投資家が、ビットコイン市場に参入し始めたと考えられています。また、金ETFに投資していた投資家が、「ビットコイン現物ETF」に資金を振り分けているとの観測もあります。
もうひとつは「世界の金融情勢の大きな変化」についてです。
2024年は、米連邦準備制度理事会(FRB)が、2024年に3回(0.75%)の利下げを見込んでいるほか、欧州中央銀行(ECB)は、早ければ6月にも利下げを行うとの見方が強まっています。
また、日本銀行も「マイナス金利の撤廃」を決定し金融政策の正常化を進めていきます。段階的な金利引き上げは今のところ実施しない方針ですが、「金利ある世界」に回帰しますので、日本の金融情勢も変わりつつあります。つまり、ドル、ユーロ、日本円を中心に、世界のマネーは大きな変化を迎えるわけです。
「世界の金融情勢の大きな変化」によって、具体的には、利下げを行うドルやユーロから資金が流出し、金やビットコインなどに流入してくるのではないかと考えます。こうしたマネーの動きは既に始まっており、足元の金やビットコインの価格押し上げの要因となっていると推測します。
また、「世界の金融情勢の大きな変化」とはややずれますが、アメリカが経済制裁を行っているロシアや北朝鮮、イランが決済資金確保のため、ビットコインを筆頭に暗号資産を確保する動きを強めるとの見方もあります。
米国のブロックチェーン分析企業のChainalysisが開示しているレポート「暗号資産犯罪動向調査レポート」では、北朝鮮の暗号資産ハッキング状況や、武器や麻薬などの売買を行うダークネットでの決済手段として暗号資産を利用していることが詳細に書かれています。こうしたマネー流入も、ビットコイン価格の押し上げにつながると考えます。
こうした状況もあり、筆者は、4回目の「半減期」以降も、ビットコイン価格は上昇を続ける可能性があるのでないかと考えています。もちろん短期的には、急騰による過熱感などが意識されて急落する場面は避けられないでしょう。しかし、先ほど説明した「ビットコイン現物ETF」による新たな投資家層の参入と、ドルやユーロからの資金流入などを背景として上昇トレンドの継続を個人的に予想しています。
皆さんもぜひ、4回目の「半減期」と、その後のビットコインの価格の推移にご注目ください。
▼ビットコインのチャートは、価格.comの下記のページでもご確認いただけます。
※本記事は、執筆者個人の見解です。特定の暗号資産や銘柄への投資を推奨するものではありません。