スマホとおカネの気になるハナシ

採用スマホ急増中! メディアテック製チップセットの背景と製品の見分け方

スマートフォンやモバイル通信とお金にまつわる話題を解説していく「スマホとおカネの気になるハナシ」。今回の話題は近ごろ採用するスマホをよく見かける台湾のメーカー「メディアテック」のチップセットを取り上げる。なぜ注目されるのか、その理由と、グレードの見分け方を解説しよう。

CPUやGPU、NPUなどを1個のチップにまとめたのがチップセット。写真はメディアテック製ハイエンドチップセット「Dimensity 9300」

CPUやGPU、NPUなどを1個のチップにまとめたのがチップセット。写真はメディアテック製ハイエンドチップセット「Dimensity 9300」

チップセットはスマホの性能を大きく左右する重要な部品

円安や政府による端末価格の値引き規制の影響が直撃したことで、2024年に日本市場で発売、あるいは発売予定のスマートフォンは、性能も価格も高いハイエンドモデルの数が大幅に減少している。そのいっぽうで急増しているのが、5〜10万円台のミドルクラスのスマートフォンだ。

そのこと自体は以前の連載でも触れているが(「高価でもおトク感で生き残りをかける夏のフラッグシップスマホ」参照)、ミドルクラスのスマートフォン新機種にはもうひとつ従来と比べ変化している部分がある。それはスマートフォンの中核を担う部品“チップセット”だ。より具体的には、メディアテック製のチップセットを採用した機種がかなり増えている。

チップセットとは、CPUやGPU、最近ではAI関連処理を高速にするNPU(Neural Processing Unit)など、複数の機能を1個のチップにまとめたもの。「SoC」(System on a Chip)と呼ばれることも多い。スマートフォンの性能に大きな影響を与えるためどんなチップセットを搭載するかは非常に重要な要素になる。

現在のメディアテックは世界一のシェアと高い技術を誇る大企業

スマートフォン向けのチップセットには、大きく分けて2つの種類が存在する。ひとつは自社製スマートフォン専用に開発された独自のチップセット。アップルの「iPhone」が搭載している「A」シリーズや、Googleの「Pixel」シリーズに搭載されている「Tensor G」シリーズがその代表例だ。

そしてもうひとつは、幅広いスマートフォンに対応できる汎用のチップセットであり、多くのメーカーはこちらを使用している。そして従来、日本で販売されるAndroidスマートフォンで最も多く採用されてきたのは米国企業クアルコムの「Snapdragon(スナップドラゴン)」シリーズだ。「Snapdragon」のどのシリーズを採用しているかが、スマートフォンの性能を測る基準のひとつとなっていた。

スマートフォン向けの汎用チップセットを提供する主なメーカーは、クアルコムだけではない。クアルコム以外で有力な1社が、台湾の企業「メディアテック」である。同社は低価格の携帯電話・フィーチャーフォン向けのチップセットを提供し、それが中国などのアジア圏で人気を博して事業を拡大してきた経緯がある。そのため、以前より低価格スマートフォン向けのチップセットに強みを持っている。

メディアテックはスマートフォン向け汎用チップセットでクアルコムとシェアを二分する大手企業。低価格製品向けのチップセットに強みを持つが、最近ではハイエンド向けにも力を入れている

メディアテックはスマートフォン向け汎用チップセットでクアルコムとシェアを二分する大手企業。低価格製品向けのチップセットに強みを持つが、最近ではハイエンド向けにも力を入れている

低価格と聞くと「安かろう悪かろう」という印象を持つ人もいるかもしれない。確かに、以前は低品質なスマートフォンではメディアテックのチップセットが採用されていることが多かった。この時代のイメージを持つ人もいるだろう。

だが、今やメディアテックは世界市場でクアルコムを追い抜いてトップシェアを獲得している大手企業だ。しかも最近ではミドルクラスやエントリー向けだけでなく、フラッグシップモデルに向けた非常に高性能なチップセットも提供しており、価格だけにとどまらない技術力・競争力を持っている。

