本連載は、文房具の専門家2人がそれぞれお気に入りの新製品を互いにプレゼンし合う対談企画。専門家として対談を行うのは、テレビ番組「マツコの知らない世界」にたびたび出演する文具ソムリエール・菅未里さんと、文房具コラムサイト「森市文具概論」編集長のきだてたくさんの2人だ。
【プロフィール紹介】
●菅未里(かん みさと/左)……Webサイト「STATIONERY RESTAURANT」を運営する文具ソムリエールとして活躍。大学卒業後、文具好きが高じて雑貨店に就職しステーショナリー担当に。現在は、文房具の紹介、コラム執筆、商品開発、売り場企画などの活動をしている
●きだてたく(右)……1973年京都生まれのライター/デザイナー。自称「世界一の色物文具コレクション(3000点以上)」に囲まれながらニヤニヤと笑って暮らす日々を送る。文房具コラムサイト「森市文具概論」では、文房具魔改造講座などピーキーな記事を連発している
第16回は、菅さんが「クリップボード」3モデルをきだてさんに紹介。地味だけど目から鱗のこだわり機能を搭載した製品が続々と登場。「クリップボード」を使うのに、実は手が3本必要なの気づいてた?
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菅 今回は、クリップボードを紹介しようと思うんですけれど……。この連載で取り上げるジャンルって、毎回地味ですよね。
きだて でも、ここ1〜2年ってクリップボードの新製品ラッシュでしょ。ほんと超地味なジャンルなのに、新製品いろいろ出て面白いじゃないですか。
菅 そう、面白いんですよ。つい先日も、あるメーカーの展示会で新しいクリップボードが出てて。
きだて えっ、あのメーカーって、あまりクリップボードを作るイメージないよね。それは興味深いなー。
菅 発売はまだ先なんで、今回の紹介には間に合わなかったんですけれど。それはいずれ「クリップボード特集パート2」みたいなときにできればいいかなと。
きだて 早くも今から「パート2」を予定していますか(笑)。
菅 きだてさんって、クリップボード使います?
きだて うん、割と使っています。一昨年に右肩を骨折して手術したんですけど、その翌週に屋外で取材があってね。右手に力が入らないから、クリップボードの上に右手を完全にのせて手首だけで書いていました。あっ、まさにこれ。僕が使ってるのは、A5サイズのほうですけど。
わずか200gと軽くて剛性が高い「AQUA DROPs クリップファイル」
菅 LIHIT LAB.(リヒトラブ)の「AQUA DROPs クリップファイル」ですね。私もこれすごい気に入っています。どこが気に入っています?
きだて やっぱり圧倒的に軽いんですよね、これ。A5サイズだと約100gしかなくて、クリップボードの中では最軽量級なんですよね。A4でも200gでしょ。なのにボードの剛性が高くて、しならない。
菅 私も軽さが好きなポイントなんです。ずっと片手で持ち続けていると、重量って腕に結構響くんですよね。他社のモデルの中にはもう少し軽いのもあるんですけど、その代わりにペラペラというか、しなっちゃう。
きだて 安定して書くには、やっぱり軽さと剛性が大事。
菅 軽さと剛性に加えてもうひとつ私が求めるのは、表紙なんですよ。販売員をやっていたころは、在庫チェックにクリップボードを使っていたんですけど、もちろん接客も平行してやるんですよね。で、お客様にお声がけいただいたら、サッと表紙で在庫表を隠してスムーズに対応できるのは最高にいいなぁ、と。
使用時は、表紙を裏面に折り返すとじゃまにならない
きだて この表紙、きれいに360°折り返せるのもいいんですよ。書くときはまったくじゃまにならなくて。
菅 あと、これも……。
きだて はいはい、スライド式のクリップね。これ、めっちゃ便利。普通のクリップボードって、金属のバネ付きクリップじゃないですか。
編集・牧野 僕、あれすごく嫌いなんですよ。適当に紙をはさむと端っこが折れたりして、使いづらくて。でもこのタイプのクリップは初めて見ました。
バネを使わないスライド式のクリップ。菅さんが指を差しているのが紙押さえパーツ
菅 これすごいんですよ。まずスライドクリップを開いて、紙をボードに置きます。で、スライドクリップを戻すと、まず先に紙押さえパーツが降りてきて、それから最後にスライドクリップが紙押さえパーツと紙を上から固定します。
もし湿気とかで反ったままの紙をバネクリップで上から押さえつけると、牧野さんが言ったように折れたり曲がったりするんですよね。なので、まず紙押さえパーツで軽く押さえてからはさむ、と。
きだて バネも使わず樹脂パーツだけで紙がはさまるんだよね。金属パーツがないから本体の重量を軽くできるんですよ。あと、ボードの上辺と左辺に段差があるでしょ。とじ具ではさむ前に紙を段差に沿うように当てると、バラバラの紙がきれいにそろって気持ちいいんだ。
菅 本当、これ考えた人は頭いいなぁ!って思いますよね。全体的に細かいところまで至れり尽くせりで。表紙裏のポケットもよくできていますしね。
編集・牧野 えっ、なんか一般的な透明ポケットに見えますけど。
表紙裏のポケットにも細かく工夫が施されている
菅 こういうポケットって、紙を何度も出し入れしてると端から切れたり剥がれたりするんですよ。ここ、見てください。開くときに溶着した部分に力がかからないように切り込みが入っているんですよ。それと、ポケットのフチが反ってるでしょ。紙を入れるときにフチが引っかからないようになっているんです。
編集・牧野 本当だ! めっちゃ工夫されてる!
