T字カミソリは、電気シェーバーよりも剃り上がりがさっぱりする、あるいは深剃りできるという理由から、あえて選ぶ人は少なくない。いっぽうで、モデルによっては金属刃が直接当たることで、肌が傷つきやすく、ヒリヒリしてしまうことも少なくない。
そこで今回は、男性美容研究家の藤村岳氏にT字カミソリの選び方のポイントと、現行モデルの中でおすすめのモデルを聞いてみた。
男性美容研究家
藤村岳氏
【PROFILE】
1973年、東京生まれ。大学卒業後、植物関連の雑誌・書籍の編集、生活情報誌などに携わる。独立後、シェービングを中心に据えた男性美容理論を打ち立て、活躍。総合情報サイト「All About」の「メンズコスメ」ガイドを始め、TV・ラジオなどのメディア出演のほか、講演・イベントなども行う。また、ブランドコンサルティングやコスメ開発にも携わる。著書に「一流の男はなぜ爪を手入れするのか?」「男の身だしなみ100の基本」。公式サイト「DANBIKEN〜男性美容研究所〜」
ヒゲを剃る道具は一般的に、電気シェーバーとT字カミソリの2種類ある。
電気シェーバーは刃が直接触れないので、肌を傷つけにくいが、イニシャルコストが高くなる傾向がある。いっぽう、T字カミソリはイニシャルコストは安く済むうえ、細かい部分にまで小回りがきくのが特徴。シェービングフォームを併用することで、剃り上がりの爽快感も得られやすい。しかし、必要以上の力を加えてしまうと、刃が直接肌に触れる分、傷ついてヒリヒリしやすいというデメリットもある。
T字カミソリ製品の多くに、刃の滑りをよくするスムーサー(スムーザー)が備わっていますが、より快適に剃るにはシェービングフォームなどのプレシェーブ剤の併用は必須です。なぜなら、同時使用によって、より滑らかなシェービングができて肌にやさしいからです
シック製品は、スムーサーの量が多いのが特徴。画像はシック「ハイドロ5プレミアム パワーセレクト ホルダー」のイメージ
T字カミソリによるヒリヒリを避けるためには、自身に適したモデル選びが大切だ。その正しい選び方を藤村氏に聞いた。
グリップの形状だけでなく、自分の手の大きさも考慮に入れるべき。ジレット「Gillette Labs 角質除去バー搭載」
T字カミソリは、“適切な力”で操作することが大切なのですが、重要なのがハンドルの持ちやすさです。滑り止めが付いているタイプなど、グリップ感がよいハンドルだと、余計な力を入れてギュッと握る必要がありませんので、そういうタイプであれば、肌を傷つけるリスクが減るわけです。ちなみに、ハンドルはまっすぐなスティック状よりも、適度なくびれなどメリハリがあるほうが、グリップ感がよい傾向にあります。
いっぽうでシェービングにおいては、T字カミソリを上から下へ、ヒゲの生えている方向へ滑らせる「順剃り」が基本です。でも、もし剃り残しがある場合は、T字カミソリを逆さにして滑らせる「逆剃り」も必要になります。その場合、鉛筆握りでヒゲの生える方向と逆に滑らせる必要がありますが、ハンドルがくびれているとつまみやすく、むだな力を入れずに剃りやすいのです
さらに付け加えると、製品サイズが自身の手の大きさにフィットするかどうかも、持ちやすさを判断する重要なポイントだという。
電動タイプ(振動タイプ)は乾電池を使用している分、本体が重くなる傾向がある
軽いT字カミソリの代表と言えば、ホテルのアメニティーなどで用意されているディスポーザブル(使い捨て)カミソリだ。
ディスポーザブルのカミソリは、もちろん使用している刃のクオリティーの問題もありますが、とにかく軽いのでヒゲが引っ掛かりやすく、シェービングに慣れている人でもヒリヒリしてしまうことが多いのです
