ウォッチシーンのトレンドに左右されることなく、定番時計の地位を保ち続けているミリタリーウォッチ。過酷な環境によって培われた頑丈さや機能性、そしてむだのないデザインが、すぐれた道具を求める男の本能を刺激するのだ。そして腕時計をファッションアイテムとしてとらえる人にとっても、また腕時計の歴史やスペックを愛する時計愛好家にとっても、その姿はまぶしく映る。本記事では、そんなミリタリーウォッチの奥深い魅力について、「歴史」「機能」「ブランド」という3つの要素を柱として検証していこう。
出典:楽天市場
ミリタリーウォッチは戦場で生まれ、磨き上げられてきた――。
19世紀末、世界各地の戦場では、“時間”の重要性が一段と高まっていた。兵器の進化とともに複雑化していく作戦を効率よく遂行するためには、部隊が正確な時間を把握し、規則正しく行動する必要がある。そのため、将校たちは懐中時計を使って時刻を確認していたが、そのうちよりスピーディーに確認するべく、腕に懐中時計をくくりつける者が現れた。そんな兵士たちの要望に応えるべく製作されたのが、今日の腕時計の原型。一説によれば、腕時計が普及したきっかけは20世紀初頭の第一次世界大戦時とされている。
20世紀に入ると、ミリタリーウォッチは徐々に兵士たちの間に普及していく。とはいえ、腕時計自体がまだ高価なものであったため、各国の軍はまず、士官やパイロット、潜水部隊といった時間を把握する必要性が高い兵士たちから支給を開始した。なかでも有名なのが、スイスのオリスが開発した「ビッグクラウン」。パイロット向けに作られたこのモデルは、分厚いグローブを装着したままでも操作しやすい大型のリューズが特徴だった。時計ブランドがこうした高機能モデルを開発するいっぽうで、軍は低コストモデルの生産を要請。こうして一般の兵士に支給できる腕時計も生産されるようになっていった。
オリス「ビッグクラウン」|出典:楽天市場
一般兵士に向けた腕時計で有名なのが、第一次世界大戦時にタイメックスが開発した「ミジェット」。米軍の要請によって誕生したこのモデルは、大ぶりのオニオンリューズに細身のラグを持つミリタリーウォッチの元祖とも言える一本だった。また、タイメックスは後のベトナム戦争時にもアメリカ国防総省の依頼を受けてミリタリーウォッチ「オリジナルキャンパー」を開発。これは、戦地での使用に耐える堅牢性を備えつつ、修理や電池交換などを必要としない手巻き式時計だった。
タイメックス「オリジナルキャンパー」|出典:楽天市場
ミリタリーウォッチを語るうえで、ハミルトンも欠かせない存在だ。第二次世界大戦時には、「ハックウォッチ」と呼ばれる手巻き式の腕時計を100万本以上生産した。
そして、1969年に起こった「クォーツショック」も、ミリタリーウォッチの歴史に影響を与えた出来事だ。この年、セイコーが既存の機械式時計の精度を凌ぎ、かつ驚異的な低コストを実現したクォーツ時計の開発に成功。クォーツ時計の登場によって一般市民にも急速に腕時計が浸透した。結果、軍が兵士に腕時計を官給する意味こそ薄れたものの、ミリタリーウォッチは高い機能性と視認性が評価され、絶大な人気を誇るジャンルへ成長を遂げていったのだ。
世の中には数々のミリタリーウォッチが存在するが、いくつかの共通点が存在する。ひと目で時刻がわかる高い視認性とむだのないタフなデザイン、そして語れるバックグラウンド。この3つを兼ね備えたモデルこそが、本格ミリタリーウォッチと言えるだろう。
出典:楽天市場
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装飾性が度外視され、必要な機能だけが追求された結果として生み出されるタフなデザインは、ミリタリーウォッチの唯一無二の魅力。サンドブラストなどのマットな仕上げが施された文字板やケースはドレスウォッチには見られないラギッドなオーラを放ち、ナイロン製のNATOベルトやシリコンバンドはスポーティーなイメージを演出する。また、パイロットウォッチの名門として知られるジンやブライトリングのミリタリーモデルが放つ“金属の塊”のような無骨な存在感もミリタリーウォッチの醍醐味だ。戦場で磨き上げられた機能美を持つ腕時計は、スタイリングに男らしいスパイスを効かせる格好のアクセサリーになるだろう。
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語れる背景や歴史――。視認性やデザインよりも、この点を最も重視するミリタリーウォッチ愛好家は少なくない。パイロットウォッチなら、IWCの現在のフラッグシップである「マークシリーズ」。その起源は1940年代、技術力の高い腕時計ブランドを有していなかった英国が永世中立国・スイスの同ブランドに生産を依頼して誕生した腕時計にある。ロイヤルエアフォースこと英国空軍に正式採用されたパイロットウォッチは、コックピット内の振動や圧力、温度変化、強力な磁場に耐えることが可能で、“耐磁時計の世界基準”と謳われ、シリーズの系譜は現在にも受け継がれている。
