アメックスがメタル製の新ゴールドカード――。
1980年に日本で初めてゴールドカードを発行したことでも知られるアメリカン・エキスプレス。ゴールドカードのパイオニアともいえる同社が2024年2月20日、「アメリカン・エキスプレス・ゴールド・プリファード・カード」(以下、「ゴールド・プリファード・カード」=年会費39,600円=)をリリースしました。従来の「アメックス・ゴールド」の新規申し込みは停止されたため、これからアメックスのゴールドカードを申し込む場合はこちらに一本化されます(ただし、既存の「アメックス・ゴールド」会員は現状の年会費で継続して利用可能です)。
このカードは、「アメックス・ゴールド」(年会費31,900円)より年会費を7,700円値上げしたいっぽうで、トラベル・グルメ関連を中心に特典内容を充実させています。年会費が低額化し、ゴールドカードの“大衆化”が進む中、そうしたトレンドと一線を画した「ゴールド・プリファード・カード」の実力は? そして、どんなユーザー向きのカードなのでしょうか?
そんな観点から、100枚以上のクレジットカードを保有し、ポイント、カードのポータルサイト「ポイ探」を運営する菊地崇仁さんに解説してもらいました。
(以下、菊地崇仁さん語り。聞き手は価格.com マガジンマネー編集部)
日本初のゴールドカード「アメックス・ゴールド」の後継としてリリースされた「ゴールド・プリファード・カード」(画像はアメリカン・エキスプレス提供)
「アメックスらしい正統派のゴールドカードを出してきたな」
記者発表会に出席した筆者が「ゴールド・プリファード・カード」に対して感じた第一印象です。
近年のゴールドカードは“大衆化”の傾向が顕著となっています。年会費が5,000円を切るゴールドや、一定の年間利用額をクリアすると、年会費が永年(長い間)で無料になるカードが登場し、一定の人気を集めています。
しかし、アメックスはその流れに乗りませんでした。
アメックスは1980年に日本で初めてゴールドカードを発行したカード会社であり、日本で初投入したカードもゴールドです(グリーンやプラチナカードのリリースはその後)。そうした歴史があるため、アメックスは各券種の中でもゴールドを最重要視していると見られ、ある意味こだわりを持っているのでしょう。
そのゴールドをチープ化させるわけにはいかなかったのでしょうし、自身のブランド力があれば、年会費を上げたとしても、特典を手厚くすることでユーザーの支持は得られると踏んだのだと思います。
記者発表会では、アメックスの須藤靖洋日本代表/社長から1980年に日本で初めて発行したゴールドカードについての説明もされました
では、「ゴールド・プリファード・カード」の具体的な部分について入っていきましょう。主なスペックを下記の表にしましたが、従来の「アメックス・ゴールド」のスペックをほぼ踏襲しつつ、「プラスアルファ」の特典が追加されています。この「プラスアルファ」の部分を中心に解説していきます。
「ゴールド・プリファード・カード」の主なスペック。赤字部分は「アメックス・ゴールド」から追加・修正された部分
まずは見た目、デザインの変化から。
「ゴールド・プリファード・カード」はメタル(金属製)カードになります。日本では、メタルカードは下記の券種で発行されていますが、個人向けカードとしては「ゴールド・プリファード・カード」が最安の年会費となります(ビジネスカードでは「アメックス・ビジネス・ゴールド」=年会費36,300円=がメタル製)。
・アメックス・プラチナ 年会費165,000円
・ダイナースクラブ プレミアムカード 年会費143,000円(メタルカード発行には追加で2万円の手数料)
・ラグジュアリーカード 年会費55,000円
プラスチック製のカードが5グラム程度なのに対し、メタルカードは15グラム程度(アメックス・プラチナの場合)あり、触った感触も当然違います。この「特別感」を求めるユーザーは想像以上に多い、というのが私の印象です。「ダイナースクラブ プレミアムカード」が2022年にメタルカードの発行を始めたときには、2万円の追加手数料がかかるのにもかかわらず、想定以上の応募で半年ほど新規申し込みを停止していたという経緯もあります。
