2024年10月8日サイコロジカルホラー「サイレントヒル 2」のリメイク版が発売された。ストーリークリアまでプレイしたのでレビューしていこう。ちなみに、筆者がプレイした難易度はNormalであり、ほか難易度の場合はプレイ感が異なるかもしれないので、ご了承願いたい。
原作の「サイレントヒル 2」は、21世紀ホラーゲーム最高傑作のひとつと呼ばれるほど有名な作品。主人公、精神的に疲弊したジェイムスの心境を反映するかのように、独特の不快感、まとわりつく精神的ストレスがゲームプレイを通して感じられる。
敵が近づくとラジオから流れる嫌なノイズや、理不尽に追いかけまわしてくるピラミッドヘッドのクリーチャーなど、プレイヤーは終始サイレントヒルという狂気の街に閉じ込められ、精神的な苦痛をともないながらゲームを進めていく。これこそが、「サイレントヒル 2」がほかのホラーゲームとは一線を画す理由だ。
原作が高く評価されたもうひとつの理由が物語。主人公のジェイムスは、3年前に病死したはずの妻メアリーから手紙が届いたことをきっかけに、サイレントヒルを訪れる。しかし、そこは異形のクリーチャーたちが蔓延る狂気の街と化していた。なぜか死んだ妻と声や見た目がまったく同じ謎の女性マリアなど、さまざまな人物と出会いながら、ジェイムスは自分が犯した罪に直面することになる。
死んだ妻にそっくりの女性マリア
ゲームで表現される不快感や恐怖は、ジェイムスの罪悪感に対する逃避心や葛藤を表しており、プレイをとおしてプレイヤーにジェイムスの感情を疑似体験させているのだ。さらに、ゲームを最後までやり遂げた先には感動のラストが用意されており、物語とゲーム性の親和があまりにすばらしい。
しかし、原作の「サイレントヒル 2」の魅力は当時のPS2だったからこそ許容されたカメラアングルの扱いにくさやキャラのモーションの拙さなど、しんどさや面倒臭さなどの点で技術的な制約を逆手に取っていた部分が大きい。
そのため、今回のリメイクでは、最新のグラフィックスやゲームデザインで名作をよみがえらせるだけではなく、原作特有の不快感や精神的ストレスをどのように表現するのかが気になるポイントだ。
原作で重要な要素だった不快感や精神的ストレスは、リメイクでも探索中や戦闘中などいたるところでプレイヤーを襲う。まず、画面の明るさはデフォルト値でプレイした場合に視界がかなり制限される。街の外は霧に包まれているだけでまだ比較的明るく感じられるのだが、建物の中は一寸先が闇な場所がほとんど。か細いライトの光を頼りに探索を行っていかなければならない。先に何があるかわからない暗闇を進んでいくこと自体、プレイヤーにとっては想像以上のストレスになる。
明るさデフォルト値でプレイした画面。少し先のドアの灯り以外はほぼ何も見えない
敵が近づいてくるとラジオからノイズが流れるのだが、周囲が暗いため敵の位置が簡単にはわからない。進んだ先に待ち構えているのか? 隣の部屋にいるのか? あるいは天井や壁に張り付いているのか? 敵がいるのは確実なのにどこにいるかわからない恐怖がプレイヤーを精神的に追い詰める。
暗闇の中から敵が現れるだけで恐怖
暗闇のどこから襲われるかわからない恐怖にさらされるため、敵は見つけ次第倒すかもしくは逃げる必要がある。倒したとしても、敵はまた起き上がってくる可能性があるので、息の根を確実に止めるために、武器で叩きつけたり踏みつけたりしなければならない。これがまた不快極まりないのだ。肉が潰れて血が噴き出る音がするうえに、ジェイムスの声からも嫌悪感や拒絶心が読み取れる。原作にはなかった表現の追加によってジェイムスが心理的に追い込まれていることがよりわかりやすくなっているのだ。
敵を踏みつぶしてとどめを刺すジェイムス
本作は視界が制限された場所をさまようゲーム性が軸になっているため、明るさに関してはなるべくデフォルト値から大きく外れないようにプレイしたほうが怖い。
音も重要な要素で、3Dオーディオ対応のヘッドフォンなどでプレイするかどうかで没入感がかなり変わってくる。突如として無意味な物音が響いたり、BGMが極端に恐ろしい音調に変化したりするので、これもプレイヤーの恐怖心を煽ってくる。
精神的ストレスにさらされるなか、突如始まるボス戦は本当に怖い。倒し方がよくわからない敵が急に目の前に現れるので、とりあえずダメージ判定がありそうな場所に銃を乱射してしまい、それまで大事に溜めていた弾や回復アイテムを無為に消費してしまいかねない。
ボス戦は道中よりもっと恐怖が感じられる
「サイレントヒル 2」は個性的なボスが多く登場し、一部のボスは原作を知らない人からも認知されているほどだ。ボスたちもリアルなビジュアルでよみがえっただけではなく、新たな戦法や演出でプレイヤーを追い詰める。ボス戦が始まったときの緊張感と恐怖心はかなりのものだった
本作はゲーム全体に緊張感をもたらすために、物資や武器にさまざまな制約が設けられている。これにより、プレイヤーが敵を銃で倒しまくるような大胆なプレイではなく、なるべく物資を節約し慎重に戦おうとするマインドにうまく導いていると感じた。
