2024年は大型地震や台風の被害が相次ぎ、例年にも増して防災意識が高まっている。水やガスと並んで人々の生活インフラとして欠かせないのが電気だが、普段の生活で用いながら、停電など緊急時の備えとしても活用できることで、ここのところ注目を集めているのがポータブル電源だ。今回はそのなかでも、2024年9月1日に発売されたばかりで最新の機能を満載した「EcoFlow DELTA 3 Plus」(以下、DELTA 3 Plus)を速攻レビューする。
地震や台風、豪雨など、もし何らかの災害で停電が起こったとき、大半の家庭で電力が完全復旧するまでに最低2日間はかかると言われている。電力の完全復旧まで、スマートフォンなどの情報通信機器を使って連絡を取ったり、情報を収集したりする必要があるし、停電中でも、照明や冷蔵庫、調理家電、ドライヤー、冷暖房機器など、使用したい家電がたくさんある。
ところが、スマートフォンならまだしも、ドライヤーや調理家電、冷暖房機器を稼働させるには、少なくとも1,000W以上の最大出力が必要。また、ポータブル電源を持ち運ばなければならないケースもありえる。そうなると、なるべく大容量で、ある程度可搬性の高いポータブル電源が有利だ。その条件に最も近いのが、容量1,000Whクラスで重さ十数kgのポータブル電源だ。
そこで今回注目したのが、EcoFlow Technology Japanから2024年9月1日に発売された「DELTA 3 Plus」だ。本製品は、世界中で累積100万台以上販売された「DELTA」シリーズの最新モデルで、「DELTA 2」の後継機にあたる。また、後日発売予定の「DELTA 3」より性能の高いモデルとなる。
容量1,024Whの「DELTA 3 Plus」の本体重量は約12.5kg。決して軽くはないが、本体前面と背面に持ち手があり、しっかりと掴めば無理なく運べる。なお、本体内のバッテリーパックはIP65相当の防水・防塵性能を備えており、屋外へ持ち出しても安心感がある
【基本スペック】
バッテリー容量:1,024Wh
AC出力:ACコンセント×6(定格1,500W/瞬間最大3,000W、X-Boost 2,000W・100V・50Hz/60Hz)
USB出力:USB Type-Aポート×2、USB Type-Cポート×2
DC出力:シガーソケット、DC端子×1(拡張用)
DC入力:DC5521
本体サイズ・重量:約20.2(幅)×39.76(奥行)×28.36(高さ)cm・約12.5kg
「DELTA 3 Plus」をハードウェア性能から見ていこう。EcoFlowのポータブル電源には、「X-Core 3.0」という総称で、パフォーマンスや安全性、バッテリーマネジメントに関するさまざまな技術が採用されている。わかりやすい呼称なので、ここでは、それらを押さえながらチェックしていく。
本製品のバッテリー容量は1,024Whだが、定格出力は1,500Wと、この容量のポータブル電源のなかではパワフルだ。しかも、出力を高める「X-Boost」という機能が搭載されており、専用のスマートフォンアプリ「EcoFlowアプリ」で「X-Boost」機能をオンにしておけば、接続した機器の出力に応じて自動で作動し、最大出力が2,000Wまでアップする。この「X-Boost」はEcoFlowならではの特許技術だ。
2,000Wの出力があれば、ノートパソコンやスマートフォンだけでなく、照明や冷蔵庫、調理家電、ドライヤー、冷暖房機器など一般的な家庭にあるほとんどの家電に給電可能だ。
出力を高める「X-Boost」機能をオンにすると、最大出力が2,000Wまでアップ。これだけの出力があれば、調理家電など熱を出す機器も十分に動かせる
高出力ながらバッテリーの耐久性も高い。バッテリーには、電気自動車(EV)にも採用されているリン酸鉄リチウムイオンバッテリーを内蔵。バッテリーの充放電回数は、前モデル「DELTA 2」の約3,000回より1,000回多い約4,000回に及ぶ。4,000回までの繰り返し充電なら、初期容量の約80%を維持でき、EcoFlowが実施した試験によれば、1日1回の使用で10年間の使用が可能という。
