主にインターネット上で金融サービスを提供するネット銀行の人気が高まっています。既存の銀行に比べて「ATM利用手数料」や「振込手数料」などが安く、低コストで使えることが人気の秘密のようです。また、利用状況によってポイントが貯まったり、預金の金利が上がったり、といったメリットのあるネット銀行もあります。本記事では、8つのネット銀行を紹介。コスト面、おトク面をチェックします。
ネット銀行とは、原則、実店舗を持たず(一部例外あり)、インターネット経由で金融サービスを提供する銀行のことを指します。金融機関コード上で「インターネット専業銀行」に区分される銀行や、金融機関コード上の区分は異なるものの「インターネット専業銀行」と似た特徴を持つ銀行があり、総称して「ネット銀行」と呼ばれています。
また、ネット銀行は、既存の銀行と違い自行のATMがなく(一部例外あり)、現金の入出金は、提携する既存銀行のATMやコンビニATMで行います。このような特徴から、ネット銀行は既存の銀行と比べて店舗運営コストや人件費を抑えることができ、「ATM利用手数料」や「他行宛振込手数料」などが安い傾向にあります。
ネット銀行は利用コストが安め
ネット銀行の中には、「給与振込口座として使う」「預金金額が一定額以上ある」などの利用条件を満たすと、「ATMを無料で使える回数が増える」「無料で他行に振り込める回数が増える」など、その銀行をよりおトクに使える優遇サービスを提供しているところがあります(※)。
※こうした優遇サービスは既存の銀行でも採用しているところがあり、ネット銀行だけの特徴ではありません。
しかし、「優遇を受けるための条件」や「優遇される内容」は各ネット銀行でバラつきがあり、なかなか比較が難しいのも事実です。加えて、ユーザーの利用スタイルの変化などで、お目当ての優遇を受けられなくなる場合もあるでしょう。
こうしたことから、ネット銀行を選ぶ際は、まず、ユーザーの利用状況に左右されない「口座開設時点での利用条件」(各種優遇サービスを除外した状態)で比較してみることをおすすめします。そこから、利用スタイルに合ったネット銀行をいくつか選び、次のステップとして、選んだ銀行の優遇サービスなどを加味して検討することで、自分に合ったネット銀行を見つけやすくなると思われます。
そこで本記事の前半では、ネット銀行の使い勝手に影響する「ATM利用手数料」と「振込手数料」(ネットバンキングでの振り込み)に注目し、ネット銀行主要8行の手数料を「口座開設時点での利用条件」で比較しています。
また、記事の後半では、8つのネット銀行についてより詳しく知りたい人に向けて、それぞれの銀行の概要や成り立ちから、よりおトクに使う方法まで紹介しています(この後半部分でも、「口座開設時点」での各種手数料を再掲しています)。
この記事で紹介しているネット銀行一覧(掲載順)
ソニー銀行、東京スター銀行、SBI新生銀行、住信SBIネット銀行、auじぶん銀行、イオン銀行、PayPay銀行、楽天銀行
まず、「ATMの利用手数料」から見ていきます。ここでは、「ソニー銀行」「東京スター銀行」(※)「SBI新生銀行」の「無料で使える回数の多さ」が目を引きます。
※「東京スター銀行」は「スターワン口座」利用時の条件。
各ネット銀行のAMT手数料一覧。上の表がコンビニATM、下の表が大手金融機関のATM
※東京スター銀行支店内設置ATMの場合、平日8:45〜18:00および土曜9:00〜14:00は何度でも無料。それ以外の時間帯および、同行設置以外のATM月8回まで実質無料
「ソニー銀行」はコンビニと大手金融機関を合わせて7行のATMでの入出金に対応。預け入れはすべて無料で、無料で引き出せる回数も月4回あります。「東京スター銀行」は一部の金融機関で預け入れに対応していない点はネックですが、引き出しは実質月8回まで無料になるのは魅力的です。
コンビニATMをメインで使う人は、「SBI新生銀行」がおトクです。現在、2024年3月までの期間限定で、コンビニATMの入出金手数料は月に何回使っても無料です。2024年4月以降は、月6回目以降の引き出しに110円の手数料がかかりますが、それでも、他行と比べて有利な条件と言えるでしょう。
これらに次ぐ存在なのが、月2回まで入出金が無料で使える「住信SBIネット銀行」や「auじぶん銀行」となります。この2行は使えるATMはやや限られるので、その点は注意が必要です。
また、手数料のおトクさという点で言うと「イオン銀行」も見逃せません。自行のATMが無料で使えるのに加え、複数のコンビニATMや金融機関のATMで、対象時間内であれば手数料無料で何度でも使えます。ただし、「セブン銀行」のATMに対応していない点はややマイナスポイントかもしれません。