特に序盤の物資の少なさはかなりシビアだ。近接武器しか使用できず、接近戦で敵を倒していかなくてはならないのだが、慣れないうちは敵の攻撃も避けにくい。原作にはなかった回避アクションが追加され、1〜2発攻撃して回避を繰り返すヒット&アウェイ方式の近接戦が基本となるが、敵の動きを見誤ると高確率でダメージを受けてしまう。
序盤の近接武器のみで戦ううちはちょっとしたミスですぐ瀕死状態にまでなってしまうことも
加えて、序盤は街に配置されている回復薬の量が極端に少ないのだ。タンスの中や車の窓など、開けたり壊したりして探せる場所はあるものの、回復薬がなかなか見つからない。よって雑に戦闘を行うとすぐ瀕死状態になって不快な赤い画面エフェクトに晒されながら探索を続けなくてはいけなくなる。
瀕死状態のエフェクト。激しい心臓の鼓動音とコントローラーの振動も加わり探索しにくくなる
ゲームがしばらく進むとハンドガン、ショットガン、ライフルといった武器が手に入る。しかし、弾は簡単に見つからず、街や建物を念入りに調べて探し出さなければならない。
ゲーム中盤になると敵の強さも増してくる。たとえば、有名なナース姿のクリーチャーも登場するのだが、この敵はかなり厄介だ。近寄ってくるスピードが速いだけでなく、鉄パイプやナイフを振り回しジェイムスの体力を一気に削ってくる。動きもランダム性が強く予測しにくいため、近接武器だけで処理しようとするとノーダメージで倒すのは非常に難しい。
鉄パイプを振り回すバブルヘッドナース
いちばん良いのはショットガンやライフルを使って一撃で倒してしまうことなのだが、これらの弾はひんぱんに落ちてはいない。ナースのクリーチャーはかなりの頻度で出没するため、そのたびにショットガンやライフルで処理していたら、すぐに弾数がジリ貧になって大事なボス戦などの場面で苦戦するのは容易に想像できる。
そのため、比較的弾が集めやすいハンドガンで処理するのが吉という発想になるのだが、2〜3発で倒すにはヘッドショットを狙わなければならない。だが、やはり百発百中とはいかない。
ナースをヘッドショットする瞬間。頭が小さいため落ち着いていても当たらないときがある
ハンドガンは構えてから照準がピンポイントに定まるのに3秒弱かかり、手ブレも強いため、毎回の戦闘で確実にヘッドショットを決めるにはかなり集中力を強いられる。どのパターンで倒そうとしても何らかのリスクは避けられない仕組みが、プレイヤーを悩ませるのだ。
また、武器カスタマイズやスキルツリーなどのキャラクター強化要素も一切存在しない。ハンドガンはずっと弱いハンドガンのままであり、火炎放射器やアサルトライフルなど敵を無双できる武器が手に入るわけでもない。どれだけ物資を念入りに集めたところで、主人公自身の強さや武器の上限が決まっているため、爽快に敵を倒していくゲームプレイにはならないのだ。
しかし物資や武器の制限によって強いられる緊張感や集中力も、精神的ストレスを軸にするサイレントヒルらしさにつながっている。現代のTPSらしいゲームデザインに落とし込みながら、原作のブラッシュアップに成功している点だと感じた。
最後に探索パートについて述べていこう。本作は、各ステージで手に入る地図を頼りに行ってない場所を確認し、しらみつぶしに探索していくゲームプレイが基本だ。重要なギミックがあった場所やキーアイテムがある場所は目印をつけられる。ほとんどのステージは暗くて見とおしが悪いだけではなく、ミッションポイントの表示やUIもないのでひんぱんに地図を確認することになる。
本作の地図
特筆すべきは謎解きの難しさ。PS2時代のホラーゲーム特有の難解な謎解きをベースに作られているので、現代ホラーとしてはかなり難しく感じた。行ける場所はすべて周ってから謎解きにチャレンジしても、キーアイテムらしいパーツが揃っておらず、再度マップを練り歩いてしまうことが何度もあった。
本作の謎解きは、なかなか難しいと感じた
謎解きの難易度は変更できるが、一度ゲームを開始すると変更できないので、難易度を変更したい場合は最初からやり直す必要がある。謎解きが苦手な人は、最初から難易度を下げたほうが無難かもしれない。
この謎解きの難しさはゲームテンポを下げる要因でありながらも、ゲーム内における精神的ストレスを演出するひとつになっていたと思う。
不快感や精神的ストレスがゲーム性の軸である「サイレントヒル 2」のリメイク作としては高い評価を得ることは間違いないだろう。ホラーゲームと銘打っていながら、中身はシューティングアクションだったりするゲームが多いなかで、ここまで堅実に恐怖を追求するAAA級のホラーゲーム自体は珍しい。
このゲームに爽快感などのわかりやすい快感は不要であり、原作の哲学を貫きとおしたことは、原作ファンへの配慮とともに、原作へのリスペクトも感じられる。
現代のゲームとして本気で怖いサイコロジカルホラーゲームになっているので、誰しもが楽しめるとまではいかないだろう。筆者は、あまりに強い恐怖のため1日3〜4時間プレイするのが限界だった。しかし、ホラーゲームが好きな人には胸を張っておすすめできる。ホラー要素と完成度の高い物語は、あなたに最高のホラーゲーム体験を提供してくれるはずだ。
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※ゲーム画面は開発中のものです。