スマートフォンやモバイル通信とお金にまつわる話題を解説していく「スマホとおカネの気になるハナシ」。今回は、念願の黒字化が見えてきた楽天モバイルを取り上げる。楽天ユーザーには吉報だが新たな課題と方向性が見えてきた。
黒字化目前の楽天モバイルは、春商戦に向けたキャンペーンも豊富。好調のようだが新しい課題も見えている
ネットワーク整備のために費やした多額の先行投資が響き、一時は親会社の楽天グループ共々、経営危機が叫ばれた楽天モバイル。だが2025年2月14日に発表された楽天グループの2024年度通期決算では、久しぶりに明るい材料がそろったようだ。
いちばん明るい情報は、楽天グループの営業利益が5年ぶりに黒字になったことだ。楽天モバイルへの投資でグループ全体が危機的状況にあっただけに、あらゆる手を尽くして黒字を回復させたことは、楽天モバイルだけでなく「楽天市場」「楽天トラベル」などグループのサービスを使うユーザーにも朗報と言えよう。
いっぽう、楽天モバイル単体の業績は現在も赤字が続いているのだが、税引き前利益に支払利息や減価償却費などを加えた指標であるEBITDA(イービットダー・イービットディーエー)では、2024年12月に単月での黒字化を達成したとしている。EBITDAは企業の収益力を見る指標として国際的に用いられているものだ。楽天モバイルは従来こちらも赤字だったが、単月黒字化を達成したことは収益力が向上している様子を見て取れるだろう。
楽天グループは5年ぶりに通期での営業利益黒字化を達成、楽天モバイルもEBITDAベースで単月黒字化を実現している
それゆえ楽天モバイルは、2025年度に通期でのEBITDA黒字化を、さらにその先には営業利益の黒字化達成を目指すようだ。長らく暗雲が立ちこめていた楽天モバイルに、ようやく光明が見えてきたことは確かだ。
その楽天モバイルの伸びを支えているのが契約数の伸びで、2024年12月末にはMVNOとしてのサービスを含めた全契約回線数は830万、純粋な携帯電話サービスの契約数も746万契約に達している。1年のうちに100万以上の契約を伸ばしていることは確かで、急速に契約数が増えている。
楽天モバイルの契約回線数はMVNOを含めた契約数は830万を突破。2024年の1年間で急速に契約数を伸ばしている
その要因は大きく2つ、1つは法人向け契約が好調なこと。そしてもう1つは、2024年に相次いで提供された「最強家族プログラム」などの割引サービスが好調で、若いファミリー層を獲得できていることだ。若い世代はスマートフォンで大容量のデータ通信を利用する傾向が強いだけに、若い世代を多く獲得できていることは、今後楽天モバイルが売り上げを伸ばすうえでもメリットに働くと考えられる。
これだけ明るい材料が出てくると、危機を脱した楽天モバイルは今後大きく成長し、近いうちに競合の携帯大手3社に迫る存在になるのでは……と思う人もいることだろう。だが同社を取り巻く環境を見るに、楽天モバイルがそこまで安泰とは言えない。まだまだ苦しい状況が続くのが筆者の見方である。
その理由は何か? ひとつは売り上げ指標「ARPU(アープ)」の先行きである。ARPUとは1ユーザー当たりの平均売上額を示し、携帯電話事業の売り上げは基本的に契約回線数とARPUの掛け算で決まってくる。単純化すると、携帯電話会社が業績を伸ばす手段は、(1)回線契約数を増やす、(2)ARPUを増やす、この2つだ。しかし、楽天モバイルは、通信サービスでARPUを大きく上げるのが難しい状況だ。
楽天モバイルのARPUを確認すると、2024年度第4四半期は2,110円。1年前の同じ四半期のARPUは2,007円なので、そこから100円以上上昇していることがわかる。だが楽天モバイルが2024年度、黒字化達成のための目標としていたARPUの水準は2,500〜3,000円で、伸びてもなおその水準には到底及んでいない。
そこで楽天グループは2024年度第3四半期の決算から、楽天モバイルのARPUに「モバイルエコシステム貢献額」を加えることを明らかにしている。この正体は、楽天モバイルの契約者が「楽天市場」「楽天トラベル」など、楽天グループのサービスを利用して得た利益の貢献額であると説明している。つまり、楽天モバイルユーザーが通信とは直接関係のない楽天市場などで行った支払いの一部を、楽天モバイルのARPUに反映させたことを意味している。
楽天グループは楽天モバイルのARPUに通信サービスによる売り上げだけでなく、「モバイルエコシステム貢献額」を加えている
