アップルが2023年9月に発売した「iPhone 15 Pro」は、新搭載のUSB Type-Cポートが「USB 3.2 Gen 2」をサポートしていたり、AAAタイトルのゲームにも対応できるGPU性能を備えた「A17 PRO」チップを搭載していたりと、上位モデルならではのメリットが目立ちます。
筆者は、私用のスマホとして同機種の256GBモデルを購入しました。本稿では、約1か月間使ってみたうえでの印象を、6つの疑問点としてまとめてみました。
「iPhone 15 Pro」では、ケース素材として「チタニウム」が採用されたことがトピックです(「iPhone 15Pro Max」も同様)。4種類のカラーバリエーションもチタニウムの“仕上げ”を意識し、「ナチュラルチタニウム」「ブルーチタニウム」「ホワイトチタニウム」「ブラックチタニウム」という名称が用いられています。
筆者は今回、この中から「ナチュラルチタニウム」を選択。購入時に公式サイトを見たときには、ディスプレイにやや茶色系の壁紙画像が表示されていることもあって、多少茶色に寄った雰囲気なのかと思っていました。しかし、手元に届いた実機を見てみると、グレーに近いシルバーといった印象。茶色の要素はほぼありませんでした。
「ナチュラルチタニウム」の「iPhone 15 Pro」。勘違いしがちですが、素材がチタニウムになったからといって、外観に飛び抜けた高級感を感じるわけではありません
チタニウムを採用するメリットは本体の軽量化です。筆者は、ここ数年のiPhoneのProシリーズを仕事でレビューしながら、「重くなるのが嫌だな」と思い、私用では2019年に発売された「iPhone 11 Pro」(188g)を長らく使い続けてきました。たとえば、「iPhone 13 Pro」は203gありましたし、「iPhone 14 Pro」は206gもあります。
しかし、「iPhone 15 Pro」は、チタニウムを採用しつつ本体デザインを見直したことで、「iPhone 11 Pro」よりもやや軽い187gになっています。これは個人的にうれしいポイントでした。
いっぽうで、「しまった」と思ったのが純正ケースでした。先述のとおり、筆者は茶系の端末を想像していたので、それに合わせようと「ファインウーブンケース」の「トープ」を選んでしまっていました。グレーよりのシルバーだと認識していれば、別の色の選択肢を選んでいたかもしれません。ナチュラルチタニウムを検討している人は、まずこの点を留意しておくとよいと思います。可能ならば、店頭で実物を確認しておくと安心です。
ファインウーブンケース(トープ)
また、カラー選びとは関係なく、ファインウーブンケースの質感は、筆者の好みとは少しずれていました。筆者としては、過去に使ったことがあった純正のレザーケースのほうが好みです。
ファインウーブンケースは、側面の樹脂感が強く、色味も公式サイトで見た写真の印象より淡め。背面の手触りは、スエードのようにサラサラ、かつ少しフワフワしています。
ケースを装着した様子
実際に「iPhone 15 Pro」に装着してみると、上品な印象に落ち着いて、決して悪くはありません。しかし、174,800円(256GBモデル。税込、以下同)+9,800円(ケース)で用意した高級セットにしては、どうもワクワクしません。もちろん、炭素排出量が抑えられているエシカルなアイテムではあるのですが……。
いっぽうで、ファインウーブンケースには以下のようなメリットがあります。
1.出っ張ったカメラ部分を保護できるように、カメラ周りに縁取りがあること
2.側面の樹脂部分が滑り止めになる
3.ディスプレイ側のエッジが出ることで画面も多少保護できる
4.側面のボタンの質感
5.MagSafeに対応
そのため、なるべく実物を店舗などでチェックして、イメージの相違がないかどうか確認してから購入するのがよいでしょう。
続いて、ディスプレイについてのお話です。2022年発売の「iPhone 14 Pro」と比べて、新たに変わったところはないのですが、現在の機種を数年使ってから買い替える人が多数派だと思いますので、前面カメラ周りの仕様が「Dynamic Island」に変わったことや、輝度が上がったこと、常時表示の対応などをチェックしておきたいところです。
1つ目の「Dynamic Island」については、個人的にタイマーなどを使った際に、ホーム画面やアプリを使っている画面のまま、進行時間をチェックできるのが便利だと感じています。
「Dynamic Island」でタイマーを拡大表示している様子
