スマートフォンやモバイル通信とお金にまつわる話題を解説していく「スマホとおカネの気になるハナシ」。今回は、台頭著しい中国のスマートフォンメーカーの事情を解説する。コスパに加えて技術力でも他社を圧倒しつつあるが、消費者目線で気になる点を解説しよう。
市場の低迷や、国内スマートフォンメーカーが相次いで撤退したことなどにより、日本で販売されるスマートフォンの数は減少傾向にある。そうした中にあって、ここ数年来目立ってきているのが中国メーカーだ。
以前にも触れた、低価格の折り畳みスマートフォン「Libero Flip」「nubia Flip 5G」を提供しているZTEのほか、ミドルクラスの「Oppo Reno A」シリーズをテレビCM展開するなどして、一時大きな注目を集めたオッポ、そして2019年に参入したシャオミなどが、その代表例だ。
日本のスマートフォン市場に参入するスマートフォンメーカーは着実に増えており、一時期有名タレントを起用したテレビCMを展開して話題となったオッポはその代表例だ
もうひとつ、これらとは違った形で日本市場での存在感を高めつつある中国企業が、パソコンメーカーとして知られるレノボ・グループである。同社は米国のモトローラ・モビリティを傘下に持つほか、2023年に経営破綻したFCNTの事業も引き継いでおり、傘下企業を通じて日本での事業を拡大しつつあるようだ。
ここ最近、折り畳みスマートフォンの日本展開に力を入れているモトローラ・モビリティは、米国企業だが中国レノボ・グループの傘下企業でもある
これらの企業は日本での存在感がまだ大きいとは言えない。だが、国内メーカーが減少し、市場に投入されるスマートフォン新製品が大幅に減少する中にあって、特徴的な製品を投入するなどして徐々に存在感を高めつつある。今後展開される夏商戦に向けても各社が新製品を発表するものと考えられ、中国系のメーカー製スマートフォンはより身近な存在になりそうだ。
しかしなぜ、かつてはあまり目立たなかった中国メーカーが、日本市場で目立つようになってきたのか。そこには世界規模で見た場合、中国以外のスマートフォンメーカーがほぼなくなっている現実が大きく影響している。
実際に、かつてスマートフォン市場シェアトップ3に名を連ねていた韓国LGエレクトロニクスは2021に撤退。モトローラ・モビリティは2度の売却の末にレノボ・グループ傘下となっているし、ソニーやAndroidでは老舗だった台湾企業HTCもスマートフォン事業を劇的に縮小させ、なんとか生き残っている状況だ。
ケースを装着すると2画面で利用できる機種など、かつて特徴的なスマートフォンを日本でも提供していたLGエレクトロニクスだが、長年スマートフォン事業での赤字が続いた結果、2021年に撤退へといたっている
そしてここ数年のスマートフォン世界出荷台数シェア上位を見ていると、アップルとサムスン電子に続くのは中国メーカーのシャオミとオッポであるし、さらに「vivo」(ビボ)や「Realme」(リアルミー)、「Transsion」(トランシオン)といった中国企業がそれらに続く。日本ではほぼ耳にすることがないこれらのメーカーだが、実はいずれもアジアやアフリカなどの新興国を主体に事業展開して急成長を遂げ、世界的に見れば非常に大きな存在感を発揮している。
新興中国メーカーのひとつであるトランシオンは、「Tecno」などのブランドでアフリカを主体にスマートフォン事業を展開。2023年には世界スマートフォン出荷台数シェアのトップ5に食い込む成長を見せている
なぜ中国企業が新興国に強いのか。所得が少ない新興国でスマートフォンの販売を拡大しながら利益を得るには、スマートフォン自体の価格は抑えて数を多く販売する、薄利多売のビジネスが求められる。だが、中国メーカーは自国に巨大な市場を抱えているのに加え、iPhoneをはじめとしたスマートフォンを製造する工場が多く存在している。こうした背景から、スマートフォンを大量生産・販売しやすい環境が整っていることもあって新興国向けビジネスに強かったと言える。
そして、先進国でのスマートフォン普及が一巡し、ビジネスの主体が新興国に移りつつあった10数年前ごろから、新興国を主体とした中国メーカーの低価格攻勢が目立つようになった。新興国市場を掌握したことが規模の経済性を大幅に高めたのだ。
それを受けて中国以外のメーカーが軒並み赤字に陥るなど、苦戦が目立つようになった。日本で言えば、ソニーのスマートフォン事業の前身に当たるソニーモバイルコミュニケーションズが、2014年に大幅な赤字を計上してソニーグループ全体の経営をも揺るがす事態となったことが象徴的な事例と言える。
