スマートフォンやモバイル通信、そしてお金にまつわる話題を解説する「スマホとおカネの気になるハナシ」。今回は、格安SIMの最新動向を取り上げる。MNPの乗り換え手続きを簡略化した“ワンストップ”が広がっており、乗り換えのハードルがさらに下がっている。
※本記事中の価格はすべて税込で統一している。
大手が料金値上げを相次いで発表していることで、近ごろMVNO各社の格安SIMの価格競争力が増している。“ワンストップ方式”に対応していれば、乗り換え手続きも以前より簡単になっている
2024年まで官主導での料金引き下げが続いた携帯電話サービス。だが昨今の物価高でさすがに限界を迎えたようで、2025年には一転して料金を値上げする動きが相次いでいる。
目立っているのが、サービスの付加価値を高めながら値上げを行い、消費者のショックを中和したプランが増えた点だ。実際、NTTドコモが新料金プランの「ドコモ MAX」でスポーツ映像配信の「DAZN」をセットにし、お得さを打ち出しながらも料金を値上げしたことが賛否を呼んだのは記憶に新しい。
まだ料金プランの値上げを実施していないソフトバンクも、事務手数料を値上げするなど間接的な値上げは進めており、物価高が続く限りこの流れは止まらないだろう。では消費者にとって、安くシンプルにモバイル通信を利用できるサービスの選択肢はもうないのかというと、実はそうでもない。
今後その貴重な選択肢となりそうなのがMVNO各社の運営する格安SIMのサービスたちだ。“格安スマホ”とも呼ばれるこれらのサービスは、携帯電話会社からネットワークを借りてサービスを提供しており、大半のサービスが店舗を持たない。それゆえネットワークの広さは携帯4社と変わらないいっぽうで、携帯電話会社のように基地局で消費する電気代やショップの人件費など、物価高による価格高騰の影響を受けにくいのだ。
加えて、携帯各社からネットワークを借りるために支払う「接続料」も年々下落しているため、その分費用を抑えられる。ゆえに携帯大手4社が物価高で危機感を示してもなお、MVNOは低価格を維持しており、一部では2025年にさらなる値下げの動きさえ見せている。
MVNO大手であるインターネットイニシアティブ(IIJ)の「IIJmio」は、2025年3月に「ギガプラン」の改定を実施。20GB以上の通信量を5GB増量したのに加え、一部プランではさらに値下げも実施している
MVNOを含む他社に乗り換えるには手間がかかると言われ、それが乗り換えを妨げる障壁となっていた。しかしながら、総務省が十数年にわたってそれら乗り換え障壁を取り除くことに力を注いできたことが実を結び、他社への乗り換えはとてもスムーズになっている。
最も大きな障壁の1つとされてきたのが、スマートフォンを特定の携帯電話会社のSIMでしか通信できないようにする「SIMロック」の存在だが、2021年10月以降に販売されているスマートフォンはすでに、原則どの会社のSIMを挿入しても通信ができる「SIMフリー」の状態で販売されている。それゆえMVNOに乗り換えた際にも、基本的には手持ちのスマートフォンのSIMを差し替えた後、MVNO各社のマニュアルに通りに設定を変更すれば通信が始まる。普段触れることのない通信設定が必要だが、設定そのものそこまで難しいものではない。
そしてもうひとつ、乗り換えの手間となっていたのが「MNP予約番号」だ。従来、「番号ポータビリティ」(MNP)を使って電話番号を維持したまま他社に乗り換えるには、契約中の携帯電話会社からMNP予約番号を発行してもらい、その番号を新たに契約する携帯電話会社に登録する必要があった(これを「ツーステップ方式」と呼ぶ)。
だが、ツーステップ方式は利用者にかかる手間が多いうえ、予約番号の発行に時間がかかる点が課題だった。そこで現在では、Webサイト上で新しい携帯電話会社に乗り換え手続きをする際、予約番号を発行することなく手続きができる「ワンストップ方式」の利用も可能となっている。
総務省「携帯電話ポータルサイト」より。従来予約番号の発行が必要だったMNPも、ワンストップ方式に対応した事業者であれば発行不要で乗り換えられる