「『スマホ決済』が普及して、そもそも券面を見せる機会も少ないのでは」
このような見方もありますが、スマホ決済は高額決済(1万〜1.5万円以上)には対応していません。そのため、券面を見せたり、お店のスタッフに渡したりする機会は今も一定程度あります(高級店・サービスであればいっそう)。
クレジットカードに「格好よさ」を求める意識は根強くあると見られ、「ゴールド・プリファード・カード」に関するSNSの書き込みの中でも、メタルカードの重厚感を評価する声が多く見られました。
メタルカードとしてリリースされた「ゴールド・プリファード・カード」(画像はアメリカン・エキスプレス提供)
カード番号は裏面に集約され、「PREFERRED」という文字も刻まれています
「ゴールド・プリファード・カード」の目玉特典と言えるのが、トラベル関連の「フリー・ステイ・ギフト」。年間200万円以上のカード利用があり、カードを継続した会員を対象に国内の有名ホテル1泊2名分の無料宿泊券が贈られる特典です。
こちらは、従来の「アメックス・ゴールド」にはないもので、「アメックス・プラチナ」(年会費165,000円)に付帯していた特典です(アメックス・プラチナは年間のカード利用金額に関する条件なし、また対象ホテルも一部異なります)。
対象となるのは、全国のプリンスホテルやマリオット、ハイアットなどの約40のホテル。たとえば、対象ホテルのひとつ、東京マリオットホテルの2024年4月中におけるツインの最低料金は64,636円となっており(価格.com 旅行トラベルページ参照、2024年3月8日時点)、この特典だけで、年会費を優に上回るメリットを享受することができそうです。
ただし、「フリー・ステイ・ギフト」はGW期間中や年末年始、お盆期間中など、ホテルごとに対象外の宿泊日が設定されている点は留意しておきたいところ。なお、トラベル分野ではこのほかにカードを継続すると、フライトやホテルの予約ができる「アメリカン・エキスプレス・トラベルオンライン」で利用できる1万円分のクレジットも贈呈されます。
全国の有名ホテルで1泊2名分が無料となる「フリー・ステイ・ギフト」は、「ゴールド・プリファード・カード」の目玉特典
グルメに関しても追加の特典があります。それが、高級レストランのネット予約サービス「ポケットコンシェルジュ」利用時に20%、年間最大1万円キャッシュバックされる特典です。「ポケットコンシェルジュ」には、隠れた名店や会員制のレストランも登録されており、グルメな人にはうれしい特典でしょう。
従来の「アメックス・ゴールド」で人気特典だった「ゴールド・ダイニングby招待日和」は継続。こちらは国内を中心とした約250のレストランで、2名以上のコースメニューの予約で1名分の料金が無料になる特典です。
4月〜9月、10月〜翌年3月の間にそれぞれ1回ずつ利用可能です(年間2回)。私も「招待日和」をたまに利用しますが、対象の飲食店が和洋中華と幅広く、1万円相当のコース料金が無料で利用できるのは満足感があります。
ポイント関連では、かなり内容を充実させた印象です。「ゴールド・プリファード・カード」は100円利用で1ポイント(ポイント名称:メンバーシップ・リワード)貯まりますが、ポイント優遇のプログラム「メンバーシップ・リワード・プラス」(登録料:3,300円)に無料かつ自動的に登録されるからです。
「メンバーシップ・リワード・プラス」に登録すると、主に下記3点のポイント優遇が受けられます。
(1)ポイントの有効期限が無期限(通常は最長3年間)
(2)ポイント移行・交換レートがアップ
(3)対象加盟店ではポイント還元率が3倍の「100円=3ポイント」(ゴールド・プリファード以外はエントリーが必要)
(2)については、下記の画像のとおり、交換レートはJALマイルで1.2倍、ANAマイルで2倍、カード年会費への充当では3.3倍にアップ。(3)に関しては、amazonやUber Eats、ヨドバシカメラなどの対象加盟店では、通常の3倍の100円=3ポイント貯められます。
「ゴールド・プリファード・カード」では「メンバーシップ・リワード・プラス」に無料登録され、マイルなどへの交換レートがアップ(画像はアメリカン・エキスプレス公式サイトより)
