レビュー
積極的に6MTのシフトチェンジを楽しもう

オーナーさんがうらやましい……「WRX STI EJ20 FINAL EDITION」で名機を味わい尽くす

“クルマの運転の楽しさを目いっぱい味わい尽くすには、MT(マニュアルトランスミッション)が最高!”

そんな思いを価格.comマガジン読者の皆さんにお伝えすべく、今回も超絶に運転が楽しくて気持ちいいMT車を紹介します!

WRX STI EJ20 Final Edition

WRX STI EJ20 Final Edition

購入倍率、なんと24倍の限定車

2019年の秋に発売されたSUBARU(以下、スバル)の限定車「WRX STI EJ20 Final Edition」は、予約の受付を開始した10月24日から11月11日までの間に1万3618人の応募があり、限定555台に対して倍率24倍強というすさまじい人気ぶりが話題となったのが記憶に新しいところです。

ちなみに、筆者のマリオ高野も応募したひとりですが、残念ながら抽選に外れました……。

30年の歴史を持つ「EJ20」エンジン

「EJ20」とは、スバルが生産した水平対向エンジンの型式のひとつで、1989年に初代「レガシィ」のデビューとともにスバル車の主力エンジンとして誕生。スバルのトップスポーツモデルである「WRXシリーズ」にも初代モデルから搭載されました。

排気量2リッター車では最強クラスの性能を誇り、WRC(世界ラリー選手権)ではメーカー部門の世界チャンピオンを3度も獲得。ニュルブルクリンク24時間耐久レースでは12年で6回もクラス優勝を遂げるなど、「EJ20」エンジンはモータースポーツでも輝かしい実績を残し続けたことでも、ファンに広く愛される理由に。

インテークマニホールドに通称「赤チヂミ」と呼ばれる結晶塗装を施すのは、1995年から続くSTI仕様に搭載されるEJ20の伝統。多くのクルマ好きを魅了し続けました

「EJ20 Final Edition」で注目されたブルーのボディにゴールドのホイールの組み合わせは、WRC(世界ラリー選手権)参戦マシン時代に人気を博したカラーリング。ゴールド塗装のホイールは10年以上ぶりの復活でした

スバルのみならず、日本車の歴史においても「名機」として讃えられる「EJ20」は、現行型のWRXの中ではMTしか設定されない「WRX STI」にのみ搭載され、マニア向けのニッチな存在だったものの、最終型の「Final Edition」は買い手が殺到。今では、どの中古車も定価以上の高値になっており、この先も高騰し続けるものと予想されます。

WRX STI EJ20 Final Edition フロント

WRX STI EJ20 Final Edition フロント

WRX STI EJ20 Final Edition リア

WRX STI EJ20 Final Edition リア

「SIドライブ」でエンジンの出力モードが変更でき、「DCCD(ドライバーズコントロールセンターデフ)」で前後の駆動力の差動制限トルクを調整可能。街乗りからサーキット、泥濘路など、場所を選ばずスポーツドライブが楽しめます

モータースポーツ使用を前提に開発された

そんな「EJ20」エンジンの歴史を簡単に振り返ると、開発されたのは1980年代後半。当時のスバルの主力車「レオーネ」に搭載された「EA型」と呼ばれる前世代エンジンで課題とされた、高出力化を強く意識して設計されました。モータースポーツ競技でも使うことを前提とし、出力面においては最初から将来的なアップデートを見越して余力が与えられたことも、30年間の長きにわたって現役ユニットとして活躍できた理由のひとつになっています。

STIの限定車用を含めれば、排気量を変えずに最高出力が120馬力以上向上したEJ20。低速トルクの細さなど、性能的な課題を克服し続けた30年と言えます

スバルが水平対向エンジンを作る理由

そもそもスバルが水平対向エンジンを採用する理由ですが、向かい合ったピストンが振動を打ち消しあうことで得られる回転バランスのよさや、シリンダーを横に寝かすことで天地・前後方向を短く構成でき、低重心・コンパクト化がはかりやすいなど、水平対向エンジンには直列型やV型よりも物理的に有利とされる点が多いからでした。