そして、ダイバーズウォッチならハミルトンの「カーキネイビー」。300mまで潜ることができる耐圧性能を備え、アメリカ海軍の特殊潜水部隊に使われた実績を持つモデルは、ミリタリーダイバーズの象徴的なモデルと言える。目には見えない要素ではあるものの、腕時計を眺め、歴史的なエピソードに思いを馳せるひとときは、ミリタリーウォッチのオーナーの特権だ。
本物のミリタリーウォッチがいかなるものかがわかったところで、次はこのジャンルを語るうえで欠かせない代表的なブランドとモデルをご紹介しよう。いずれも、流行りの“ミリタリー風”とは一線を画す、時計史に名を刻むマスターピースだ。
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1854年に創業したアメリカの国民的時計ブランドは、20世紀初頭に軍のミリタリーウォッチを手掛けた歴史を持つ。代表作のひとつに数えられる「オリジナルキャンパー」はベトナム戦争で供給された軍用時計がモチーフで、低コストながら、堅牢性や視認性の高さ、電池交換不要の手巻き式ディスポーサブル式(使い捨て式)が特徴だ。およそ4半世紀ぶりの復刻となるクォーツモデルは、36mm径と約18gという軽量かつコンパクトなサイズであるうえに、むだのないデザインが独特の存在感を放つ。
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20世紀初頭にはアメリカ軍の公式ウォッチサプライヤーを務めたハミルトン。同ブランドが有するミリタリーウォッチの代表作は、1940年代にアメリカ軍に支給されたモデルをルーツとする「カーキ フィールド メカニカル」だ。通称「ハックウォッチ」と呼ばれる理由は、リューズを引くと秒針が止まるストップセコンド機能。戦場では、兵士たちが「ハック!」の号令で時刻を合わせ、作戦に臨んだという。マットな38mmケース、NATOストラップ、「スーパーミノルバ」が塗布された針など、その姿はミリタリーウォッチのお手本だ。
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1936年に英国空軍の公式サプライヤーを務め、1942年には米軍への納入を開始した歴史を持つブライトリング。大量生産可能な軍用時計というコンセプトの基に開発された「コルト」は、バーインデックスのシンプルな3針スタイル。ベゼルのライタータブはグローブを装着したままでも操作しやすいように設計されている。こちらの「コルト オートマティック 44」は自動巻きだが、ほかに手の届きやすい価格帯のクォーツモデルも用意されており、ブライトリングの入門機としても最適だ。
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世界初の音叉時計や“ムーンウォッチ”など、数々のエポックメイキングなモデルを輩出したブローバもまた、アメリカ軍に正式採用された歴史を持つ。こちらは第二次世界大戦中の1944年に製造された伝説のミリタリーウォッチをモチーフにした「ブローバ ミリタリー」。3層構造になったダイヤルと3つのリューズが特徴で、2時位置のリューズで外周ダイヤル(分表示)を、4時位置のリューズで内周ダイヤル(時間表示)を回転させ、そこに針を合わせることで経過時間を計測できる。
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ベトナム戦争時、米軍パイロットの間で人気を博したスイスブランド。当時、軍に正式採用されていなかったため、パイロットたちはグリシンの時計を自費で購入して持参したというから、その信頼の高さがうかがえる。パイロットウォッチのほかに、ダイバーズウォッチの人気も高く、こちらの「コンバットサブ」は、24時間表示と大型リューズが特徴のミリタリーモデル。耐水圧は200mだ。
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スイスメイドの機械式時計を志向するブランド、オリスでは、第二次世界大戦時に米国空軍に支給された「ビッグクラウン」が有名だ。19世紀初頭に開発されたそのパイロットウォッチの目印は大型のリューズ。これは氷点下にもなるコクピット内で分厚いグローブを着けたまま操縦できるように配慮されたものだ。また、センター針で文字板外周の数字をさして日付を表すポインターデイトも独自の機構。本作「ビッグクラウン ポインターデイト」はその二大機構をあわせ持つ大定番だ。
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今日ラグジュアリーウォッチとして不動の地位を確立したイタリア生まれのパネライは、かつては軍用時計で名を馳せたブランド。第一次世界大戦時に国防省の要請で防水時計の開発に着手し、蛍光物質を使用したダイバーズウォッチを完成させた。イタリア海軍特殊潜水部隊にも使用されたそんな名作の系譜を継ぐのが、「ラジオミール オフィチーネ」。深海を思わせるブルーダイアルに加え、蓄光塗料のルミノールによって強く発光するインデックスが存在感たっぷりだ。