振込手数料(ネットバンキング)は、同行宛なら各ネット銀行とも無料です。他行宛の場合は「実質月5回無料」の「東京スター銀行」(※)や、「月3回無料」の「auじぶん銀行」がおトクです。「ソニー銀行」「SBI新生銀行」「住信SBIネット銀行」も月1回無料です。
※「東京スター銀行」は「スターワン口座取引明細書」の郵送設定を「郵送しない」に設定した場合。
各ネット銀行の振込手数料(ネットバンキング利用時)
※PayPay銀行、三井住友銀行の双方とも本人名義で、PayPay銀行→三井住友銀行宛の振り込みの場合、手数料無料
「他行宛振込手数料」については、無料回数を使いきった後の振り込みから発生する手数料の額もチェックしておきましょう。各行によって少々違いがあります。
1回あたりの手数料の安さで目を引くのが、100円を切っている「住信SBIネット銀行」(77円)と「auじぶん銀行」(99円)です。他行に振り込む回数が多い人にとっては魅力的ではないかと思います。
100円を上回るものの、「ソニー銀行」(110円)、「東京スター銀行」(110円)、「イオン銀行」(110円)も十分安い金額と言えそうです。皆さんの利用状況を踏まえ、ベストなネット銀行を探してみてください。
ここからは、各ネット銀行についてもう少し詳しく知りたい人向けに、各銀行の成り立ちや特徴を紹介していきます。
2001年4月にソニー、三井住友銀行などの出資によってソニー銀行株式会社として設立されたネット専業銀行。同年6月より営業開始し、2008年3月にソニーフィナンシャルホールディングス株式会社(現:ソニーフィナンシャルグループ株式会社)の完全子会社化。開業から7年弱の期間で預金残高1兆円を達成しています。
ソニー銀行は、コンビニATMのすべてで入出金が可能です。預け入れの手数料はいずれも無料。引き出しは月4回まで無料で、5回目以降は1回につき110円かかります。ゆうちょ銀行ATM、メガバンク系の三井住友銀行ATM、三菱UFJのATMも同じ条件で使えます。他行宛の振込手数料は月1回無料で、2回目以降は1回につき110円かかります。
ソニー銀行の手数料
ソニー銀行には、無料で申し込める「Sony Bank WALLET(Visaデビット付きキャッシュカード)」というサービスがあります。本サービスには、利用額の0.5%がキャッシュバックされる仕組みがあり、なかなかおトクです。また、他行宛振込手数料が無料になる回数も、通常のキャッシュカードの場合月1回のところ、月2回に増えます。
同行には「Club S」という優遇プログラムもあります。月末の残高や外貨預金の積立購入などの預け入れ資産によって、「シルバー」「ゴールド」「プラチナ」のステージが決まり、それぞれ、ATM、他行宛振込ともに手数料無料で使える回数が増えます。たとえば、「シルバー」なら、ATM利用手数料が月7回まで無料、他行宛の振込手数料が月3回まで無料になります。
「Sony Bank WALLET」は「Club S」と組み合わせて使うこともできます。「Club S」のステージがひとつ上がるごとに「Sony Bank WALLET」のキャッシュバックの還元率も0.5%上がります(「シルバー」なら1%、「プラチナ」なら2%)。他行宛振込手数料も、「Club S」の各ステージで、通常のキャッシュカードの「+1回」となり、おトク感が増します。
1999年6月に経営破綻した旧・東京相和銀行の営業地盤を譲り受けて、新たに免許を受けた第二地方銀行。2001年6月に営業開始。ネットバンキングだけでなく、31店舗の実店舗での営業もしています。2014年には台湾の大手銀行である中國信託商業銀行が全株式を取得し、その傘下となりました。
東京スター銀行は、同行ATM、セブン銀行ATMとゆうちょ銀行ATMで入出金が可能です。預け入れの手数料はいずれも無料。円預金だけでなく、外貨預金にも対応した「スターワン口座」を利用すれば、ATMでの引き出しが月8回まで実質無料となるキャッシュバック制度がありおトクです。なお、ファミリーマート、ローソン、ミニストップ(イオン銀行)、メガバンク3行のATMでは預け入れはできませんが、上記と同条件で引き出しは可能です。
他行宛の振込には110円の手数料がかかりますが、「スターワン口座取引明細書」の郵送設定を「郵送しない」に設定すると、月5回まで実質無料にできるキャッシュバック制度が利用できます。
東京スター銀行の手数料
東京スター銀行には、個人向け商品の中に「スターワン1週間円預金」というユニークな定期預金があります。1週間の預入期間で年利0.050%で預け入れできます(同行の普通預金の金利は年利0.001%)。1週間の満期が来ても、そのまま自動更新で預けられます。預入金額は10万円以上1円単位で設定可能です。
