NTTドコモで扱われていたBlackBerryが、SIMフリーのAndroidスマートフォンとして2016年3月下旬に国内市場に再参入を果たした。その第一弾となる端末「BlackBerry PRIV(プリブ)」について、従来のBlackBerryと異なる点や継承された部分などを踏まえて概要をレポートしよう。
プラットフォームをAndroidに変更した新世代BlackBerry。国内再参入の第一弾であるBlackBerry PRIV
最初に、BlackBerryを取り巻く状況を簡単におさらいしよう。
BlackBerryは、カナダのBlackBerry社(旧名Research In Motion社)のスマートフォン。独自のインターネットサーバーを使い、独自OSを搭載する。国内では、NTTドコモがBlackBerryを取り扱っていたが、現在は新規ユーザーの受付を終了しており、関連サービスの提供も2017年3月31日で打ち切る。
BlackBerryの特徴のひとつに、独自のメッセージング機能「BBM」がある。BBMは現在国内で人気の「LINEトーク」の先駆けのような存在で、ユーザーの既読を確認できたり、グループ通話や、期間を区切って画像を公開できるなど高いセキュリティ機能も兼ね備えている。また、BlackBerry独自のサーバー「BIS(個人向けサーバー)」や「BES(企業向けサーバー)」を介することでメールのプッシュ受信が可能。こうしたリアルタイム性や安全性、相手の状態が把握できる点が好まれ、国内でも外資系企業などで使われることが多かった。
もうひとつの特徴は端末だ。過去に発売されたほとんどの端末にキーボードが搭載されている。このキーボードは、文字入力はもちろんだが、ショートカット機能も豊富で、特定の機能を割り当てるカスタマイズも柔軟に行える。
こうした特徴のあるBlackBerryだが、独自OSのため対応アプリが少ないことなど、技術の独自性が裏目となって、世界的に人気は低下傾向にある。
しかし、今回取り上げるBlackBerry PRIVは、OSをAndroidに変更し、独自の機能についてはアプリで再現する方針に切り替えられている。つまり、豊富なアプリやコンテンツを誇るAndroidの機能性と、BlackBerryの独自性を兼ね備えたスマートフォンとして再構築されているのだ。
BlackBerry PRIVの概要を解説しよう。
すでに、先行してグローバルモデルが並行輸入品として国内に流入しているが、今回検証するのは国内独自モデルである。LTEの対応バンドは、1/2/3/4/5/7/8/12/13/17/19/20/25/28/29/30/38/40/41で、NTTドコモのバンド19に対応している点が、グローバルモデルとは大きく異なる。W-CDMAでは1/2/4/5/6/8の各バンドに対応しており、バンド6でNTTドコモのFOMAプラスエリアに、バンド8でソフトバンクのプラチナバンドを利用できる。
従来のBlackBerryは、独自のISPが必要など限られた回線環境で使う必要があったが、本機は通常のSIMカードとISP(APN)で使える。今回は本機を販売する「U-mobile」のSIMカードを使ったが、こうした格安SIMカードを使えば、維持費を大幅に抑えることができるはずだ。
並行輸入品で指摘されることのあったLTEおよび3Gの受信性能の低さだが、NTTドコモ系SIMカードを使ったSIMフリーの「Nexus 6P」と比べても通話エリアで大きく見劣りする感じはなかった。通信性能についても特に気になる点はなく、ごく普通に使えるスマートフォンという印象を持った。
国内で正規販売されているので当たり前ではあるが、並行輸入品の一部では取得していなかった総務省の技適マークを取得している
ディスプレイは、1440×2560のWQHD表示に対応する5.43インチの曲面有機ELパネルだ。CPUは、ヘキサコアの「Snapdragon 808」(1.8GHz×2+1.44GHz×4)で、3GBのRAMと32GBのROM、2TBまで動作確認の取れたmicroSDXCメモリーカードスロットを組み合わせている。動作OSは「Android 5.1」。ホーム画面デザインからはBlackBerryらしさを感じにくく、GoogleのNexusシリーズのような素のAndroidに近いものだ。これならAndroidユーザーならスムーズに使い始められるだろう。
ホーム画面のデザインは、Nexusシリーズのような素のAndroidスマートフォンに近い
起動中のアプリの一覧画面は、正方形のサムネイルが並ぶ。この辺は独自のユーザーインターフェイスだ
CPUの世代も新しく、RAM容量も十分確保されているので、体感速度は十分以上の水準にある。いっぽう、曲面ディスプレイが採用されている点は好みが分かれるところかもしれない。曲面ディスプレイの利点として、ボディ側面が丸みを帯びるため、持ちやすい点があげられる。デメリットとしては、曲面部分のわずかな表示のゆがみが気になる。購入する際は、実機を確認したほうがよいだろう。