そのため回転がスムーズで高回転域での振動が少なく、直列型やV型では必要とされるバランサーが不要。アクセルを踏み込んだときの回転フィールが心地よく感じられる美点が備わります。クルマの構成パーツの中でもっとも重いエンジンの重心が低くなることは、クルマの運動性能や操縦性にもよい影響を与え、クルマ好きや運転好きのユーザーから強く支持される最大の要因になってきたのです。

水平対向エンジンならではの物理的なメリットは、クルマの運動性能とドライバーが感じる楽しさや気持ちよさに直結します

水平対向エンジンにはデメリットも

ただ、水平対向エンジンは物理的にすぐれる面が多いいっぽうで、難点も少なくありません。まず、シリンダーヘッドを2つ必要とするので、直列型と比べて部品点数が多くなりコストが高くつきます。そのため、廉価なクルマに搭載すると利益を圧迫するので、エンジン以外のどこかのコストを落とさないと価格面での競争力が保てなくなります。

さらに、水平対向エンジンは天地・前後方向には短くできても横方向には長くなる構造なので、この特性がクルマ用のエンジンとしては大きな足かせになります。ボディサイズに制約のあるクルマに搭載する場合、吸排気系統パーツなど補器類の配置が難しくなり、設計時の難易度をます要因に。

特に車体の全幅が1700mm以下の5ナンバーサイズのボディに搭載する場合、エンジンルームの横方向に空間的余裕がないため、排気の取り回しは困難を極めました。2002年頃までの「EJ20」のターボでは、タービンはエンジンの右奧側に上げて配置する形となり、排気管は不等長とせざるを得ない時期が続きました。

エンジンを横方向へ拡大させるのが難しい特性により、ショートストローク/ビッグボア傾向にならざるを得ない点も、さまざまな制約をともないます。ショートストローク/ビッグボアのエンジンは高回転まで回すことや高出力を出すには好都合で、WRXなどのスポーツモデルには最適なのですが、ビッグボアの燃焼室の広さや形状は、基本的に低燃費化が難しいという問題に突き当たります。

WRX STI EJ20 Final Edition

WRX STI EJ20 Final Edition

サスペンションは標準車と変わりませんが、軽くて強いアルミ鍛造19インチの「BBS」ホイールにより、操舵レスポンスが向上。STIの限定車は初代レガシィの時代からBBSを採用し、モータースポーツの現場でも互いに性能を磨きあった関係にあります

WRC(世界ラリー選手権)参戦マシンのホイールがBBSブランドになったのは2005年。この頃からSTI限定車でもBBSの純正採用が増えるなど、競技車でも市販車でもBBSとのタッグ関係が強まります

「EJ20」ではこれからの低燃費化が難しい

「EJ20」エンジンが2020年初頭をもってついに退役したのも、これから先の時代に求められるハイレベルな低燃費を実現する燃焼が難しくなったからでした。ショートストローク型のエンジンは、低速トルクを出すのに不向きということからも、中低速トルクが厚く低燃費なエンジンとするのを難しくする要因に。現在のスバル車に搭載される「FA」「FB」型エンジンでは、コンロッドやピストン形状に工夫を凝らすことで比較的ロングストロークとなっています。

水平対向エンジンの特性は、WRXのようなスポーツ車に搭載するには理想的ながら、低燃費な実用車には不向きとなる要素が多く、コストも高くなりがち。理論上はすぐれた部分の多い水平対向エンジンをスバル以外のメーカーが新たに採用しない理由は、まさにここにあるわけです。

4輪でスバル以外に唯一水平対向エンジンを製造するポルシェでも、リアルスポーツ性能を追求する「911」や「ボクスター」「ケイマン」では水平対向エンジンを採用し続けていますが、それ以外のモデルではV型エンジンを採用していることからも、水平対向エンジンの難しさがうかがえます。

スバルは前身企業が「中島飛行機」という航空機メーカーだったので、航空機用エンジン「栄」など、ピストンが向かい合う形で作動する星型エンジン作りの歴史があったことも、水平対向エンジンにこだわる理由のひとつ。航空機メーカー時代から続く100年以上の歴史は大事なアイデンティティでもあるので、今後もまだしばらくスバルは水平対向エンジンを搭載し続けるでしょう。

