中国のスマートフォンメーカーZTEが、「nubia(ヌビア)」ブランドとしてSIMフリー市場に再参入を果たした。今回は、その第1弾となるコスパを重視したエントリーモデル「nubia Ivy」をレビューしよう。競合製品と比べての優位性や注意点に迫った。
手ごろな価格が魅力の「nubia Ivy」。ライバルと比べての優位性を紹介しよう
「nubia」は、ZTEが世界展開するスマートフォンブランド。日本市場参入に際して、SIMフリーの折りたたみスマホ「nubia Flip 5G」と、今回取り上げるコスパ重視スマホ「nubia Ivy」の2機種を、2024年3月末より発売している。これら2機種は、ワイモバイルのそれぞれ「Libero Flip」と「Libero 5G IV」をベースにしつつ、SIMフリー向けの改良が施されたものだ。
「nubia」ブランドとしてSIMフリー市場に参入したZTE。折りたたみの「nubia Flip 5G」とともに発表されたのが今回取り上げる「nubia Ivy」だ。なお、「nubia」がスマートフォンのブランドに再編されたことで、ゲーミングスマホの「REDMAGIC」シリーズは「nubia」とは別のブランドとして扱われるように変更された
「nubia Ivy」は、コスパを重視したエントリーモデル。直販価格は31,880円(税込)で、オッポの「OPPO A79 5G」や、シャオミ「Redmi 12 5G」などと競合する製品だ。
ボディサイズは約76(幅)×166(高さ)×8.6(厚さ)mmで、重量は約194g。さすがに8.6mmという厚さは、手にすると大きな印象を受ける。ディスプレイは2408×1080のフルHD+表示に対応した約6.6インチ液晶で、90Hzのリフレッシュレートに対応している。
ディスプレイは90Hzのリフレッシュレートに対応している
背面はマット処理された樹脂製だが、光が細かく反射するため価格以上の雰囲気を感じる。側面のフレームとディスプレイのつなぎ目が滑らかで一体感があり、上々の仕上がりと言っていいだろう。
マット処理された背面。中央部分にグレーのプリントが施されている
ボディを横から見たところ。厚みはあるが、ディスプレイとボディのつなぎ目には一体感があり、エントリー機にありがちな古臭さを感じにくい
ボディはIPX5/7の防水仕様とIP6Xの防塵仕様に加えて、おサイフケータイとNFCに対応しているのが大きい。水回りで安心して使えるうえ、モバイルSuicaやモバイルPASMOなどの交通系ICカードを利用できるのが便利だ。
近ごろは珍しくなくなったが、おサイフケータイに対応しているのはやはり便利
電源ボタンに指紋認証センサーを内蔵している
サウンド機能に目を向けると、スピーカーがモノラルで、ヘッドホン端子は非搭載。イコライザーやDolby Atmosのようなバーチャルサラウンド機能も備わっていない。競合製品では「OPPO A79 5G」がステレオ対応、「Redmi 12 5G」がヘッドホン端子搭載なので、比べるとサウンド機能はやや見劣りする。なお、BluetoothのコーデックはSBCとAACに対応している。
下面にUSB Type-Cポートとスピーカーホールを配置。ヘッドホン端子は非搭載でスピーカーはモノラルだ
本機が搭載するSoCは、MediaTek社の「Dimensity 700」。これに、6GBのメモリーと128GBのストレージ、1TBまで対応するmicroSDXCメモリーカードスロットを組み合わせている。OSは、Android 13だ。
「Dimensity 700」は、2020年登場で5G対応SoCとしては比較的初期のもの。本機のベースモデル「Libero 5G IV」のほかには、シャープ「AQUOS wish3」で搭載されており、価格重視の製品では近ごろ搭載機が増えている。なお、ZTEはOSバージョンアップに熱心でない印象があるが、近年発売の「Libero」や「REDMAGIC」シリーズでは少なくとも1回のバージョンアップを実施している。
本機のベンチマークアプリ「AnTuTuベンチマーク(バージョン10.X)」のスコアは356574(内訳、CPU:120184、GPU:60631、MEM:77183、UX:98576)。競合するシャオミ「Redmi 12 5G」は412097(CPU:139386、GPU:49272、MEM:115131、UX:108308)で、「OPPO A79 5G」は383355(内訳、CPU:136026、GPU:59784、MEM:91483、UX:96062)なので、比べると本機のスコアは少し見劣りする。ただ、サブスコアを見ると「GPU」の数値はこれら3機種の中ではいちばん高い。ゲームのようにグラフィック性能が重要な用途では、本機のほうがスムーズに動作する可能性がある。
AnTuTuベンチマークの結果。左は本機「nubia Ivy」、中央は「Redmi 12 5G」、右は「OPPO A79 5G」