ヒゲの薄い人、硬くない人なら問題なく剃れる可能性もあるが、ヒゲの濃い人ではシェービングが難しくなりやすいという。ほどよい重さのある製品のほうが、その自重を使ってスーッと刃を滑らせることができ、剃りやすくなるわけだ。
もちろん、重すぎると持っていて疲れることもありますので、納得するバランスを見つけることが大切です。ボーリングの玉選びのように、自分にとって適度な重さを選ぶことが肝要。ベストバランスを見つけるためにはやはり、複数の製品を経験してみるのがおすすめです
ジレット「Gillette Labs 角質除去バー搭載」などに搭載される「フレックスディスク」は、左右への動きを可能にしている
常に適切な力で本体を持つことが大事だとはいえ、どうしても余計な力が入ってしまうのが人間だ。そんなときに大切になるのが、刃を収納したケース。それ自体がクッション(サスペンション)の役目を果たし、むだな力を吸収してくれる機構なのだと、藤村氏は指摘する。
日本国内で人気を二分するジレットとシック。その最大の違いはクッション性と可動域にあります。
ジレットは、刃のケースがお辞儀するように上下に動くだけでなく、可動パーツ「フレックスボール」や「フレックスディスク」などで左右にも動く仕様を採用しています。顔の凹凸に寄り添って自在に動くのですが、慣れないとちょっとした力加減で、自分が意図しない方向にも動くので、「怖い」と思ってしまう人も多いようです。今回紹介している貝印の「AUGER システムカミソリ」も、上下左右の動きが可能で、使用感はジレットに近いものです。
いっぽう、シックの機構は、刃のケースがお辞儀するように上下に動くのみ。物足りなく感じるかもしれませんが、刃が左右に流れていかない分、自分の意志でコントロールしやすいというメリットがあります
つまり、刃の動きを製品にどの程度任せるかが、選び方のポイントになるというのだ。
ジレット「プロシールド 電動 フレックスボール搭載」
「プロシールド 電動 フレックスボール搭載」は、濃いヒゲも深剃りできる5枚刃の電動タイプ。ハンドルは滑り止め樹脂を搭載しており、ホールド感は良好で、電池を搭載している分、しっかりとした重さもある。クッション性も優秀。イニシャルコストは少々高いが、深剃りが必要と思う人にとって、スペシャルな選択肢のひとつだ。
本体には、単4形乾電池駆動の摩擦軽減モーターを内蔵しており、1秒間に100回の微小振動を与えることで摩擦を軽減。刃の上下に「W潤滑ジェルスムーサー」を搭載しているほか、最適可動域24度の「フレックスボールヘッド」により、3Dの動きであらゆる顔の凹凸に密着する。
ジレットが2014年に発表した「プログライド」は、ヘッドが上下左右に動く「フレックスボール」を搭載したことでシェービング革命を起こしたシリーズ。その直系として、「ジェルスムーサー」の量を増やし、肌へのやさしさを高めたのがこの「プロシールド」シリーズです。
頬骨やアゴ下など剃るのが難しい部分にも刃が密着して動くので深剃りできると同時に、電動で振動することにより、“肌にやさしく深剃り"を実現するT字カミソリの理想に近い製品です
ジレット「Gillette Labs 角質除去バー搭載」
顔の見た目の印象を小ギレイに見せるためのシェービング。だとしたら、肌がくすんで見える古い角質も除去してしまえとばかりに誕生したのが、ジレットの最高級ライン「Gillette Labs(ジレットラボ)」シリーズの「Gillette Labs 角質除去バー搭載」だ。ただ「プログライド」や「プロシールド」など、同社の従来製品と替刃の互換性がないことには注意したい。
濃いめのヒゲにも対応する5枚刃で、何よりの特徴は医療レベルの樹脂で作られた角質除去バー。この部分が見た目の印象を悪くする古い角質を除去し、刃とヒゲの間に立ちはだかっていた角質という障壁を取り除いて剃り味をよくする。コストは高めでも、美肌に少しでも興味がある人なら気になるはずだ。