2つ目の輝度が上がったことについては、屋外での視認性が改善されていてかなりうれしいです。屋外でのピーク輝度2000nitの見え方がどのくらいかというと、直射日光下でも、影を反射させれば文字がはっきり視認できるくらい。
ピーク輝度が1200nitある「iPhone 11 Pro」と比べても、結構な差を感じます。外出時にSafariの検索結果が読めなかった経験などがある人ならば、大きなアップデートになるでしょう。
最大2000nitの「iPhone 15 Pro」(左)と最大1200nitの「iPhone 11 Pro」の比較。屋外での文字の見え方はかなり変わります
3つ目の常時表示対応については、iOS 17で追加された「スタンバイモード」の本領を発揮できるのがポイント。どのようにカスタマイズするのがベストか、まだ探り探りですが、ひとまず卓上カレンダーやデジタルフォトフレーム代わりに使ってみています。
常時表示は「スタンバイモード」を使いたい人には必須の仕様
なお、この常時表示については、やや設定を工夫する必要があります。たとえば、通知や、ロック画面に配置したウィジェットなどが丸見えになってしまうので、プライバシーに配慮するうえでは「設定」アプリ内の「Face IDとパスワード」から「ロック中にアクセスを許可」の欄のスイッチをカスタマイズしておくのを忘れずに行いましょう。
ちなみに、「Dynamic Island」と輝度に関しては、スタンダードモデルの「iPhone 15/15 Plus」でも共通している特徴なので、Proシリーズを選ばないと体験できないものではありません。
なお、Proシリーズのディスプレイに残っているユニークなポイントとしては、リフレッシュレートが可変120Hzに対応していることがあります。WebページやSNSのタイムラインなどをゆっくりスクロールしながらでも文字が視認しやすいということが違いになると理解しておきましょう。
「iPhone 15 Pro/Pro Max」には、新たに「アクションボタン」が追加されたのがトピックです。従来モデルにあったスライド式のサイレントスイッチがなくなり、消音以外にも、さまざまな機能を割り当てられる「アクションボタン」へと置き換わっています。
「iPhone 15 Pro」シリーズには、側面にアクションボタンがあります
おそらく、多くの人にとって、消音モードの切り替え操作は、コントロールセンターにあるアイコンのタップ操作での制御でこと足りるでしょう。そのため、アクションボタンの価値は、ショートカット機能の割り当てにあります。具体的には、「集中モード」「カメラ」「フラッシュライト」「ボイスメモ」「拡大鏡」「ショートカット」「アクセシビリティ」などが選べます。
たとえば、「カメラ」を割り当てておくと、アクションボタンを長押しすることで、「カメラ」アプリを起動できます。横持ちならば、そのままシャッターボタンとしても機能するので、操作感としては悪くありません。
カメラ持ちでの撮影がしやすいです。ただし、半押しでのフォーカスなどはありません
また、ショートカットを使いこなしている人ならば、選択しているテキストを専用のクリップボードに保存したり、連携しているスマート家電をコントロールしたりと、よりスマートな操作が実現できます。
ただし、アクションボタンに関しては、いまのところ“長押し”しか使えないのが惜しいところ。“一度押し”や、“二度押し”などには機能を割り当てられず、「Proシリーズはアクションボタンが便利!」とストレートにおすすめできるほどの使い勝手は実現されていない印象です。
もちろん、OSのアップデートによって改良されていく可能性はあるので、今後に期待といったところでしょうか。いっぽうで、今のところ誤操作がおきていないのは、素直に評価したいポイントです。
この点は言わずもがなかもしれませんが、「iPhone 15 Pro」のカメラは、数世代前の機種と比べて、かなりきれいに撮れるようになっています。先述したようにアクションボタンとカメラを紐づけておくと、フォトウォークが楽しくなります。
「iPhone 15 Pro」の背面カメラの仕様は、4800万画素(メイン)、1200万画素(超広角)、1200万画素(最大3倍光学ズーム)。「iPhone 15 Pro Max」のようなテトラプリズム型の最大5倍ズームに対応していません
なお、最上位の「iPhone 15 Pro Max」では、テトラプリズム型の最大5倍光学ズーム対応の望遠カメラを搭載したことがトピックです。スタンダードモデルの「iPhone 15」についても、4800万画素のメインカメラを備えたことで光学2倍相当のズームが行えるようになっています。これらのレビューについては、既報にて詳しく紹介していますので、気になる人は以下の記事をご参照ください。