もっとも、ワンストップ方式は対応する事業者でしか利用できないのだが、現在では携帯4社だけでなく主要なMVNOの対応も進んでいることから、乗り換えハードルはだいぶ低くなったと言えるだろう。
ワンストップ方式に対応する事業者は総務省の「携帯電話ポータルサイト」に掲載されている。その一覧を見ると大手のMVNOから対応が進んでいることがわかる
「格安」の名前のとおり、MVNOは元々サービスをシンプルにして価格を抑えることを重視してきたことから、料金は非常に安い。一例としてMVNOの大容量プランで主流となっている50〜55GBのプランを確認すると、音声通話付きで月額2,000円台から3,000円台が相場となっている。
いっぽうで、楽天モバイルを除く携帯3社のメインブランドで提供している無制限プランは、付加価値サービスがあるものの、割引なしでは月額8,000円台から9,000円台が相場だ。MVNOには同種の無制限プランがないので単純な比較は難しいものの、仮に2回線契約したとしてもMVNOのほうが安く済むだけに、MVNOでも大容量のデータ通信が安価に利用できることは理解できるだろう。
携帯電話会社(MNO)とMVNOの大容量プラン比較(50GB〜無制限)。割引や付加価値は一切考慮せず、通信量と月額料金のみでの比較となる
値上げによって携帯大手からは姿を消しつつある小容量・低価格のプランでも、MVNOの優位性は際立っている。サブブランドを中心とした携帯各社の小容量プランは通信量4〜5GBで、割引なしでは月額2,000円台が相場なのだが、MVNOの通信量5GBのプランを確認すると、割引なしでも月額1,000〜1,500円程度で利用できてしまう。
MNOとMVNOの小容量プラン比較(4〜5GB)。こちらも割引や付加価値を一切考慮しない比較となる
MVNOのサービスはサービスを必要最小限に絞って料金を安くしているため、データ通信と音声以外の付加価値サービスに期待はできないことは留意したい。それでも最近では異業種によるMVNOへの参入が相次いでおり、何らかの付加価値が用意されているサービスも登場している。
たとえば、IIJと日本航空(JAL)が2025年4月より提供している「JALモバイル」では、契約時や毎月の利用でJALのマイルが貯まるなどの特典が用意されている。また、メルカリが2025年3月より提供している「メルカリモバイル」では、フリマアプリ大手であることを生かして余った通信量を売買できる仕組みを用意。通信量を売ってお金を得ることも可能だ。
IIJとJALが提供を開始した「JALモバイル」はIIJmioの「ギガプラン」をベースに、毎月の利用でJALのマイルが貯まるなどの付加価値を追加している
MVNOには、このほかの注意点もある。
最も注意が必要なのが通信品質で、昼休みや通勤・通学の時間帯など、スマートフォンの利用が増える時間帯に携帯4社のサービスよりも通信速度が著しく低下しやすい。最近ではKDDIの「au 5G Fast Lane」のように、より高い料金プランを契約している人ほど混雑時に快適に通信できる仕組みも出てきているだけに、常に快適に通信したいならば携帯4社のサービスを選ぶべきだ。
また、MVNOはその仕組み上、高速通信を維持したデータ通信の使い放題サービスを提供することは難しい。毎月50GBを超えてデータ通信をしているのであれば、やはり携帯各社の無制限プランのほうが適している。
契約に際してもいくつか注意すべきことがある。ひとつは実質的に支払いがクレジットカードだけであるサービスがほとんどであることだ。これは事業者側がコストをかけずに未払いリスクを抑えるための措置でもあり、固定回線との同時契約など一部のケースを除き、携帯4社のサービスのように口座振替など多様な支払いは選べない。
そしてもうひとつ、自社のショッピングモールを活用したイオンモバイルなどは例外だが、大部分のサービスは店舗での契約やサポートは受けられない。利用するにはインターネットやスマートフォンに関する知識をある程度持っていることが大前提であることにも注意すべきだ。格安SIMに限らず、安価なサービスにも共通することだが、安さを追求するならみずから学んで行動する必要がある。そのための手間と努力を惜しまないことが最も重要であることは肝に銘じておくべきだ。