従来、日本ではハイエンドモデルの販売数が多かったため、ハイエンドスマートフォン向けのチップセットに強みを持つ「Snapdragon」が採用されることが多く、メディアテック製のチップセットを採用した製品を見ることは少なかった。しかし、2024年に発表された新機種を見ると、メディアテック製のチップセットを採用した機種がかなり増えている印象だ。

5月以降に発表された機種にも、シャオミの「Redmi Note 13 Pro+ 5G」やオッポの「OPPO Reno11 A」、モトローラ・モビリティの「motorola edge40 neo」「moto g64 5G」などのスマートフォンがメディアテック製のチップセットを採用している。海外メーカー製の機種が多いが、シャープの「AQUOS wish4」やFCNTの「arrows We2」、そして京セラの法人向けスマートフォン新機種「DIGNO SX4」など、国内メーカーの製品でも一部にメディアテック製のチップセットを採用する動きが広がっているようだ。

FCNTが「arrows We2」に「Dimensity 7025」を採用するなど、海外メーカーに限らず国内メーカーにもメディアテック製チップセット採用の波が広がっている

FCNTが「arrows We2」に「Dimensity 7025」を採用するなど、海外メーカーに限らず国内メーカーにもメディアテック製チップセット採用の波が広がっている

近ごろ発売されたメディアテック製チップセット搭載の主なエントリー〜ミドルスマートフォン

価格の強みに加えて関係の深い中国メーカーの世界的躍進もシェアを伸ばす背景

なぜメディアテック製のチップセットが増えているのか? 理由のひとつとして、やはり円安などの影響によるスマートフォンの価格高騰は無視できない。メディアテックは低価格帯の製品に強みを持つだけではなく、クアルコム製と同等の性能であっても価格が安い傾向にある。そこで国内メーカーを中心として、製造コストを重視するミドルクラスやエントリー向けのスマートフォンにメディアテック製のチップセットを採用する動きが強まっているようだ。

もうひとつ、大きな影響を与えているのが中国メーカーや、中国メーカーを親会社に持つメーカーの存在だ。先に触れたように、メディアテック製のチップセットはフィーチャーフォン時代から中国で人気を博し、その後も低価格帯の需要が大きい新興国向けのスマートフォンに多く採用されてきた経緯がある。

こうしたことから、中国メーカーは以前からメディアテック製のチップセットを採用する傾向が強い。加えて国内メーカーの撤退などにより、日本で中国関連メーカーの存在が強まっていることも、メディアテック製のチップセットを採用したスマートフォンが増えている要因のひとつだろう。

中国メーカーはミドルクラスだけでなくハイエンドモデルにメディアテック製チップセットを採用することもある。写真はそのハイエンドクラスのチップセットを搭載した「Xiaomi 13T Pro」

中国メーカーはミドルクラスだけでなくハイエンドモデルにメディアテック製チップセットを採用することもある。写真はそのハイエンドクラスのチップセットを搭載した「Xiaomi 13T Pro」

型番ルールは基本的にシンプルだがルールの混在に注意

メディアテック製のチップセットを採用した機種が増えるに従って、悩ましいのは性能評価ではないだろうか。クアルコムのSnapdragonシリーズであれば、「8」が最上位のハイエンド向けで、「7」がミドルハイ、「6」がミドルクラス、「4」がエントリー向け……と、型番である程度性能を見分けることができた。

しかし、メディアテック製のチップセットは「Dimensity(ディメンシティ)」「Helio(ヘリオ)」など複数のシリーズが存在するうえ、型番も桁数が3桁だったり、4桁だったりすることもあって、チップセットの名称から性能を見分けにくい。とはいうものの、実は名称からある程度、性能を判別することは可能となっている。

まず「Helio」と「Dimensity」の違いだが、わかりやすく言えば前者が4Gまで、後者が5Gにも対応したチップセットになる。2024年に発表されたスマートフォンのほぼすべてが5Gに対応していることから現在の主流は「Dimensity」シリーズだが、モバイル通信機能を持たない、一部の低価格タブレットなどには現在も「Helio」シリーズが採用されるケースが見られる。

見分けポイントその1

・「Dimensity」は5G対応チップセットで現在の主流
・「Helio」は4G向けチップセット

4Gまでの対応となる「Helio」は、スマートフォン向けの採用こそ大幅に減っているが、低価格タブレットなどで採用されるケースはまだ多い。写真は「Helio G99」(MT8781)を搭載するアイリスオーヤマのタブレット(2024年発売)