さて、Proシリーズに限らず、「iPhone 15」シリーズでは、ポートレートモードを選択せずに撮影しても、「深度情報」が記録できるようになっています。つまり、何気なくとった写真をあとからポートレートモードに切り替えられるということです。この機能は使い勝手がとても高いです。
「iPhone 15」シリーズでは、撮影した後で、「写真」アプリの左上に表示されるアイコンの操作からポートレートモードのオン/オフを切り替えられます
いっぽう、気になるのが、カメラの性能が向上したことで「写真のデータは重くなるのか?」ということ。結論を先に言うと、「さほど気にしなくてよさそう」です。実際にデフォルトの設定のままで撮影した画像について、何枚か容量をチェックしてみたところ、1枚1〜2MB台に収まるものがほとんどでした。これまでのiPhoneで撮影してきた写真と比べて、特段容量が多いというわけではないので、気にせずにガンガン写真を撮って問題ないでしょう。
ただし、「カメラが楽しくてつい撮りすぎてしまう」という事態は起こりがちだと思うので、結果的に容量は消費しやすいかもしれません。
いっぽうで、Proシリーズらしい専門的な使い方をする場合にも、カメラの容量をさほど気にせずに済むようになっています。こちらは次のUSB Type-Cの項目で合わせて解説しましょう。
「iPhone 15シリーズ」では、EUにおける法規制という背景もあって、長年続いたLightnigコネクターが廃止され、USB Type-C(※アップルは「USB-C」と表記)ポートへと置き換わりました。
購入時に注意したいのは、USB Type-Cというのは、主にコネクターの形状を表す言葉であって、データ伝送速度などが異なる複数の規格が混在しているということ。実際、「iPhone 15/15 Plus」と、「iPhone 15 Pro/Pro Max」では、同じUSB Type-Cでも、対応している規格が「USB 2.0」と「USB 3.2 Gen 2」で異なります。
「iPhone 15 Pro」はUSB Type-C(USB 3.2 Gen 2)ポートを搭載
「iPhone 15 Pro」シリーズのUSB Type-CポートのUSB 3.2 Gen 2は、最大10Gbpsのデータ転送速度に対応。USB 2.0が対応する最大480Mbpsと比べると、単純に20倍以上のスピードで、有線接続でデータを取り出せるということになります。
単純化して考えるならば、これまで60分かかっていたデータ転送を、1/20の時間=3分程度あれば完了できてしまうということになります。日常的に、端末のデータバックアップや、動画データの移行などを行う際には、大きな利点となるでしょう。
また、「ProRes」フォーマットで動画を撮影する場合には、保存先に外部ストレージを選択することができます。あらかじめ外付けのSSDを装着した状態で動画を撮れるので、クリエイターにとっては、より“使い勝手の高いカメラ”という位置づけになった印象です。
ただし、動画クリエイターではない筆者が、「iPhone 15 Pro」を約1か月運用した範囲においては、今のところデータバックアップなどのために高速なUSB Type-Cが活躍したシーンはまだありません。ちょっとした写真の共有などは従来通り「AirDrop」で問題ないからです。USB Type-Cポートが十分に活躍するのは、もう少し長く使い続けて、写真や動画が溜まってきてからになりそうです。
USB Type-Cポートの採用は、MacBook用の充電ケーブルをiPhoneで併用できたり、外部モニターに接続しやすくなったりと多くのメリットを生みます。ただ、iPhoneユーザーの中には、USB Type-Cケーブルを所持しておらず、寝室、リビング、外出時、車内など、それぞれのシーンに合わせてLightningケーブルを揃えていたという人もいることでしょう。
そうした人の場合、ケーブルを揃え直すのに結構なコストがかかることは知っておいてほしいです。もし「iPhone 15 Pro」を撮影機材として利用する機会がないのなら、短期的にコネクターのメリットを期待するのではなく、長期的な視点で捉えて構えておく必要があるかもしれません。
「iPhone 15 Pro/Pro Max」では、「A17 Pro」というProの名を冠したチップセットが搭載されています。いろいろと改良がある中で、多くのユーザーにとって注目すべきは、グラフィック性能が強化されており、ゲームのAAAタイトル(≒グラフィックの作り込みがすごい大ヒットゲーム)の簡略化されていないバージョンを遊べることがあります。