ポータブル電源に接続した外部機器への出力は、EcoFlowアプリでも管理が可能。Wi-FiとBluetoothに対応しているので、屋内でも屋外でもポータブル電源の動作状況が確認でき、遠隔操作ができる
出力端子は、USB-Type Cポート(PD 3.1/QC 3.0)×2、USB-Type Aポート(QC 3.0)×2、ACコンセント×6。USB-Type Cポートの出力は合計約140W。ACコンセントは6つ合計で定格1500Wだ
本体背面には入力端子などを装備。本体上部にあるパネルを開くと、ソーラー充電入力ポート/シガーソケット入力ポート×2、AC入力コンセント、エクストラバッテリー拡張ポートが使用でき、その下部には12V DC出力ポート、DC5521出力ポートを備える。ポータブル電源への充電方法は、ACコンセントのほか、ACコンセント+ソーラーパネル、別売りの自動車用発電機「Alternator Charger」、「EcoFlow Smart Generator 3000」などの発電機を用いる5パターンに対応する
「DELTA 3 Plus」は、パワフルな出力ながら本体の充電も早い。急速充電を行う「X-Stream」機能を搭載しており、わずか56分間で満充電ができる。2024年9月現在、この出力の大きさと充電時間の短さは、数あるポータブル電源のなかでもトップクラスだ。
バッテリー残量が0%から100%になるまで充電してみた。約30%まで到達するのが早く、100%に近くなるほど充電の速度が低下していくが、実際に1時間弱で満充電ができた
本体前面のボタンと液晶画面。本体前面のボタンは、左からAC電源のオン/オフ、中央にメイン電源、その右にUSB給電のオン/オフボタンを備える。また、液晶画面は、左が入力数(W)、中央がポータブル電源本体のバッテリー残量(%)、その上が連続使用可能時間(h)、さらに右が出力数(W)などを示している。そのほか、EcoFlowアプリで各種の機能をオンにすると、液晶画面上部の空いているスペースにアイコンが表示される
ところで、ポータブル電源内部にはリチウムイオンバッテリーのほか、さまざまな制御基板などが内蔵されており、これらの冷却を行うのに、盛大なノイズを発生するのが一般的。しかし、「DELTA 3 Plus」の動作音は、出力が600W以下の場合、静音動作をする「X-Quiet」という機能が働くことで、郊外の住宅地や図書館内の騒音レベルに相当する30dBに維持される。
寝室に置いて消費電力約250Wのスチーム加湿機に給電してみた。動作音はほとんど聞こえず、消灯すればポータブル電源の存在を気にしなくて済みそうだった
外部機器への出力は、スマホアプリで調節できる。フルパワーで出力する必要がない場合、出力を下げればそのぶん節電でき、動作音も下げられる
このように、ハードウェア性能ひとつをとってもクラストップレベルの本製品だが、本製品の真骨頂は、むしろソフトウェア性能の高さにある。EcoFlowは早くからWi-FiやBluetoothを経由したスマートフォンアプリとの連係機能に力を入れてきたが、本製品は防災対策や節電を意識し、さらに一歩踏み込んだ機能を搭載している。
EcoFlowアプリの設定画面。「X-Boost」機能のオン/オフをはじめ、さまざまな機能をカスタマイズできる
その機能が、台風や大雨を予測してポータブル電源を自動で満充電にしてくれる「台風警報モード(Storm Gard)」や、電気料金プランに合わせて節電を図る機能「TOU(Time Of Use)モード」だ。この2つの機能はEcoFlowアプリで操作できるため、スマート家電並みに賢い使い方ができる。