2021年12月に新生銀行がSBIホールディングスに買収され、2023年1月より社名がSBI新生銀行に変更されました。旧新生銀行は1998年に経営破綻した日本長期信用銀行が前身で、国有化を経て2000年に新生銀行として再出発した経緯があります(再上場は2004年)。
ほかの銀行に先駆けてインターネットバンキングに本格参入し、今では一般的なATMの24時間365日稼働や、ATM手数料の無料化などのサービスを先陣を切って導入してきたネット銀行として知られてきました。そのいっぽうで、国から注入された公的資金の返済などが経営再建の重石になってきたとも伝えられており、SBIグループの一員として収益改善を進める構えです。
SBI新生銀行は、コンビニ系ATMのすべてで入出金が可能です。預け入れ、引き出しの手数料はいずれも無料です。ただし、引き出しは、2024年4月以降「月5回まで無料」となり、6回目以降は110円がかかります。
ゆうちょ銀行ATMは預け入れは無料ですが、引き出しは1回あたり110円かかります。メガバンク3行のおATMは預け入れの取り扱いはなく、引き出しには1回あたり110円かかります。
SBI新生銀行の手数料
同行には「ステップアッププログラム」という5ステージ制の優遇サービスがあります。それぞれのステージは残高や利用状況で判定され、ステージに応じて特典が受けられます。たとえば、給与振込口座として利用すると2番目のステージである「シルバー」に該当し、他行宛の振込手数料が月に3回まで無料になります。
三井住友信託銀行とSBIホールディングスが共同出資で設立したネット専業銀行。2007年9月に営業開始。2022年1月時点で預金残高が7兆円を突破し、国内のネット銀行では最高額となっています。
住信SBIネット銀行は、コンビニ系ATMのすべてで入出金が可能です。入出金ともに月2回まで無料で、3回目以降は1回あたり110円かかります。他行宛の振込手数料は、月1回無料で、2回目以降も1回につき77円と低く設定されています。
住信SBIネット銀行の手数料
同行の優遇制度「スマートプログラム」を活用すると、ATMや他行宛振込を手数料無料で利用できる回数が増えます。生体認証制によるログイン機能「スマート認証NEO」を設定すると、「スマートプログラム」の「ランク2」が適用され、ATMの利用手数料、他行宛の振込手数料がともに月5回まで無料になるので、同行を使う際は忘れずに設定しておきたいところです。
また、住信SBIネット銀行の普通預金金利は0.001%と都市銀行と同じレベルですが、「SBI証券」との自動振替口座に設定すると「SBIハイブリッド預金」を利用でき、金利は「0.010%」に上がります。
2008年6月にKDDIと三菱UFJ銀行が共同出資で設立したネット専業銀行「株式会社じぶん銀行」としてスタート。同年7月に営業開始。2020年2月に現在の「auじぶん銀行」に商号変更しました。2022年12月には、保有口座数500万件を突破しています。
auじぶん銀行は、イオン銀行を除くコンビニATMで入出金が可能です。預け入れ、引き出しのいずれも月2回まで無料で、3回目以降は1回あたり110円かかります。また、三菱UFJ銀行ATMも同じ条件で利用できます。
他行宛(三菱UFJ銀行を除く)の振込手数料は、月3回まで無料となり、4回目以降の振込は1回につき99円かかります。
auじぶん銀行の手数料
auじぶん銀行の普通預金金利は「0.001%」です。しかし、au系列の証券、決済アプリ、クレジットカードなどと連携する「auまとめて金利優遇」を利用すると、金利は最大で「0.200%」まで上がります。
たとえば、auカブコム証券の「auマネーコネクト」をauじぶん銀行に設定すると、「0.099%」の金利が上乗せされ、円預金の金利は「0.10%」になります。同様に、「au PAY」アプリとauじぶん銀行の口座を連携させれば金利が「0.05%」上乗せ、「au PAY カード」での利用代金をauじぶん銀行の口座から引き落とせば、金利が「0.05%」上乗せになる仕組みです。3つの条件をすべて満たせば、普通預金金利は通常の200倍の「0.200%」になります。
2007年10月に開業。イオンモールやダイエー、ミニストップなどでおなじみのイオングループのネット銀行です。イオンモール内などにリアル店舗があり、店頭ではネット上と同様に、預金や住宅ローン、投資信託、外貨預金、iDeCoなど幅広い商品を取り扱っています。また、イオングループのクレジットカードとの連携サービスにも力を入れています。
イオン銀行は、セブン銀行ATMを除くすべてのコンビニ系ATMで入出金が可能です。イオン銀行ATMなら預け入れ・引き出しの手数料はいずれも無料。ローソン銀行ATM、イーネットATMの手数料は時間帯によって変動します。また、ゆうちょ銀行、3大メガバンク系ATMについても同様です。他行宛の振込手数料は、イオン銀行ATMの場合、1回につき110円かかります。