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1868年創業の高級時計マニュファクチュールが擁するミリタリーウォッチと言えば、第二次世界大戦時、英国空軍に供給した「マーク シリーズ」。こちらのクロノグラフは、1940年代に製造された「マーク11 ナビゲーションウォッチ」の計器デザインを継承した一本だ。ビンテージテイストな顔つきながら、46時間パワーリザーブを誇る自社製自動巻きムーブメントや耐磁性インナーケースに加え、機能性も進化を遂げている。
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チャールズ・A・リンドバーグ氏をはじめ、空の偉大な冒険家たちに愛されたスイスの名門、ロンジンは、第二次世界大戦のころ、フランス海軍の求めに応じて軍用時計を製作した歴史を持っている。ミリタリーモデルの「ヘリテージ ミリタリー」は、頑丈な肉厚のベゼルや視認性の高い大型針、大振りのローマンインデックスが質実剛健なオーラを放つ。どこかクラシックな顔つきはビジネススタイルにも相性よし。
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“明るい夜”という名を持つルミノックスは、1989年米国ニュージャージー州生まれ。その代名詞と言えば、米国海軍の特殊部隊・ネイビーシールズに採用されたミリタリーモデルだ。逆回転防止ベゼルをはじめ、天然ラバーストラップ、200m防水機能、頑丈かつ軽量なケース、そして25年間効果が持続する自己発光システムを備えたインデックス&針など、まさに軍用ダイバーズのエリート。こちらは視認性がブラッシュアップされた日本限定の「レッドハンド シリーズ」の「Ref.3001」。
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あらゆる環境下での使用に耐えるG-SHOCKが、ミリタリーウォッチとしての顔も有していることはご存じだろうか。1990年代初頭に勃発した湾岸戦争時には多くの多国籍軍の兵士たちに使用され、1994年公開の映画「スピード」では主人公のSWAT隊員に使用されたことでも話題に。また、2014年公開の映画「アメリカンスナイパー」でもネイビーシールズの狙撃手である主人公の腕にはG-SHOCKが装着されていた。戦場ではさまざまなモデルが使用されているが、オリジンというべき「DW-5600E-1」は今なお根強い人気を誇る一本だ。
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「ミリタリー・ウォッチ・カンパニー」という名を持つスイスブランドは1974年の設立以降、各国の特殊部隊への納入実績を積み重ねてきたミリタリーウォッチの申し子。こちらは1940年代に米国空軍で使用されていた軍用時計「A-11」を再現した一本だ。ロゴさえも省略されたシンプルな文字板や大振りのアラビアンインデックス、太い時分針が高い視認性を確保する。そんな質実剛健な姿を忠実に再現しつつも、日本製ムーブメントやステンレス製ケースなどのパーツは現代的にアップデートされている。
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バウハウスの流れを汲むドイツのパイロットウォッチには、すぐれた視認性を誇る名作が少なくない。1925年にドイツで創業したラコの「チューリッヒ」もそのひとつ。文字板の上下を素早く認識できるように印字された12位置の三角形など、パイロットウォッチの基本設計を踏襲したデザインは機能美を感じさせる。こちらの「チューリッヒ.2.D40」はケース径40mm、厚さ9mmのケースが採用されたもの。定番モデルよりも小振りで薄型のため、服の袖が引っ掛かりにくく、手首が細い人にもおすすめ。
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1921年に米・ニューヨークで設立されたベンラスは、ベトナム戦争時に米軍のミリタリーウォッチを製造した知る人ぞ知る実力派ブランド。余分な装飾性を一切排除するデザイン作法は、現代のミニマリズムにも通じる。「コンバット・シリーズ」の本作は、ケースからバンド、細部に至るまでオールブラックで統一された精悍な顔つきが存在感抜群。ベルクロバンドによってウェアの上からでも装着できる。
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1939年にカナダで設立されたマラソンは、各国の政府や軍隊に計器を支給し、現在も米軍などに腕時計やストップウォッチを納入している。その代表作が「GSAR ダイバーズ」。蓄光が不要な「トリチウム・バイアル・テクノロジー」が駆使された夜光をはじめ、グローブをしたままでも操作しやすいよう滑り止めの施された大型リューズ、ダイバーズウォッチとしても使える300m防水など、実用重視の機能が満載だ。