2ブランドのカーボンプレート内蔵ランニングシューズをさっそくレビュー!
ナイキの厚底シューズが、ランニング業界を席巻して久しい。
「ナイキ ズームX ヴェイパーフライ ネクスト%」を始めとしたプロダクトは、TVやスポーツ新聞といったさまざまなメディアで再三取り上げられたため、推進力を向上させるための「カーボンファイバープレート」がミッドソール内に内蔵されていることは、ランナー以外の人々にも知られることになった。
しかしながら、カーボンプレートを使用したランニングシューズは、ナイキだけがリリースしているわけではない。今回、ブルックスとニューバランスからリリースされたカーボンプレート内蔵シューズの走り心地を、詳細にレビューする。
ブルックスのカーボンプレート内蔵ランニングシューズ「HYPERION ELITE(ハイペリオン エリート)」。公式サイト価格は29,700円(税込)
ニューバランスのカーボンプレート内蔵ランニングシューズ「FuelCell TC(フューエルセル ティーシー)」。公式サイト価格は24,200円(税込)
今シーズン、新たにリリースされたのは、ブルックスの「ハイペリオン エリート」とニューバランスの「フューエルセル TC」。
「ハイペリオン エリート」は、2020年2月29日に世界同時発売、「フューエルセル TC」は2020年3月9日に公式Webサイトで先行発売され、3月28日からは「ニューバランス オフィシャルストア」と「ステップスポーツ」の東京本店、新宿本店、大阪店で発売予定となっている。
まず、ブルックスの「ハイペリオン エリート」だが、トップアスリート向けのレーシングシューズであり、ミッドソールには従来の素材よりも45%軽量かつ15%柔軟な「DNA ZEROフォーム」を採用。そして、このミッドソール内部には、強力な推進力を生む可変形状カーボンプレートが搭載された。
ミッドソールには、従来素材よりも45%軽く、かつ15%柔軟な「DNA ZEROフォーム」を採用。ここに、強力な推進力を生む可変形状カーボンプレートが内蔵されている
ソールユニットは、着地時の安定感をサポートするための形状に仕上げ、ソールの厚さはヒール部が35mm、つま先が27mmなのでドロップ(シューズのつま先とかかとの高低差)は8mm。先日、世界陸連が定めた「ソールの最も厚い部分は40mm以下」という新規定もクリアしている。
いっぽう、ニューバランスの「フューエルセル TC」は、日々のトレーニングとレースの両方で着用可能なカーボンファイバープレート内蔵ランニングシューズ。2019年に先行して発売された「FuelCell(フューエルセル) 5280」と同じ、高い反発弾性を発揮する「フューエルセル」ミッドソールに、剛性を高めるフルレングスのカーボンファイバープレートを組み合わせることで、すぐれたランニングエコノミーを発揮するのが大きな特徴だ。
2019年に発売された「フューエルセル 5280」と同じ「フューエルセル」ミッドソールにカーボンファイバープレートを組み合わせ、すぐれたランニングエコノミーを発揮
まず、「ハイペリオン エリート」に足を入れてみた。
そのボリューミーなシルエットからは想像できない、196g(サイズ27.0cm)という軽さをまず感じた。履き口のヒール部分は、パッドに凹凸を備えているので、シューズとかかとのフィット感も高い。立っている状態での感覚は安定性にすぐれ、ぐらつきがない。ミッドソールは、ナイキの一連の厚底シューズよりも硬めのセッティングのようだ。
履き口部分の内側に凹凸を付けることで、かかと部分のフィット性を向上。トップアスリートの回転の速いストライドにおいても、かかとが抜けることを防止してくれる
走り始めてみると、着地時の安定感が高く、カーボンプレートによって自然と脚が前方に出るような推進力もしっかりと体感できた。ヒール、ミッドフット、フォアフットと着地の位置を変えてみると、フォアフットから着地した場合が蹴り出しまでのリアクションが最もスムーズで、このシューズの特性にマッチしていると思った。
そして「この走り心地と似たシューズを履いた記憶があるなぁ……」と思いながら走っていたが、しばらくして思い出せた。それはナイキの「ズームフライ」の初代モデルである。フォアフットから着地した際の、シューズが「コロッ」と転がるような推進力やミッドソールの硬度はかなり似ているいっぽうで、安定性に関しては「ハイペリオン エリート」のほうが上。ペースを上げて、3分50秒/kmくらいまで上げると、このシューズの推進力をより一層感じることができた。
アウトソールは、アスファルトやコンクリートといったオンロードのサーフェスで最高のグリップ性を発揮するパターンが刻まれており、土の路面には向いていない。接地面が広いソールユニットは、着地から蹴り出しにおいて、すぐれた安定感を提供してくれる
