世界中のスニーカーファンから圧倒的支持を集めるリーディングカンパニーと言えば、誰もが知るナイキ。前身となるブルー・リボン・スポーツ社の創設から数えると60年もの歴史を誇り、名作も数多く存在する同社において、1987年3月26日の初代モデル発売以来、不動のアイコンとして君臨し続けるシリーズがある。ご存じ、「ナイキ エア マックス」シリーズである。
ナイキでは2014年より、毎年3月26日にその歴史を祝い、歴代開発者やファンなど同シリーズに関わってきたすべての人々とのさらなる深いつながりを追求するイベント「Air Max Day(エアマックス・デー)」を開催してきた。2024年は記念すべき10周年目。そこで最大のトピックとして事前に発表されていたのが、シリーズ最新作「Nike Air Max Dn(ナイキ エア マックス Dn)」だった。
ナイキのラボで開発された次世代「エア マックス」であることを視覚的に伝えるイメージビジュアル。これを見ているだけでも期待感が高まる……
上記のイメージビジュアルからも想像できるように、これまでにない革新的モデルであるとアナウンスされた「ナイキ エア マックス Dn」は、インラインモデルの発売に先駆け、Supreme(シュプリーム)でコラボモデルが先行リリースされるという大胆なプロモーションもあって大きな話題に。その後、3月26日の「エア マックス・デー」にインラインモデルも発売され、各所からは高評価の声を伝え聞く。そこでリリースから1か月経過し、そろそろ誰もが普通に手に入れられるだろうというこのタイミングで、実際に履いてレビューしてみた。
普段、30〜40歳代のパパにとって本当に使えるスニーカーを模索する連載企画「Daddy's Sneaker」を担当している筆者だが、普段あまり触れることがないのが、こういった最先端のハイテクモデル。ゆえに妙なバイアスもなく、正直な目線でデザインや履き心地について掘っていきたいと思う。「たしかにカッコいいけど、普段履きにはどうなんだろう?」と二の足を踏んでいた読者諸氏も、ぜひ参考にしてもらいたい。
アッパーやツーリングユニットなど、各部を説明した分解図。こういう少年ハートをくすぐる仕掛けも、さすがナイキ!
まずはシューズの概要について。“革新的”と先述したが、はたして何のドコが新しいのか?
ナイキが30年以上も前から取り組んでいる、フットウェアのクッショニング変革。その新世代を担うモデルである本作では、同社イノベーションチームが「エア マックス」シリーズの開発で培われた経験を基に、これまでにない履き心地を実現させるべく、さまざまな技術が活用されている。
たとえば、ソールに封入された「エア バッグ」を素早く正確に試作テストするために用いられた有限要素分析などのデジタル技術もそうだ。これによって、「アスリートからの意見やデータを集積→試作→試験→改良」という開発サイクルを短時間で行うことが可能に。こうして誕生したのが、より効率的に快適さと足運びを提供できる次世代のクッショニングシステム「Dynamic Air(ダイナミック エア)」を搭載した「ナイキ エア マックス Dn」なのだ。
で、お待ちかねの実物がこちら!
ナイキ スポーツウェアの「ナイキ エア マックス Dn」の「オールナイト」。価格は20,130円(税込)
メンズモデルのファーストデリバリーカラーとしては、「オールナイト」「ブラック×ホワイト」「ピュア プラチナム」「トリプルブラック」「ボルト」などがラインアップ。そのなかから今回セレクトしたのが、キービジュアルにも採用されていた「オールナイト」だ。黒を基調としつつ、ビビッドなピンクとブルー&ピンクのグラデーションの挿し色が各部にあしらわれており、未来的かつテクニカルなムードを漂わせる。合わせやすいモノトーンも捨て難いが、せっかくのハイテク系なのでフックになる配色のほうが気分もアガるというもの。思わず期待も高まる!