シリーズ最高峰の剃り心地が得られる、完成度の高い製品です。皮膚は表皮、真皮、皮下組織の3層でできており、表皮のいちばん上のラップ1枚分程度の薄さで存在しているのが角質です。本来は新陳代謝で自然に剥がれていくのですが、加齢などで固着して剥がれない場合があります。たとえば、かかとが乾燥して白い粉を吹いているとき、付着しているのが肥厚した古い角質です。
古い角質が残ってしまうと光が乱反射して影を生み、顔色が悪く見えます。それを角質除去バーで適度に除去し、刃の切れ味を最大限に生かせる環境にしてからヒゲをカットする。シェービングと同時に角質ケアができるのは合理的です
ジレット「マッハシンスリーターボ」
「マッハシンスリーターボ」は、ヒゲが薄い人、産毛を処理したい人、細かい部分を処理したい人に向いている3枚刃製品。持ち手にくびれがあって持ちやすく、縦方向の動きのみを実現するサスペンションシステムを搭載している。
刃の寿命も15回の使用に耐えるので、コスパは優秀(ジレットでは最も安価な替刃)。刃の手前に付いている「マイクロフィンガード」が、肌を伸ばしてスムーズなカットを実現する。
現在のT字カミソリの主流は5枚刃ですが、すべての人が5枚刃にする必要はありません。ヒゲが薄い人ならば、2枚刃や3枚刃で十分です。小さくて薄いヘッドなので、ピンポイントで狙いやすく、小回りがきくのも特徴です。ただ、ヒゲが薄くても、クセやつむじがある人は、5枚刃のほうが向いていると思います
シック「極 KIWAMI ホルダー 敏感肌用」
シックの「極 KIWAMI」は、日本人に適した製品展開を行う同社の日本オリジナルのフラッグシップモデルで、理容家の手首と指の動きを再現したシリーズだ。「極 KIWAMI ホルダー 敏感肌用」は、トウセンカを使用したハーブエキス配合のジェルプールがたっぷり仕込まれており、シック最薄のスキンガード付き5枚刃とともに、スムーズな剃り心地を実現。刃が不用意に動かないように、角度を固定できるロックボタンも付いている。
また、肌への圧力を均等にしてヒリヒリを防ぐ衝撃吸収テクノロジーを搭載し、クッション性は抜群。ハンドルはくびれがあってホールド感がよい。そんな最高品質をうたいながらも、コスパも悪くないのがうれしい。
シックは100年の歴史を持つドイツのメーカーですが、その日本法人であるシック・ジャパンは1957年にカミソリ倶楽部(旧・三宝商事)が旗振り役となって生まれ、国内に製品を広く普及させました。同社は日本人の意見を取り入れた製品を数多く手掛けてきたのが特徴です。
「極 KIWAMI ホルダー 敏感肌用」はその歴史の結晶とも言うべきよくできた製品で、可動域はお辞儀のような上下方向のみですが、その分慣れるとシンプルで、非常に使いやすいのが特徴です。毎日使うものなので、このモノトーンでシャープな大人っぽいルックスもおすすめポイントです
シック「ハイドロ5プレミアム パワーセレクト ホルダー」
シック「ハイドロ5プレミアム パワーセレクト ホルダー」は、肌にやさしいカミソリ「ハイドロ」シリーズのプレミアムラインのひとつで、濃いめのヒゲに対応する5枚刃モデル。たっぷりのジェルスムーサーと、電動振動により、従来製品より肌への負担を40%軽減している。スキンガード付きなので安全なシェービングが可能だ。
肌への負担を抑えることに特化した製品です。好みによって振動レベルを3段階に変えられるので、快適に使用できます。ただ、キワ剃り時にヘッド部分をパカッと開かなければならないフリップ式トリマーは、意外と面倒と感じる人が多いかもしれません。グリップ感は寸胴な分、今ひとつ。小回りがききにくいので、力を入れすぎないように気をつける必要があります