カタログに記載されるサイズは、キーボード収縮時で約77.2(幅)×147(高さ)×9.4(厚さ)mmで、重量は約192g。キーボードは、ディスプレイを縦方向にスライドさせることで現れるが、その場合の高さは184mmまで伸びる。
ボディの左側面に電源ボタンが、右側面にボリュームとミュートのボタン3個が並ぶ。この3個のボタンは従来からのBlackBerry端末から受け継がれた特徴のひとつで、一般的なAndroidスマートフォンには見られないものだ。
複合素材のような背面だが、表面の質感はしっとりとしたマット処理が施されている
曲面で形成された側面。大型機としては良好な持ちやすさだ
真ん中にある小さなミュートを含む3個のボリュームボタンは、一般的なAndroidスマートフォンにはないもの
USB Type-Cではなく、オーソドックスなmicroUSBポートを使用。急速充電の規格Quick Charge 2.0に対応している
充電用のACアダプターとケーブルが付属するが、急速充電には対応していない
注目のキーボードは、配列はQWERTYで、キーひとつひとつのサイズは小さいが、凹凸がつけられた形状のためなかなか押しやすい。このキーボードは文字入力のほかに、長押しすることでアプリの起動などショートカット機能を割り当てることもできる。こうしたカスタマイズ性の高さは、従来のBlackBerryから継承されたものだ。
これに加えて、キーボードを上下と左右になぞるとWebページなどの画面スクロールが行える。この操作は、なかなか機敏で直感的な操作感覚だ。ただし、ピンチインとピンチアウトが行えないほか、「Google マップ」の操作にも対応していない。プリインストールされるアプリのすべてが対応しているわけではないので注意したい。
BlackBerryの特徴である凹凸がつけられたQWERTY配列のキーボード。重心が上のほうにあり重さを感じやすい
キーボードの表面をなぞると。Webブラウザーなどの画面を上下左右にスクロールできる
各キーを長押しすることで特定の機能やアプリを起動するショートカットを割り当てることができる
nanoSIMを使用。今回はU-mobileの音声通話付きSIMを使用した。SIMロックフリーなので、国内ではNTTドコモおよびソフトバンク系のSIMカードが利用できる
BlackBerryユーザー同士で利用できるメッセージング機能のBBMだが、現在ではAndroidのほか、iOS用アプリが無料で配布されており自由に使うことができる。このBlackBerry PRIVではBBMアプリがプリインストールされており、既存のユーザーはもちろんだが新規ユーザーでも気軽に使い始めることができる。
BBMのアプリがプリインストールされている。なおAndroid版とiOS版が無料でダウンロード可能
もうひとつの独自アプリは、各種のメールや、SNSの通知、電話の発信・着信履歴をまとめて管理できる「BlackBerry Hub」である。こうしたアプリはさほど珍しくはないが、数々の情報を見落とさずに、一元管理したい場合には有効なツールだろう。なお、BlackBerry Hubは、「Google Play」に登録があるものの、一般的なAndroidスマートフォンではダウンロードできず、事実上BlackBerry PRIV専用アプリとなっている。
各種のメールや、SNSの通知、電話の発信・着信履歴をまとめて管理できるBlackBerry Hub。こちらは今のところ本機専用のアプリとしてGoogle Playで取り扱われている
セキュリティ監視アプリ「DTEK by BlackBerry」や、パスワード管理アプリ「Password Keeper」も本機独自のものとしてプリインストールされている。
DTEK by BlackBerryは、ハードウェアやネットワーク、システムなどの設定を監視するもので、危険だと判断された部分がわかりやすく表示される。Password Keeperは、WebコンテンツのログインIDやパスワードなどを暗号化して安全に保存することに加えて、ランダムパスワードの生成や、パスワードの安全性を確認する機能を備えている。
端末のセキュリティ状態を示すDTEK by BlackBerry。こちらも本機ならではのアプリだ
パスワード管理に加えて、ランダムパスワード生成や安全性の判定などを行うPassword Keeper
BlackBerry PRIVは、キーボードの搭載によるハードウェアの独自性、セキュリティ監視アプリやパスワード管理アプリといった専用ソフトウェアを備えた、独自性の高いスマートフォンだ。ともすると大きな違いがないと評されがちな一般的なAndroidスマートフォンとは一線を画する製品と言える。
気になる点と言えば価格であろう。本体価格99,700円(U-mobileでの販売価格)という価格設定は、SIMロックフリーのAndroidスマートフォンとしてはかなり高い。しかし、並行輸入品と異なりNTTドコモのLTEバンド19に対応していることや、上述した数々の独自性を踏まえれば、パワーユーザーやビジネスユーザー向けのプレミアムSIMフリースマートフォンとして、相応の価値があるのではないだろうか。