通信事業以外の売り上げをARPUに加えるのは、ある意味で“離れ業”だが、楽天モバイルはそのモバイルエコシステム貢献額を加えることで、2024年度第4四半期のARPUは746円上乗せされ、2,856円と目標額を超える水準を達成。これがEBITDAでの単月黒字化などに大きく影響しているわけだ。
楽天モバイルのARPUは、モバイルエコシステム貢献額が加わったことで700〜900円前後の上乗せがなされ目標水準を超えている
そのいっぽうで、楽天モバイルの現在の料金プラン「Rakuten最強プラン」は、月額料金が最大3,278円でデータ通信が使い放題とかなり割安だ。そこに最強家族プログラムなどの割引施策を追加したことで契約を大きく伸ばしているわけで、今後も契約数を伸ばすには、現状の料金体系を崩すのは非常に難しいだろう。
通信サービスでARPUを大きく上げるには、Rakuten最強プランを値上げするか、あるいは競合各社の“ポイ活”プランのように、基本料金は高めながらポイント還元でお得になるプランを別途提供する方法などが考えられる。だが楽天モバイルは料金のお得感で顧客獲得が好調なことから、値上げをすればかつての「月額0円」施策の廃止で起きた顧客離れの再来にもなりかねない。
かといって料金プランを増やすことも、サービス開始当初から1プランのみの提供にこだわってきた楽天モバイルには考えられない。料金を値上げするのは難しい、みずから提案した「お試し割」の見送りが示しているように、黒字化達成のためには料金引き下げや大胆な割引施策も難しいのが正直なところだろう。
楽天モバイルは2025年2月14日、春商戦に向け新たなキャンペーンを発表したが、そのいっぽうで楽天モバイルが提案したとされる「お試し割」の導入には慎重な姿勢を示していた
そして料金プランに手を加えるのが困難な楽天モバイルが売り上げを伸ばすもうひとつの手段は、契約回線数を増やすことだ。しかし、契約数を大きく伸ばすには何らかの割引施策が求められるし、何より通信トラフィックの増大が懸念される。
ユーザーが利用するデータ通信量が増えれば楽天モバイルのARPUは伸びるのだが、最近は動画需要の増加でデータ通信のトラフィックが急増し、ネットワークにかかる負荷が高まっており、通信品質低下が潜在的に懸念されている。2023年にNTTドコモが都市部で著しい通信低下を起こした実例もあり、携帯各社は増えるトラフィックと通信品質の維持に頭を悩ませているのだ。
それは楽天モバイルも同様だ。同社はとりわけ低価格でデータ通信が使い放題なので、今後よりユーザー数が増えれば通信品質の維持が難しくなりやすい。実際すでに都心の地下鉄では「つながらない」との声も多くあがっており、楽天モバイルもその対応に追われている状況だ。
楽天モバイルは利用者の増加によって地下鉄でつながりづらいとの声が増えており、品質改善に向けた対処に迫られている
そして増え続ける通信トラフィックに対処するには、基地局をより多く設置するなど設備投資の追加、すなわち支出増が不可欠になる。だが楽天モバイルは、KDDIとのローミング契約延長によって設備投資を大幅に減らしていることも、EBITDA単月黒字化達成の大きな要因となっているだけに、今後トラフィック対策のため設備投資を大幅に増やす必要に迫られれば、黒字化は再び遠のいてしまうことだろう。
それだけに楽天モバイルは今後、楽天グループのサービスとのシナジー強化にいっそう注力しそうだ。先にも触れたように、シナジーによる売り上げはすでにARPUに直接組み込まれているし、楽天モバイルのユーザーが増えて楽天市場などの利用が伸びたとしても、楽天モバイルのネットワークに与える影響は軽微で、設備投資もかからないからだ。
楽天モバイルは楽天グループのサービスとのシナジーがARPUに反映されるようになり、楽天グループのサービスを利用して獲得したポイントで月額料金を永年無料にできることをより積極的にアピールするようになった
これらの内容を考えると、楽天モバイルは今後、局所的な割引キャンペーンは実施するが、料金の見直しや大規模な割引施策を展開する可能性は低い。いっぽうで契約したユーザーに対し、楽天グループのサービス利用を促進する施策は増えていくものと考えられる。楽天モバイルユーザーがよりお得に利用するには、楽天グループのサービスを積極的に利用して楽天ポイントを獲得し、それを楽天モバイルの支払いに充てることが重要になりそうだ。