2018年4月16日、ブルックスの契約ランナー、デジレ・リンデンは、「ボストンマラソン」をアメリカ人女性として1985年以来に制した選手だが、その時に履いていたのが「ハイペリオン エリート」のプロトタイプ。つまりこのシューズは、世界レベルのランナーのために開発されたことを改めて認識させてくれる。いつものように5分30秒/kmほどのランでも快適に走ることはできたが、どちらかいうと着用者を選ぶ1足だと思った。速く走れば走るほど、このシューズのポテンシャルは発揮されるのだ。
アッパーには、伸縮性にすぐれたメッシュを使用することで、長時間の走行でも快適な履き心地をキープ。前足部には、通気性を高めるためのベンチレーションホールを配している
シューレースの端に一定間隔で突起を設けることで、従来よりもほどけにくくなった
次に「フューエルセル TC」に足を入れた。
立った状態でまず感じるのは、ミッドソールに使用された「フューエルセル」のやわらかさ。これまでも「フューエルセル プロペル」や「フューエルセル レベル」といった、同ミッドソールを用いたランニングシューズを履いたことはあるが、ここまでフワフワとしたセッティングではなかった。特にかかと側のやわらかさを感じ、揺れるような感覚もあったので「安定性は大丈夫かな?」と少し思った。
ドロップは8mmなので、それほど傾斜は感じられない。重量はサンプルサイズ(片足27.0cm)で約264gなので、一般的なトレーニングタイプのランニングシューズ並み。軽くも重くもない平均レベルの数値だ。
実際に走り始めると、柔軟なミッドソールによって脚がしっかりと守られている感覚があり、走っていて楽しい。立っている時に感じた安定性への不安も、しばらくすると払拭された。ありきたりな表現だが、宙に浮いているような走り心地で、最初はカーボンプレートの存在はあまり感じられなかったが、ペースを上げると自己主張を始めた。個人的には、カーボンプレートは、しなりの効果というよりも、着地から蹴り出しまでのガイド役として、そして蹴り出しの際の推進力を高めるパーツとしてしっかりと機能していることが理解できた。
「フューエルセル TC」も、オンロード向けのアウトソールパターンを採用。広い面積にラバーが貼られ、耐摩耗性にすぐれているので、シューズと長い付き合いができそうだ。最近は、アッパーやミッドソールがまだ大丈夫なのに、アウトソールが先に擦り減って使用不可となることも多い
「ハイペリオン エリート」で走った時と同様に、ヒール、ミッドフット、フォアフットと着地の位置を変えてみたが、いずれの着地でも走りやすい。2度目に履いて走った時は距離を20kmまで伸ばし、後半はヒール着地でリラックスして走ってみたが、そんなゆるめのランにも対応してくれたのはうれしかった。フルマラソンの30km以降で脚が“売り切れる”という経験をするランナーは少なくないが、そんなシチュエーションにおいても、このシューズはやさしい気がする。今回は4分15秒〜6分30秒/kmのペースで走ったが、いずれのペースでも快適。「ハイペリオン エリート」と比較すると、こちらのほうが幅広い層のランナーにマッチする気がした。
やさしく足を包み込んでくれる感覚のナイロンメッシュアッパーは、通気性も高レベル
シュータンや履き口の外側部分には、人工スエードを使用。足当たりがよく、シューズと足が一体化するようにフィットする
ブルックスの「ハイペリオン エリート」は3km、6km、6kmの計15km、ニューバランスの「フューエルセル TC」は6km、20kmの計26kmのテストを行ったが、両者の走り心地は大きく異なった。
「ハイペリオン エリート」は、着地はフォアフットで、ペースは4分/km台よりも速いランナーが着用した時に最高のパフォーマンスを発揮してくれると思われるのに対し、「フューエルセル TC」は、4分〜6分/km台の幅広いペースに対応し、脚の保護性能もある程度重視していると思われる。
ナイキの「ズームX ヴェイパーフライ ネクスト%」は、それ以前の厚底シューズ「ナイキ ズームヴェイパーフライ4%」や「ナイキ ズームヴェイパーフライ4% フライニット」と比較すると、さまざまなレベルや着地のランナーにマッチするようになっていたが、それでも「厚底はやっぱり合わなかった……」と諦めたランナーも存在している。そんなランナーにも、今回紹介した2モデルに足を入れてもらいたい。ブルックスの「ハイペリオン エリート」は高い推進力を確保しつつ、着地時の安定性が高い点が大きな魅力。ニューバランスの「フューエルセル TC」は、脚の保護性能と推進力を高いレベルで両立している点が大きな特徴。両モデルとも2万円を超える価格設定でかなり高価だが、「勝負レースで目標タイムをクリアしたい!」「何度もサブ3の壁に跳ね返されたが、次のレースでは達成したい!」というような場合にはトライする価値はあるだろう。
ランニングギアの雑誌・ウェブメディア「Runners Pulse」の編集長。「Running Style」などの他媒体にも寄稿する。「楽しく走る!」をモットーにほぼ毎日走るファンランナー。フルマラソンのベストタイムは3時間52分00秒。