たとえば、すでにApp Store上で公開されているタイトルにはカプコンの「BIOHAZARD VILLAGE(バイオハザード ヴィレッジ)」のiOS版があります。このアプリは、iPhoneシリーズだと「iPhone 15 Pro/Pro Max」のみ、iPadだと「M」シリーズチップを搭載したモデルでしかインストールができません。
今後、こうしたタイトルが堅実に増えてくると、「Proシリーズを持っていれば、iPhoneが家庭用ゲーム機の代わりになる」というメリットが強まるでしょう。
ただし、現状では、6万円前後で購入できる家庭用ゲーム機よりも、「iPhone 15 Pro」のほうがかなり高価です。もちろん、124,800円の「iPhone 15」に対して、+35,000円を払えば、「iPhone 15 Pro」に手が届き、ゲーム機としても使えると考えれば、コストパフォーマンスは悪くないかもしれません。
筆者は、自宅にあった「Nintendo Switch Proコントローラー」を「iPhone 15 Pro」に接続して、先述の「BIOHAZARD VILLAGE」をプレイしてみました。これまでもスマートフォンでレトロなRPGゲームの復刻版をいろいろと遊んだりしてきましたが、このレベルのグラフィックのゲームをiPhoneで遊べるというのは、ゲーム好きなユーザーとして感激です。
Bluetooth設定から対応のコントローラーを接続。iPhoneのサイズだと銃の照準が小さく、やや見づらく感じられました
ただし、「iPhone Pro Max」ならともかく、「iPhone 15 Pro」のディスプレイでは、ややサイズがもの足りない印象もあります。
そこで、先述したUSB Type-Cポート経由で、外部モニターに出力してみました。こうなるともう超コンパクトなゲーム機です。正確な数値は記録していませんが、1〜2時間プレイしても、さほどバッテリーは減っていませんでした。ストリーミング動画を視聴するのと、さほど変わらない感覚で使えると思います。
外部ディスプレイに接続してゲームをプレイ。HDMIケーブルを使って接続したら、サウンドの出力は自動で外部モニター側へと切り替わります。スピーカーを備えたPCモニターを使うか、ワイヤレスイヤホンを使うのがおすすめ
ただし、こうした使い方になってくると「もはや家庭用ゲーム機でもよいのでは」という気もしてきます。プレイ中はiPhoneが使えなくなるので、タイトルによっては遊びながらのコミュニケーションが難しいです。家族や友人とのソフトの共有もしづらいかもしれません。
ゲーム好きな人には必見の特徴ですが、今後のタイトルがどのくらい充実するか、どんなゲームが遊べるようになるのかなどによって、ポテンシャルが十分に発揮されるかどうかは、大きく左右されそうです。
長くなりましたが、最後に「iPhone 15 Pro」のApple Storeオンラインでの価格をおさらいしておくと、128GBモデルが159,800円、256GBモデルが174,800円、512GBモデルが204,800円、1TBモデルが234,800円です。昨今の円安や物価高の影響も重なり、決して安価なではありません。
その半面、仕様と機能についての重要なアップデートが多く、長期的な運用を見据えるならば、間違いなく「iPhone 15 Pro」シリーズは買いのタイミングだと感じます。
筆者が実際に運用したうえでも、やや惜しいと思ったのはケースのデザインくらい。そのほかは、非常に満足していますし、常時表示ディスプレイや、アクションボタン、高速なUSB Type-Cポートの搭載、AAAタイトルへの対応など、今後長い目でみてジワジワとメリットが増えてくる特徴も多く備えています。
総合的にみて、予算に余裕があるか、少し背伸びして購入しても問題がないならば、買いの端末だと思います。旧世代のProモデルを使っていた人や、ゲーム好きな人、撮影機材としてのiPhoneを期待する人、24年発売予定のApple Vision Pro向けに「空間ビデオ」を撮りたい人などは、まず「Pro」をチェックしておきたいところ。
いっぽう、上述したようなProシリーズ独自の特徴にこだわりがない場合には、スタンダードモデルの「iPhone 15」もチェックしてみるのがいいでしょう。「iPhone 15」ならば、従来のProユーザーでも十分満足できる性能を備えていると思います。
どちらの機種がいいか検討する際には、両者の差異についてじっくり比較してみてください。