菅 ね。クリップボードとしては、画期的な製品だと思います。
菅 じゃあ、次も画期的なクリップボードということで、キングジムの「マグフラップ」を紹介しましょうか。
きだて 2018年の「日本文具大賞」でデザイン部門の優秀賞を獲ったやつですよ。
機能性に加えて、ソリッドなデザインも優秀な「クリップボード マグフラップ」
菅 こちらも、クリップが既存モデルとはちょっと違いますよね。中は金属バネなんだけど、幅広クリップが紙の上辺全体を押さえるようになってます。
きだて なるほど。これだと、紙の端がペラペラめくれないんだよね。
菅 で、はさんだ紙にいろいろ書いて、書き終わったら上にめくりますよね。そのめくった紙は、ボード裏のマグネットフラップでパタン、と。
マグネット内蔵のフラップで、裏にめくった紙の端を固定する
編集・牧野 おー! 裏側で紙をはさんで固定できるんだ!
菅 裏に回した紙が前に戻ってこないように手で押さえてると、手の汗で紙がヨレヨレになったりするじゃないですか。マグネットではさんでおけば、その心配は皆無。
きだて クリップボードって屋外でも使う道具でしょ。風で紙がバタつくのも防げるんで、これは便利。実際に、工事現場でマグフラップが使われているのを見かけたことがあります。
菅 このマグネットのフラップがもうひとつ、前面下部にも搭載されていまして。これで紙の下辺も押さえて固定できるので、まさに屋外で使うときは風で紙が暴れる心配なく書くことができるんです。
きだて 今までのクリップボードって、クリップで紙の一部だけ押さえていたでしょ。シンプルな構造で悪くはないんだけど、それだと実はいろいろと不都合があったわけです。紙の上辺と下辺、めくりあげた紙と、あちこち固定できたほうが書きやすいのは間違いない。
編集・牧野 そうか、言われてみれば確かにって感じですね。
裏にめくった紙が戻ってこないので、次の紙への書き込みもラク!
きだて これを、とあるラジオ番組で紹介したんですけど、アナウンサーの方が「局内のクリップボードを全部これに交換してほしい!」と熱望するぐらいハマってました。
菅 へぇー。
きだて アナウンサーって、イベントの司会なんかで進行台本をクリップボードにはさんで使うことも多いそうで。マグフラップだと、台本を読んでいるときにめくった紙が戻ってきてしまうことがないので、進行上すでに終わったページをうっかりもう1度読んじゃう、みたいなトラブルが防げるんですね。
菅 あともうひとつ。2つのマグネットフラップを裏面に回した状態だと、壁やパーティションにバン! とくっつけられるんですよ。
回覧書類やチェックシートなども、壁面に貼っておくと運用しやすい
編集・牧野 あっ、そうか。マグネットがくっつく面に対してだったら、そういうこともできるんだ。
きだて 課内の回覧書類とか、そういうのをそのまま貼れるんですよね。
編集・牧野 なるほど。トイレの掃除チェック表みたいな共有シートを貼っておけたら便利かも。
菅 感覚的には、書類をバータイプのマグネットで貼り付ける感覚に近いかも。使いやすいですよ。
菅 これも私、好きなんですよ。DEXAS(デクサス)の「ルーズリーフケース」。果たして、クリップボードとして紹介していいのか微妙なところなんですけど。
書類ケースとクリップボードが合体した「ルーズリーフケース」。ケースは縦開き/横開きの2バージョンがそろう
きだて そもそもデクサスって、アメリカのまな板メーカー。同国だと「まな板といえばデクサス」ってぐらいメジャーなブランドなんです。なんでクリップボードを作っているんだろう。
菅 ですよね。ちなみに、私が日本でこれを見つけたときは「ルーズリーフケース」というカテゴリーで売られていました。
きだて ルーズリーフをバインダーに綴じずに用紙だけで持ち歩きたい、という用途ですね。なるほど、そういう使い方もありか。
菅 要するに、A4の紙が入るハードケース兼用のクリップボードって感じです。
薄型だが、余裕のある収納スペース
きだて ルーズリーフ用紙どころか、筆記具も全部放り込んでバッグ代わりに使えそうですけどね。
編集・牧野 これだけですむなら、確かにいいかも。
きだて あと、使用に最適なシーンとしては、展示会ですね。
菅 展示会ですか?
きだて メーカーがいろいろ集まる展示会だと、歩きながらメモをとることが多いからクリップボードは欲しいでしょ。で、ブースを回っていると大量に資料をもらうじゃないですか。
菅 あー! そうか!