スバルが誇る「好バランス」が特徴のシンメトリカルAWD。水平対向エンジンを搭載するからこそ実現できるクルマとしての素性のよさです

気持ちよさの源は、各部のバランス調整

水平対向エンジンの中でも、とりわけスポーツモデル向きとされた「EJ20」の「Final Edition」は、「バランス調整」が施された点も注目されました。重量公差を標準モデル比で50%低減したピストン&コンロッド、回転バランス公差を85%低減したクランクシャフトを採用し、さらに回転バランス公差を50%低減したフライホイール&クラッチカバーも採用したことで、“エンジンをMTで操ることで得られる気持ちよさを徹底的に高めた”というわけです。

ピストンやコンロッドなどの重量バランス取り調整は、STIの限定車ではEJ20初期世代から実施。30年経った今乗っても感動できるスムーズさが味わえます

重量バランス取り調整は標準仕様のエンジンでも実施していますが、「EJ20 Final Edition」ではその誤差をさらに小さなレベルで整えることにより、よりスムーズな回転を実現

その効果は強烈で、市街地から山道、高速道路にいたるまで、「EJ20 Final Edition」はエンジンとマニュアルトランスミッションの気持ちよさをただひたすら味わい尽くせるという、運転好きに乗って夢のようなクルマに仕上がりました。抽選に当たってこのクルマを手に入れた555人のオーナーさんがうらやましい限り。

WRX STIに搭載される6速MTは20年にわたり改良が重ねられた完熟機。競技シーンでも壊れにくい耐久性の高さは、シフト操作時の手応えからも伝わります

WRX STIのペダルは操作性の高さを考慮したアルミパッド付き。ペダルの配置も適切で、ヒール&トゥもやりやすい運転環境が整えられています

8000回転まで回る唯一の4気筒ターボ

ショートストロークで8000回転まで無理なく回せる特性もまた、クルマの甘美さを高める大きな要素です。最近の高効率ターボは低速トルクが厚いために高回転まで回す必要性が低く、世界のほとんどのスポーツモデルでエンジンの低回転化が進みました。比較的低回転化された今どきの高効率ターボエンジンは、速さや性能面では何の不満もないものの、“フィーリング面でどこか物足りなさを感じると”いう声が少なくないもの事実。

そんな中、2020年初頭現在「世界で唯一8000回転まで回せる2L4気筒ターボ」として生き残った 「EJ20」には、古きよき時代のスポーツユニットの味わいが濃厚に残されているのでした。“愉しさ”を重視するスバルの真骨頂と言えるでしょう。

ちなみに、筆者は初期世代の「EJ20」が搭載される初代「WRX」を27年間所有していますが、今もなお飽きることなく乗り続けている理由のひとつは「EJ20エンジンの気持ちよさ」。好バランスがもたらすスポーツユニットとしての素性のよさは古くなっても色褪せず。「EJ20 Final Edition」も、手にした多くのユーザーにこの先何十年も愛され続けることでしょう。

筆者が27年間所有する初代WRXの初期型(右)にも搭載されるEJ20エンジン。初期世代のユニットは最高出力が240馬力で、レッドゾーンは7000回転からとスペックも性能も控え目ながら、痛快な回転フィールは最終型に通じるものがあります

「EJ20」は退役しましたが、次世代のSUBARUの水平対向エンジンもまた楽しみでなりません。次世代の水平対向エンジンも、マニュアルトランスミッションで味わいたいものですね。

SPECIFICATION

■サイズ
全長:4,595mm
全幅:1,795mm
全高:1,475mm
車重:1,510kg

■エンジン
種類:2.0L水平対向4気筒DOHCツインスクロールターボ
最高出力:308PS/6,400rpm
最大トルク:422Nm/4,400rpm

■トランスミッション
6段MT

■駆動方式
全輪駆動

■新車価格
4,521,000円(税込)

本記事の試乗の模様は動画でもご覧いただけます。

資料写真:SUBARU

マリオ高野

マリオ高野

1973年大阪生まれの自動車ライター。免許取得後に偶然買ったスバル車によりクルマの楽しさに目覚め、新車セールスマンや輸入車ディーラーでの車両回送員、自動車工場での期間工、自動車雑誌の編集部員などを経てフリーライターに。2台の愛車はいずれもスバル・インプレッサのMT車。

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