「NISA」の制度拡充とともに始まった2024年の株式市場。上にも下にも株価が大きく動き、「NISA」をきっかけに資産運用に興味を持った投資ビギナーの人にとっては、刺激の強い1年だったかもしれません。
もっとも、株のプロにとってもそれは同じだったようです。本記事で取材・監修に協力いただいたマーケットアナリストの藤本誠之さんも、8月5日の暴落を「長年のアナリスト人生で初めての経験」と評するなど、2024年を「記憶に残る年」ととらえています。そんな歴史的な1年を、「日経平均株価の動き」と「注目された投資テーマ・銘柄」とともに振り返ります。
取材協力・解説 藤本誠之(ふじもとのぶゆき)さん
“相場の福の神”の愛称を持つマーケットアナリスト。年間400社を超える上場企業経営者とのミーティングを通じて、個人投資家に成長企業を紹介。ラジオNIKKEIで4本の看板番組を持ち、テレビ出演、新聞・雑誌への寄稿も多数。日興証券、マネックス証券、カブドットコム証券、SBI証券などを経て、現在は、財産ネット株式会社の企業調査部長
日経平均株価がついにバブル時代を超えて4万円台に達したのもつかの間、“8.5の大暴落”など、2024年の日本株はあわただしく動きました
※本記事内の日付は特別な記載がない限り2024年のもの。株価は2024年12月9日の記事執筆時点のものです。
まだ「大納会」まで半月ほどありますが、2024年の日本株市場は、「アップダウンが大きかった1年」と評価されることがほぼ確実ではないかと思います。まずはざっくりと、今年の日経平均株価の動きを振り返りましょう。
日経平均株価は年明けから好調。2月22日にバブル期の史上最高値(1989年、3万8,915円)を34年ぶりに更新すると、3月4日には、史上初の4万円台を記録します。そして7月11日、2024年の最高値となる4万2,426円まで上昇しました。
●プロの視点
バブル経済崩壊後、“失われた30年”などとも表現された株価の低迷が続き、2008年のリーマンショック時にはバブル後最安値となる6,994円まで下落した日経平均株価でしたが、2024年にようやく転換点と言える水準まで上昇しました。
株価が上昇した要因としては
・アメリカ経済のソフトランディング(※)
・円安の輸出企業への好影響
・東証の要請により、上場企業に株価を意識した経営が求められるようになったこと
などが考えられます。
(スペックボックス)
※アメリカ経済のソフトランディング
アメリカは景気悪化とインフレの同時進行が懸念されていたものの、経済も企業業績も比較的堅調に推移。ニューヨーク市場のダウ平均株価は史上最高値を更新し続けました。そんな中で米半導体大手の「エヌビディア」の株価が2023年に続く高騰を見せ、この動きに引っ張られる形で、日経平均株価への寄与度の高い日本の半導体関連銘柄などが値を上げました(藤本さん)。
2024年1月〜12月9日までの日経平均株価の推移
ここまでは大いに盛り上がったものの、一転、8月には歴史的な暴落を見せます。8月5日、日経平均株価は2024年の最安値(12月9日時点)となる3万1,156円へと急落。前日終値からの下落幅は実に4,451円と、きわめて大きなものとなります。これまでの日経平均株価の下落幅トップは、1987年のブラックマンデー(※)の翌日につけた3,836円でしたが、これを更新する形となりました。
●プロの視点
このときは、アメリカの景気悪化の懸念や日銀の金利引き上げなどをきっかけとして、投資家の「株価が下がるかもしれない」という恐怖感から、売りが売りを呼ぶ状態となりました。30年以上マーケットに携わっている私でも、ここまでのパニック売りを目の当たりにしたのは初めてのことです。まさに、“市場の暴力性”が色濃く表れた出来事だったと思います。
ただし、大暴落により「必要以上に値を下げた」のも事実で、翌日にはすぐに買い戻され、日経平均株価は3,217円高となりました。
(スペックボックス)
※ブラックマンデー
1987年10月19日月曜日、NYダウ平均株価は史上最大の下落となる22.6%安をつけます。これが連鎖し、翌20日の東京市場では、日経平均株価が前日比3,836円安と急落しました。このときも、翌21日には日経平均は2,037円高と急反発しました(編集部)。
株価の急激なアップダウンに驚いた個人投資家も多かったはず
8月5日の暴落後、日経平均株価は急激に値を戻し、8月下旬には3万8,000円台にまで回復します。秋頃からはもみあいの状態に入り現在に至りますが、この間、日米で重要な選挙がありました。
●プロの視点
10月の日本の衆院選選挙では与党の過半数割れという波乱の結果になりました。しかし、投票日翌日には一時700円近く日経平均株価が上昇するなど、選挙前から、この結果は “織り込み済み”だったようです。その意味で、市場への影響は限定的だったと言えるでしょう。また、選挙後、石破首相が金融所得課税などの持論を“封印”していることも株価的には好材料ではあります。