ではここからは、細部をじっくり見ていくとしよう。
有機的な柄が浮かぶアッパー。軽量かつ通気性にすぐれたメッシュ素材の上に、シリコンに似た素材を重ねて立体的にプリントした新たなテキスタイルを採用している
シュータンには「ダイナミック エア」が搭載されていることを示すロゴマークを配置
TPU素材のヒールカウンターにも「ダイナミック エア」のロゴをオン
まずはアッパー。軽量かつ通気性にすぐれたメッシュ素材の上に、シリコンに似た素材を重ねて立体的にプリントした新たなテキスタイルを採用。有機的なデザインは、かかとからトゥへの滑らかな足運びの感触を視覚的に表現したものだとか。トゥの補強やマッドガードなどは、ステッチを用いることなく圧着。これによりミニマルな表情を強めている。
続いては“甲部分の保護”と“シューズ内の足のブレ抑制”という2つの役割を担うシュータン。ここにはクッション材がしっかりと封入されている。
ちなみに、シュータンには「ダイナミック エア」が搭載されていることを示すロゴマークが配置されているが、何となく既視感があると思ったら、適度な部位に適度なサポートを加える革新的なクッショニングとして、1998年に「AIR MAX PLUS(エア マックス プラス)」に初搭載された「Tuned Air(チューンド エア)」のロゴをアレンジしたもののよう。こんなところにも、「エア マックス」のヒストリーが隠されている。
同じく「ダイナミック エア」のロゴが鎮座するヒールカウンターは、ゴムのようにしなやかな弾力性とプラスチックのような強さをあわせ持ったTPU素材を採用。ソール中央にはねじれを防止する同素材のシャンクアーチクリップを搭載しており、中足部の構造とサポート力を高め、アキレス腱を支えている。
ミッドソールには、独立した4つのチューブ状の「ナイキ エア バッグ」で構成された「エア ユニット」を搭載。これが「ダイナミック エア」である
ソール底部から露出しているピンク色のパーツは、水分による劣化が少なく、射出成形された「ファイロン」のフォーム。これが「エア ユニット」の周りを囲むことで快適さをキープしている
イノベーション、デザイン、エンジニアリング、リサーチの各チームは、従来なかった新たなルックスや感覚のシューズ制作に心血を注いできた。本モデルでは、そのひとつの到達点である「ダイナミック エア」をソールに初採用している点が最大の特徴。その秘密は、4つの独立したチューブ状の「ナイキ エア バッグ」で構成された「エア ユニット」内の気圧にある。かかとのほうは高めに(15psi)、トゥ側は低め(5psi)に、と2種類に気圧を設定したうえで、足の動きに合わせて空気がユニット内のチューブ間を自由に流れる構造に仕上げている。これにより、スムーズな履き心地と今までにない弾性を両獲りしたのである。
さらに、ミッドソールには水分による劣化が少なく、射出成形されたフォーム「ファイロン」を採用。「エア ユニット」の周りを囲むことで快適さをキープしてくれる。これに加え、日常生活での歩行に適したラバーアウトソールが、戦車のキャタピラのごとくかかと部分を覆い、グリップ性と耐久性を向上。近未来的なルックスと圧倒的タフネスの融合が、モノ好きな男心を実にくすぐるではないか。
それでは、いよいよ着用レビューに移ろう。
基本であると同時に重要なのが、サイズ選びだ。ナイキのハイテク系モデル、特に「エア マックス」シリーズは足にしっかりフィットさせないと、正しく快適な履き心地が得られないため、基本的に作りは小さめ。スニーカーなら普段だとUS9インチ(27cm)を履く筆者は、今回もUS9インチ(27cm)をチョイスした。
足入れした感想としては、普通の厚さのソックスなら歩くのも走るのも問題なしのジャスト感。足元をすっきりと見せたいので、普段愛用する同社のバッシュ「DUNK LOW(ダンク ロー)」では、シューレースを外で結ばず内側に収納して着用している筆者。だが今回は、正しいフィット感を伝える必要があるので、通常どおり外で結んでみた。
デフォルトで装着されているのはラウンドタイプ(丸形)のシューレース。素早いフィット調節が叶うが、しっかり結ばないとほどけやすくもある
出荷時から装着されているのはラウンドタイプ(丸形)の黒いシューレース。フィッティングの調節が素早く容易に行えるいっぽう、しっかり結ばないとほどけやすくもある。脱ぎ履きの際に毎度結ぶのが面倒な人や、足元をすっきり見せたいのであれば、別売りのシューレースストッパーを装着するのも有効なテクニック。ちなみに、シューレースをフロントで結んで着用すると下の写真のような感じだ。
ソールの後足部に装備された「エア ユニット」が視線を集めこそすれど、全体の雰囲気は無駄なくスタイリッシュ。またうれしい副次効果としては、2cmほど身長が伸びる(笑)
いかがだろうか?