4Gまでの対応となる「Helio」は、スマートフォン向けの採用こそ大幅に減っているが、低価格タブレットなどで採用されるケースはまだ多い。写真は「Helio G99」(MT8781)を搭載するアイリスオーヤマのタブレット(2024年発売)

「Dimensity」の後に来る4桁の数字だが、こちらは「Snapdragon」の次に来る数字と同様、チップの性能を表している。あくまで大雑把なくくりとなるが、クアルコム製のチップセットとの比較でいうと、9000番台が最上位のハイエンドクラス、8000番台がミドルハイ〜ハイエンドクラス、7000番台がミドル〜ミドルハイクラス、6000番台がエントリー向けと考えればわかりやすいだろう。後は数字が大きかったり、同じ数値でも「+」が付いていたりするほど基本的に性能が高い。「Helio」も数字が大きいほど高性能であることを示す。

見分けポイントその2

・Dimensity 9000番台はハイエンドクラス
・Dimensity 8000番台はミドルハイ〜ハイエンドクラス
・Dimensity 7000番台はミドル〜ミドルハイクラス
・Dimensity 6000番台はエントリークラス
・3桁目以降は大きい数字や「+」が付くほど高性能

ただし、メディアテックは、公言はしてないものの「Dimensity」の名称ルールを一度大きく変更しており、上記で解説したのは変更後の新しい名称だ。たとえば、「AQUOS wish4」やZTEの「nubia Ivy」などが採用する「Dimensity 700」のように、名称ルール変更以前のチップセットは700〜1300の数字が付けられている。これらはシンプルに数字の大きさが性能を表しており、「Dimensity 700」はエントリー向けのチップセットとなる。新ルールだと「Dimensity 6000番台」がエントリー向けになるため、少しわかりにくくなってしまっているのだ。

そしてもう1つ注意が必要なのは、メディアテックのチップセットには「Dimensity」「Helio」といった名称のほかに、「MT」から始まる型番も付けられていること。具体例を示すと「Dimensity 700」は「MT6833」、「Helio G99」は「MT6789」もしくは「MT8781」といった具合だ。

それゆえ販売されている端末の中には「MT」から始まる型番だけが記載されている場合もあり、より性能を判別しづらくしている要因となっている。

見分けポイントその3

・Dimensity 700〜1300番台は旧ルールによる型番。基本的に数字が大きいほど高性能
・「MT」から始まる型番が併記、あるいは型番のみ記載されている場合がある

ZTEが2024年3月に発売した「nubia Ivy」が搭載している「Dimensity 700」のように、名称ルールが変更される前のチップセットを搭載した機種もいくつか投入されているので注意が必要だ

ZTEが2024年3月に発売した「nubia Ivy」が搭載している「Dimensity 700」のように、名称ルールが変更される前のチップセットを搭載した機種もいくつか投入されているので注意が必要だ

今メディアテックを知っておいて損はしない

以前は、3Dグラフィックを多用するアプリは「Snapdragon」を優先して最適化することが多く、少数派のメディアテックは後回しにされやすかった。しかし、最近のメディアテックのチップセット(より正確に言うとGPU)は、そのもの自体が原因と思われるSnapdragonとは異なる挙動が減ったように感じる。メディアテック製チップセットは、誰でも問題なく使えるレベルまで品質が向上したと言えるだろう。

スマートフォンの価格高騰はとどまるところを知らず、資本力のある海外メーカー製のスマートフォンは今後さらに増えると考えられる。消費者がメディアテック製チップセットを搭載したスマートフォンを手にする機会は今後より増えるだろう。それだけに消費者も今後の買い替えに備えて、メディアテックとそのチップセットに関する知識を持っておいて損はしないはずだ。

佐野正弘
Writer
佐野正弘
福島県出身。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。
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田中 巧(編集部)
Editor
田中 巧(編集部)
通信を中心にしたIT系を主に担当。Androidを中心にしたスマートデバイスおよび、モバイルバッテリーを含む周辺機器には特に注力している。
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