特に、注目したいのが「台風警報モード」だ。この機能は、インターネット上の気象予報をAPI(Application Programming Interface)のWeatherbitと共有し、台風や大雨の接近をスマートフォンに通知。自動的にバッテリーを満充電にするというすぐれものだ。外出中に突然台風や大雨がやってきても、ポータブル電源本体をWi-FiとACコンセントに接続しておけば、緊急時に充電のし忘れで困ることもない。
台風や大雨の予測を共有していない通常の状態で「台風警報モード」の画面を見たときのアプリ画面の様子
台風や暴風雨の接近予測が共有されたときのアプリ画面の様子。「暴風雨により停電が発生します」と表示され、ポータブル電源が自動で充電を開始し、満充電状態にしておいてくれる
台風や停電によってもし停電が発生した場合は、UPS(無停電電源装置)機能によってポータブル電源に接続されている機器へ10ミリ秒(0.01秒)で給電する。UPSに対応するデスクトップパソコンやNASなどを接続しておけば、保存されたデータを失わずに済むのだ。
災害や急な停電時には、パソコン内に保存したデータが消えてしまわないか不安になるもの。この場合も、UPS機能に対応したパソコンやNASのコンセントをポータブル電源に接続しておけば、瞬断によるデータ消失が防げる
緊急時だけでなく、普段使いでも、EcoFlowアプリによるバッテリー管理は有効だ。「TOUモード」を使用すれば、契約している電気料金プランの単価に応じて、電気代の安い時間帯にポータブル電源に充電しておき、電気代の高い時間帯にポータブル電源に接続された外部機器へ給電(放電)することが可能だ。
また、ポータブル電源の充放電の履歴もEcoFlowアプリに記録されるため、1日の電気使用状況をチェックするのにも役立つ。なお、1日中挿しっぱなしで給電する機器がある場合など、バッテリー容量のすべてをTOUモードで運用したくない場合は、TOUモードで管理しない電力を%で指定できる。
画面上の「割合」のバーでバッテリー容量(%)を指定すると、TOUモードを稼働させた場合に、残しておきたいバッテリー残量を指定できる。たとえば、バッテリー残量が50%以上の容量に限りTOUモードを適用する場合は、割合を50%と設定するという具合だ。また、TOUモードの下の「セルフパワー」は、ソーラーパネルから充電するバッテリー容量を指定できるモード。この場合は、ソーラーパネルから給電したいバッテリー容量(%)を指定する。ただし、台風警報モードが作動してポータブル充電を満充電にしているときは、両モードとも解除される
動作モードからTOUモードを選択すると、契約している時間帯別の電気料金単価の入力を求められる。入力すると、料金の安い時間帯にポータブル電源に充電し、料金の高い時間帯に外部機器へ給電(放電)するよう自動でバッテリーを管理する。1日の充放電の履歴もEcoFlowアプリ上でチェックできる
電気代に関係なく、本体の外部機器への充電と給電(放電)の時間をスケジュール設定することも可能。この設定は、USBポートやDCポートなど各出力ポートで個別に設定できる
「ポータブル電源はバッテリーに入出力端子が付いたもの」――。そんな、ポータブル電源にありがちなイメージを覆すような製品が、今回レビューした「DELTA 3 Plus」と言える。
本製品はすぐれたハードウェア性能を備えているが、それにも増して注目すべきなのがソフトウェア性能だ。台風や大雨が接近すると、ポータブル電源本体が自動で本体を満充電にしたり、料金プランに合わせて本体の充電と外部機器への給電(放電)を自動で行ったりするのは便利。また、売れ筋の定番である1,000Whクラスのポータブル電源にこれらの機能が搭載されたのは画期的だ。
「DELTA 3 Plus」はもはや、インターネットを介して手軽に管理できるスマート家電と同じような先進機能を備えたポータブル電源と言ってよい。ポータブル電源のソフトウェア性能は年々進歩しており、今後このような機能を搭載したポータブル電源が増えてくる可能性もある。「DELTA 3 Plus」の登場は、ポータブル電源の市場性をさらに高める端緒となりそうだ。