ハイテク系モデルといえど、90年代〜00年代のようなトゥーマッチなテック感があるわけではなく、ゆえに悪目立ちすることのないスマートフェイス。さすがにトラッドな着こなしに対しては、“あえてのハズしで”とならざるを得ないが、大人のストリートスタイルや都会的なビズカジには好相性。汎用性にすぐれ、着用シーンは意外に広いと考えられる。
また、さり気なくうれしいポイントに“身長の高見せ効果”もあげられる。ソールの「エア ユニット」の厚みの分、約2cmかかと部分が高くなり、加えて立ち姿の背筋も伸びるのだ。身に着けるアイテムが簡素化し、よりシンプルな装いに近づくこれからの季節。こういったベーススタイルを向上させるテクニックは、必ずや重宝するはずだ。
次は、実際に着用した状態からのアクションシーンに移る。
その名が示すように、「エア マックス」シリーズの一足なので、本来であればランニングしてみるべきだろう。とはいえ、筆者はあくまで普段履きの一足として取り入れたいと考えている。なので、平坦なアスファルトの道を歩いている様子をご覧いただく。
実際に着用して歩いてみた連続図。屈曲性のあるアッパーと、反発力の強いクッショニングのため、平坦なアスファルトの上を歩くのは快適だった。確かに、足が自然と前に出ていくような感覚があり、ライフスタイルカテゴリーではあるが、ランニング時に着用するのもいつか試してみたい
歩行時の足元を上から見た図。トゥ部分にシワは結構寄るが、表面に施されたシリコンプリントの効果もあってか復元力が強く、シワになって跡が残る心配はなさそうだ
かかとに体重を思い切りかけてみた図。クッショニングはやや固めで、「エア バッグ」部の視覚的変化はあまり感じられないが、足にはしっかりと感じられた
屈曲性のあるアッパーと、弾性の強いクッショニングのため、平坦なアスファルトの上を歩くのにも実に快適。一歩進むごとに身体の荷重に「エア バッグ」が反応し、かかとからトゥへの自然で滑らかな動きと足が自然と前に出ていくような感覚を味わえた。
スニーカーの履き心地にリラックス感を求める大人世代には、フワフワと足が沈み込むようなクッショニングを好む人も多いが、この前へ前へと推進力をサポートするような履き心地は、気持ちをポジティブ&アクティブに導いてくれる。普段から歩行速度が速く、チャッチャと前に進んでいきたい筆者的にも、こちらのほうが好み。この履き心地はクセになりそうだ。
付属の替え用シューレースのうち1本は、鮮やかなピンクのオーバルタイプ。スポーティーな雰囲気が強まり、全体の統一感もアップする。足元のアクセントに最適だ
また、こちらのモデルには、気分で付け替えられる替え用シューレースが、太っ腹にも2種類付属する。
まずは「エア バッグ」と同色の鮮やかなピンクに換装してみよう。形状は初期装備のブラックのように断面が丸いラウンドタイプではなく、楕円形のオーバルタイプ。ラウンドに比べてボリューム感が減るいっぽう、スポーティーな印象はより強まり、何より統一感がアップして収まりもよい。そしてもう1種類は、リフレクト糸を編み込んだ平たいフラットタイプである。
もう1本は、リフレクト糸を編み込んだフラットタイプ
ストロボを焚いて撮影するとこんな感じ。しっかりとフラッシュの光を反射している。夜道の歩行・走行時の安全性を確保する
「ナイキ エア マックス Dn」は、アイスティ部分がホール式ではなくループ式なので、下から上に通していくごとにクルンクルンと回転してしまうのがやや気になるのと、サイズ調整するたびに形を整えるのが面倒そうだ。とはいえルックス面で言えば、アッパーのテキスタイルと表情が似ているため親和性が高く、ハイテクならではのテッキーなムードを求めるのであればアリ。何より車のライトなどの強い光を反射するため、夜道などでも安心なのもうれしい。
ただ、あくまで個人的な意見としては、初期装備のブラックを含め、すべてオーバルタイプでもイイのではないかとも思った……。人の好みは千差万別。せっかくならば自分好みのシューレースを探してみるのもまた楽しそうだ。
発売前から大きな話題となっていた「ナイキ エア マックス Dn」。今回、実際に手に取って足を通してみたが、税込2万円ちょっとのプライスであれば、コストパフォーマンス的にも“買い!”と太鼓判を押したい。
これまでに「ビジブル エア」「フルレングス ビジブル エア」「チューンド エア」「360°ビジブル エア」など、時代に合わせて進化してきた「エア ユニット」。その最新バージョンとして、ダイナミック(力強く生き生きと躍動)の名を冠しながらも、やわらかすぎず硬すぎない“ちょうどよいクッショニング”が楽しめる本モデルは、陸上競技のギアとしてではなく、ファッションとしてスニーカーを楽しみたいという人々の希望を存分に叶えてくれるに違いない。また同時に、「エア マックス」の新たな時代の扉を大きく開く存在にもなり得る。
個人的には、発売と同時に即完売するも、公式オンラインストアで「近日発売」のステータスになっている「トリプルブラック」の再販に期待している。今後、さらにカラバリも登場するようなので、好みのカラーリングが発売されたらぜひお試しあれ。止まることを知らない「エア マックス」の進化に、必ずや衝撃を受けるはずだ。