いっぽう、11月の米大統領選ではトランプ氏が圧勝を果たしました。結果が明らかになるとともに今後の株高への期待感から、日経平均株価は一時3万9,000円台を超えてきました。その後は3万8,000円台でもみあっていますが、トランプ氏は米景気の刺激策を打つことを公言していますので、今後、インフレ加速やそれにともなう米株の上昇が考えられます。これらは日本の株価にもよい影響を与えると見ています。
2024年秋には日米で重要な選挙が実施されました
このように、2024年の日経平均株価は、さまざまな要因がからみながら上下に激しく動きました。
そんな中、この波にうまく乗って株価を伸ばしたのはどんな企業だったのか? 次章からは、2024年の日本株で注目された6つの投資テーマ「半導体」「国内回帰(データセンター)」「電線メーカー(光ファイバー)」「防衛・発電」「建設(サブコン)」「銀行・金融」について、具体的な企業名とともに藤本さんに解説いただきます。
2024年、前出のとおり、米半導体大手「エヌビディア」の株価高騰を受け、日本の半導体関連銘柄も値を上げました。
●プロの視点
国内の半導体関連銘柄の代表格といえば、「東京エレクトロン」(東証PRM:8035)や「アドバンテスト」(東証PRM:6857)など。特に「アドバンテスト」は、1月4日の年初来安値4,473円から値を上げていき、11月8日には年初来高値1万5円をつけ、一時、株価は2倍以上となりました。
「アドバンテスト」の株価1年チャート。2024年12月9日の終値は8,400円
半導体には「国内回帰」というキーワードもからんできます。これまで、半導体の多くは中国や韓国などアジアを生産拠点としていましたが、円安の影響でアジアからの輸入コストが上がり、相対的に国内での製造に価格的な競争力が生まれています。
半導体受託生産の世界最大手である台湾「TSMC」が九州・熊本に第2工場の建設を決定したほか、官民一体の次世代半導体メーカーである「ラピダス」(非上場)も北海道・千歳に工場に新設するなど、国内回帰の流れが生まれています。
●プロの視点
国内回帰というキーワードでもうひとつ注目したいのが、情報通信分野に欠かせないデータセンターです。データセンターとは、サーバーなどのIT機器を安全に保管・運用する施設のことですが、こちらも海外から国内に場所を移す動きが活発化しています。特に、生成AI市場の急速な広がりによる需要の急増もあり、データセンターの新設・増設が加速しています。
データセンターの関連銘柄は多数ありますが、その中でも、データセンターの運営を手がける独立系大手の「さくらインターネット」(東京PRM:3778)は注目されました。1月5日の年初来安値2,080円から一気に値を上げ、3月7日には年初来高値1万980円をつけ、一時、株価は5倍以上に。その後は、過熱感や決算数字が思いのほか伸び悩んだことなどを受け株価はいったん下落しましたが、夏以降は持ち直し、4,000円台後半で推移しています。
「さくらインターネット」の株価1年チャート。2024年12月9日の終値は4,850円
国内のデータセンターの新設・増設が拡大中
前出のとおり、生成AIを動かすにはデータセンターが必要です。そして、データセンター内のデータを高速で伝送し、処理するには光ファイバーが必須です。その意味で注目度が上がっているのが電線メーカーです。
●プロの視点
生成AIの普及が光ファイバー需要の増加につながるとの期待感があります。電線メーカーは光ファイバーの製造も行っている企業が多く、生成AIの需要増は電線メーカーにとってビジネスチャンスになると考えられます。実際、2024年後半、電線メーカー各社の業績のよさが明らかになり、株価にも好影響が出てきています。
そのひとつ、電線や光ファイバーなどの製造を行う「古河電気工業」(東証PRM:5801)は、1月4日の年初来安値2,199円から、11月26日の年初来高値6,492円までジャンプアップ。株価は一時約3倍まで跳ね上がりました。
「古河電気工業」の株価1年チャート。2024年12月9日の終値も6,492円
●プロの視点
同じく、電線やケーブルメーカーの「SWCC」(東証PRM:5805)も、1月17日の年初来安値2,721円が、12月5日には年初来高値8,520円となり、こちらも株価は一時3倍以上になりました。
「SWCC」の株価1年チャート。2024年12月9日の終値は7,950円
ロシアとウクライナ、イスラエルとパレスチナの戦争をはじめ、衝突の危機が懸念される朝鮮半島、中国と台湾の関係など、今、世界は緊張状態に置かれています。これらが日本株に与える影響は?