その結果、世界市場で生き残った中国を除いた各国のメーカーは、独自路線を進むアップルと、世界最大手であり規模の面で中国メーカーに唯一対抗できたサムスン電子くらい。既に中国メーカーが世界市場を席巻しているのが実状であり、これまでローカル市場に強い国内メーカーが多かった日本は、強力な地場メーカーを持つ米国や韓国などと同様、中国メーカーのシェアが小さい例外的な国のひとつだった、というのが実状なのだ。
それだけに国内メーカーが減少した今後は中国系メーカーがシェアを伸ばすと見られる。消費者も中国メーカーの製品を選ぶ機会が増えると考えられるのだが、中国メーカーの製品に対し品質やサポート面を懸念する人もいるだろう。ただ、メーカー側もそうした点は非常に気にしているようで、筆者がメーカー各社に取材する中でも、世界的に見て日本のユーザーが製品品質の高さを強く求める傾向にあり、品質を担保できないと市場での信頼を失ってしまうことから、とりわけ品質やサポートには力を入れているとの声が多く聞かれる。
しかも、日本のスマートフォン市場は携帯電話会社からの端末販売が多いので、携帯各社に端末を買ってもらわないとシェアを伸ばすことができない。そのためには日本の消費者に合わせた品質を求める携帯各社の品質チェックを通す必要がある。そうした部分でも、日本で販売されている中国メーカー製端末の品質は、ある程度担保されていると見ていいだろう。
ただし、日本市場に合わせた品質やサポートの充実が進めば、中国メーカーのシェアは海外並みに高まるのかというと、そう容易ではないと筆者は見る。ここ最近中国と米国との政治的対立が強まっており、その影響もあって日本と中国との政治的関係は決して良好とは言えない。そして政治の影響が、スマートフォンの事業に大きく及ぶことが、実は少なくないのである。
実際に2018年には、ZTEが一時米国の規制に違反したとして制裁を受け、事業が困難な状況に陥った。当時日本でも携帯各社がZTE製品をいくつか販売していただけに、制裁が同社製品の販売やサポートなどに大きな影響が及び、混乱を招いた。
ZTEに対する制裁は既に解除されているのだが、より大きな影響を受けているのがファーウェイ・テクノロジーズである。同社も2019年に、やはり米国から制裁を受けOSの「Android」の利用や独自開発していたチップセットの製造などが困難となり、現在も中国外ではスマートフォンの開発・販売が難しい状況となっている。
同社は一時、世界出荷台数シェアでサムスン電子を抜くなどスマートフォン市場で非常に大きな存在感を示し、日本市場開拓にも力を入れていただけに、制裁がZTE以上に大きな影響を与えたのは確かだ。
ファーウェイ・テクノロジーズは米国による制裁の影響でスマートフォン開発が困難な状況となった。現在も中国外ではスマートフォンを主力事業として展開できておらず、スマートウォッチやワイヤレスイヤホンなどに活路を見いだしている
ただし、ZTEやファーウェイ・テクノロジーズが米国から制裁を受けたのは、両社が携帯電話基地局などの通信機器事業も展開していることが大きく影響している。そうした事業を展開していないシャオミやオッポなどが、政治的に直接制裁を受ける可能性はあまり高くはないのだが、間接的に影響を受けている部分はあるだろう。
そのことを示しているのが、ここ最近のNTTドコモの動向である。かつて同社もZTEやファーウェイ・テクノロジーズといった中国メーカーの製品を扱っていたのだが、一連の制裁以降中国メーカーの製品を扱わなくなっている。
元々中国メーカー製が多くを占めていたモバイルWi-Fiルーターも、あえてシャープから調達している状況で、意図的に中国メーカーを排除している様子がうかがえる。
NTTドコモはファーウェイ・テクノロジーズらに対する制裁以降、中国メーカー製品の採用を避ける傾向にあり、モバイルWi-Fiルーターもシャープから調達している
そこには2020年に、日本政府が大株主である日本電信電話(NTT)の完全子会社となったことが、少なからず影響しているのではないかと言われている。それだけに日中、米中の政治的対立が解消しない限り、中国メーカーがシェアを大きく伸ばすのは難しいとの見方も少なくない。
レノボ・グループがFCNTの事業を承継し、国内メーカーとして存続させるにいたったのも、政治的影響を回避しながら携帯電話会社との販路を獲得し、日本市場での販売を拡大する狙いが大きいと言えそうだ。
しかし、残る国内メーカー自体ほとんどなく、ほかの中国メーカーが同様の戦略を取るのは難しいだろう。それだけに中国メーカーの販売は、今後も政治が大きく左右することになるというのが筆者の見方である。