イオン銀行の手数料
イオン銀行の普通預金金利は「0.001%」です。しかし、同行の優遇制度である「イオン銀行Myステージ」によって金利を上げることができます。たとえば、一番下のステージである「ブロンズ」でも、金利は「0.010%」に上がります。
「イオン銀行Myステージ」のステージを上げるには、対象の取引によって「イオン銀行スコア」を貯める必要があります。たとえば、イオングループのクレジットカード「イオンカードセレクト」を契約していると、「イオン銀行スコア」が毎月10点貯まります。同様に、同カードを含む「イオンカード」の引き落とし額によって毎月10〜100点が貯まります。こうして貯まった「イオン銀行スコア」によってステージが毎月判定されます。前出の「ブロンズ」ステージであれば月に20点が必要です。
2000年9月にさくら銀行、住友銀行、富士通、東京電力などの出資によって日本初のインターネット専業銀行「株式会社ジャパンネット銀行」として設立され、同年10月から営業開始。2018年2月にヤフーによる連結子会社化。2021年4月に「PayPay銀行株式会社」に社名が変更されました。
PayPay銀行は、コンビニ系ATMのすべてで入出金が可能です。利用金額が3万円以上であれば預け入れ、引き出しのいずれも無料。利用金額が3万円未満の場合は、預け入れ、引き出しはそれぞれ月1回まで無料となり、2回目以降は1回あたり165円かかります。三井住友銀行ATMでも同じ条件で利用できます。
ゆうちょ銀行ATMは利用金額が3万円以上であれば同条件ですが、利用金額が3万円未満の場合、2回目以降は1回あたり330円かかります。
他行宛の振込手数料は、1回あたり145円かかります(PayPay銀行と同じ名義人の三井住友銀行宛振込は無料)。ただし、PayPay銀行を給与の受取口座に設定すると、他行宛の振込手数料が月3回まで無料になりおトクです。
PayPay銀行の手数料
※PayPay銀行、三井住友銀行の双方とも本人名義で、PayPay銀行→三井住友銀行宛の振り込みの場合、手数料無料
PayPay銀行は、競馬やボートレースなど、各種公営競技のネット投票サービスに対応しています。入会金、年会費無料で、PayPay銀行の残高からこれらの競技に投票することができます。もちろん、外出先からでもスマホで投票が可能です。
楽天グループの子会社であるネット専業銀行。2000年1月に伊藤忠商事が中心になり、住友商事、日本テレコ、日立製作所などが「日本電子決済企画」として立ち上げ、2001年6月に「イーバンク銀行」に変更。同年7月に営業開始。2010年5月に「楽天銀行」に商号を変更。2022年9月にはインターネット銀行として初めて口座数が1300万口座を超えました。2023年5月時点で単体の預金残高が9兆円を突破しています。
楽天銀行は、コンビニ系ATMのすべてで入出金が可能です。セブン銀行ATM、イオン銀行ATMは3万円以上の預け入れの手数料は無料、3万円未満の預け入れは1回につき220円の手数料がかかります。また、すべての引き出しについても1回につき220円かかります。
イーネットATM、ローソンATMは3万円以上の預け入れの手数料は無料、3万円未満の預け入れは1回につき275円の手数料がかかり、また、すべての引き出しについても1回につき275円かかります。ゆうちょ銀行ATM、三菱UFJ銀行ATM、みずほ銀行ATMでも同じ条件で利用できます。
楽天銀行の手数料
同行には「ハッピープログラム」という優遇制度があり、利用状況によってATM、他行宛振込ともに手数料無料となる回数が増えます。また、「他行口座からの振込」「ATMでの取引」「楽天カードの口座振替」など、対象の取引ごとに楽天ポイントが貯まります。
たとえば、楽天銀行の口座に50万円以上の残高があると「ハッピープログラム」の「プレミアム」ステージが適用されます。「ATMの利用手数料」と「他行宛振込手数料が」が月2回無料になるほか、対象の取引で貯まる楽天ポイントの数が通常時の2倍になります。たとえば「楽天カードの口座振替」なら、通常3ポイント獲得→6ポイント獲得といった具合です。「ハッピープログラム」に参加するには、楽天銀行の口座情報を楽天会員IDと連携させる必要があります。
以上、8つのネット銀行について、その手数料や、おトクに使う方法を見てきました。記事冒頭で触れたとおり、ネット銀行は比較的低いコストで利用することができます。最近では、大手銀行を中心にATMの利用や振込にかかる手数料が値上げされる傾向にありますので、ぜひ、おトクなネット銀行を見つけて、賢く利用していただければと思います。
執筆協力:佐野裕