amazonなどの対象加盟店では100円で3ポイント貯まります(画像はアメリカン・エキスプレス公式サイトより)
アメックス会員の場合、貯めたポイントはマイルに交換するユーザーが多いと推測できますが、マイル交換レートが大きく上がるため、「メンバーシップ・リワード・プラス」の需要は高いと見られます。従来の「アメックス・ゴールド」では、登録料3,300円が必要だったのが、「ゴールド・プリファード・カード」では無料になるのは大きなメリット。年会費は7,700円上がりましたが、この分を考慮すると4,400円のアップととらえることもできそうです。
「メンバーシップ・リワード・プラス」の自動付帯は、「ゴールド・プリファード・カード」の大きな魅力
この点に言及されることは少ないようですが、「ゴールド・プリファード・カード」では、家族カード2枚まで無料発行できるようになったのは意外に大きな改善点だと思います(3枚目以降は19,800円の年会費が必要)。
従来の「アメックス・ゴールド」の場合、無料発行できる家族カードは1枚までで、2枚目以降は13,200円の年会費がかかってきました。つまり、家族カードを2枚発行する場合、従来のゴールドではトータルで45,100円の年会費(31,900円+13,200円)が必要だったのに対し、「ゴールド・プリファード・カード」の場合、本会員の年会費39,600円のみですむことになります。
無料発行できるのが2枚に増えたことで、配偶者に加え、両親や子どもにも持たせるなどの選択肢が増えました。家族カードでも、国内外の空港ラウンジ(プライオリティ・パス)利用などの一部特典は本会員同様に利用可能です。ただ、本会員のカードはメタル製ですが、家族カードはプラスチック製となります。
ここまで、「ゴールド・プリファード・カード」の特徴を紹介してきましたが、それを踏まえて、どんなユーザー向きのカードなのかについて触れておきます。
このカードの多くの特典は、「カード利用→キャッシュバックor何らかの優待」という形を採っており、カードを使っていくことでメリットを享受できるサービス設計になっています。そして、メリットを受けられる利用シーンは、高級レストランやホテル、旅などに高い比重が置かれています。そのため、こうしたサービスを積極的に使うライフスタイルの方は、4万円弱の年会費を支払っても、それを上回る恩恵が受けられそうです。
新たに追加された国内の対象ホテルで1泊2名分が無料となる「フリー・ステイ・ギフト」は、ぜひ活用したい特典。そのためカード利用金額に関して言えば、この特典の適用条件となる年間200万円(月間約17万円)は、カードを検討する際の大きな判断基準になると思います。年間200万円を超える利用額が見込めるなら、入会を検討する価値は十分にあると言えますし、逆に200万円未満の利用にとどまりそうなら、カードを保有する価値は半減することになりそうです。
以上、アメックスの新ゴールドカード「ゴールド・プリファード・カード」について説明してきました。
価格.com ゴールドカードランキングでは、リリース後約3か月で2位にまで浮上してきており、「ゴールド・プリファード・カード」への関心の高さがうかがえます。そして、ランキング1位は「三井住友カード ゴールド(NL)」。このカードはコンビニやファミレスで高還元(7%還元)となり、年間100万円以上の利用で年会費(5,500円)が永年無料となる点が特徴的で、2年以上にわたりトップの座をキープしています。
価格.com ゴールドカードランキングで、「ゴールド・プリファード・カード」が2位に浮上。1位は「三井住友カード ゴールド(NL)」(2024年5月28日時点)
少し乱暴な言い方になりますが、私はこの2枚のゴールドカードはいずれも、「おトク」なカードとして高く評価しています。ただ、「おトク」さを感じられるシーンや場所は大きく異なっており、ユーザーとしてはどちらが自分のライフスタイルにあっているか、しっかりと見極めることが必要だと感じています。
そして、正統派ゴールドとしてリリースされた「ゴールド・プリファード・カード」が、好コスパカードとして人気を集める「三井住友カード ゴールド(NL)」にランキングでどこまで肉薄できるのか。その点にも注目しています。