きだて もらった資料をバッグにそのまま突っ込むと、折れ曲がったりしてかさばるし、何よりいちいち面倒じゃないですか。だったら、クリップボードが資料入れを兼ねてくれてると都合いいんだ。
クリップボードとして使う際は、ケースの厚みがやや気になるかも
菅 なるほど、言われてみれば。私もこれから展示会で使ってみようかな。
編集・牧野 今いるブースの資料はクリップにはさんでメモをとって、移動するときにはケースに入れちゃえばいいんだ。うわー、これ便利だわ。
きだて 資料も1枚2枚なら表紙にポケットが搭載されているクリップボードで対応できるんだけど、下手すると小冊子のカタログとかくれたりするじゃない。そうすると厚みのあるケースはありがたい。
菅 ちょっとしたサンプルなら入りそうですもんね。やっぱりケースがメインで、おまけでそこにクリップ付けときました、的な感じなのかな。
編集・牧野 ちょっとガジェット感があって、僕はこれすごい好きです。いかにもアメリカっぽい無骨さもあって面白いな。
きだて だよね。だから菅さんがこれを紹介してきたの、意外だった。菅さんはこれ、どういう局面で使うのにいいと思ったの?
菅 これもやはり販売員として店頭に立っていたときの経験からなんですけども。当時はエプロンをしてたので小物の入れ場所はあったんですけど、エプロンがない状態で作業する場合はどうかなと思うと、「ルーズリーフケース」が便利じゃないか、と。
きだて なるほど、そうだよね。
菅 あと、私が勤めていた店では、棚卸しのときに商品をカウントしない棚はマスキングテープを貼って封鎖しちゃうんですね。
きだて へー! 捜査現場みたいにテープで物理封鎖しちゃうのか。
菅 そうなんです。なのでマステを大量に使うんですけど、このケースならマステ入るから。
マステも何の問題もなく収納可能
きだて えっ、入る? ……本当だ。15mm幅のテープは余裕で入るね。本当に収納力あるな。
編集・牧野 これは使い方次第でかなり役立ちそうですね。
菅 今、これだけいろんなクリップボードが出ているじゃないですか。今後はどんな機能を持つクリップボードが出るのかが、すごい楽しみなんですよ。
クリップボードって地味だけど、まだ将来性は十分にあると思うんです、と菅さん
きだて 道具としては、単なる板にクリップを付けただけのシンプルなものだからね。まだまだ進化する余地はあると思うな。
編集・牧野 ……このはさむためのクリップって、なくならないんですかね?
きだて おっ?
編集・牧野 これぐらいシンプルだと、次の進化はもうクリップがなくなるぐらいしか思いつかなくて。ボードに静電気吸着するとか。
きだて それはアリな視点かもですよ。静電気吸着だと紙をめくるのが難しそうだけど、要はそういうことですよね。そもそも立ったままの姿勢でクリップボードに紙をはさむのって、普通に考えたら手が3本いるんですよ。
菅 ??
きだて 左手でボードを持って、右手でクリップを開くでしょ。じゃあ紙をそこに挿し込むのはどの手でやればいいんだって話で。
編集・牧野 あっ! 確かに。
きだて だから今のところは、左手でボードを持ちながら左手の指でクリップを持ち上げて、右手で紙をはさむという不自然な体勢にならざるを得ないわけで。
菅 たとえばボタンを押したらクリップがパカッと開くとか、そういうギミックは今後絶対に出てきますよね。
きだて それはいいかも。
菅 今、クリップボードは業界で注目のジャンルなので、まだまだ面白い製品はいっぱい出てくると思いますよ。
ABS樹脂製で超軽量なのにしっかり硬くて書きやすい、表紙付きクリップボード。特殊なスライド式クリップは紙押さえパーツと連動する機構で、スムーズに用紙を出し入れすることができる。最大収納枚数はコピー用紙約20枚。
ボード裏面のマグネットフラップにより、紙をめくった状態で固定できるクリップボード。風で紙がバタつかないので、屋外でも快適に筆記が可能だ。また、ボード自体も磁力でスチール面に貼り付けられるのも便利なポイント。最大収納枚数はコピー用紙約30枚。
クリップボードと書類ケースが一体化した製品。ケースはコピー用紙なら180枚以上収納できるゆったりサイズで、筆記具やテキストなども入れて持ち歩ける。縦開きと横開きの2タイプがラインアップ。
【連載「文具対談」過去の人気記事はこちら!】
「100均で十分」は大間違い! 「クリアファイル」が驚きの進化を遂げていた
数秒で付く「爆速のり」&「紫外線硬化接着剤」に驚愕! 18年ベストバイ「接着剤」
【2018年】人気の電子辞書の選び方! 「EX-word」&「Brain」徹底比較
最新機能系から雑貨系おもちゃ文具まで、何でも使い倒してレビューする文房具ライター。現在は大手文房具店の企画広報として企業ノベルティの提案なども行っており、筆箱の中は試作用のカッターやはさみ、テープのりなどでギチギチ。