体感速度については、6GBのメモリー容量があるので、複数のアプリを起動させたままの状態でも動作は比較的きびきびしていた。なお、「Redmi 12 5G」と「OPPO A79 5G」は4GBメモリーなので、本機はこの点でアドバンテージがある(「Redmi 12 5G」には上位機種として8GBモデルが用意されている)。
SIMカードスロットにはmicroSDメモリーカードも装着できる
本機の通信機能には少し注意したい点があるので、詳しく解説しよう。
本機は5G対応だが、対応する周波数帯はn3/28/77の3個に限られている。この周波数帯の組み合わせは、ソフトバンクそして楽天モバイルの5Gネットワークを十分にカバーできるものだ。なお、KDDIは、n77のほかにn78を組み合わせているため、利用できないエリアが発生する。
NTTドコモについては、これらの周波数帯に適合するものがないため、もっぱら4Gを使うことになる。なお、4Gについては国内4キャリアの使用するB8/18/19といったプラチナバンドを含むさまざまな周波数帯に対応しており、制約はない。
緊急地震速報の受信にも対応している
本機は、5000万画素の広角カメラ、約200万画素のマクロカメラのデュアルカメラを搭載している。約200万画素の深度センサーも備わっているが、これはオートフォーカスの補助や背景をぼかすポートレート撮影に使うもので、カメラとして使うわけではない。構図を認識して適した撮影モードを適用するAIカメラ機能や、オートHDR機能を搭載しているので、カメラ任せで撮影が行える。フロントカメラは約800万画素だ。
広角カメラ、マクロカメラのデュアルカメラに、構図の認識に使用する深度センサーを組み合わせる
以下に、静止画の作例を掲載する。いずれも初期設定を基本としつつ、AIカメラとオートHDRを使用している。
日中の様子。青空の強調は抑えられている。遠景の並木の枝を拡大すると、シャープネスによる輪郭の縁取りが見られた
明暗の差が大きな構図で撮影を行った。オートHDRは動作しているが、暗部はあまり明るくなく、補正はほどほど
花畑を撮影。こちらも極端な色の誇張はなく、素直な仕上がりだ
照明の落とされた回廊を撮影。肉眼の印象ではもっと暗いが、思いのほか鮮明だ。ただ、天井の間接照明部分は飽和気味で、ダイナミックレンジの補正はほどほどのようだ
背景ぼかしを使ってランを撮影。F値1.0相当のボケを再現している。花の付いている枝を見るとややちぐはぐな印象がする
モミジバフウの実をマクロカメラで撮影。接写撮影を楽しめるが、200万画素のため解像感はあまり高くない
本機のカメラは、特に凝ったものではないが、誇張の少ない素直な写真が手軽に撮れるし、レスポンスも悪くない。エントリー向けとしては欠点の目立ちにくいカメラだ。気になったのは、HDR機能が搭載されているものの、明暗差の大きな構図はあまり得意ではないようで、黒つぶれや白飛びが起こりやすいこと。破綻のない撮影を行うには、構図を読み取ってカメラに負担をかけない工夫が必要だろう。
バッテリー周辺の性能を見てみよう。搭載されるバッテリーは4420mAhで、連続通話時間は2250分(FDD-LTEエリアでの計測)、連続待ち受け時間は618時間(いずれもFDD-LTEエリアでの計測)。ちなみに、競合する「OPPO A79 5G」は連続通話時間が約1500分、連続待ち受け時間が約548時間。「Redmi 12 5G」は連続通話時間が2890分、連続待ち受け時間が約790時間だ。
検証に際して1日に2〜3時間程度のペースで使用したところ3日+αのバッテリー持ちだったので、数日に1回の充電で済むだろう。1泊の旅行なら充電器やモバイルバッテリーを併用しなくても余裕で乗り切れそうだ。
充電機能を見ると、USB PD規格による22.5Wの急速充電に対応しており、最短100分でフル充電が行える。なお、製品パッケージに充電器が含まれていないため、汎用のUSB PD充電器を用意する必要がある。
以上、「nubia Ivy」の性能をレビューした。
冒頭で触れたように、本機のようなおサイフケータイに対応した3万円前後の海外メーカー製のエントリー向けスマートフォンは近ごろ増えており、ライバルが多い。ただ、いずれもスペックが類似しているので、どのモデルを選ぶかは細かな違いを読み取ることが必要だ。
競合製品と比べて本機の優位点は、おサイフケータイに加えて、IPX5/7という水没に耐えられる防水性能を備えていること。6GBのメモリーを搭載しているのも大きい。 特に「OPPO A79 5G」や「Redmi 12 5G」の防水性能は水没には耐えられないので、本機の優位性が目立つ。デメリットとしては、スピーカーがモノラルであることと、5Gにおけるドコモのネットワークとの相性だ。
基本的な能力は競合製品と比較しても大きな見劣りはしない。ただ、本機はまだ発売して間もないため割高感がある。今後の価格競争によって魅力が一気に高まることが考えられるので、価格の推移に注目したい1台と言えるだろう。