●プロの視点
地政学的に日本も無関係ではいられず、日本政府も防衛力の増強を打ち出しています。これを受けて、防衛関連企業の業績も好調に推移し株価にもそれが表れています。その中で特に存在感を高めているのが、「三菱重工業」(東証PRM:7011)です。同社の航空・防衛・宇宙の各事業は、今後も中長期的に成長すると見られています。
また、同社が手がけるエネルギー事業も注目材料のひとつ。発電効率が高く、CO2排出量が少ないガスタービン(火力発電の発電方式のひとつ)を筆頭に、エネルギーの安定供給を実現する最先端技術にすぐれています。こうしたことを背景に、1月4日の年初来安値815円から値を上げ、12月5日に年初来高値2,485円をつけ、一時、株価は3倍以上に高騰しました。
「三菱重工業」の株価1年チャート(3月末の1対10の株式分割を反映した調整後の終値)。2024年12月9日の終値は2,294円
三菱重工業は、2023年におけるガスタービン世界市場(出力ベース)で、トップシェアとなる36%を獲得。画像は同社の最新鋭ガスタービン「JAC形」(三菱重工のプレスリリースより)
各業界で人手不足が喫緊の課題となっている中で、逆にこれを追い風に業績を伸ばしているのが、建設業界の中で「サブコン」と呼ばれる企業群です。
●プロの視点
建設業界は重層的な下請け構造で成り立っており、
・開発事業者である「デベロッパー」
↓
・プロジェクトを指揮する「ゼネコン」
↓
・現場での工事を請け負う「サブコン」
と、一般的に下にいくほど立場が弱くなります。しかし今、そこに“下剋上”的な動きが起きています。人手不足に加えて、働き方改革による「労務不足」も影響し、現場で実際に手を動かす企業の立場が強くなっているのです。
それもあり、今、サブコン各社は「もうかる仕事」を選別して受注できるようになっています。当然、それが業績や株価にもよい影響を及ぼしています。空調工事に強いサブコン大手の「高砂熱学工業」(東証PRM:1969)はその代表格。1月4日の年初来安値3,170円から、5月29日の年初来高値6,740円となり、株価は一時2倍に値上がりしました。
「高砂熱学工業」の株価1年チャート。2024年12月9日の終値は6,067円
●プロの視点
同じく総合建設設備老舗の「ダイダン」(東証PRM:1980)も、1月4日の年初来安値1,423円から11月25日の年初来高値3,750円となり、株価は一時2.5倍以上と好調でした。
「ダイダン」の株価1年チャート。2024年12月9日の終値は3,700円
2024年3月に日銀がマイナス金利解除に踏み切り、17年ぶりの利上げが行われました。追加利上げも行われ、「金利のある世界」に移行した日本で注目されたのが銀行や金融関連企業です。
●プロの視点
日銀の利上げ以降、銀行は住宅ローンなどの金利を引き上げました。ゼロ金利時代は薄利の手数料が頼みの綱でしたが、金利上昇により利ざやが拡大するとの思惑で銀行株が盛り上がってきています。資金量が大きいほど利ざやの恩恵は大きく、銀行の中でも今後はメガバンクの存在感が増していくことが予想されます。
その中で、「三菱UFJフィナンシャル・グループ」(東証PRM:8306)は、1月4日の年初来安値1,200円から、12月8日の年初来高値1,849円となり、株価は一時約1.5倍以上になりました。「三菱UFJフィナンシャル・グループ」は2025年2月に「auカブコム証券」を100%子会社化し、「三菱UFJ eスマート証券」としてネット証券の2強(SBI、楽天)を猛追する構えを見せています。こうした動きも見逃せません。
「三菱UFJフィナンシャル・グループ」の株価1年チャート。2024年12月9日の終値は1,814円
「金利のある世界」ではメガバンクに注目?
株価のアップダウンの大きかった2024年。少し解像度を上げて振り返ってみると、「生成AI」、「防衛」、「人手不足」、「金利」といったニュースでよく聞くキーワードを追い風にして、業績や株価をしっかりと伸ばしている企業が多くあったことがわかります。
では、2025年の「日本株」はどうなるのか? 藤本さんの詳しい展望は、年明け、本記事の後編としてお届けします。ご期待ください!
※本記事は取材者、執筆者の見解です。特定の銘柄を推奨するものではありません。