シック「クアトロ4 チタニウム ホルダー」
「クアトロ4 チタニウム ホルダー」は、ヒゲが薄い人にとっては必要十分な4枚刃モデル。アレルギーを起こしにくいチタンコートを採用しているうえ、肌当たりがやわらかなのが特徴だ。シンプルな構造で、ホルダーがくびれているので、グリップ感もすぐれている。刃に対して縦に走る「セーフティーワイヤー」で横滑り時も安心。
最大の特徴は、「きれてなーい」のフレーズで知られる「プロテクター」シリーズの流れを汲む「セーフティーワイヤー」を搭載していること。はずみで横に刃を滑らせてしまったとしても、刃が剥き出しのタイプに比べて傷つきにくいのがうれしいポイントです。5枚刃にはこれを採用しているモデルが存在せず、同シリーズの「クアトロ5」でも採用されていないので、初心者や不器用な人には重宝されるはず
貝印「AUGER システムカミソリ」
刃物の町、関市で創業された老舗刃物メーカー、貝印は、刃の切れ味や深剃り感に定評がある。そんな貝印の「AUGER システムカミソリ」は、スリムなデザインでグリップ感がよく、ほどよい重さと替刃のコスパが光るモデル。また「3Dシームレスフィッティングシステム」を採用し、ヘッド角度は30度可変。可動範囲は最高レベルだ。
貝印におけるカミソリ製品の歴史は長いのですが、テクニカルなT字カミソリとして新たに生み出されたのが「オーガー」です。これまでの製品をよく研究していると感じました。最大の特徴は可動域。ジレット同様上下左右の全方位に動くタイプなのですが、刃のケースが30度まで傾くため、これにより手を持ち変えることなく、そのまま逆剃りができるのに驚きました。ただ可動範囲が広いので、どこまで刃が滑っていくかがわかりにくく、慣れるまでは少々怖く感じるかもしれません。
いっぽうで、今までの貝印では考えられなかったスタイリッシュなルックスは魅力のひとつです
T字カミソリは電気シェーバーよりも、イニシャルコストを抑えられますが、刃の交換頻度が高いので、替刃のランニングコストを意識することが重要です。メーカーにより使用可能期間はさまざまに表記されていますが、高品質な切れ味が持続するのは、10〜14回程度が現実的です。もちろんヒゲの濃さ、硬さによって変わります。
とは言え、使用回数を数えるのは面倒です。その場合は、スムーサーのヌルヌルが途切れたとき(糸を引かなくなったとき)もひとつの目安です。しかし、実際のところわからなくなったら、すぐに替えるのがベター。なまくらの刃で剃ることが肌にとっては最も悪く、深剃りもできませんし、何より肌荒れの原因となってしまうからです。
自分に適したT字カミソリ選びは、ヒゲの濃淡でまず5枚刃を選ぶべきかどうかから考えるべきです。ヒゲが薄い場合は、コストを抑えられる3枚刃、4枚刃でも問題ないのですから
もちろん手の大きさ、力の入れ方、テクニックなど、製品選びには、ほかにもさまざまな要素が絡んできます。誰もが満足する製品自体が存在しにくいのが、T字カミソリなのです。
最適な製品を選ぶためには、いくつかの製品を使用するのがいちばんです。ただ、メーカーを切り替えたときには、慣れるまでしばらくの間、工夫して使ってみてください。たとえばシックとジレット、およびオーガーでは可動域が異なりますので、剃り方を自分なりに変えないと、製品の可能性を最大限に引き出せないのです。加齢とともに肌のハリ感も変わってくるので、今までの自分の剃り方も柔軟に変えていくこと、それが今の自分に適したT字カミソリを選ぶ秘訣です
パソコン・家電からカップ麺に至るまで、何でも自分で試してみないと気が済まないオタク(こだわり)集団。常にユーザー目線で製品を厳しくチェックします!